山田洋次の軌跡 by KIYO

<山田洋次の軌跡 第三部>連載第26回

第26話 「虹をつかむ男 南国奮斗篇」
<概要>
前作「虹をつかむ男」は、「男はつらいよ」に代わる新シリーズとして、期待 された。しかし設定上前回で話は完結しているのである。そこで主要キャラク ターを移植し、設定を似せつつも微妙に変え、シリーズ作品として成り立つよ う再出発することになった。それがこの「虹をつかむ男 南国奮斗篇」である。


<ストーリー>
青い空、青い海、波間に漂い気持ちよさそうに音楽を聴いている銀活男(西田 敏行)。はっと気づくと、そこは留置所の中。活ちゃんは姪の結婚式で東京に 出てきて酔っ払ってしまい、暴れて警察に保護されたのだった。
秋葉原の電気店で働く平山亮(吉岡秀隆)へ警察から連絡が来た。活ちゃんの 身元引受人になってもらうためである。亮は学生時代、活ちゃんの経営する鹿 児島の映画館オデヲン座でバイトしていたことがあったのである。東京で知り 合いもいない活ちゃんは亮に助けを求めたのだ。
亮は自宅へ活ちゃんを一晩とめることにした。ところが、風呂桶を壊す、テー ブルをひっくり返す、家中に響くほどのいびきをかくといったありさまで、平 山家の顰蹙を買い、朝早く帰ったのだった。
それから一月後、亮の母親が亮の職場に電話をかけたところ、驚くべきことを 言われる。亮は先月会社を辞めたという。良心が家に帰ってきた亮を問い詰め ると、亮と父親で喧嘩になり、亮は家を飛び出していった。
亮が旅立った先は、あのオデヲン座の社長、活ちゃんの元へ。
ところが、記憶にあったオデヲン座がなんと駐車場になっているではないか。
近所に人に話を聞くと、移動映写をしながら島を転々としているという。亮は 活ちゃんを追って、奄美大島に渡った。
船着場で亮は子連れの若い女性、節子(小泉今日子)と出会う。節子は東京で 心破れ、実家へ帰る途中だったのだ。大島で民宿をやっている叔母のところで 一晩身を寄せるつもりだった。亮は節子に心引かれる。と、砂浜でスクリーン を張る男がいる。活ちゃんだ。亮は活ちゃんと再会できた。その晩の上映会か ら、亮は活ちゃんと行動を共にする。活ちゃんの次の上映会が、節子のふるさ との島で行われるということで、節子も同行した。
島の上映会で活ちゃんは思わぬ人に再会する。かつてオデヲン座で働いていた 松江(松坂慶子)である。一夜の恋に燃える二人。
節子は実家に帰ると、年老いた両親と粗暴な兄清治(哀川翔)が待っていた。 清治は島と自分達を捨てて東京へ出て行った節子のことが許せなかった。亮が 節子に会いに行くと、清治は亮に暴力をふるった。
殴られた亮のために、活ちゃんたちは清治のいる工事現場に乗り込んでいった。 ところが、自分達の車を横転させてしまい。映写機が壊れてしまう。
その晩の上映会で、必死に映写機を直そうとするが、時間まで間に合わない。 活ちゃんは時間稼ぎのために歌を歌うが、これが大評判。挙句の果てには上映 そっちのけでドンちゃん騒ぎになってしまった。
翌日、活ちゃんは松江に会いたい一心で、家を訪ねる。ところが子供も姑もい る前で活ちゃんが現れたので松江も困惑してしまう。居心地悪く身を引く活ち ゃん。
次の島へ行く前に、亮は節子に別れの挨拶をする。愛の告白をするも、節子は 泣き出したままであった。
島々での上映会めぐりが終わった後、亮は東京に帰った。そして職業訓練校で 勉強をやり直していた。そこへ活ちゃんからの電話。まだまだ移動上映でがん ばる活ちゃんの目の前には大きな虹がかかっているのだった。


<解説のような感想>
前作は「男はつらいよ」への鎮魂歌であると書いたが、この作品は新しいシリ ーズとなるべく設定をずらし、再出発したものである。前作でくどいまでに引 用された映画の数々からすると、今回はそれほどでもなく、映画について詳し く知らない人でも楽しめるようになっているほか、西田敏行の歌唱力を生かし て、歌い踊らせている。
また南国のほのぼのとしたロケーションも魅力的である。

この作品で注目すべきところは、この物語のベースになっているのが、作られ なかった「男はつらいよ」の第49作、「男はつらいよ 寅次郎花へんろ」の プロットを生かされていることであろう。
元々、「〜花へんろ」は四国を舞台に室生犀星の「あにいもうと」を本歌取り したものになるはずであった。粗暴な兄が西田敏行、妹が田中裕子である。し かし渥美清の死によって、それは永遠に観ることがかなわぬものとなってしま った。
山田洋次は「あにいもうと」のプロットが非常に気に入っていたのであろう。
今回の「南国奮斗篇」でそれを兄が哀川翔、妹を小泉今日子にして実現させた のである。
また、もう一つ注目すべき点は「男はつらいよ」で見られなかった恋愛のセク シャルな面を描いているところである。活ちゃんが松江と一夜の恋を成り立た せてしまうあたり(とはいえ画面外で暗示させる程度ではあるが)は寅さんと 活ちゃんのキャラクターの差を示しているだけだろうか。今までの山田洋次の 主人公は、ここまで積極的な行動をヒロインに対して決してとらなかった。
これは山田洋次の心境の変化を表しているのだろうか。

ただし「虹をつかむ男」がこの後シリーズとして続かなかったのが返す返すも 残念である。山田洋次が「男はつらいよ」に代わる作品を作ろうと努力した点 (前作より明らかに陽性のキャラクターを作り、歌や踊りを組み込んだ)は認 めるものの、観客が求めたのは「男はつらいよ」の代わりではなく、「男はつ らいよ」そのものであったのだ。そのことを思うと二重に悲劇的なものを背負 ったこの「南国奮斗篇」に涙せずにはいられない。

ところで、この映画のラストで吉岡秀隆演ずる平山亮が職業訓練校で勉強する シーンが出てくる。山田洋次の次の作品は、この職業訓練校を舞台にした大人 のラブストーリー、「学校III」なのである。


次回、「学校III」に続く。

00/03/27(月) 00:44 KIYO(YRG02560)


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