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『アジアの純真』が1月にラピュタ阿佐ヶ谷にて“いまだからこそ”8年ぶりの劇場再上映

 2011年に公開され話題となった韓英恵さん主演の青春ロードムービー『アジアの純真』が、1月20日より30日まで東京の阿佐ヶ谷ラピュタにて8年ぶりに劇場上映されます。

記事写真

『アジアの純真』より、韓英恵さん演じる少女と、笠井薫明さん演じる少年

 井上淳一さんによるオリジナル脚本を片嶋一貴監督のメガホンで映画化した『アジアの純真』は、反朝鮮感情が高まる2002年の日本を舞台に、双子の姉を殺された在日朝鮮人の少女と、少女の姉に救われたことのある日本人の少年が、“世界を変える術”を求める旅をする中でテロリストと呼ばれるようになるというストーリーを全編モノクロームで綴った異色の青春ロードムービー。  2011年にオランダで開催された第40回ロッテルダム映画祭に出品されて「白黒の奇跡」と評され、その内容ゆえに日本国内での上映は難航しつつも2011年10月に公開、殺された少女と双子の妹を一人二役で演じた主演の韓英恵さんが同年のキネマ旬報ベストテン個人賞部門で3位となるなど、熱い支持を集めました。  また、同作品には片嶋一貴監督と井上淳一さんふたりの師にあたる若松孝二監督が出演しており、2012年に逝去した若松監督最後の出演作でもあります。

 撮影がおこなわれた2009年から11年、劇場公開から8年3ヶ月を経て、日本に立ち込める空気が当時とはさらに様相を変える中、ふたたび映画館のスクリーンに蘇る『アジアの純真』。  再上映に際し、片嶋一貴監督、井上淳一さんは、それぞれ以下のようにステートメントを発表しています。

片嶋一貴監督ステートメント

『アジアの純真』がまた映画館で上映されるのは、嬉しいことです。なかなか多くの人の目に触れることが難しい作品なので…。撮影は2009年1月、劇場公開は2011年の10月でした。この映画は、韓英恵という女優がいなければ成立しえないものでした。18歳の韓英恵。この年齢でしか出し得ない異様な殺気と脆さが同居し、特有のオーラを醸し出している。偏狭な精神から自由になるためにもがき苦しむ純真な魂に、社会の正義など、いかに不確かなものなのか…。そこに、人間存在の不条理があると考えます。すでに韓英恵は29歳。時代は変わり、変わらないものは何も変わらない。今現在、この映画がどんなふうに受入れられるのか、とても楽しみです。

脚本・井上淳一さんステイトメント

戦後最悪と言われる日韓関係。ネットばかりか、ワイドショーでも反韓嫌韓ヘイトまがいの言葉が平然と語られる。ヘイトはそんなに視聴率がとれるのだろうか。叩いても文句を言われないものを叩く品性の卑しさ。「強制連行」が「徴用工」と呼び名を変えて久しい。あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」が中止になったのも、KAWASAKIしんゆり映画祭の『主戦場』上映中止騒動も、最大の原因は慰安婦だ。誰も自分たちのことを、歴史を、振り返らない。この国が彼の国で何をしてきたか。足を踏まれた者にしか足を踏まれた者の痛みは分からないのだとしても、これは酷すぎるのではないだろうか。いつかどこかで見た風景。戦前? いや、もっと近く。例えば、2002年。拉致問題が騒がれていた頃の、国を挙げての北朝鮮大バッシング。あの頃の空気にソックリだ。その後も、やれミサイルだ、やれ核開発と騒いだはいいが、金正恩がトランプと握手した途端にトーンダウン。今度はお隣の国が敵になる。それを煽って何になるというのだろう。
『アジアの純真』は2003年にシナリオを書き、09年に撮影され、11年に公開された映画だが、この映画で描いたことと何も変わらない現実。双子の姉を殺された在日朝鮮人少女は旧日本軍が不法投棄した毒ガスを手に入れ、日本という国に復讐するために旅に出る。報復の連鎖。その先に何が待っているのか?
香港では若者たちのデモに警察の暴力がエスカレート、権力は弾圧を隠さなくなった。イランでもペルーでもデモが激化、パレスチナではイスラエル軍との激突が続き、カシミール地方を巡って印パは一触即発、米中関係も温暖化も悪化の一途、辺野古の埋め立ては続き、福島では原発汚染水が垂れ流され続け、我が国の首相はウソしかつかない。分断と対立。なぜ同時多発的に世界中でクソバカな指導者が誕生してしまったのか。
そんな今だからこそ、『アジアの純真』を再上映したいと思った。幸い、全国各地で手を挙げてくれる同志がいた。新潟、茨城、沖縄、長野、大阪、広島、名古屋、埼玉と回り、ついに東京再上陸。この映画は公開時、「反日映画」と散々叩かれた。反日、上等。今、この国を愛せよという方が不可能だ。日本人が作った「反日映画」を題材して、この国がどうしたらもう少しマシになるか考えたい。主人公は言う。「どうやったら、世界は変わるの?」と。答えなんて出るワケがない。でも、問いかけるだけではダメだ。この映画が、考えるはじめの一歩になればと願っています。

 少女とともに旅をする少年役に、その後も片島監督作品に出演するほか多彩な活動をおこなう笠井薫明(かさい・しげあき/初公開時は「笠井しげ」名義)さん、旅をする少年と少女に関わる青年役に黒田耕平さん、さらに高校教師役で片嶋一貴監督と親交の深いミュージシャンの白井良明さん(ムーンライダーズ)が出演するなど、キャスティングも見どころの『アジアの純真』。

 『アジアの純真』以降も、再び韓英恵さんと組んだ『たとえば檸檬』(2012年)や上映時間4時間超の大作『いぬむこいり』(2017年)、ドキュメンタリー『M 村西とおる 狂熱の日々』(2019年)などを発表してきた片嶋一貴監督と、脚本家として『あいときぼうのまち』(2014年、菅野廣監督)や『止められるか、俺たりを。』(2018年/白石和弥監督)、監督として『戦争と一人の女』(2013年)、ドキュメンタリー『大地を受け継ぐ』(2016年)や『誰がために憲法はある』(2019年)などを手がけてきた井上淳一さん。
 ジャンルや劇映画・ドキュメンタリーの区別を問わず、つねに鋭いエッジで切り込むような作品を映画界に送り出してきたふたりがタッグを組んだ『アジアの純真』が、2020年に問うものはなにか。
 東京・ラピュタ阿佐ヶ谷での上映は、1月20日(月)より31日(金)まで、連日20時30分よりレイトショー。いまだからこそ『アジアの純真』が上映される理由を、ぜひ劇場で感じてください。

作品スチール

『アジアの純真』再上映

  • 東京・ラピュタ阿佐ヶ谷:2020年1月20日(月)より31日(金)まで連日20時30分よりレイトショー上映
  • 長野・松本CINEMAセレクト:2020年2月11日(火・祝) 10時30分/13時/16時

※fjmovie.comでは、2011年の『アジアの純真』初公開時に片嶋一貴監督と主演・韓英恵さんのインタビューを掲載しています。公開当時の記事であることをご理解の上、ぜひインタビュー記事もご覧ください。

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