山田洋次の軌跡 by KIYO

「山田洋次の軌跡」連載第13回

第13話「吹けば飛ぶよな男だが」
<概要>
この作品は山田作品の中でも異色の出演陣、舞台設定の中で描かれているが、実のところ若かりし頃の車寅次郎の悲恋物語のようにも観ることが出来る。
さて、どういうところか下記に記してみたい。

<ストーリー>
神戸のチンピラ三郎(なべおさみ)は、つまらない商売をやっては暮らしていた男だった。ある日、駅でいかにも田舎から出てきたばかりと思える少女花子(緑魔子)を捕まえ、何も知らない花子にブルーフィルム(今で言うAVビデオ)に出演させようとしていた。
山のロケ地で、強引に花子を脱がそうとする自分のボスの手から花子を救い出し、弟分のガス(佐藤蛾次郎)と三人で逃げ出した。
三郎は花子に里に帰るように諭すが、花子は三郎から離れようとしない。
三郎は花子を使って美人局(つつもたせ)をやろうとするが、引っかかったのは女性に手を出そうともしない中年の教師(有島一郎)だった。三郎はすごんで先生からお金を巻き上げるが、逆に先生は自分に対する罰だと、三郎たちにビールをおごってやったりした。
先生と意気投合した三郎は、先生をトルコ風呂(当時の名称であるが、あえてそう書いておく)に連れていくのだった。
三郎は花子をこのままにして置くわけにも行かず、先日のトルコ風呂の女主人(ミヤコ蝶々)に花子を売ったのだ。その帰り、ボスに捕まって指を詰められてしまう。そこを救ったのは三郎の部屋の隣に住む島田組の不動(犬塚弘)だった。
傷口の痛みに耐えかねて、熱を出していたところ、看病してくれたのは花子だった。涙ぐむ三郎。三郎は花子のヒモになるのを止めて、稼ごうと働き出す。もちろんチンピラの三郎に出来るのはいかがわしい商売であったが。
花子の様子を見にトルコ風呂に行くと、女主人は花子が止めたことを告げる。
しかも花子が妊娠していることを三郎に教えるのだった。
花子は先生のところに身を寄せていた。三郎は自分の子供であろうと思っていたが、そうではなく、花子は好きでもない男の子を宿していた。しかも花子はカトリック教徒だったので、堕胎も自殺も出来ず悩んでいた。三郎はそのことが理解できなかった。
やけになった三郎は、島田組と敵対する新興組のやくざと喧嘩し、弾みでその一人を刺してしまう。自首する三郎。
拘置所に花子は面会に来た。お互い泣きながら話もできない。
先生はそのことで花子を諭すが、花子はショックで先生の家を飛び出して、夜同士ふらついた結果、流産してしまう。
拘置所から出てきた三郎に知らされたのは、花子の死だった。流産が手遅れになってしまったのだ。遺体にすがって号泣する三郎。
それから三郎は、花子の遺骨を花子の故郷に届け、船に乗って旅立とうとする。
その前に、トルコ風呂の女主人に、昔生き別れた子供とは自分ではないかと問う。
女主人は笑って一笑に付すが、眼には涙をためながら、旅立つ三郎を見送るのだった。

<解説のような感想>
この作品は、まず山田作品の中でも最も最下層に住む人々を登場人物に選んでいる。
チンピラややくざ、家出娘、トルコ風呂の女主人。もし今村昌平や深作欣二といった監督であれば、もっとどす黒く重い作品になるところを、山田監督が描くと基本的に「いい人」になってしまう。
犬塚弘演じるやくざも、この作品においては三郎たちの面倒を影ながら見守る存在としていることを考えると、いかに作家性というものが題材が同じでも、違う描き方になるかと言うことが出来るだろう。
山田作品にとっては、どのような立場にいる人間であっても、自分に向上心がある限りそれは「いい人」なのである。
「男はつらいよ」のなかで「自分を汚いと知った人間は、決して汚くない」という台詞があるが、これが山田洋次の人間観を端的に表しているのではないだろうか。
ところで私は冒頭でこの作品を「寅次郎の若かりし頃の話」と書いた。
たとえば、なべおさみの風貌が寅さんの初期に酷似しているとか、舎弟が佐藤蛾次郎であったり、三郎の母とおぼしき人物がミヤコ蝶々であるという事もできるが、この作品のヒロインである花子の悲恋度にそう感じるのである。
三郎は結果的に花子を救ってやることが出来なかった。
寅次郎にも、三郎と同様に若い頃は威勢のいいチンピラの時代があったに違いない。しかしこのように自分の過失で愛する女性を死なせてしまったとしたら、その後の恋愛においても、またあのころのような結果を生み出したくない、故に寅次郎はあえて失恋し続けているのではないだろうか。
と考えてしまうのは、ファンとしての邪推に過ぎないであろうか。さて。


次回「喜劇・一発大必勝」に続く。

98/02/16(月) 03:14 KIYO(YRG02560)


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