山田洋次の軌跡 by KIYO

「山田洋次の軌跡」連載第3回

第3話「馬鹿まるだし」
<概要>
「下町の太陽」以後、山田洋次はハナ肇を主役とした喜劇を作り続けることになる。これは「男はつらいよ」シリーズが始まるまで続けられ、いわば寅さん映画の原型と見なすことができるかと思う。
その最初の作品が本作「馬鹿まるだし」であり、ハナ肇主演作品のなかでも、もっとも成功した作品だろう。

<ストーリー>
とある寺の境内にたたずむ一人の男。行き場のない彼は寺に泊めてもらうことになった。彼の名は安五郎(ハナ肇)。ある時、安は寺泥棒をつかまえ、住職の信頼を得る。寺には戦争で夫がシベリアに行ったまま帰らない夫を待つ夏子(桑野みゆき)がいた。夏子に恋いこがれる安。
町に来ていたサーカスの怪力男に、町会議員の主水屋の娘が駆け落ちしてしまう。安はサーカスに乗り込み、娘を取り戻す。町の人間の信頼を得、舎弟(犬塚弘)も出来た。
町の工場で労働闘争が起き、組合員の一人が工場の煙突に上ってしまう。
安は町の有力者におだてられ、煙突から引きずりおろすが、夏子から批判されてしまう。安は会社の会長に直談判し、闘争要求を飲ませることに成功する。今度は労働者たちから祭り上げられる安五郎。
安の後ろ盾となっていた主水屋が町長選に負け、おまけに賭博の現場を捕まってしまい、町の人間は手のひらを返したように安に冷たくなってしまう。また、安と夏子の関係を噂までするようになってしまう。
主水屋の反対勢力の辰己屋の娘が爆弾魔に捕まってしまう。打つ手がなくなった町民は安五郎に娘を救い出してくれるよう頼む。安は男を上げるチャンスだと勢い込んで乗り込むが、夏子は「あなたは馬鹿よ!」となじる。
意気消沈しながらも娘を救い出した安五郎だったが....。

<解説のような感想>
子供に優しく美人に弱く、人の頼みを断ることを知らず、向こう見ずで、意地っ張り。端から見たら面白いことこの上ないが、関わり合ったらたまったものではない、といった安五郎のキャラクターは寅次郎の原型であることはよく言われていることである。しかし安五郎と寅次郎とではそのアナーキーさ、破天荒度が違う。これはそれぞれを演じたハナ肇と渥美清の違いといってもいいだろう。ハナ肇は一歩間違えば人殺しもいとわなそうな感じがするが、渥美清の場合ある程度の部分で押さえてしまうだろう。
暴れるといっても酒の席ぐらいで、翌日になれば頭をかきながら謝りにくるか、そっとどっかに行く感じだが、ハナ肇は自分が間違えていたとわかれば、汚名挽回のために行動しそこでまた一騒動起こしそうである。

この作品を観たのはおよそ5年ぶりだが「下町の太陽」と違ってとても楽しく観た。もちろん喜劇として成功しているのもあるが、喜劇の中に山田洋次の鋭い批評眼が存在していることをあげなければならない。
たとえば工場の労働争議に安五郎が巻き込まれるエピソード。最初、安五郎は経営者たちにうまく丸め込まれて、闘争のために煙突に上った労働者を引きずりおろすことに成功するが(どうやってかはご自分で確かめてね)労働者や夏子から批判される。そうとわかって経営者に直談判し、要求を通すことに成功すると、一転してみんなが安を救世主のように扱う。
安五郎はあくまで夏子に気に入られたいがために行動しているだけであり、労働者も経営者も関係ない。町の人間のコロコロと変わる対応が、いかに冷たいものであるかということが伝わってくる。
「男はつらいよ」以降にはこういった批判的な視線は少なくなってくる。
あくまで柴又の人たちはいい人たちであり寅を暖かく迎えてくれる。
このことで、私が読んだ批評の中で「寅さん以前の山田洋次はよかったのに....」と語るものが少なくない。そうだろうか?

ここに描かれる日本的庶民生活(みんなが知り合い)はもはや失われたものである。今では「他人の生活など関係ない」とするか、事あれば冷たい視線を向けるか(「公園デビュー」に心を痛める若い母親!)しかない。
そこで勢い、みんなが助け合って暮らしていた世界の優位さを訴えるしかない。山田洋次が変わっていったというより、あまりに日本が変わってしまいすぎた、といえるのではないか。カリカチュライズも出来ないほどに閉塞した世の中なんてなんとつまらないのだろう。

長くなりすぎたので、最後に一言。
どうして最後にいきなりダイナマイトを持った爆弾魔が出てくるんだ?
TV版「男はつらいよ」もそうだが、ラストが強引すぎやしないか?
ま、それもシュールでいいか。(オイオイ)

P.S. 久々に硬い文章だあ。意外においらって社会派してるぞお。

97/04/26(土) 23:47 KIYO(YRG02560)


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