山田洋次の軌跡 by KIYO

<山田洋次の軌跡 第二部>連載第18回

第18話 「幸福の黄色いハンカチ」
<概要>
「男はつらいよ」を除き、山田洋次作品でどれか一つを挙げよ。
こういう問いかけをしてみた場合、おそらく一番に挙げられるであろう作品、それがこの「幸福の黄色いハンカチ」である。
この作品を見たことはなくても、作品の存在はつとに知られている。
なぜこれだけ大衆に支持を受ける作品として名を残しているのか?
今回はその点を考えてみたい。

<ストーリー>
青年花田欽也(武田鉄矢)は失恋の痛手で会社を辞め、退職金で赤い新車を購入した。北海道へ行き、女の子を引っかけて遊んで周りの人間の鼻を明かそうというのだ。フェリーで釧路へ渡り、快調に車をとばす欽也。
駅で、旅行者らしき女の子小川朱美(桃井かおり)を誘うことに成功し、車に乗って二人は一路網走へと進んだ。意気揚々とする欽也。
一方そのころ一人の男が網走刑務所を出所してきたところだった。男の名は島勇作(高倉健)。出てきたばかりの彼には外の世界で呑むビールもラーメンも、格別のものだった。
欽也たち二人は観光地を見て回る途中、写真を撮って貰おうと、近くにいた男性に声をかけた。勇作である。写真を撮って貰ったあと、勇作の行き先を尋ねた二人は、何とはなしにそのまま宿に一緒に泊ることになった。
勇作は久しぶりの暖かい布団に感激する。しかし横になっても思い出すのは辛かった昔のこと。なかなか寝付けないでいる勇作の耳に隣で寝ている二人の騒ぐ声が聞こえてきた。欽也が無理矢理朱美を犯そうとしていた。朱美もキスまでは許したものの、泣き出してしまう。勇作はたまらず欽也を怒鳴りつけたのだった。
翌日、駅まで二人を送る欽也。しかし駅に向かう車の中は険悪な雰囲気が漂っていた。駅で最後まで朱美に未練がましくつきまとうが、朱美は承知しない。別れ際に欽也と朱美はお互いの名前を初めて知るのだった。
欽也が去ったあと、汽車の時間が2時間後ということを知って、後悔する朱美。
すると欽也が引き返してきた。仲直りをしたくて、商店街で蟹を買ってきたから三人で食べようと提案する。
蟹を食べながら、だんだんと親密になる三人。結局、また三人で北海道旅行を続けることにしたのだった。
車を走らせる途中、欽也が蟹にあたってしまい腹を下してしまった。車もまともに駐車せずに農家に駆け込む欽也。残されている二人が欽也を待っていると、車が邪魔で他の車が通れない。仕方なしに朱美が車を動かすが、止められずそのまま畑に落ちてしまう。戻ってきた欽也と朱美はまた揉める。どうしようもなくなりその晩は農家に泊めてもらうことになった。
出逢ってから、朱美に対する欽也のあまりのだらしなさに、勇作は欽也を叱りつけるのだった。
翌日次の町で、欽也はやくざに絡まれてしまう。勇作はやくざを殴りつけ自分が車を運転する。しばらくすると警察の一斉検問が行われている。免許所の提示を求められた勇作は、そこで自分が刑期を終えて出所したばかりの人間であることを告白する。警察に連行される勇作。欽也と朱美も心配でついていく。
警察署で事情聴取を受けていると、勇作が昔世話になった渡辺(渥美清)と再会する。渡辺の口利きで咎めを受けずに済む。勇作を励ます渡辺。
勇作は欽也と朱美に、自分の身の上話を始めた。昔は九州のチンピラだったこと。
北海道に渡り夕張で働きだしたこと。そこで光枝(倍賞千恵子)に出逢ったこと。
なかなか気持ちを告白できずに悩んだ日々。ようやくの思いで結ばれた幸せな日々。ある日光枝が妊娠したことを知り、本当に妊娠していたら家にある鯉のぼりの竿に黄色いハンカチを目印としてあげること。そして黄色いハンカチを遠くから見て嬉しくて家に走って帰ったこと。
ところが、光枝が無理をして働いたために流産してしまった。しかも流産は初めてではなかったのだ。気持ちが収まらない勇作は酔った勢いで町へ出てチンピラと喧嘩になり、殺してしまった。
刑務所に入った勇作は、光枝に離婚するよう説得した。光枝は二度と勇作に会いにはこなかった。
欽也と朱美は勇作の話を聞いて号泣するのだった。
翌日、札幌へ向かおうとする一行に、勇作は夕張へ行きたいと言い出した。実は出所した日に、自分をまだ待っていてくれるなら庭の鯉のぼりの竿に黄色いハンカチをあげておいて欲しい、と手紙を出していたのだ。はやる気持ちを抑え、夕張へ向かう欽也たち。
しかし、勇作は途中で引き返そうと言い出す、朱美は、自分が見てハンカチがなかったらそのまま引き返すから、と勇作を説得する。
夕張の町に着き、勇作の指示に沿って家へ向かう欽也。ようやくついた場所で欽也と朱美は、周りを見渡す。
と、向こうに竿いっぱいにはためくたくさんの黄色いハンカチが見えたのだ!
勇作を車から降ろし、黄色いハンカチを見せる二人。ハンカチを見て感無量の勇作。欽也と朱美は胸一杯のきもちで勇作と別れる。勇作は黄色いハンカチの下で待つ光枝の元に戻っていくのだった。
本当の愛とは何かを知った欽也と朱美は、お互いを思う優しい気持ちで口づけを交わすのだった。


<解説のような感想>
“力強い単純なストーリーは、もっとも観客を感動させうる”。「幸福の黄色いハンカチ」を評すればこう言えるだろうか。
ピート・ハミル原作のショートショート「黄色いハンカチ」を得て、山田洋次の磨かれた演出力、主演の高倉健の演技力と、三拍子そろった佳品である。
この作品が広く存在を知られているのは、まずストーリーの明快さであろう。
「刑務所から出所した男が妻の元に戻る話」という明確なストーリーの上、ラストに黄色いハンカチが翻るのはタイトルからして当然のことであるが、観客が望む「見たいラスト」をはっきりと描く作品というのは、実は日本映画でもそうそう少ないタイプなのである。ハリウッド映画に観客が集まるのは「観客の期待」を決して裏切らないからであり、そこに日本映画が見習うべき点があると思われる。この作品の成功はその点をふまえた上で、山田洋次流の演出力で見せたことだろう。ストーリーががっしりと完成されたとき、山田洋次の演出は冴えわたるのだ。元々ミニマムな世界を描く事を得意とする山田洋次ではあるが、時にはそれがあだとなり、各シーンの演出はうまいにも関わらず、ストーリーが弱いために作品のバランスが悪いと感じる作品もないことはないが、「〜ハンカチ」では前半を三人の珍道中で時にコミカル描きつつ、勇作の素性が分かったあたりから、急転直下でシリアスな展開を見せる。これらの緩急の付け方のうまさ、観客の気持ちのつかみ方のうまさはさすが「男はつらいよ」で磨かれたといえる。(この時点では第19作「男はつらいよ 寅次郎と殿様」までが制作されている)そして特筆すべきは日本映画が誇る名優高倉健である。
出所したばかりの勇作が食堂でビールを飲むときの感動で震える手、宿に泊って暖かい布団をなでる仕草。不器用ながらに倍賞千恵子に愛を告白するとまどいと緊張。夕張へ向かう車中、ハンカチが翻っていないのではないかという、不安。
どれをとっても、高倉健でなければ成し得ない名演技なのである。

また、丁寧にロケーションされた北海道の風景や、新人武田鉄矢と桃井かおりの体当たり演技、回想シーンにしかほぼ登場しない倍賞千恵子の抑制された演技など、見るべき点は多い。
そして、「男はつらいよ」で観客の心を掴みきり、監督としてもっとも脂ののった頃の山田洋次の作品としてこれからも語り継がれるだろう。


次回「遙かなる山の呼び声」に続く。

98/08/08(土) 23:06 KIYO(YRG02560)


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