山田洋次の軌跡 by KIYO

「山田洋次の軌跡」連載第10回

第十話「愛の讃歌」
<概要>
山田洋次の前期作品(この連載では「男はつらいよ」以前の14作品をそう呼ばせていただく)はほとんどが喜劇を主体にしている。「愛の讃歌」はその中ではシリアス方向に近い作品として見ることが出来る。もちろん喜劇的な部分もバラン
スよく配置されているが。
しかしながら、この作品の一番の魅力は、ヒロインである倍賞千恵子の存在であろう。

<ストーリー>
瀬戸内海に浮かぶ小さな島に、春子(倍賞千恵子)は妹たちと暮らしていた。
春子は食堂を営む仙造(伴淳三郎)のところで働いていたが、仙造の息子竜太(中山仁)とは将来を誓い合った仲だった。
竜太が神戸から帰ってきたが、浮かぬ顔をしている。竜太はブラジルに行って一旗揚げるつもりなのだ。迷う春子。しかしこの島と妹をおいて竜太について行くわけには行かない。春子はなけなしの貯金を餞別に渡し、竜太を送り出した。
竜太が出て行ってからは仙造は酒におぼれる毎日である。
一ヶ月を過ぎた頃に竜太から手紙が届いた。仙造は悪態をつきながらも、春子に返信の代筆を頼むのだった。
五ヶ月を過ぎ、春子が桟橋から落ちる事故が起きた。診療所の先生(有島一郎)が駆けつけて診察したところ、妊娠していることが分かった。もちろん竜太との子供である。
不憫に思った先生は春子を妹たち共々引き取って暮らすことにした。
そして男の子が産まれた。竜太から名前を取って「竜介」と。先生と春子親子、妹たちとの生活は平和に過ぎていった。
仙造の体調が思わしくなくなり、皆が心配している頃、竜太が帰ってきた。ブラジルでの生活に失敗したのだ。
帰ってきて竜介を見た竜太は驚くが、今度は大阪で一緒に暮らそう、と春子に話す。しかし先生はこれまでの暮らしで子供に情が移り、竜介を引き取りたいと持ちかける。竜太と先生、春子が口論になり、そこへ仙造が乗り込んで、竜太を薄
情者といい放ち追い返してしまう。
竜太はまた島から姿を消してしまう。
それから冬が来たある日、仙造は竜太からの手紙を読んで気分を悪くし、亡くなってしまった。仙造の葬儀には竜太の姿はない。そしてようやく竜太からの手紙が春子の元に届く。先生は今度こそ竜太と一緒に暮らすべきだと春子に諭す。
春子の出発の日、島のみんなが春子を送り出してくれた。船に乗り込み、春子は何時までもみんなに向かって手を振り続けていた。いや、先生に向かって....。
先生も春子にずっと手を振り続けていたのだった。

<解説のような感想>
冒頭にも書いたように、この作品で一番に見るべきは倍賞千恵子の魅力である。
山田洋次の演出も、「下町の太陽」の頃に比べ、実に安定感のある演出になり、役者の魅力を存分に引き出していると言える。
この作品は、一見すると若者の恋愛ドラマが主体になっているように思えるが、実はそうではない。島の人間達のたわいもない会話や暮らしぶりの中に、春子と先生のプラトニックな恋愛を描き出しているのである。(「なつかしい風来坊」のラストに見せる有島一郎の得も言われぬ表情と、今作品のラストの有島一郎の顔は同一のものであると言っていいだろう)
山田洋次の作品では精神的な愛は最も重要なものとして描かれ続けている。「男はつらいよ」は車寅次郎という人間の、精神的な愛の遍歴を四半世紀を費やして描き続けているのである。
この山田洋次的な愛の世界を描くにあたって、倍賞千恵子という女優がもっとも重要な存在としているのは何故だろうか。
もしもっと肉感的な感じの女優であれば、突然妖しいセクシャルな世界になってしまうし(石田えりでは....)、子供のような感じがする女優では逆に大人の精神的な世界には向かないだろう。(浅田美代子じゃ....もちろん石田えり共々いい女優さんであるが、要はうまくはまらないということである)だからこそ、山田洋次はデビュー時期から、今日まで倍賞千恵子という女優を撮り続けてきたのだろう。

といったわけで、倍賞千恵子の若き頃の代表作の一つ、としてこの作品は語り続けられるであろう。

次回、「喜劇 一発勝負」に続く。

P.S. いやあ〜、前回を書いたときから2ヶ月も経っちゃったのね。お待たせしてしまってすみません。次回はもう少し早くしますね。


97/09/21(日) 01:08 KIYO(YRG02560)


もくじへ戻るBack to Menu Page 次に進むGo to Next Page
Copyright (C) 1997-1999 - KISHIMA kiyomi & Hiroya Hirai. All Rights Reserved.