
<山田洋次の軌跡 第二部>連載第17回
第17話 「同 胞」
<概要>
「家族」「故郷」と続き、漢字二文字によるタイトルを持つ作品、「同胞」。
よく三部作として紹介されることが多い。しかし、前2作と比べてこの作品は肌合いが違う。農村の青年団を主役とした群像劇なのである。
<ストーリー>
岩手県岩手郡松尾村。まだ雪の残る三月に、ある一人の女性がこの農村にやってきた。彼女の名は河野秀子(倍賞千恵子)。秀子は青年会会長をやっている斉藤高志(寺尾聰)を訪ねてきた。百姓をやっている自分に何の用があるのか、と訝しがる。秀子は統一劇場の職員で、高志に、統一劇場の演劇「ふるさと」の公演を青年会主催でやって欲しいと依頼しに来たのだ。
突然の話に狐につままれたようになる高志。
雪も溶け、冬の間出稼ぎしていたものも帰ってきた。青年会理事会で早速この話が議題となる。皆興味を示すものの、公演には最低65万円はかかるという話を秀子から聞かされ、二の足を踏む青年団員。話はまとまらないまま皆で飲みに行く。家の家業を継いでいるもの、出稼ぎに出ているもの、郵便局員、スナックを経営しているもの。秀子は彼らに好感を抱くようになった。
その夜、秀子は青年団の一人である加世子の家に泊まった。高志は加世子のことが好きだったが、加世子は東京へ行くことを夢見ていた。
それから何度も会議は行われた。しかしいつも公演が赤字になった時どうするのかという問題で話は止まってしまっていた。公演は7月末に行わなければならないが、時間だけが過ぎていった。
そして加世子は親の制止も聞かず、東京へと旅立っていった……。
6月になり、そろそろ結論を出さなければならない。一度は公演の話を断ろうとしたが、秀子の前ではっきりと言えないため、議事は総会へと持ち越しとなった。
全員が意見を言う中、話は深夜に及んだがまとまらない。会長としての意見を求められた高志は「赤字になったときは自分の牛を売る」と意を決して言うと、全会一致で公演を行うことに決まった。
それから公演当日まで、会場の手配、宣伝、チケット売りと、奮闘する青年会員。
公演三日前になって、チケットが全く売れていないことがわかると、昼夜を問わず各戸を廻り、チケットを売ったのだ。
その甲斐あって、なんと予定よりも多くチケットが売れたのだ。
意気揚々とする青年会だったが、前日になって公演場所にしていた中学校の体育館の使用許可が下りないことになってなってしまった。許可を得ていたはずだが、校長は営利事業に許可は出せないと言う。
困惑する青年会の中で、秀子は無料公演でいい、と校長にお願いする。熱意に負けた校長は特別に許可を出した。
当日、統一劇場の劇団員がやってきた。公演準備を着々と行う劇団員たちを見ながら、感無量の青年会員。
村の各地から大勢の人が集まってきた。体育館は満員である。
高志は大勢の人間の前で緊張しながら、公演の開演を宣言した。
幕が上がり、歌に、踊りに、芝居に反応する村人たち。笑い、泣き、声援を送るのだった。
満場の拍手のなかで、公演の幕は下りたのだった。
青年会員たちと秀子の別れの時もやってきた。
村もまた時がたち、収穫の時期がやってきた。忙しく働く高志。
そのころ秀子は次の町でまた公演を行うために、青年会との話をしているのだった。北海道の炭坑の町で……。
<解説のような感想>
「よりよいコミュニティーとはなにか?」。山田洋次が「家族」「故郷」の後に作った作品のテーマはこれである。たとえ悩み、失敗し、時にもめ事になったとしても、自分たちの理想は自分たちで作り出さねばならないと山田洋次は思っているに違いない。この作品は二時間を越える作品の前半一時間をかけてほぼディスカッションをし続ける青年会の姿を追っている。そのほとんどが無為に費やされているが、それをしなければ民主主義は成り立たないのである。最後の最後で高志は自分で責任をとると言うが、もし最初に高志がそれを口にしていたら後半の公演準備できっと青年会は分裂し、公演が成功に終わることはなかっただろう。
ともに悩んできた仲間だからこそ、公演が終わった後、みんなが充実感を味わうことが出来たのである。
もちろん、山田洋次はその共同体から出ていこうとするものを否定しようとはしない。公演の画にカットバックされるように、東京へ出ていった加世子の姿や農村の生活が出てくる。東京に出たものも、彼らなりの「ふるさと」を背負っているのである。そういう目配せをするところに山田洋次の細やかさがある。
もちろん現在の農村の立場はもっと追い込まれた状況にあるし、青年団とはいえ実際もっと高齢化している例はたくさんある。
しかし、それらの問題の原点としてこの作品はある一つの提案をしているし、その姿勢に山田洋次が単なる映画監督でなく広い世代に支持されている理由の一面があると思う。
次回、「幸福の黄色いハンカチ」に続く。
98/06/21(日) 23:37 KIYO(YRG02560)