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『水の花』木下雄介監督インタビュー

 新たな才能に劇場映画デビューの機会を与えることを目的として設立され、これまでに多くの映画監督を送り出してきたPFFスカラシップの最新作となる『水の花』が8月5日より公開されます。
 父親の異なる妹と偶然に出会ってしまった中学生の美奈子を主人公に、美奈子と妹・優のふたりが過ごすつかの間のときをスクリーンに描き出すのは、第25回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリと観客賞をダブル受賞した『鳥籠』の木下雄介監督。劇場映画デビュー作を完成させた木下監督にお話をうかがいました。


木下雄介監督プロフィール
1981年生まれ。高校時代に映画作りに興味を持ち、早稲田大学入学後の2002年に自主制作した『鳥籠』が早稲田映画祭でグランプリを獲得。さらに同作で第25回ぴあフィルムフェスティバル/PFFアワード2003で準グランプリと観客賞をダブル受賞し、第15回PFFスカラシップの権利を獲得する。


作られた価値観に組み込まれようとしている思春期の子供を描きたい

―― 監督が映画を撮られるようになった動機はなんだったのでしょうか?

木下:18歳くらいのときに、友人の両親が離婚して、ぼくと友人の関係もギクシャクしたりすることがあったんです。それで、そういった感情を映像に残そうと思って自主映画を撮り始めたのが最初ですね。

―― 今回『水の花』を、少女と、父親の違う妹の物語にした理由は?

木下:まず、主人公の美奈子が第一にあったんです。美奈子は喪失の痛みを抱えた少女で、その少女が妹の優との旅を重ねていくうちに、喪失の痛みみたいなものを徐々に昇華していったり、愛情を知っていくことによって成長していく物語を描こうと思ったんです。

―― 美奈子を中学生に設定したのは?

木下:前作の『鳥籠』でも、会ったことのない母親を探して孤児院を飛び出る少年の物語を描いたんです。そこで描いたキャラクターが周りの世界とはまったく関係なく、自分の心のベクトルが赴くままに向かっていく少年を描いてみたんです。それで今回は、大人の論理とか作られた価値観に組み込まれようとしている思春期の子供を描きたいと思ったんです。なぜ少女にしたかって言うと、ぼくら男は、その世界に組み込まれていくときに、違和感みたいなものを表明したり、鬱憤みたいなものを表に出して晴らすことができていたんですけど、女の子はそういったものを内に閉じ込めているように見えたんですね。女の子たちは、親だったり友達の関係がうまくいかなくなっていく時期があったり、心の成長が追いつかないほどの体の成長があったりするはずなんですけど、そういうものを内に閉じ込めて、世界と自分の内面との間で葛藤しているような、奇妙で不安定な存在に思っていたので、今回は彼女たちを主人公にしようと思ったんです。

―― 美奈子を演じた寺島咲さん、優を演じた小野ひまわりさんはオーディションで選ばれたんですよね。

木下:美奈子も優もオーディションはたくさんしましたね。美奈子に関しては寺島さんがオーディションの最後の最後に来て、存在感とか表情とかが自分が求めている美奈子の表情に合うもので、特に彼女に口紅を塗ったときに自分の脚本で書いていたときのイメージにピッタリとはまったんです。ひまわりちゃんに関しては、ダンスのシーンがあったので踊れるってことが絶対条件で、そういった子たちを中心にオーディションしたんです。ひまわりちゃんはその中でもあまりまだ染まっていなくて素の演技ができる子で、バレエもすごく大好きな子だったんで、そこで選びましたね。

―― 物語の中で美奈子と優との関係性が途中でどんどん変わっていきますね。

木下:そうですね、優がいることによって美奈子の母親の顔が出てきたり、子供に戻ったような顔が出てきたり、姉の顔が出てきたり、少女だったり女だったりする。そういう揺れみたいなものを経験して、彼女が成長して愛情を知っていって、最終的に母の詩織のことを許していく準備をしていくみたいなのが最後のショットなんです。

―― 美奈子がピアノを弾いて優がダンスするシーンはふたりの関係を示す中で重要だと思いますが、あそこでダンスを入れた理由は?

木下:『鳥籠』でも少年が母親に近づくために女装してダンスするシーンがあるんですけど、やっぱり、言葉とか表情に出せない爆発するような感情みたいなものを表現するときに、体を動かすダンスを出しているんです。「なんでダンスなのか」って言われるとちょっと言葉に詰まるんですけど(笑)。でも、言葉にできないから体を動かして映像に残しているんだと思います。

―― 小野ひまわりさんは年齢以上の表情を見せたり、6歳とは思えない演技ですね。

木下:ぼくもそれでビックリしましたね。ほかのキャストの方は「こういう演技をしてくれればこういったものになるな」というある程度の計算はできていましたけど、ひまわりちゃんに関しては予想以上のものがでましたね。ぼくの中で、脚本を書いているときに唯一、揺れがあったのが優だったんです。すごい子供なところがあったり大人なところがあったりするのが画になったとき説得力があるのかってちょっと不安に思っていたところがあったんですけど、ひまわりちゃんが優を演じることでイメージが明確化して、その不安はなくなりましたね。

―― 寺島さんも、微妙な心理をうまく表現していると感じました。

木下:寺島さんは、大人から子供になる過渡期というか揺れている時期が、ちょうど彼女の表情であったり立ち振る舞いに合致していたので、バシッと当てはまったと思います。寺島さん自身は「自分は美奈子の立場になっても誘拐とかはしない」って言っていましたんで、美奈子の気持ちに寄り添うためには努力もしていましたし、ぼくも彼女に考えてもらった上で「こういうことで」という演出はしました。寺島さんとひまわりちゃんはいい相乗効果で、すごい良かったですね。




空気とか熱、音とか光によって心象風景を紡いでいきたい

―― この作品はほとんどカメラはフィックスで、カットもあまり割っていないし、アップにも寄っていませんね。そういう画面作りをした意図はなんだったのでしょうか?

木下:映画を撮るときにいつも思っていることなんですけど、人間って、あんまり思っていることとか感情を言葉に出したり表情に出したりしないし、できないと思うんですよ。人間って不安定で自分自身も把握できない存在で、お互いがわからないからこそわかりあいたいって思うわけで。だから今回は、引いた画にしたり、ちょっと暗くしたり、カメラにストッキングを被せてぼんやりした感じを出すことによって、観る側が映画を観ようっていう意識だったり、良く見えないから登場人物の気持ちを汲み取ろうとするように促す実験したんです。それと、表情と言葉だけではなくて、ひと続きの時間だったり、空気とか熱、音とか光によって美奈子の心象風景を紡いでいこうと思ったので、風景とかすべてを見せるために引きでジックリと、ワンカットで長回しで撮りました。

―― 公園のアスレチックで美奈子と同級生の良太が会うのを横移動で撮っているカットは非常に印象的でした。

木下:あのシーンは、脚本の段階でああいった長いアスレチックで横に移動していって、良太が美奈子の1メートルくらい斜めうしろをずっとついていくっていう距離感を出したかったんで、制作の人にお願いしてそういう撮影ができるアスレチックを探してもらったんです。あのシーンに関しては言葉がほとんどないし、亮太が美奈子のことをすごく心配していて気持ちをわかりたいんだけど踏み込めずにいるという関係性みたいなものを、歩いているところだけで説明する必要があったので、青暗さとかも一緒に割と大事に撮りましたね。

―― ロケ場所はかなり脚本の段階でハッキリしたイメージを作られていたんですか?

木下:事前にイメージを制作の方に伝えて、そういうところを選んでいただいたんですけど、やっぱり予算とかスケジュール内で撮らないといけないので、どうしても近場で撮らないといけないこととかはもちろんありました。雨が降って欲しくなかったのに降ってしまったとか。

―― 『水の花』はフィルムでの撮影ですが、フィルムで撮るのは初めてですか?

木下:初めてです。今まではデジタルビデオだったんですけど、決定的に違いましたね。質感も違いましたし、撮影にかかる時間だったり人数だったりも違いますし、やっぱりフィルムの撮影の現場の緊張感っていうのはデジタルビデオカメラとは違いますよね。

―― フィルムで長回しで子供が主役って、難しい条件が揃ってますよね(笑)。

木下:それでぼくが初めての監督ですからね(笑)。やっぱりみなさんから「大丈夫なのか」って話は何度かありましたし「ここはカット割った方がいいんじゃないか」とか言われていましたね。そこはなんとか説得してやりました。

―― この作品で今年のベルリン映画祭に参加されていますが、参加された感想は?

木下:ベルリン映画祭と言ったら自分が尊敬する監督や俳優さんが参加している映画祭なので、そこで同じ時間を共有できて、なおかつ自分の映画を流せるってことで、驚きと感動でいっぱいでしたね。自分の映画が流れるとき以外は観客の一員として、プログラム片手に次はあの映画、今度はこの映画って走り回っていました(笑)。『水の花』を上映したときの反応は、すごい大きく映画に対して反応してくれるというか、感じてすぐ反応してくれて、それは貴重な経験でしたね。日本人はわりとしみじみ観ているところでも声が上がったりとか笑いが起きたりとか、すごかったです。ティーチインのQ&Aもすごく活発で、貴重で夢みたいな体験でした。夢みたい過ぎて飛行機に乗り過ごしちゃったんですけど、それで帰るのが1日遅くなったんで、欠席するはずだった最後のティーチインに行けたんです(笑)。

―― 参加されたお客さんには幸運なアクシデントでしたね。

木下:そうかもしれないですね(笑)。『水の花』は3回上映したんですけど、最後が一番大きい劇場だったので、ぼくもぜひ行きたいと思っていたのが都合があわなくて残念だったんで、結果的にラッキーでした。

―― 次回作については考えていらっしゃるんでしょうか?

木下:まだ具体的な話ではなくて、ぼくが頭の中で考えているだけなんですけど、『鳥籠』に続いて『水の花』でやっと喪失の痛みというものを自分の中でも昇華できたので、また自分の身近な問題になるんですけど、今度は東京に生きるフリーターやニートの若者の映画を撮りたいなと思っています。

(2006年7月19日/ぴあ本社にて収録)


『水の花』の繊細なタッチは、これが監督デビュー作とは思えないたしかな力を感じさせます。ひとつのテーマを描ききった木下監督が、今後どのような作品を送り出すのか。PFFから登場した新たな才能の活躍に今後も注目です。


水の花
2006年8月5日(土)、ユーロスペースにてロードショー
監督・脚本:木下雄介
出演:寺島咲、小野ひまわり、津田寛治、田中哲司、黒沢あすか ほか

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