
「山田洋次の軌跡」連載第9回
第9話「九ちゃんのでっかい夢」
<概要>
山田洋次の喜劇の主役といえば、ハナ肇、渥美清、近年では西田敏行が思い浮かぶが、他にもわずかながら他の役者を主役にした作品がある。
この「九ちゃんのでっかい夢」は題名通り坂本九を主役にした異色編である。
<ストーリー>
スイスはレマン湖のほとりの豪邸で一人の老婆が亡くなった。彼女は昔の恋人の日本人の孫に自分の遺産を譲ることを言い残す。
その遺言に従い、弁護士はその青年を捜すため、日本に渡る。しかし、老婆の遠い親戚に当たる男は、遺産相続を阻止するため、殺し屋を日本に送った。
その遺産を継ぐべき青年、源九太郎(坂本九)は死にたがっていた。
彼は横浜の劇場で人気のある芸人だったが、己に絶望していた。九太郎は知り合いのポンさんに頼んで、殺し屋に自分を殺してくれるよう依頼した。
九太郎は自殺は出来なかった。なぜなら近所の喫茶店に、愛子(倍賞千恵子)という愛する人がいたからだ。
しかし、九太郎が依頼した殺し屋は次々に九太郎の殺しを失敗する。
九太郎の行動に不審を感じた愛子はポンさんを問いつめる。すると、九太郎がガンであることを愛子に告げるのだった。
九太郎はせめて死ぬまでは、愛子と、舞台のためにがんばろうと決意する。
すると、九太郎の人気はだんだんと上がり、ついに自分のショーを開催するようになった。
九太郎の病気のことをあきらめられない愛子は、病院へ乗り込む。そしてついに誤診であることを突き止める。それを聞いた九太郎は喜び一杯で舞台に立つ。
一方、スイスからの弁護士と、殺し屋は九太郎のショーのポスターを見つけ、劇場へと急いだ。
幕が開いたが、九太郎は気が気でならない。自分が雇った殺し屋がいつ自分を殺しに来るか分からないからだ。殺し屋は役者に混じって九太郎を殺そうとする。そこへ愛子、弁護士、スイスからの殺し屋などが入り乱れて舞台は大混乱になる。その混乱の中、九太郎は自分の気持ちを愛子にうち明けるが、愛子は婚約者がいることを告げるのだった。
ショックを受けながら、劇場を飛び出す九太郎。それを追う殺し屋達。
それからしばらくして、愛子の結婚式が行われる。式場に国際電報が届く。
それは、遺産を受け継いだ九太郎からの祝電だった。
九太郎はスイスの豪邸で、愛子の子供に自分の遺産を残すことを誓うのだった。
<解説のような感想>
この作品は、今までの山田喜劇の中でもっともドタバタナンセンス度が高い。わざといい加減な外国語(フランス語のように聞こえる)を話す外人や、ドタバタとしたオーバーアクションぶりで、盛り上げようとしている。
しかしながら、今一歩カラッとしたナンセンスにならないのは、九太郎の性格設定を誤っているように感じる。九太郎は自分をガンだと思いこんでいるので、芝居がどうしても湿っぽくなるのである。ここはもう少し突き抜けた芝居の出来る性格設定にしておくべきだったのではないか。
それでもこの作品は、坂本九の歌や踊りがふんだんに入っており、それを観るだけでも一見の価値がある。と言うよりは、この作品は坂本九の魅力で持っている作品なのだ。
山田洋次の演出としては特筆すべき作品とは思えないが、「ナンセンス」に挑戦したことは、山田洋次にとって「喜劇のあり方」を模索するために必要だったのだろう。
そういう意味で、山田洋次の挑戦的な姿勢を楽しむ作品と結論づけておく。
<おまけ>
坂本九のショーの部分は結構楽しめます。やっぱり偉大な歌手だったなあ、と思います。坂本九という人は。
てんぷくトリオの三人とのコントは必見です。おそらく他では観られないのでは?
次回、第10話「愛の讃歌」に続く。(おお、ついに二桁突入かあ)
97/07/24(木) 23:41 KIYO(YRG02560)