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『気球クラブ、その後』園子温監督インタビュー

 熱気球を愛する者、出会いを求める者、寂しさを紛らわしたい者。さまざまな想いを抱えた若者たちが集う“気球クラブ”。そんなサークルに参加していた青年・二郎は、ある日かつてのサークル仲間からの電話を受ける。それは、サークルのリーダー・村上が事故に遭ったことを告げるものだった――。
 常にセンセーショナルな作品を発表し、日本映画界に刺激を与え続ける園子温監督。2006年も海外の映画祭での受賞が相次ぐなど、大きな話題を巻き起こしました。その2006年の締めくくりに公開されるのが、サークルに集う若者たちの姿を描いた青春映画『気球クラブ、その後』です。
 近年の園作品の中ではむしろ特異にも思えるタッチで描かれた『気球クラブ、その後』について、2006年の総括的な話題もあわせて、監督にお話をうかがってみました。



園子温監督プロフィール
1961年愛知県生まれ。17歳のときに詩人としてデビュー。大学入学後に8mm映画制作を始め、『男の花道』(1987年)でぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞。以降、『自転車吐息』(1990年)、『部屋』(1994年)、『自殺サークル』(2001年)、『奇妙なサーカス』(2005年)など多数の作品を送り出す。2006年は『紀子の食卓』『HAZARD』『気球クラブ、その後』の3本が劇場公開されたほか、テレビ朝日系ドラマ「時効警察」(第4話・6話)の脚本・監督を手掛けた。海外の映画祭での受賞経験も多く、2006年は『奇妙なサーカス』がベルリン国際映画祭フォーラム部門ベルリン新聞・読者審査賞を受賞、『紀子の食卓』がカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で特別表彰と国際シネクラブ連盟ドン・キホーテ賞、プチョン映画祭で観客賞と主演女優賞(吹石一恵)を受賞。新作ホラー『エクステ』(主演:栗山千明)が2007年2月全国東映系公開予定。
公式サイト:園子温ドットコム http://www.sonosion.com/


青春時代のちょっとヤワな関係性を描こうとしてみた

―― 気球クラブという設定が非常にユニークだと感じましたが、気球クラブという発想のきっかけとなったのはなんだったんですか?

:十何年前になぜか突然、気球に乗りたくなって、自分でバルーンを買っちゃったんです。結局、ほかの備品とかも買わずに乗らないままで、引越しのときも持って歩いて屋上とかベランダに雨ざらしにしていたんですけど、ある日、屋上で空気が入っていないクシャクシャのバルーンに2、3日前の雨水が溜っているのを見ていたら、なんか「青春の終わり」とか「夢の跡」みたいな感じがして「これで青春映画が撮れるな」って思ったんです。そのバルーンは映画でも使っていて、“気球バー”で使っているあの黄色い奴です。だから、まずぼくんちにある気球を使ってなんか面白いことできないかなあという、低予算映画の見本みたいな考えで始まっているんですよ。

―― 気球を使った映画を、若者たちのサークルの物語にした理由はなんだったのでしょう?

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『気球クラブ、その後』より、二郎役の深水元基さん(右)とみどり役の川村ゆきえさん(左)
:もうひとつモチーフにしたかったのが携帯電話なんですよね。携帯が数珠繋ぎになっていって、人が会話したり、人物が紹介されていくという流れの映画を撮りたいなと思っていて、それと気球を使った映画が撮りたいという発想がくっついて、自然と内容が見えてきたみたいな感じです。ちょっと古い監督だと携帯を嫌う人も多いと思うんだけど、携帯を嫌って映画を撮るってことがおかしいなとぼくは思うんで、携帯を前面に押し出して映画を作りたかったんです。すごく現代的だと思うんですよ。ぼくも知り合いでここ数年メールしか打ってなくて、顔を見てない奴もいるし(笑)。今はそんなのも普通なんで、そういう関係性みたいなのを描きたかったんですね。ただ、そこに現代に対する批評とか批判を入れるつもりはまったくなかったです。単にそれが現代だっていう形を見せたかった。

―― 携帯が普及して、いつでも誰とでも手軽につながれるはずなのに、映画では連絡したい人となかなか繋がらなかったりするのが面白かったです。

:それも現実にありますからね。携帯でいつでも電話できるから逆に電話しないっていうのもありますし(笑)。だから、すごい都合がいいようで、すごく都合の悪いものでもあるんですよね。

―― “気球クラブ”というサークルを描くにあたって、かなり実際のサークルへの取材をしたんでしょうか?

:途中からやり始めましたね。ぼくは取材を先にやると取材に頭が行っちゃうので、いつも台本をざっと書き終えてから取材をするんです。でも、不思議なことに想像で書いていたことが良く当たるんですよ。最初の台本で気球サークルの打ち上げは鍋料理をやるっていう設定にしていたんです。それで“熱気球クラブうわの空”っていうほんとの気球サークルに取材に行ったら、打ち上げは絶対に鍋なんですって。「これはサークルの人しか知らないことなのになんで知っているんだ」って(笑)。そういう細かいことまで含めて取材をして、第2稿で細かいところをチェックしていますね。気球をやっている人が観て「これは違う、こんなことはやらない」ってことがないようにはしておきたかったんで。

―― “うわの空”というサークル名は映画の中のサークルの名前にもそのまま使っていますね。

:響きが面白かったし、長谷川(朝晴)くんがやった村上のキャラクターもうわの空っぽいところがあったんで、じゃあそのまま使わせていただこうと。偶然ですけどピッタリだったんですね。

―― 最初に脚本を書く段階で、サークル内の人間関係などのイメージの元となったものはあるんでしょうか?

:それはぼくの大学の映研ですね。ぼくの学生時代は携帯はなかったですけどね。サークルって意外と薄い人間関係じゃないですか。友達のようでいて友達じゃないみたいな。ぼくは自分のサークルは人間関係が薄いなあって感じがしていたんで、そういう経験を元にしていますね。

―― 映画で描かれている人間関係って、携帯が使われていることもあって一見すると現代ならではの関係に見えますけど、自分の昔の体験を思い出しても趣味のサークルって意外と繋がりが希薄だったりするし、サークルというものの普遍的な関係を描いているように思えました。

:そうなんです。人間関係の薄い感じを描くのに、ちょうど携帯がうまく乗っかってくれたって感じですよね。ちょっとヤワな青春時代の関係性みたいなのを“その後”から描こうとしたんです。普通の映画だとああいうサークルはすごい熱い関係性なんですけどね。「お前が気球をやめるなんて許さない」とか言って殴りあいになったりするんだけど、実際はそんな熱い関係性ってそんなにないよね(笑)。



とにかく新しい人と出会ってみよう

―― 今回はバラエティに富んだキャストが揃っていますね。

:深水(元基:二郎役)くんは『HAZARD』からのつながりですね。長谷川(朝晴:村上役)くんは会ったことなかったんですけど、役に合っているかなあという感じで。永作(博美:美津子役)さんは、最初はすごく小さな役だったんですよ。だから出てくれるわけないだろうと思っていて、当たって砕けろでお願いしてみたんですよ。そしたら彼女がテレビの取材で外国で気球に乗ったばかりだったらしいんですね。その帰りの機内で「こんなのがあるんだけど」ってシナリオを渡されたらしくて『気球クラブ、その後』っていうタイトルに運命を感じて、内容を見る前に出ると決めたらしいです。川村ゆきえ(みどり役)ちゃんは紹介されたんですけど、ぼくはグラビア系が詳しくないので、どういう人か知らなくてね。女優の卵かと思っていたんですよ。そのとき知っていたら戸惑ったかもしれないですね。そんなこんなで決まっていって、とにかくサークル員が多いんで、キャスティングの時間も少なかったし、来る人拒まずで来る人はみんなOKにしてたような気がするんですよ(笑)。ぼくはあんまり頭でっかちにキャスティングを決めないで新しい人と出会う場にする映画と、今まで会ってきた中で良かった人を集めてやる映画とふたつあるんです。『気球クラブ、その後』はイメージ的に合わせていった人もいるけど、どっちかと言うと、とにかく出会ってみようという感じでやっていたんです。

―― 川村ゆきえさんは映画は初めてで、演技自体もあんまり経験がないですよね。

:そのことも知らなかった。でも、直感的にこの役だったらいけるだろうっていうのはありましたね。そんなに本人と役が遠くない存在だから、カメラ回っているときと回っていないときをそんなに変えなければうまくいくと思ったんですね。

―― 永作博美さんは最初は小さい役だったということですが?

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『気球クラブ、その後』より、美津子役の永作博美さん
:台本は撮影に入ってからも書いていたんですけど、永作さんと長谷川くんがやった美津子と村上の部分はすごく書き足しているんです。気球に乗って指輪を渡すところもそうだし、後半のふたりの経緯は最初の台本ではなかったんです。最初は美津子は謎の女ってことで終わっていて、村上との関係性は想像するしかないくらいの勢いだったんですけど、永作さんが素晴しかったのでもったいないなと思ったんですね。それで、ふたりの関係をもっと肉付けしたいなと思って書き足したんです。役が決まってから書き足したところはすごく多くて、深水くんのシーンも彼のキャラクターを活かすために書き足したところが多いんです。それは『HAZARD』のやり方にちょっと近いんです。

―― 指輪を渡すシーンも含めて、村上役の長谷川さんが実際に気球を操縦していますね。

:していますね。リーダー役だから気球に火を入れるのも慣れているようにやらなきゃならないんで、実際の気球サークルの人に教えてもらって。でも練習したのは半日とか2時間ですね。実際は気球サークルの人が映らないようにカゴの中にうずくまって乗っているんですよ。セッティングをして火を入れると垂直には昇っていけるんだけど、降りるのは経験がある人じゃないと無理なんで。長谷川くんは結構怖がっていたんじゃないかなあ。気球から「おーい」って手を振るところも、普通は腰から上くらいがカゴから出るはずなんだけど、胸くらいまでしか出てなくてね。怖くてしゃがんでたんじゃないかなと思って(笑)。

―― 気球から撮影しているシーンもありますね。

:あれは2台気球を用意して、2キャメでやっているんですよ。1台キャメラマンが乗った気球があって、もうひとつ役者が乗った気球にも実はキャメラマンがうずくまっているんです。それでトランシーバーで連絡を取って、もう1台の気球から客観の画を撮るときにはキャメラマンはしゃがんで、役者が乗っている気球のカゴから撮るときはカメラマンも起き上がるという両方のパターンで撮っていましたね。ベーカムで撮っているんですけど、ベーカムでも結構デカいんで、カゴの中のカメラはもっとハンディなカメラにしていたと思います。

―― 荒井由実さんの「翳りゆく部屋」が劇中の登場人物の歌う歌や、テーマソング(畠山美由紀によるカバー)として使われていますが?

:昔から好きな曲ではあったんですけど、音楽の雰囲気と歌詞がこの映画にマッチしていると思ったんですね。台本を書いている最中にこの音楽が浮かんできて、ぼくが古い曲を使うと気は大体そういう感じなんですよ。『紀子の食卓』のときは「バラが咲いた」が台本を書いているときにふっと上がってきて。アメリカ映画は古いヒットソングを使うのが多いですよね。日本はあんまりない感じなんですけど、ぼくは古い曲を使うのが好きなんですね。『夢の中へ』(2005年)もそうだし、「時効警察」でも「もしも明日が」を使っているし。

―― 監督自身はこの曲になにか思い出は?

:ないですね(笑)。ほんとに好きな曲ってだけで、青春の1ページがあったとかそういうことはないんですよ。実は荒井由実ってそんなに聴いてなくて、この曲以外はあんまり知らないって言っても過言ではないくらい荒井由実のこと知らないんですよね。あと知っている荒井由実の曲は「卒業写真」くらいかなあ。でも、この曲をテーマに使うことで、映画全体のテーマをグッと絞れるような曲になっているんじゃないかという感じはしましたね。



2006年は大掃除しちゃった感じ

―― 2006年は9月に『紀子の食卓』、11月に『HAZARD』、そして12月に『気球クラブ、その後』と短い期間に集中して作品が公開されましたね。

:いいんだか悪いんだか良くわからないですけどね(笑)。別に狙ったわけではないんだけど偶然にこうなってしまって、しかも4年前の作品とか入っちゃっているからちょっと混乱しますよね(笑)。

―― それぞれまったく違った作品ですけど、3作に共通して“登場人物が自分の居場所を確かめようとしている”という部分があったと思うんです。

:それは自分で意図していないけど、似てしまうところなのかもしれませんね。いま言われて気づくけど、脚本を書く段階だったり、撮る段階では全然意識しない部分ですね。それが自分にとっての大きなテーマだったりするのかも知れないですけど。

―― 2006年を振り返ってみるとどんな1年でしたか?

:押入れの中にあるものも全部出しちゃって、大掃除しちゃった感じはあるかな(笑)。『気球クラブ』で使った黄色いバルーンも捨てちゃったんですよ。1回も膨らませたことないのに捨てるなんて忍びないと思ってたんで、引っ越すたびに持って移動していたけど、こういう気球映画を撮ってちゃんと膨らませたし、ずっと刻まれることになったんだからもう思い残すことはないってことで捨てたんですけど、それに似た感じですね。世に出せなかった作品をちゃんと公開できましたからね。『HAZARD』はもう4年前の映画だからヨッコラショって感じで、『紀子の食卓』も2年前なんで、『気球クラブ、その後』まで来ると安心しますね。まあ、あと1本『東京ガガガ』っていうでかい奴が残っていますけど(笑)。

―― 2006年は海外の映画祭での受賞が相次ぎましたが、実際に海外の映画祭に参加された印象はいかがでしょうか?

:映画によりけりなんですけど、特に『奇妙なサーカス』なんかだと、日本では「下品、エログロ」ってなるんだけど、向こうだとちゃんと芸術として認めてくれるんで、すごく嬉しかったというのが大きいですよ。やっぱり環境が全然違って、向こうでテレビつけるとアニメなんかブラックユーモアだらけなんですよ。子供の観る番組でも可愛いネズミのキャラクターを輪切りにしちゃうようなアニメとかやっててね、これは大人になって『奇妙なサーカス』を普通に受け入れられるなって(笑)。やっぱり、海外は自分にとって空気がいいですね。日本で撮るのって結構大変ですよね。たとえば『ホステル』(2005年・日本公開2006年/イーライ・ロス監督)なんかはアメリカで興業成績第1位とか獲っちゃうじゃないですか。日本であれを作ったらたぶんレイトショーですよ(笑)。そういう環境の違いはうらやましいし、来年くらいはそろそろ自分も海外で映画を撮りだしてもいいのかなって思っちゃったりしてますね。

―― では、2007年はこれまでとは違った映画作りの形があり得るかも?

:ものすごく意識しているわけではないですけどね。たぶん『エクステ』(2007年2月公開予定)が今後の新しい展開の最初の指針みたいなものにはなってると思うんですよね。

―― 最後に、『気球クラブ、その後』の公開を前にしたお気持ちを聞かせてください。

:今年公開されたほかの2本と違って、気持ちのいいペースで公開できてほんとに嬉しいですね。『気球クラブ、その後』の取材って、記憶も鮮明だしすごく気分いいんですよ(笑)。『紀子の食卓』にしろ『HAZARD』にしろ、到底「これがぼくの最新作です」とは言えないような距離があったんですけど、『気球クラブ』は最新作って呼べる距離だし、作って公開するタイミングが普通っぽくて、すごく自然な感じですね。

―― 最近の監督の作品では、一番広い範囲の方に観ていただける作品になっているかもしれませんね。

:そうですね。この前、さっぽろ映画祭でこの映画をやったときに家族連れで来ている人がいたんですけど、安心して見せられるなあって。ストーリーも複雑ではないから、どんな人でも面白がってもらえるんじゃないかなと思うし、それはいい感じかな(笑)。

(2006年11月13日/鈍牛倶楽部にて収録)


『気球クラブ、その後』
2006年12月23日(土) より渋谷シネ・アミューズにてレイトショー
監督・脚本:園子温
出演:深水元基、川村ゆきえ、長谷川朝晴、永作博美 ほか

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