山田洋次の軌跡 by KIYO

「山田洋次の軌跡」連載第14回

第14話「喜劇・一発大必勝」
<概要>
山田洋次とハナ肇による「一発」シリーズ第3弾(物語のつながりはない)であり、ハナ肇主演の作品としては最終作となってしまった。
なぜなら、この作品の次に作られた作品こそ「男はつらいよ」であり、その後山田洋次は現在まで松竹の屋台骨を支える唯一の監督となっていく。
その意味において、この作品は以後二度と見せない山田洋次の心象風景(「スターウォーズ」的に表現すれば暗黒面か)を色濃く反映した作品となった。

<ストーリー>
墓場へ向かうバスに、車掌をつとめるつる代(倍賞千恵子)は乗り込み働いていた。
そこにつる代の父親たちが段ボールを抱えて乗り込んできた。
その中には貧乏長屋の仲間であった馬(←人名である)の亡骸が入っていた。焼き場まで持っていって焼こうというのだ。
形ばかりの葬式を終え、浮いた金で酒を飲んでいると、巨漢の男(ハナ肇)が長屋にやってきた。馬の友達でボルネオ帰りという。
馬を手厚く葬らなかったことに怒った男は、遺骨をすり鉢で砕き、長屋の連中に飲ませてしまう。
翌日、遺骨を飲んだ者が腹を下してしまう。長屋の人間たちはボルネオ帰りの男がコレラを持ってきたのではと大騒ぎになる。男は長屋で大暴れした後、長屋の組合費を巻き上げて去ってしまった。
秋になり、長屋の人間たちは温泉旅行に出かける。ところがそこであの男に再会してしまう。男が方々で暴れた後、長屋に住み着いてしまう。長屋の連中は男を御大と呼び、恐れおののいていた。
つる代はおなじ長屋に住む保健所員の左門(谷啓)と好き会っていたが、つる代には拘置所にいるチンピラの夫がおり、また子供もいた。
ある時酔った御大はつる代に酌をするように強要するが、つる代は毅然と断る。
怒った御大が暴れ出すと、つる代を守るために左門は身を投げ出して御大と格闘し、倒すことに成功する。
御大は自分を倒した左門に一目置くようになる。なにか力になろうとするが、つる代が夫との手切れ金が必要だとわかると、労災を手に入れようと建築現場で働き出す。
そうはさせじと、左門は止めるが、現場で落ちてきた御大の下敷きになり左門は死んでしまう。
つる代は御大が殺したと責めるが、やけになった御大は左門の遺体を抱えて踊り出す。と、なんと左門は息を吹き返してしまった。
左門はつる代にプロポーズするが、煮え切らない態度のつる代を追いかけようとして肥溜めに落ちてしまう。あまりに無様な姿を見せてしまった左門は長屋から去る。
スクラップになった車の中で左門が寝ていると、何者かがブルトーザーで壊してしまう。なんとそれは現場で働いていた御大だった。
左門はお前のせいだ、と御大と取っ組み合いを始めるのだった。

<解説のような感想>
この作品は「山田洋次監督作品」と呼ぶより「森崎東脚本作品」と呼んだ方がしっくりくる。それというもの、キャラクターのアナーキーさや、死体を使ったギャグなど、ここまで極北を極めた作品は山田作品にはあまり見られず、後年の森崎作品の中に並べてみる方がふさわしい。
たとえば倍賞千恵子のヒロインも、今回は子持ちの人妻であり、山田作品のヒロインの大勢を占める「妹的存在」とはかけ離れている。
また長屋の人間たちも、日和見で矮小な存在としての描き方の方が強い。御大が暴れているときはペコペコと頭を下げご機嫌を伺っていたかと思うと、左門が御大を倒したとたん、寄ってたかって御大殴り出すのだ。
つまり御大は明らかに悪人ではあるが、実はそれ以上に悪なのが、こういう日和見的な人間の心であるとしている。これは明らかに森崎東のテーマである。
山田洋次は基本的にこういう描き方はしない。特に後年の作品にはどんな人間であっても純な心を持っていると描くのである。
山田洋次的キャラクターを背負っているのは左門の方である。
貧乏ではあるが曲がったことが嫌いで、愛する者のために働く姿はまさしく山田作品のヒーローの典型である。
ラストで御大と左門が格闘するのは、この二つの、似ているようで決定的に違う二人の作家の世界の戦いなのである。
しかしながらこの戦いに決着はつかない。
決着ではなく、融合し、その中から生まれたキャラクター、それが車寅次郎というヒーローなのである。
初期の寅次郎が粗暴な面を見せているのは森崎世界を背負っているからであり、後年情緒的に優しくなるのは、森崎東が脚本を離れ、朝間義隆に替わったからでもあるが、それはまた先の話としよう。

さて、これで「男はつらいよ」以前の14作品を紹介してきたが、いかがなものであったろうか。これらの作品はなかなか眼に触れる機会も少ないこととは思うが、是非一度観ていただきたい。そうすれば若い山田洋次の苦闘の歴史に触れることが出来るであろうから。


**********「山田洋次の軌跡 第一部 完」**********


次回、第15話「家族」より第二部となります。お楽しみに。

98/03/26(木) 23:07 KIYO(YRG02560)


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