
「山田洋次の軌跡」連載第8回
第8話「なつかしい風来坊」
<概要>
ハナ肇=倍賞千恵子=山田洋次監督の三者による人情喜劇にして、「男はつらいよ」以前の大傑作として輝く作品、それが「なつかしい風来坊」である。その年のブルーリボン賞主演男優賞・監督賞を受賞している。
私は「男はつらいよ」以前の初期作品のなかでは、この作品を最初に観ることをおすすめしたい。それだけの傑作であるのだから。
<ストーリー>
民生省の防疫課に勤める早乙女(有島一郎)は痔に悩まされていたため、仕事を早引きして帰宅する途中の電車の中にいた。早乙女は電車の中で、なにやら大声で騒いでいる柄の悪い男と出会った。男は酔っぱらっていたがなにやら憎めない感じを早乙女は抱いていた。
数日後、同僚の送別会でしたたかに酔って、駅でタクシーの順番待ちをしていると、どこかで聞いたことのある大声がする。あのときの柄の悪い男である。早乙女は意気投合してその男を家に泊めてやった。
男の名は源五郎(ハナ肇)といい、話してみるとなかなか気のいい男である。世話になったお礼に、隣の家に来た押し売りを追い払ってやったりしたが、源五郎は奄美大島に行くと言い残して去っていった。
しばらくして手みやげを持ってまた源五郎が早乙女の家にやってきた。
それから、源五郎はたびたび早乙女家に寄りつくようになった。家の修理も喜んでするし、犬が欲しいと早乙女の息子が言えば、保健所から犬を引き取ってきて犬小屋も建ててあげたりもした。
ある時、源五郎がずぶぬれになった娘を抱えて早乙女のところへ駆け込んできた。海へ入水自殺を計ろうとしたところを源五郎が助けたのだ。
介抱の甲斐あって、一命を取り留めたが、身よりのない娘を、早乙女はしばらく預かることにした。
源五郎がいつものように早乙女家に遊びに行くと、きれいな娘がいる。
源五郎の姿に驚く娘。娘の名は愛子(倍賞千恵子)といった。
数日して源五郎は精一杯のおしゃれをして愛子に会いに来た。早乙女家ではその姿に大爆笑するのだった。
愛子はだんだんと早乙女家の人々と、源五郎にもうち解けたりしてきた。
しかし、自分の不幸な境遇を思うと、心からの笑顔はなかなか出てこなかった。
源五郎は愛子のためになんとかしてやりたいと思い、金を渡したりもしたが、早乙女は映画にでも誘ったらどうかと勧めた。
ところが、源五郎と愛子が映画に行った夜、愛子が泥だらけでブラウスの破けた姿で帰ってきた。早乙女は暴漢にあったのだと警察に電話をした。
翌朝、警察から犯人が捕まったとの電話を受けた。話を聞いてみると、犯人は源五郎だという。
何かの間違いだと早乙女は愛子から真相を聞く。実は公園で足を滑らせた愛子が崖から落ちそうになったとき、源五郎と、もつれ合ったのだ。
だが、源五郎は自分がやったといい張った。また、源五郎には余罪があり結局、逮捕されてしまった。
愛子はいたたまれなくなり、早乙女家から姿を消した。
早乙女自身も八戸への転勤を命じられ、寂しい日が過ぎていった。
八戸へ向かう列車の中で、早乙女は懐かしい顔に出会う。
愛子が子供を連れていたのだ。しかも夫はあのなつかしい風来坊、源五郎であった。
涙ぐむ早乙女。列車の中で二人のなれそめが語られるのであった。
<解説のような感想>
寅さんが結婚したらどうなるか?
寅さんファンなら一度は思う事に違いない。この作品はそんな夢を叶えてくれる作品である。「男はつらいよ」は結果としてアンハッピーな結末で終わらざるを得ないが、この作品は源五郎と愛子が結ばれるという、物語としてはこれ以上ないハッピーエンドを迎えて終わるのである。「男はつらいよ」全48作を見終わった後、もし他の山田洋次作品を観たければ、この作品をおすすめしたい。きっと「ああ、よかった」と思うこと間違いなしである。
他の作品でも山田洋次はナレーションを多用するが、この作品はその中でも特に成功している。あくまで早乙女の視点で物語られるので、早乙女の心配事が、すなわち観客の視点と重なるのである。
また、早乙女が見ていないことは描かれていないので、最後の源五郎と愛子の夫婦姿に「ああ、この二人にはいろんな事があったんだな」と観客の想像をかき立ててくれる。
その後の「息子」でも中盤の永瀬と和久井の恋がどうなるか?と思わせておいて、最後に仲良くする二人の姿に感動を覚えたが、ここにその原型があるのだろう。
「寅さん」以前の作品では、それぞれ善し悪しというものがあるが、この作品は全体のバランスといい、「傑作」の名に恥じない作品である。
次回、....さてどうなる事やら。
97/06/23(月) 23:28 KIYO(YRG02560)