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『14才のハラワタ』佐山もえみ監督インタビュー

佐山もえみ監督写真 『14才のハラワタ』。このちょっと奇妙な響きのタイトルを持った作品は、まだ19歳の佐山もえみ監督の第1回監督作品です。
 主人公は自分を“ハラワタ”と呼んでいる14才の女の子・原田ワタル。勉強ができるわけでも、オシャレでかわいいわけでもないマイペースなハラワタと、そんなハラワタの家族や学校の同級生、塾の友達や先生たちの何気ない日常を、映画はまっすぐと描いていきます。
 「学生による商業映画製作」をコンセプトに下北沢の映画館トリウッドと専門学校東京ビジュアルアーツが連携して進める“トリウッドスタジオプロジェクト”第4弾作品の監督として選ばれ『14才のハラワタ』を完成させた佐山監督。撮影前には「監督は性格的に無理」と思っていたという佐山監督は、どのように初監督作品に臨んだのでしょうか。
 現在も東京ビジュアルアーツに在学中、取材当日はバイト先から取材場所まで駆けつけてくれた『14才のハラワタ』の“19才の監督”にお話をうかがいました。

佐山もえみ(さやま・もえみ)監督プロフィール

1989年生まれ、北海道出身。2008年に専門学校東京ビジュアルアーツに入学。同校と下北沢トリウッドが連携して推進する“トリウッドスタジオプロジェクト”第4弾の監督に選ばれ、自ら脚本を書いた『14才のハラワタ』で初監督。現在、同校2年に在学中。

「ワタルの立ち位置は実体験かもしれないです」

―― 監督は現在も東京ビジュアルアーツに在学中なんですよね。もともと映像製作に興味を持たれたきっかけはなんだったのでしょうか?

佐山:実は、最初はそんなに映像作りをやろうと思ったわけではなかったんです(笑)。私はちっちゃいころから頭の中でお話を考えたり、絵本とか紙芝居をひとりで作ったりしていて、お話作りが好きだったんです。それでいまの学校に入ろうかなと思ったので、あんまり映像を作るということは考えないで入っちゃった感じなんですけど、学校に入ってから教えてもらううちに、どんどん映像への興味も出てきました。

―― これを観てお話作りに興味を持ったという、きっかけになった作品はありますか?

佐山:NHKとかでやっていた、短いクレイアニメとか砂絵のアニメとかが好きだったんです。あとは影絵ですね。影絵で有名な方の美術館みたいな、建物全体が影絵になっていて短い映画も上映してるようなところがあって、ちっちゃいときにそういうところによく行っていたので、そういうところから好きになったんだと思うんです。

―― 今回監督された『14才のハラワタ』についてうかがいたいのですが、この作品はトリウッドスタジオプロジェクトでの製作を前提に脚本を書かれたんですか?

佐山:はい、参加する生徒が脚本を出して選ばれたら製作が決定するっていうことになっていたので、それに向けて書きました。

―― 『14才のハラワタ』のアイディアはどこから生まれたのでしょうか?

『14才のハラワタ』スチール

『14才のハラワタ』より。長野レイナさん演じる原田ワタルと、ワタルの母親(大家由祐子さん)、父親(松田洋治さん)

佐山:自分では恋愛ものとかは書けないので、友達とか家族のことがいいなと最初に決めたんです。そのあとに主人公をあまり人よりなにかができて目立つ人じゃなくて、どちらかというと地味で素朴な、そういうのは自分の理想なんですけど、そういう主人公にできればいいなと思って作りました。

―― 中学生の女の子たちを主人公という設定にした理由はなんですか?

佐山:なんで高校生じゃなくて中学生なのか自分でもよくわからないんですよ(笑)。たぶん、中学生のころが一番モヤモヤしてどうしようもない感じだったのもあると思うんですけど、あとは、たぶん自分がまだ体験していない年齢のことは書けないなと思うので、自然に書きやすいように書いちゃったんだと思います。

―― 監督ご自身の体験も作品の中に入っているんでしょうか?

佐山:お母さんがご飯を上手に作れないという設定なんですけど、それは実際の母をモデルとしていたり、あとは主人公のワタルのポジションみたいなところですね。私はワタルみたいに……なんて言うんだろう、あんまりいい感じじゃなくて、もうちょっと哀しい感じ(笑)だったんですけど、目線というか立ち位置的にはワタルの位置は実体験かもしれないです。

―― では、主人公の“ハラワタ”のキャラクター自体、監督と似た部分があるんでしょうか?

佐山:似ていたいですね。ああいうふうになりたかったっていう願望があるので、私が追いかけていたいですね(笑)。

―― 主人公以外の登場人物では、ハラワタの通っている塾の塾長が面白いキャラクターだと思ったのですけど、塾長はどういう位置の人物として登場させていたのでしょうか?

佐山:子供と大人の中間にいてくれるような人という感じにしたかったんです。子供が見て「大人ってこうなんだな」って決めつけられないような、大人っぽくないんだけど、でも大人みたいな感じの人を出したかったんです。やっぱり、ちっちゃい子が成長していくときに、そういう大人が近くにいたほうが楽しい大人になれる気がしたので、こういう大人にいてほしいなと思っていたんです。

「緊張しながら、なんとなく進んでいった感じはします」

―― 『14才のハラワタ』が実際にトリウッドスタジオプロジェクトの作品として選ばれたときにはどう思いました?

佐山:すごくビックリして、嬉しかったんですけど、すごく不安になったんです。私は人見知りで人とコミュニケーションを取るのがあんまり得意じゃないし、なんでもリーダーになるのを避けて生きてきたんで(笑)、人を引っ張っていったりとかは苦手だったんです。やっぱり脚本家ではなくて監督ですから、現場で仕切ったりとか演出をつけていくので、そういうことを想像したときに自分にはできないんじゃないかと思ったんです。でも、自分の頭にあって、書いていたものがかたちになるというのは嬉しかったです。

―― これまでに、スタッフを率いて作品を作った経験というのはあったのでしょうか?

佐山:学校の実習で、すごく短い映画を1本だけやったことがあるんですけど、それはほかのスタッフも全部学生でしたし、ほんとに実習だったので、感覚的には『14才のハラワタ』が初めてでした。

―― では、実際に現場が始まったときはどんな心境でした?

『14才のハラワタ』スチール

『14才のハラワタ』撮影現場での佐山監督(右)

佐山:もう、なにをしていいかわからなくて頭は真っ白なんですけど、でも「やらなきゃ!」っていうので、端から見たら見ていられない感じだったと思うんですけど、緊張しながら、なんとなく進んでいった感じはします。

―― 出演者の方々はどのように決まっていったんでしょうか?

佐山:いろいろなところで募集をかけさせていただいて、応募してくださった方からオーディションという感じで選ばせていただきました。

―― 主演の長野レイナさんがワタルという役を自然に演じていらっしゃるという印象を受けたのですが、監督が脚本を書くときに考えていたハラワタのイメージと長野さんは最初からピッタリだったんでしょうか? それとも長野さんとハラワタのイメージを近づけていったんでしょうか?

佐山:私の頭の中でのハラワタのイメージは、そこまでビシッと固定していなかったんです。だから、ハラワタ役が長野さんにほぼ決まったときからハラワタ=長野さんになっちゃって、ずっと長野さんの感じで考えていたので、近づけるとかはあんまりなかったです。

―― ハラワタ役を選ぶときに、長野さんに決めるポイントとなったのはどこだったんでしょう?

佐山:すごく自然な感じがいいなと思ったんです。素朴で、派手派手じゃなくて、ナチュラルにかわいいというか、なんか小動物みたいで(笑)。作っていない感じがして、そこがいいなと思ったんです。

―― ハラワタの両親役で松田洋治さんと大家由祐子さんが出演していらっしゃいますが、おふたりのようなキャリアの長い俳優さんとお仕事されていかがでしたか?

佐山:もうオーラがすごくって(笑)。喋りかけるのにも、1回深呼吸してからしか行けなかったんです(笑)。やっぱり、自分は演出を付ける立場だから言ってもいいというのはわかっているんですけど、あまり積極的には行けなくて、言おうとすることを頭の中でまとめて何回も確認してから、すごく緊張しながらお話にいくって感じでした(笑)。でも、私がなにか指定したことに対して「いや、違うと思います」とか「こっちのほうがいいと思います」と意見を言ってくださって、それで変わったところもあったので、すごくありがたかったです。

「完成したときは、夢みたいであんまり実感が沸かなかったんです」

―― いま、作品が完成したあとで撮影を振り返ってみるといかがですか?

佐山:撮影は全部で10日間くらいで、すごくバタバタしていたなあっていう感じもすごくあるんですけど、振り返ると楽しかった記憶しか残っていないです(笑)。

―― 撮影前には、自分には監督は無理じゃないかと思っていたというお話もありましたが、実際に10日間の現場を体験してみて、その感じって変わりました?

佐山:1日目で逃げられないのがわかったんですね(笑)。人と喋ったりとか大声を出したりとかも慣れていなかったんですけど、もう恥ずかしがったり取り繕ったりしている場合ではないし、もっとやるべきことがあるってことに気づきだしたんです。だから2日目からは徐々に吹っ切れてきたというか、声も出るようになったし、変わってきたのは自分でも感じました。

―― 撮影が終了してからもポストプロダクションの作業とかもあるわけですけど、それが全部終わって作品が完成したときはどんな感じでした?

佐山もえみ監督写真

佐山:最初はあまりにも幸せなことだったので、夢みたいであんまり実感が沸かなかったんです。「できたー、終わったー」という感動はあったんですけど、それ以上はなかったんです。そのあとで、少しずつ作品が外に出ていって、スタッフの方に観ていただいたり関係者の方に観ていただいたりして感想をいただいたときとか、あとはチラシとか予告編ですね、それができたときに実感がバーッと来たんです。だから、いまは映画がもうできあがっていて公開されるって考えるとドキドキってなっちゃいますね(笑)。

―― 作品を拝見させていただいて感じたんですが、映画って「大きな事件が起きなければ」とか「特徴がある人が出てこなくては」というふうに作られている作品が多いと思うんですよ。でも『14才のハラワタ』って、そういう「映画だからこういうふうに作らなきゃ」ということにとらわれずに、ほんとに正直に作った映画という感じがしたんです。

佐山:それは「映画はこうしなきゃ」みたいな能力がなかっただけかもしれないですね(笑)。あんまり深く考えなかっただけかもしれないし、自然とそうなっちゃった感じです(笑)。

―― 『14才のハラワタ』のプレス資料で、ワタルの紹介文で「マイペースで周りをあんまり気にしなくて」みたいな文章がありますよね。それはハラワタの説明なんですけど映画自体にもあてはまるんじゃないかなって思ったんですよ。『14才のハラワタ』という映画自体が、あんまり周りを気にしていなくてマイペースで、ハラワタとよく似ているんじゃないかと(笑)。

佐山:アハハハ(笑)。でも、そう思います。作るときにそうしようと意識はしていなかったんですけど、自然とそうなっていたのは感じます。

―― そういうマイペースな映画が完成して、もうすぐ公開を迎えるわけですけど、公開を前にした心境はいかがでしょう?

佐山:やっぱり、できるだけたくさんの方に観ていただきたいというのが一番あります。いま小学生や中学生の子たちとか、それくらいのお子さんがいる方たちとか、まあ全部の方々なんですけど(笑)、年齢や性別を問わずに、多くの方々に届けたいなというのがいま一番思います。

―― では最後に、1本作品を完成させた上での今後の抱負を聞かせてください。

佐山:ほんとにまだ目標なんですけど、自分が経験したのとまったく違う世界のお話が作れればいいなって思うんです。どこかに実体験は入っちゃうと思うんですけど、ゼロからお話が作れれば進歩かなと思うので、そこを目指していきたいです。

(2009年10月8日/下北沢トリウッドにて収録)

作品スチール

14才のハラワタ

  • 監督:佐山もえみ
  • 出演:長野レイナ 水嶋瑞希 五十嵐令子 ほか

2009年10月17日(土)より下北沢トリウッドにてロードショー

『14才のハラワタ』の詳しい作品情報はこちら!

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