山田洋次の軌跡 by KIYO

「山田洋次の軌跡」連載第1回

第1話「二階の他人」
<概要>
1961年、松竹の助監督として活躍していた山田洋次はこの「二階の他人」で監督デビューを果たす。「作家は処女作に向かって成熟する」とはよく言われるが、あらゆる作家は処女作がその原点であるということなのだろう。
山田洋次の原点とは何か?そこを考えてみたい。

<ストーリー>
雨の降る駅で夫の帰りを待つ新妻(葵京子)。そこに二階に間借りさせている青年が通りかかる。妻は夫の分の傘を貸してあげる。夫の姿が見えて帰ろうとするが、夫の部長に呼び止められて、夫(小坂一也)は部長に傘を貸してしまう。二人は雨がやむまで駅前で足止めされる。
この若夫婦は家を建てたばかりで、その借金返済のため、二階を他人に間借りさせて家賃を取ろうと考えていたのだ。
ところが、そうして二階に間借りしてきた男女は家賃を滞納して少しも払おうとしない。穏やかに話せば、辛い身の上を話して情に訴え、職を紹介してもすぐに止めてしまう。
慣れない暴力に出て追い出してみると、下宿荒らしの常習犯だった。 また、田舎から夫の母親が長男夫婦と喧嘩してやってくるのも頭痛の種だった。二階の下宿人に同情したりと人はいいのだが、博打好きでふらふらしている。長男と次男との話し合いで誰が母親の面倒をみるかで口論になり、長男からは家を建てる時に貸した二十万を返せといわれてしまう。
次に二階に間借りしてきたのは、親子ほども年の離れた夫婦だった。
外交評論家という触れ込みで、暮らしぶりも豪勢だ。金を出すからと風呂場を作らせたりもする。
そこで、下宿人に二十万を借りると、即座に気前よく金を貸してくれたのだ。あまりの豪勢ぶりに不審がる若夫婦。
ある時新聞にその下宿人の写真が載っていた。評論家といっていた老紳士は実は会社の金を盗み、連れ合いの女と逃げ延びてやってきていたのだ。どうするべきか悩む夫婦だった。二十万を返して出ていって貰おうと、金策に走るがうまくいかない。
クリスマスの夜、下宿人夫婦は酒を飲み大声で歌いながら大騒ぎをする。
このまま自殺するのではと、駐在に駆け込むが何事もなく終わってしまう。
翌日、下宿人夫婦は自首する。
二十万のこともばれるのでは、と心配するが、書き置きに感謝の言葉と、二十万のことは警察に内緒にしておくことが書いてあった。若夫婦はあの二人が再出発する時のために、二十万を貯金するため、また二階に他人を住まわせることを新たに考えるのだった。

<解説のような感想>
「二階の他人」は1時間弱の中編映画である。これは当時の松竹では、新人監督をテストするため、まず短めの作品を作らせ、それで評価をえられれば本格的に作品を作ることが出来るというシステムをとっていたらしいからだ。
では、山田洋次はこのテストに合格したのか?
否といえる。それは次の「下町の太陽」が1963年の作品であることからも推察される。その間監督する機会を与えられなかったのだろう。
さて、どこがまずいのか?それは喜劇として成功していないのだ。
確かに庶民の慎ましい生活を描き続ける作家としての、山田洋次の原点は確かに感じられる。ところが、今回「二階の他人」を観て、これは喜劇ではないのか?と感じ続けていた。
喜劇であるならば、ある種のカリカチュライズが必要があることはおわかりだろう。その極致が寅さんであり、馬鹿シリーズのハナ肇である。ところがこの作品における寅さん的役割を担うのが「二階の他人」であるはずだが、そこまでの徹底がなされていないのだ。
夫の母親のキャラクターがかろうじてそれに近いだろう。
だが、最初の下宿人にしても次の下宿人にしても、カリカチュライズというにはあまりに普通すぎて笑えるレベルに達していない。なにか近所のトラブルを見せつけられているようでもある。
思うに、山田洋次がそのような演出をしてしまったのは、普通の人たちとして描こうという意識が強すぎたのではなかろうか。いや、山田洋次の演出不足ばかりを責めても一方的すぎるかもしれない。
「端から見ている分には笑えるが関わり合ったらたまらない」車寅次郎は渥美清が演じるからこそ成り立つのであって、それ意外の役者ではとても喜劇として成立していないだろう。
「男はつらいよ」のシナリオをどの作品でもかまわないので読んでみて欲しい。実のところ、庶民的な悲しみに満ちた暗い挿話がどれだけ多いだろう。それを喜劇足り得ているのは、山田洋次の円熟した演出と、渥美清の素晴らしい演技があるからなのである。その面白さを味あわせてくれるには三作目の「馬鹿まるだし」まで待たねばならないのだ。

97/07/09(水) 01:18 KIYO(YRG02560)


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