どら焼き屋の「どら春」は、店長の千太郎(永瀬正敏)がひとりでどら焼き作りから接客までをこなす小さな小さな店。ワカナ(内田伽羅)たち近くの中学校の生徒は、学校帰りによく「どら春」を訪れていた。
桜の花が満開のころ、店に貼り出されていたアルバイト募集の張り紙を見て、ひとりの老女(樹木希林)が店で働かせてほしいと千太郎に声をかける。たしかに張り紙に「年齢不問」と書いてはあるものの、店の仕事は力仕事も多い。高齢の老女では無理だろうと千太郎は断るが、老女はもう一度「どら春」にやって来た。50年間あんを作ってきたという老女は「どら春」のどら焼きはあんがいまひとつだと言い、自分で作った粒あんを置いていく。その粒あんは、味も香りも、これまで千太郎が味わったことのないほどのものだった。老女の粒あんに惹かれた千太郎は、再び店を訪れたその老女・徳江に店を手伝ってほしいと頼み、徳江は「どら春」で働くことになった。
徳江が作った粒あんを使うようになってから、次第に「どら春」のどら焼きがおいしいという評判が広まっていき、気がつけば開店前から行列ができるほどの人気となっていた。そんな中「どら春」のオーナー(浅田美代子)は、ある気がかりな話を千太郎に伝える。
徳江は、千太郎が体調を崩した日にひとりで店を開けたのをきっかけに粒あん作りだけでなく接客もこなすようになっていた。ワカナたち店の常連も徳江との会話を楽しみ、徳江は店に欠かせない存在となっていく。
だが、店に関する噂が、静かに広がりはじめていた――。
あん
監督:河瀨直美
出演:樹木希林 永瀬正敏 内田伽羅 市原悦子 ほか
2015年5月30日(土)より全国公開
2015年/日本・フランス・ドイツ/カラー/シネマスコープ/5.1ch/113分
小さなどら焼き屋で働きはじめたひとりの老女。老女が粒あんを作るようになってから店は繁盛していくが、やがてある噂が広まる。そして、どら焼き屋の店長と店の常連の少女は、老女の背負うものを知ることになる――。
『あん』は、国際的に高い評価を受けている映画作家・河瀨直美が、名女優・樹木希林を主演に迎えて送る最新作だ。原作は、俳優として河瀨直美監督作『朱花の月』に出演経験も持つ(明川哲也名義)ドリアン助川の同名小説。河瀨直美・ドリアン助川・樹木希林という出会いが、観客の心に深く沁みわたる作品を生み出した。
樹木希林が演じるのは、あんこ作りの名手・徳江。徳江が働く小さなどら焼き屋の店長・千太郎には、日本映画界で唯一無二の存在感を見せる永瀬正敏。どら焼き屋の常連客の中学生・ワカナには、樹木希林の実の孫で祖母の勧めでオーディションを受けた内田伽羅(うちだ・きゃら)。徳江の親友・佳子には、久々の映画出演で、意外にも樹木希林とは初共演となるベテラン・市原悦子。河瀨直美監督作品だからこそ共演が実現したであろう豪華なキャストたちは、まるでドキュメンタリー映画を観ているかのような自然な空気をスクリーンから伝えてくれる。
スタッフは日本、フランス、ドイツの3ヶ国から参加し、河瀨監督作品としては初めて東京での撮影がおこなわれた。どら焼き作りの過程をまるで芸術品のように映し出した美麗な映像にも注目だ。
主題歌は、人気シンガーソングライターの秦基博がこの映画のために書き下ろした「水彩の月」。エンディングを飾る優しい歌声が、映画の余韻をいっそう深めていく。
- 徳江:樹木希林
- 千太郎:永瀬正敏
- ワカナ:内田伽羅
- 佳子:市原悦子
- ワカナの母:水野美紀
- 陽平:太賀
- 若人:兼松若人
- 「どら春」オーナー:浅田美代子
- 監督・脚本:河瀨直美
- 原作:ドリアン助川「あん」(ポプラ社刊)
- プロデューサー:福嶋更一郎/澤田正道/大山義人
- 撮影:穐山茂樹
- 照明:太田康裕
- 録音:森英司
- 美術:部谷京子
- 助監督:近藤有希
- 編集:Tina Biz
- 音編集:Roman Dymny
- サウンドデザイナー:Olivier Goinard
- 主題歌:秦基博「水彩の月」(AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan)
- 企画・制作:組画/Comme des Cinémas
- 製作:映画『あん』製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/MAM/ZDF-ARTE
- 配給:エレファントハウス