■リリー・フランキー インタビュー



このインタビューは2001年6月に行われた第23回ぴあフィルムフェスティバルで『盲獣VS一寸法師』がプレミアム公開された時に行われたものです。
インタビュー・構成:下村健
 
― 今回の作品に出られた切っ掛けはなんだったんでしょうか?。

切っ掛けはなんだったんでしょうねぇ?。なんかまぁ製作に知り合いの人が入ってたんで、まぁ「なんか出ませんか?」みたいなこといってきまして....。

― リリーさんはそれまでに演技の経験というのは?

ほぼないですよね、うん。

― それがいきなり主役というのを聞いてどうでした?。

うーん、でも元々役者じゃないから主役だ何だってことも左程ない....。

― 逆に意識しないという....?。

というか、それに台本読んでても....逆にその、ま、名前は一番に出てるけども役柄としてはそんなに物語を動かすあれでもないし、だからホントに....そりゃ明智小五郎をやらないかとか盲獣やらないかとか言われたら俺には出来ないなんて思いますけど....うーん。

― 石井監督の映画はそれまでにもご覧になってたんですか?

うん、石井さんの映画はほんとに大好きでしたから、だから、石井さんだからっていうのもなんかあれですけど石井さんに先ずお会いしたいだけですよね、最初は。

― その石井監督からお話しがあった時はどんなお気持ちでしたか?。

嬉しいですよね。パンフレットの中でも言ってますけど、何の仕事でもお手伝いはしたと思いますけども。

― 石井監督からは演技については指導とかはありましたか?

うん、一切ないので困りましたね。

― まるっきりなかった?

ええ、何も言ってくれない。(笑)
何も言ってくれないので、監督に最初の方は「どうしたらいいですかね?」って聞いてたんですけど「好きにやってください」って言うんで....うーん、戸惑いましたけど。

― リリーさんの演技を拝見して、それまでに経験がなかったとは思えないほど巧く演じられている思ったんですけど。

ま、何もしてないのが良かったんでしょうね、うん

― 演技の指導がなかったこともそうですが、やってて難しかったことは何ですか?

全部難しかったのは難しかったですよね。うーん、モノローグは多分出来るなと思ってたんですけど人と絡むお芝居とかは....うーん、やっぱ大変でしたしね。なんかこうただ歩くシーンとかが多いんですけど、それもなんかね、もう....さっきなんか画面見ててなんかこう手がなんか女の子みたいになってるんですよね、なんか緊張感ないんですよね。やっぱ役者さんてのは指先までいくもんなんですね。俺はもう歩くことにしか集中できないすよね。

― でも寧ろその方が自然体で良かったということは?。

いやぁ、どうなんでしょうね?。やっぱあの、今まで人の映画を観てあれこれ書く仕事をしてたんで自分が出てみると、やっぱそっちの方が全然抜けてないしそっちが本職なもんで凄い客観的でしたね。「あ、俺は駄目だな」と思いながら全体を見るっていう....。

― 完成版は今日初めてご覧になったんですか?。

そうですね。

― 初めてご覧になってご自身で点数をつけるとしたらどれぐらいですか?。

何点ぐらいになるでしょうね、でも流石に、俺が出ようと何しようと、誰が出ようともう石井さんの映画は石井さんのものでしかないですからね。だからもうその石井さんの作品てのは出てる役者が何点だていう問題じゃないじゃないですか、もう。だからホントにもう繋がってるのを初めて観て驚いたけど、V(ビデオカメラ)で撮ってる時にプレビューとか塚本さんと見て「これはどうなるんだろうね?」ていうのが正直不安なとこあったんですよ、色とかバチッと出てるし。でも(今日観て)流石だなと思いましたもん。


― 他に撮影中、石井監督の演出等で感心されたことはあります?。

石井さんはホントになんかその演出というかお芝居一度もつけてくださらなかったもんで....うーんでも妙元寺てお寺で猫と絡むシーンがあったんですけど猫には厳しかったですね、動物には厳しい演出をされる。(笑)

― どんなかんじだったんですか?(笑)

猫には怒ってましたよ「うまく背中に乗れ」とかね、あそこだけですよ何テイクも撮ったの、あれ10テイクぐらい撮りましたよ。(笑)

― あの猫はあそこに居たんですか?

偶々居たのを閃いちゃったんですね、監督が。「猫いいね」って言い出したから。

― よくあんなにうじゃうじゃ居ましたね。

いや、うじゃうじゃ居るのは俺の体中にシーチキンとまたたびを塗ってるからなんですけど。(笑)
だからもう他のとこは「ハーイ」っていって「え、今のでいいんですか?」と思うような....まあだいたいワンテイクとかなんですけど、猫のシーンだけはもう何回もまたたびシーチキンを塗りながら、猫に噛まれながら10テイクぐらい廻して....あそこが一番憶えてますね。後ろで監督が猫怒鳴って芝居をつけて....動物には厳しいんだなあと思いましたけど。(笑)

― 盲獣役の平山君にも厳しかったそうですよ。

ああ、こういう動物には厳しいですよ。(隣に居た平山氏に向かって)
盲獣と猫とあと根津神社で鳩が飛ぶシーンも鳩にはちょっと怒鳴ってたかな。(笑)

― 話をもどしまして、演技は初めてというのはさっき伺いましたけど、映画出演も初めてだったんですか?

うん、そうですね。

― 撮影現場を体験されていかがでした?

ま、撮影現場は陣中見舞い的なことはね、しててなんとなく雰囲気はあれですけど、まあどの現場にもないですよね、この感じはね。

― それはいい意味で、悪い意味で?

とってもいい意味ですよ、こうじゃなきゃいけないと思う。もっとピリピリしてるもの、他は。

― 和気藹々とやってるって感じですか。

いや和気藹々でもないですよね、なんでしょうね、空気がね、もう石井さんの体温なんでしょうね、あれは。うーん、だから多分もうあんな感じとか、もうその撮影してる間ってのはずっと結局石井さんの体温に支配されてる感じなんですよね、なんか。

― そうですね、撮影現場をみるとなんか「石井学校」みたいな雰囲気がありますよね。

そうそう、だからほんとにこれが人の前でまわるまわらないじゃなくて、なんか学校に来てっていう....ま、その場に居ると塚本さんにしても園(子温)さんにしても中野(貴雄)さんにしても熊切(和嘉)君にしても手塚(眞)さんにしても、なんかこう卒業生が来てるんだなっていう....あれなんじゃないですかね。だからこれから映画を撮ろうっていう人には凄くいい映画なんじゃないですかね。うーん、石井さんが仰ってたみたいに、ま、杜撰なとこはあってもっていうみたいに、その杜撰なとこを残しつつね、で、VTRで撮って、でまあどんどんやってくていうインディペンデントがこういう風になって行かなきゃいけないよっていうのを多分石井さんは....石井さんが多分残したいって言ってるのはそういう意味だと思うんだけどね。だから作品を残すんじゃなくて映画を作るやり方っていうか姿勢っていうか....。

― 監督ご自身も映画を作るシステムを残したいといったことを仰ってますし....。

多分、ほんとになんかお歳は召してらっしゃいますけど、凄い今のことと先のことを見てらっしゃるていうか、そういう今まで日本映画がまったりしたのって所謂映画的なるものていうものの呪縛だと思うから、そうじゃないっていうようなものを今回やってるんだと思いますね。だから本当に映画監督になりたいなって思って田舎から出て一年ぐらいの人がこれ観たら「俺でも撮れるんじゃないかな」ていういい色気が出ていいんじゃなかな。こういう風にラフでいいんじゃないかなていう、もっとなんか金貯めてフィルム代貯めて芝居を長くやっていうよりも....そういうじゃなくて、やっぱなんだかんだ言っても映画ってのは飲み屋で、ゴールデン街でどんだけ喋って話してたって映画じゃないしょ、作品を撮らないと。
それは多産系になりなさいってことじゃなくて喋ってる暇があったら撮ろうよってことですね。だからそれを石井さんはこの映画で一番なんかこう....それは若い人たちに勇気が出ることだと思う 。
例えば今回役者さんていうのは、本職の役者さんていうのは殆ど出てないじゃないかなっていうぐらいだけども、それはみんなが自分の友達を使っていいんだよてことだし、それを熊切君が昔『鬼畜(大宴会』を撮った時みたいに、周りの友達で映画を撮っても海外で面白いっていうこともあるんだし。
うん、だから最初はそうでもいいじゃないかを、石井さんが、最初じゃなくてベテランになってももう一回提案してくれてるんだと。逆に石井さんは、その年代の方々はみんなほら映画会社の社員として集まった方だから、どんどんインディペンデントが進んでいってるですよね。だから石井さんの最近の作品てどんどんどんどん濃くなっていってるっていうのはインディペンデントとして濃くなっていってる、それは賛否両論あると思うけど、その晩年残したいとするのもは何かってことが色んな監督にあるんだろうけど....。
この間(鈴木)清順監督の『陽炎座』のトークショーに行って、ま、多分同い年ぐらいだと思うんですけど、鈴木清順監督と、全然タイプは違うけれども、でもま、渋谷で『陽炎座』やって20年前の映画であんだけお客さんが来るとか、今回も『盲獣〜』で入れないぐらいお客さんが来るっていうのは、なんかそういう匂いを若い人が感じてるだと思うんですけどね。
うん、学校的なんですよ、凄く、やっぱりその年配の方の作品ていうのは。その作品一個の評価じゃないですからね、もう監督のものですから完全に。

― 最近の石井監督の作品てのは業の深さっていうのもだんだん深くなってきてるように思えますね。

もう、『地獄』行った時点で何しても平気になりましたから。(笑)

― 『地獄』から今みたいな撮影スタイルになった感じもありますね。

で、『地獄』を35mmで撮って、これをビデオを撮るっていうところの脈絡もいいんですよね、なんか凄く。そして初めて撮影もしてみるっていうこの初々しさがないと駄目です。常に瑞々しいですよね。(笑)

― 今回は初めてビデオで、編集も「どうやってやるんだ?」みたいなとこから始めましたからね。

あと、なんでしょうね、唯一客観的に見れなかったとこっていうのは、観てる人ってのはどういう....俺らはまあ台本読んで撮影を断片的に見てますけど....だからまあよくありがちな日本のオーディエンスの人の反応ですけど「なんか訳わかんなかったね」ていうことが悪いっていうのがあるかもしれないけど、そんなこといったら石井さんの映画は一本目から訳わかんないから。(笑)
でもそういうことの楽しみ方って絶対ないといけないと思うんですよ。面白い面白くない、良い悪いじゃないものが絶対あると思うんですよ。それを勉強できる機会だとも思うんですよ、いろいろと。

― 話を映画に内容に戻しますが、リリーさんご自身で気に入られたシーンとかはありますか?

うーん、自分のとこはどうってのじゃないですけど、意外と見てみると盲獣のとこっていいなと思いながら観てましたね。て、いうか盲獣の周りに居る人と何の絡みもなかったから....こんな色っぽいシーンなんて見たことないんですよ、俺。(笑)

― そういえば脚本にあったリリーさんと橋本麗香さんのキスシーンがなくなってしまったとか。

うーん、しても良かったんですけどねぇ。(笑)

― 強引にやりたいっていってやらしてもらえばよかったのでは?(笑)

その辺が役者じゃないとこの弱さですかねぇ。でもミッチー(及川光博)もしゅうも何らかの形でキスしてるんだったら俺もすればよかったかなと思いますけどね、しゅうなんかおっさんの腕舐めてる。ミッチーも最近は色んな現場行ってるみたいだけどスタッフとキスしたの初めてだって言ってましたね。(笑)
(注:ミッチーのキスシーンは相手役の顔が写らないのでスタッフの女性が代役を務めています)

― 及川さんやしゅうさんはリリーさんの紹介で今回参加されたんですか?

そうですね、なんかこう偶々話しをした友達に「是非見ときなよ」ていうことですよね、この機会に。

― 石井監督の現場を?

石井さんの....石井さんを見ときなよと。
喜んでましたよ。だからそれを自分達のフィールドに持って帰ってなんか反映されるとこが沢山あると思うのね。

― リリーさんはこれを機に本格的に役者をやってみるといった気持ちはありますか?

そういう欲はないですけど....ええ。

― 石井監督は今回のリリーさんの演技をとても誉められていたんですけど、監督からまたお話しがあったらどうします?

石井さんだったらもう是非喜んで....。これから監督が何かやられるんだったらね、何かしら、もうスタッフでもお手伝いしたいですよね。監督の助監督とかやりたいですよね。

― でも助監督も大変そうですが....。

(現場で)見てましたからねぇ、週休4日ぐらいでやらしていただければねぇ。(笑)
みんな石井さんのとこでぐでぐでになって寝てるスタッフの子たちを見てましたからね、俺。

― タコ部屋状態。(笑)

まあ、あの学校的な感じあったから結構良かったじゃないんですかね。他の現場に行くともっとなんかもうちょっと陰惨で....なんか誰かが大声だしてる現場っていうのは一番嫌なんですよ、俺なんかも見てて。で、そういう作り方してる人の映画で面白いのが出来てもなんか....うーん、なんていうんでしょうね。映画はやっぱ体育会系じゃいけないと思いますね、これ文系の最たるもんだろうと思う。もっとまったり、なんかスカしたりしないといけない現場って....多分それももう既に現代的じゃないんですよね。
これはやっぱり監督の、石井さんみたいに匂いを持って支配できる人じゃないと、こういう監督じゃないとやっぱ怒鳴らないといけないんだなと。だから石井さんみたいに何を撮ってももう石井さんでしかないていう域になって初めてあの雰囲気が作れるのであって、だから現場の雰囲気が良かったですてのは、それは僕らが楽しくしたっていうんじゃなくて石井さんがやってくれてるものだと....。

― では、お時間もなくなってまいりましたので、最後にこれからこの映画を観る方々にメッセージなどを。

ま、何処を観て欲しいっていうものじゃないんですけど、観た後に多分....自分の映画を書いた本の中でも一番多く取り上げているのが石井さんの映画なんですよ。それは多分観た後に、さっきも言いましたけど面白いとか面白くないとか良いとか悪いとかじゃなくて、ツッコミ甲斐があるんですかね。あそこどうだったこうだったとか、感動したしないとか泣いた泣かないとか怖い怖くないとかそんな映画評、感想ばっかでしょみんな。石井さんの映画は、あれってなんか変だよねとかなんか変わってるよねとかそういうもんですよね。それをタランティーノとかよく言ってるみたいに映画が終わった後に映画館を出てもパイを食いながら一緒に映が観てたやつと話したいていう、映画を観た後を時間を提供できるとか。特に俺らみたいに映画について書く人間は石井さんの映画は書き甲斐があるんですよ。例えばさっき塚本さんが『地獄拳』の話ししてましたけど、それ一つにしてもなんかもう何処もまともじゃないっていったらまともじゃないでしょ。熱海で撮ってても(字幕で)ニューヨークて書いちゃそれまでですし。(笑)
そう、そういうところを若い人に沢山観てほしいかなぁ。だからなんかこうちょっと前のインディペンデントの若い人たちの方がもっとゴールデン街的だったんで嫌だったんですよ、精神性が強くて。だから俺8mm観なくなったんですよ。一本の映画で何かを啓蒙しようみたいなこととか、そんなのホントに本当の意味で自主制作でやってくれってことなんですけど。石井さんの映画はね、そういうのよりも、ま、もうみんなが観て感じた通りだと思いますけど。だから観てどっかの喫茶店とかで感じたことを話してくれればそれでいいんじゃないですかね。

― 素直に観てほしいと。

「出鱈目だったね」でもいいしね。