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長い散歩

2006年12月16日(土) より渋谷Q−AXシネマ ほか全国順次ロードショー

2006年/日本/アメリカン・ビスタサイズ/ドルビーSRD/136分
イントロダクション
 ひとりの初老の男と5歳の少女の旅。男は亡き妻への贖罪の思いを背負い、少女は自分の置かれた残酷な境遇を生き延びる唯一の術のように、いつも天使の羽根を背中にまとっている…。『少女〜an adokescent』(01)、『るにん』(05)と次々に監督作品を発表し、個性派俳優であると同時に映画監督としてのスタンスを固めつつある奥田瑛二。『長い散歩』は、長編3作目にして彼の映画作家としての確かな実力を示す、涙と感動の名作である。第30回モントリオール世界映画祭のコンペティション部門でグランプリを受賞、さらに国際批評家連盟賞、エキュメニック賞の三冠を獲得と、すでに国際的な評価も高い。
 主人公の安田松太郎は、母親から虐待にあっていた少女サチを記憶の中にある山の頂に連れて行こうとする。しかし、その旅は誘拐事件と見なされ、捜査の網の目は徐々に狭まりつつあった。はたしてふたりは終点のユートピアに辿り着けるのだろうか?
 松太郎を演じるのは緒形拳。信念を持って生き抜いた厳格な男であったが故に、老いて自分の人生を振り返ったときに自分に問いかける悔恨の情のつらさを抑制された演技で見事に表現してみせる。かつてCMの仕事で一度だけ共演したことがあるという奥田監督が、緒形を念頭において用意された企画だけに、本作はまさに俳優・緒形拳の近年の代表作となっている。
 薄幸の少女・幸役にはオーディションで多数の候補者の中から選ばれた杉浦花菜。これまで演技の経験はないが、母親に虐待され心を閉ざした少女という難しい役を見事に演じきった。
 自身が母親に愛されたことがなかった故に、自分の娘にも同じように振舞ってしまう幸の母親・真由美役に高岡早紀。ひとりの女性の哀しさを体当たりの演技で表現している。旅の途中で松太郎と幸が出会う青年ワタル役には松田翔太。本作で映画俳優に目覚めたと本人が語るほど奥田監督の演出に触発され、ピュアなオーラを身にまとった存在感を醸し出している。奥田瑛二自身は、今回は監督として演出に集中し、松太郎を誘拐事件の犯人として追い詰める刑事役として、物語を外から見つめるポジションを取っている。
 幼児虐待という社会問題は現代に根深く存在するデリケートな問題でもある。脚本を書き上げるにあたって多くの事例を取材し、奥田監督による原案を、妻の安藤和津が中心となり、長女で本作の助監督をつとめた安藤桃子、次女の安藤サクラのアイディアを取り入れながら新人脚本家・山室有紀子の協力を得て執筆したものである。
 撮影は奥田組の常連・石井浩一。銀残しの現像を計算し、岐阜の山中、名古屋のロケーションを美しい色調で見事にカメラに収めている。松太郎の心と響きあうような静謐な音楽は稲本響。ピアノ曲の澄んだ音色が映画全体のトーンを生み出している。そして物語のエンディング・テーマはUAが歌う井上陽水の名曲「傘がない」。UAの歌声が物語の感動の余韻を、新鮮に引き継いでいる。
ストーリー
 名古屋の高校の校長を定年まで勤めてきた安田松太郎(緒形拳)は、妻(木内みどり)を亡くし、一人娘の亜希子(原田貴和子)に家を譲って、愛知県の片隅にある小さなアパートへ移り住む。数少ない荷物の中にあった本には、家族関係が円満だったころに訪れた山の頂で撮った写真が挟まっていた。
 アパートで質素な暮らしを始めた松太郎の隣室には、水商売風の女・横山真由美(高岡早紀)が幼い娘(杉浦花菜)と暮らしていた。松太郎は、ボール紙で作った擦り切れた天使の羽を背中に付けたその少女が、幼稚園にも行かず、アパートの外でひとり遠くの景色を眺めているのを見かけていた。母親の投げつける小銭でメロンパンを買い、空腹を満たす少女。
 ある夜、酒に酔って帰宅した母親は、部屋に男を連れ込み、娘を戸外に追い出して情事を始める。日頃の隣室からの物音で母親が少女を虐待しているのに気づいた松太郎は、少女への同情心を募らせながらも、かつて自分が厳格な性格ゆえに娘や妻を苦しめていたことを思い返し、自責の念にかられていた。そんな松太郎はある日少女のあとをつけ、少女の秘密の隠れ場所を突き止める。そこで松太郎と少女はささやかな交流を始める。
 そして運命の日は訪れた。松太郎は少女をからかっていた母親の情夫・水口(大橋智和)を叩きのめすと、少女を連れ出す。虐待され続け、他人とのコミュニケーションのできなくなっていた少女を連れ、松太郎は旅に出る。目指すのはあの山の頂。旅の中で次第に心を開き始めた少女は、松太郎にようやく自分の名を告げる。少女の名は幸(サチ)。
 やがてバックパッカーの青年・ワタル(松田翔太)と出会い、旅を共にする松太郎と幸。ワタルとの出会いで幸は笑顔を見せるようになる。一方、幸の母親は警察に届けを出し、刑事(奥田瑛二)は、少女とときを同じくして姿を消した松太郎に疑いの目を向ける。そしてふたりの前で起こる哀しい事件。旅を続けるふたりは、目的の場所に着けるのだろうか?
スタッフ
キャスト
企画・原案:奥田瑛二
製作総指揮:西田嘉幸
プロデューサー:橋口一成/マーク宇尾野
協力プロデューサー:深沢義啓
スーパーバイザー:安藤和津
脚本:桃山さくら/山室有紀子
音楽:稲本響
撮影:石井浩一
照明:櫻井雅章
録音:柴山申広
美術:竹内公一
編集:青山昌文
助監督:川口浩史
製作担当:渡辺貴生
スクリプター:長坂由起子
ラインプロデューサー:森太郎

主題歌:「傘がない」UA(ビクター/スピードスター)作詞・作曲 井上陽水

監督:奥田瑛二

製作プロダクション:ゼロ・ピクチュアズ
製作:株式会社ゼロ・ピクチュアズ/大喜株式会社/朝日放送株式会社
配給:キネティック
安田松太郎:緒形拳

横山真由美:高岡早紀
横山幸(サチ):杉浦花菜
旅の青年ワタル:松田翔太

安田節子:木内みどり
安田亜希子:原田貴和子

水口浩司:大橋智和
アパートの管理人:山田昌
医師:津川雅彦

刑事:奥田瑛二

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