山田洋次の軌跡 by KIYO

<山田洋次の軌跡 第二部>連載第16回

第16話 「故 郷」
<概要>
「家族」の2年後、山田洋次は「男はつらいよ」第6作から第9作と制作する傍ら、瀬戸内海の小島に長期ロケし、後に三部作と呼ばれるようになる連作の第二作目を作り上げる。
それが「故郷」である。

<ストーリー>
広島県倉橋島、瀬戸内海に浮かぶ小さな島である。そこに石船と呼ばれる運搬船を操り、生活を営む一家がいた。
家長であり、大和丸の船長石崎精一(井川比佐志)、妻であり機関長の民子(倍賞千恵子)、祖父の仙造(笠智衆)、そして子供たち。
島には多くの仲間がおり、魚売りの松下さん(渥美清)なども、何かと石崎一家に目をかけてた。
しかし、石船の仕事は精一の船よりも大きな船が主流を占め、船を買い換える金もなかった。
民子は、広島に住む精一の次男健次を訪ねた。健次が工場の仕事で怪我をしたので見舞いに行ったのだ。話はそれとなく仕事の話となり、尾道の造船所での仕事の話が来ていることを相談する民子。健次もかつては精一と一緒に船に乗っていたが、見切りを付け、工場で働くようになったのだ。健次は尾道に行くことを勧める。
ある日の仕事で、海が荒れ、精一たちはなかなか帰ってこなかった。心配する仙造と松下さん。二人は夜遅くようやく帰って来たが、船のエンジンが限界にきていることを感じていた。
精一は船を修理に出そうとしたが、建造してから20年も経つ大和丸の修理は、とてもではないがただではすむような値段ではなかった。あきらめる精一。
船の買い換えも修理もままならぬようになってしまった精一は、民子を連れて尾道の造船所を見学する。そして船の仕事を辞めて、尾道に移り住むことを決意するのだった。
船の仕事をする最後の日、いつもより早めに出発する精一と民子。精一たちは行く先々で人々に別れの挨拶をした。かつて民子が機関士の免許を取るために苦労した日々、仙造や健次たちと仲良く船の仕事をしていた頃の思い出を浮かべながら。向こう岸には廃船になった船を燃やす火が輝いて見えた。それを見ながら精一は時代の流れとは、大きなものに負けると言うことは何かを自問するのだった。
島を別れる日、島のみんなが手を振って見送る中、精一たちは島が見えなくなるまで手を振り続けるのだった。

<解説のような感想>
この作品はちょうど「家族」と一対をなしている。移動の物語と定住の物語。一生の仕事を求めて移動する家族と一生の仕事と思ってきたものを失う家族。
この作品は「家族」と逆の方向を描いてありながら、そこにあるテーマは同一である。家族が生きていくということは何か、である。
「家族」はストーリー上、北海道にたどり着く事が一種の感動を呼び起こすが、しかしそこに待ち受ける世界は決して楽なものではない。そこを描くために山田洋次は「故郷」のストーリーを思いついたのではないだろうか。
「家族」と比べると「故郷」は強いストーリー性はない。あるのは島で暮らし、船の仕事をする一家の姿である。それがなんと美しいことか。ただただ石を石切場から埋め立て場まで運んでいくだけのことが、誇りを持って働く人間の顔は実に美しいのである。
しかし、その美しい顔を奪っていくと「もの」は何かを山田洋次は問いかけてくる。そのために丹念にロケーションを重ね、俳優たちに石船の仕事を実際にさせているのだ。それに応えて危険な撮影をこなした井川比佐志と倍賞千恵子の演技は見応えのあるものである。
個人的には「故郷」の美しく淡々とした瀬戸内海のロケーションに心奪われた。
是非「家族」「故郷」そして次回紹介する「同胞」と続けて観ていただきたい。

<おまけ>
この「故郷」が(いつもオフ会でお世話になっている)五十嵐助監督の初チーフ作品なのだそうである。B班監督としても多くの情景カットなどを撮っているそうである。長期ロケのため、なにやら石切場の人たちと毎晩酒を酌み交わし、麻雀をやっていたそうだが。
この作品以後五十嵐助監督は山田組には欠かせない右腕となるのである。
そう思って映画を観ると、「あ、このショットが五十嵐さんが撮ったヤツかな?」などと思いながら観るとまた違った楽しみ方が出来ると思う。

「故郷」の思い出話をして下さった五十嵐さんに感謝!


次回「同胞」に続く。

98/05/05(火) 22:37 KIYO(YRG02560)


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