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『saru phase three』葉山陽一郎監督インタビュー

葉山陽一郎監督写真 新薬開発において、実際に人間に薬を投与しておこなわれる臨床試験“治験”。2003年に公開された葉山陽一郎監督のデビュー作『サル』は、この治験という一般にはなじみの薄い題材を扱い、話題となりました。そして2007年、葉山監督が再び治験を題材にした作品『saru phase three』を完成させました。
 若くしてガンに冒された青年・福家。抗がん剤治療を受ける彼の身体を襲う数々の奇妙な症状。苦痛の中で芽生えていく医師への不信。果たして、福家に投与されている薬とは?
 薬害問題を扱い、前作『サル』以上の衝撃作となった『saru phase three』で、葉山監督が描こうとしたものとは?

葉山陽一郎(はやま・よういちろう)監督プロフィール

1965年生まれ。自主制作作品がぴあフィルムフェスティバルに入選。その後、テレビ番組「ちびまる子ちゃん」「世にも奇妙な物語」「奇跡体験!アンビリーバボー」などの脚本・構成や、オリジナルビデオ作品の監督をつとめる。2003年公開の『サル』で劇場作品監督デビュー。ほかの監督作に『死霊波』(2005年)、監督の故郷・湘南を舞台にした『君はまだ、無名だった。』(2005年)、『ザ・コテージ』(2006年)がある。

医療を切り口に現代の狂気を描いてみよう

―― 2003年の『サル』に続いて、再び“治験”を題材に映画を撮られた動機はなんだったのでしょう?

葉山:ぼくは自主映画を作っているときに、16mmのフィルム代を稼ぐために仲間と一緒に治験のアルバイトをやったことがあったんですね。それでプロの映画監督になろうと誓ったときに、自分が体験していてほかの人が知らないことが映画にするのが一番いいだろうと思って作ったのが、1作目の『サル』だったんです。そのときはぼくなりの青春群像映画を作ったつもりだったんですけど、映画が公開されると、ご覧になった方々から「社会派ですね」と言われたりして、そこで治験に対する社会派的な視点というのに気づいたんです。今は、時代が狂っているなというのを肌身で感じるんですよね。教育問題とか、政治不信とか、児童虐待とか、いろいろな事件が起きている。その狂気に向かって走っている日本を映画で表現できないかと考えて、医療を切り口に現代の狂気を描いてみようと思ったのが、今回の『saru phase three』を作るきっかけですね。

―― 抗がん剤を巡る話にしたのは、より社会性を強める狙いだったのでしょうか?

葉山:そうですね。実際に抗がん剤が原因となった事件があるんですよ。アメリカで作られた薬なんですけど、がんの患者さんに投与されて、アメリカでは何万人も亡くなってすぐ製造中止になったんですけど、日本の厚生労働省はアメリカがそういう状況であるにも関わらず使用を禁止させなかったので、日本でも死者が何十人だったか出てしまったんですよね。いまだに訴訟がおこなわれている事件がありまして、それをベースに作ろうということだったんです。

―― 主人公の福家が入院している病院の様子がリアルに描かれていましたが、医療の現場へはかなり取材をされたんですか?

葉山陽一郎監督写真

葉山:実は、実際の病院への取材は特にしていないんです。やっぱり、病院側を正義として描いている映画ではないので、取材しようとしても警戒されちゃってなかなか応じてもらえないんですよ(笑)。だから、参考にしたのは実体験ですね。ぼくは肺の病気で入院したことがあるので、そのときの感じとか、大病を患った友人の話とか、あとは本ですよね。薬害に遭われて今も苦しんでいらっしゃる方の本をとにかく読みまくって、病院の雰囲気を作っていったんです。

―― この映画は冒頭と最後を除いて舞台が病院の中に限定されていて、しかもそのほとんどがひとつの病室の中で進んでいきますね。

葉山:密室劇ですね。1作目の『サル』がフェイク・ドキュメンタリーの感じで手持ちカメラで撮影するという手法をとっていたので、まったく違う映画のスタイルを使って撮ってやろうと企てて、密室劇はどうかと考えたんです。最初の段階でアイディアとしてあったのは、ヒッチコック監督の『ロープ』(1948年)というすごく実験的な作品があるんですけど、全シーンがワンカットで撮られているんですよね。もちろんフィルムの長さに限界があるので、フィルムが終わりそうになるとカメラが柱の陰に入ったりしてフィルムを替えているんですけど、60分くらいの密室劇で、最初から最後までをワンカットで撮っているんです。それで、ちょっとヒッチコックに挑戦してみようと思ったんですが、さすがに特殊メイクとかがあると難しいんですね。あとは光の問題があって、ヒッチコックの場合はスタジオにセットを作って撮っていますからライティングもできるんでしょうけど、今回は廃業した病院を使ったロケセットで撮影したので、窓外の光の問題が出てきて『ロープ』案はダメになったんです。それでも、カット割とかシーンとシーンのつなぎとかはいろいろ考えまして、時間経過とかも意識しなきゃいけないし、病室はすごく小さい部屋で、カメラの引きじり(カメラが引くための空間)もなくて困難な撮影だったんですけど、工夫を重ねてとにかく観客を飽きさせないことを考えてやったつもりなんです。

―― 観ていてもまったく単調さを感じなかったです。

葉山:それは嬉しいですね。ありがとうございます。

―― それから、社会的な題材を扱いながらもすごくエンターテイメントな作品になっていますし、リアルな描写とフィクションの部分のバランスが絶妙ですよね。

葉山:それはたぶん偶然ですね。自分ではエンターテイメントにしようと特に意識してはいませんでしたし、あんまり計算しないほうなんで(笑)。ただ、ぼくは以前にフジテレビの「奇跡体験!アンビリバボー」という番組の構成作家をやっていて、実際にあった恐怖体験の再現を良くやっていたんです。それはまったくのリアルな再現ではなくて、ある程度エンターテイメントとして観ていただくものなので、そこで培われた部分はあるかもしれないですね。『saru phase three』にしても、ほんとにリアルさを追求していったらドキュメンタリーとして薬害訴訟事件を追っていったほうがいいわけですよね。ぼくはサービス精神が旺盛なほうですし、ぼく自身が持っているいろんな面が映画の中で吹き出して、リアルな部分とエンターテイメント的な部分がうまくブレンドされたんじゃないかと思います。

みんな挑戦だったけどすごくいいキャスティングができた

―― 若い主人公と年齢の離れたほかの患者の交流があるのも、1作目とは違った点ですね。

葉山:通常、病院ってそうですからね。ぼくが入院したときもそういう感じだったんですよ。死に掛けた人もいれば、ガンの手術が終わってICU(集中治療室)から戻ってきた人もいて、手術の傷口を見せられたり(笑)。いろんな年代の人、いろんな性格の人が一緒にされちゃうのが病院ですから、ドラマになる場所ですよね。

―― その若い主人公を演じた高野八誠さんの印象はいかがでしたか?

葉山:高野くんは、最初のホン読みのときはちょっと仮面ライダーっぽかったですね(笑)。弓削(智久)くんも、唐橋(充)くんも仮面ライダーに出てましたけど()、この3人のキャスティングは良かったと思いますね。やっぱり、ぼくは今回の映画を撮るにあたっては並大抵の覚悟じゃできないなと思っていたんです。治験のアルバイトをするときには「この中で見聞きしたことは絶対に口外しません」という誓約書に署名捺印させられるんです。それを最初の『サル』で映画にしてしまったわけですから、命を狙われるんじゃないかくらいの恐怖感はあったんですね。そして今回はもっと踏み込んで現実の事件をベースにしている。しかも厚生労働省や治験のネットワーク、それからいい薬を作るために頑張っていらっしゃる製薬会社の方々も敵として描いていますから、圧力とかがかかるかもしれない。だからなにか起きたときには強いヒーローに守ってもらおう。そのためには仮面ライダーだと(笑)。そういう意味でも3人が揃ってくれたのは良かったです(笑)。

―― 高野さんはウルトラマンでもありますしね(笑)。

葉山:ウルトラマンと仮面ライダーが揃っていれば、どこかがなんか言ってきたとしても守ってくれるに違いないと思ってね(笑)。高野くんは今までやったことのない役柄だと思いますし、弓削くんや唐橋くん、清水(ゆみ)さんも含めて、みんな挑戦といえば挑戦だったんでしょうけど、すごくいいキャスティングができたと思うんですね。

―― 高野さんは病気になって吐いたりするシーンもあるし、今までのイメージとはかなり違う役で、演じるにも相当な決意がいったんじゃないかと思ったんですが。

葉山:やっぱり、清水さんとのエロティックなシーンもあるし、子供たちや親御さんのヒーローだった人にこんなことやらせていいのかなって心配はありました。それで最初に「いいの?」って聞いたんですけど、本人は「ええ、やります」と。もう最初から迷いはなかったみたいですね。

―― 清水ゆみさんも、看護婦の亜矢子役で大胆な演技を披露していますね。

劇中スチル

『saru phase three』より。福家役の高野八誠さん(左)と亜矢子役の清水ゆみさん(右)

葉山:あの役はぼくのお気に入りなんですよ(笑)。清水さんは天才型で、ぼくが演技についてなにか言ったところってほとんどないんですよ。細かい動きとかセリフのニュアンスがちょっと違うなと思うところを現場で訂正したくらいで、脚本を読み込んできてくれて、亜矢子のキャラクターになりきってやってくれたんです。すごく感謝していますし、無限の可能性がある有望な役者さんだと思いますね。ただ、彼女はNHKの「中国語会話」に出ていて人気になったんですけど、NHKの人がこの映画を観たら、たぶん今後NHKには出入り禁止でしょうね(笑)。だからこれからは“NHK出入り禁止女優”というのを売りにしてもらいたいなと思っています(笑)。

―― 同室の患者役の唐橋充さんの演技は、鬼気迫るというか、迫力がありますね。

葉山:ぼくもビックリしましたね。唐橋くんが演じたのは高野くんが演じる福家との対比となる役で、恐怖で神経がおかしくなっていってしまうんですね。徐々に神経が参っていく表現として自分で爪を噛んで血だらけになってしまうというシーンがあるんですけど、そこも本気で噛んじゃっていますからね。演技を越えちゃっているんですよ。彼は全部本気でやるので、暴れるシーンではそこらじゅうにぶつけて痣を作っていますし、撮影が1週間だったんですけど、その間は食事もほとんど喉を通らなくなって、痩せてメイクをしなくてもいいくらい顔色も真っ白になってしまったんです。彼の演技はこの映画のひとつの見ものですね。現場でぼくが指示すると、ぼくの予想をはるかに越えた演技をしてくれるんです。

―― 高野さんや唐橋さんのファンの方は、この映画を観ると驚かれるんじゃないかと思います。

葉山:驚くと思いますよ。「こんなことまでやっているんだ」って。弓削くんのファンの方が一番ショックは小さいかな(笑)。弓削くんは唯一まともな役で、ほんとカッコ良かったですね。助監督のひとりなんか、男性ですけど「弓削さんとだったら寝てもいい」って言ってましたから(笑)。

  • :高野八誠さんはTV「仮面ライダー龍騎」(2002年)に仮面ライダーライア=手塚海之役、映画『仮面ライダー THE FIRST』(2005年)に仮面ライダー2号=一文字隼人役で出演。TV「ウルトラマンガイア」(1998年)ではウルトラマンアグル=藤宮博也を演じており、ウルトラマンと仮面ライダーの2大ヒーロー両方を演じた初の俳優である。弓削智久さんは「仮面ライダー龍騎」と「仮面ライダーカブト」(2006年)、唐橋充さんは「仮面ライダー555」(2003年)にそれぞれレギュラー出演している。

人間を人間として見られなくなっちゃうことは実際にあるんじゃないか

―― この映画は、薬害問題を描いていますが、決して治験や新薬開発に反対しているわけではないんですよね。

葉山:そうではないですね。やはり、いい薬の開発はどんどんされるべきで、それによって病気で苦しんでいる方々がひとりでも多く治癒されればそんなにいいことはないわけですから。ただ、その中の一部で事件が起きることはあるし、起こす奴がいるんですね。厚生労働省も今まで幾度となく薬害問題を起こし続けているけど、それも一部の人間の仕業なんですよね。この作品は決して治験を否定したり、厚生労働省を否定するために作った映画ではないんです。時代の狂気を医療という分野から描いたので、治験や新薬開発が悪だという見方をされるのは本意ではないですね。

―― 新薬開発の過程で、患者がひとりの人間であるという前提が見失われてしまう。そうやって個々の人間性を見失ってしまうのって、医療だけじゃなくていろいろな社会問題に共通する原因じゃないかと思うんです。

葉山:そうですね。高野くんが演じる福家が番号で呼ばれるところにはそういう意味合いを込めたんです。薬を作るというのもひとつの戦争で、大変な企業間の戦いがあると思うんですよね。ひとつの薬が作られて認可を受けるまでに最低10年はかかるわけで、その間にマウスから始まって、実験動物を犠牲にして薬が作られているわけですけど、その流れの中で人間を人間として見られなくなっちゃうことは、ぼくたちの常識からするとクレイジーなんだけど、実際はあるんじゃないのかなって思うんです。実際に製薬会社で働いている友達がいて、彼から「治験者のことをサルって呼んでるよ」って話を聞いたんですよね。それはジョークも交えてそういう呼び方をしているんでしょうけど、1作目の『サル』というタイトルはその話を聞いて付けたし、そこから始まったみたいなところがありますね。

―― 2003年の『サル』と、今回の『saru phase three』と、治験を題材に2本の作品を作られて、今後も治験や医療は監督のテーマになっていくのでしょうか?

葉山:ええ、3部作で考えていまして、もう次のプロットができているんです。今、ほかにも映画の企画が動いているので実現するのはまだ先になると思うんですけど、それを3部作の最終作にしようと思っています。3作目は幼児虐待問題をテーマにしているんですけど、これを作るのはさらに危険で、ほんとに放射性物質かなんかを盛られて暗殺されるんじゃないかとか思っているんですけど(笑)。

―― それだけのリスクのある題材を描こうという監督の原動力ってどこから来ているんでしょう?

葉山陽一郎監督写真

葉山:自分でもわからないですね。変態なんですかねえ(笑)。ぼくは薬に対する異常な執着があるんですよ。たとえば、風邪薬だったら人によって効くものと効かないものがあるので、風邪をひいたら一番良く効く薬を探すためにすべての風邪薬を飲んでみるんです(笑)。そうするとぼくに一番効くのはあるメーカーの薬なんで、風邪薬はいつもそれにしているんです。それで、その薬にはどういう成分が入っているのかを調べたりすると、アセトアミノフェンという成分が含まれていて、埼玉で保険金詐欺事件が起きたときに殺人に使われたのはそのアセトアミノフェンなんですよね。それは大量に摂ると毒性があるんだけど、風邪薬にはそれが含まれていると(笑)。そういうのを調べたりするのが好きな“薬オタク”のところがあるんですよね。

―― 3部作を完成させることで、その薬への執着は解消されるのでしょうか?(笑)

葉山:どうでしょう、映画作りってわからないことが多いですからね(笑)。3部作というのも1作目を作ったときにはきっちりと考えてはいなかったですから。1作目を作ったあとでやり足りないところがあったなと思ったんです。ただ、3作目は予算などの条件がある程度整ったところで撮りたいと思ってるんです。ぼくは『サル』から始まって今回の『saru phase three』まで、3年間で5本の映画を撮っているんです。それは映画監督としては速いペースなんですけど、その分、予算に悩まされ続けてきたんですよね(笑)。だから、この『saru phase three』で葉山映画のファーストシーズンは終わりだと。次作からはセカンドシーズンとして、ある程度の予算がある中で作っていくつもりです。ぼくのやりたいのは超大作映画みたいなものではないし、映画ってそんなにお金かけなくてもいいものが作れるんだよということをこれからも証明したいなと思っているんですが、それにしてもこれまでは厳し過ぎたんでね(笑)。

―― 1作目の『サル』と『saru phase three』とはかなり違ったタイプの映画になっていますが、3作目もまた違ったタイプの映画になるのでしょうか?

葉山:そうですね。最初の『サル』はノーライトという挑戦をしていたんです。映画は照明に一番時間がかかるので、予算が少なかったということもあって照明を切ったわけですけど、今回『saru phase three』では、きちんと照明を入れた上で画面の色合いにグリーンを加えているんですね。それは気持ち悪い感じを出すために色調をいじっているんですけど、そういうふうに作品ごとに違うことをやっていきたいとは思っています。たぶん、3作目では病院のシーンは少なくなりますね。今回のような密室劇をまたやるつもりはないし、スタイルは毎回変えていきたいんですよ。そうじゃないとお客さんも観続けてはくれないだろうし、また、あっと驚くようなスタイルで登場してみたいとは思っています。

(2007年2月6日/楽映舎にて収録)

作品スチール

saru phase three

  • 監督・脚本:葉山陽一郎
  • 出演:高野八誠 清水ゆみ 弓削智久 奈良坂篤 ほか

2月17日(土)より池袋シネマ・ロサにてレイトショー

『saru phase three』の詳しい作品情報はこちら!

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