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『POV〜呪われたフィルム〜』公開記念・鶴田法男監督×石井てるよし監督スペシャル対談

鶴田法男監督、石井てるよし監督写真 人気若手女優の志田未来と川口春奈は、携帯電話配信用の番組の収録中に奇妙な現象に襲われる。霊能力者のアドバイスにより、ふたりはスタッフとともに川口春奈が卒業した中学校を訪れることになる。それがさらなる恐怖への扉だとも知らずに……。
 日本が誇るホラー映画の名匠・鶴田法男監督の最新作『POV〜呪われたフィルム〜』は、志田未来さんと川口春奈さんをW主演に迎え「ふたりの女優が実際に遭遇した怪奇現象の記録」という設定で描かれるモキュメンタリー・ホラー。タイトルどおりPOV(Point of view)=主観映像によって描かれるふたりの恐怖体験は、観客を戦慄の世界へといざなっていきます。
 海外の作品で広く知られるようになったPOVによるモキュメンタリーですが、日本ではいまから20年以上前にすでにこの手法を用いたホラー作品が作られていました。テレビドキュメンタリー取材班が遭遇する恐怖を描いたオリジナルビデオ作品『邪願霊』です。
 つねに新たな恐怖の可能性を追求し『POV〜呪われたフィルム〜』でモキュメンタリーに挑んだ鶴田法男監督と、先駆的な手法により「ジャパニーズ・ホラー」の歴史を拓いた『邪願霊』の石井てるよし監督。ふたりの監督に、フェイクとリアルの狭間に生まれるものを探っていただきました。

(写真左:鶴田法男監督・写真右:石井てるよし監督)

※モキュメンタリー=架空の出来事をドキュメンタリーのスタイルで描いた作品。フェイク・ドキュメンタリーもほぼ同義

鶴田法男(つるた・のりお)監督プロフィール

1960年生まれ、東京都出身。高校・大学時代から自主映画を制作。商業作品デビュー作となるオリジナルビデオ作品『ほんとにあった怖い話』(1991年)とその続編はのちのホラー映画に多大な影響を与えた。その後もオリジナルビデオを中心に数々のホラー作品を発表し、2000年に『リング0〜バースデイ〜』で劇場用ホラー作品のメガホンをとる。メイン監督をつとめるテレビ版『ほんとにあった怖い話』(フジテレビ系)は1999年より現在まで続く人気シリーズとなっている。
劇場公開作品に『案山子〜KAKASHI〜』(2001年)『予言』(2003年)『おろち』(2008年)『王様ゲーム』(2011年)など

公式サイト:鶴田法男 website(http://www.eizoh.jp/tsuruta/

石井てるよし(いしい・てるよし)監督プロフィール

東京都出身。岩波映画でドキュメンタリー映画の演出に携わったのち、オリジナルビデオ作品『代官山ワンダーランドHORROR』(1987年)『邪願霊』(1988年)を監督。1991年に『TARO! TOKYO魔界大戦』で劇場作品初監督。その後もオリジナルビデオ作品やテレビ番組を手がける。平成ウルトラマンシリーズや『幻星神ジャスティライザー』(2004年〜2005年)などテレビヒーロー番組への参加も多い。
劇場公開作品に『あばしり一家 THE MOVIE』(2009年)

『第3の選択』がつなぐ『POV』と『邪願霊』

鶴田:ぼくは今回『POV〜呪われたフィルム〜』(以下『POV』)をモキュメンタリーという手法で作ったわけなんですけど、ぼくがモキュメンタリーという手法を初めて知ったのが『第3の選択』(※1)というイギリスの作品だったんです。

石井:あれはBBCでしたっけ?

鶴田:BBCではなくて、アングリアTVという局ですね。ぼくは『POV』を作るにあたって『第3の選択』についてちょっと調べたんです。『第3の選択』は1980年代に矢追純一さん(※2)が「木曜スペシャル」で取りあげて話題となるんですけど、最初にやったのはフジテレビで、1978年の4月6日深夜11時55分からなんです。(新聞のコピーを取り出して)これが国会図書館でコピーしてきたその日の新聞のテレビ欄で、このときは『第3の選択』というタイトルじゃないんですよね。

石井:ああ、タイトルは『地球滅亡の危機!』ってなってますね。この放送は知らなかったですね。矢追さんがやられたやつは観てるんですよ。

鶴田:ええ、矢追さんの番組で観た方が多いと思うんですけど、ぼくはたまたまこっちの放送を観ていたんです。この時間帯は『スパイ大作戦』の再放送をやっていたんですよ。それでぼくは『スパイ大作戦』をやるものだと思ってテレビを観ていたらこれが始まったものですからビックリしちゃって。実は、そのときはまだ高校生だったからほんとだと思っちゃって、けっこうショックだったんですよ(笑)。のちのち矢追さんの番組で取りあげられてから逆に「あ、これは怪しい」って思ったんですけど(笑)。

石井:ぼくは矢追さんがやったやつを観て、最初っからウソだと思ってましたね(笑)。なぜかというと、吹き替えでやっていて声優さんがキチっとお芝居をして喋っているので、ほんとに思えなかったんですよ。英語のままで字幕だったら「もしかしたら」と思ったかもしれないんですけど。あと、やっぱり作為が目立つところがあったんですよね。……これ、フジテレビでやったときにはちゃんと番組紹介に「SFドラマ」って書いてありますね。矢追さんは「ほんとだ」って言ってやっていましたけど(笑)。

鶴田:そこは矢追さんらしいんですよね(笑)。とにかく、ぼくがモキュメンタリーを知ったきっかけがこれだったんです。実は『POV』は「『パラノーマル・アクティビティ』(※3)みたいな映画を作れないか」という依頼があって作ることになったんですけど、二番煎じをやるのは嫌だなという気持ちもあったんです。でも、一方で自分がかつてショックを受けた『第3の選択』のような作品を作ってみたいという気持ちもあって突き動かされたところがあったので、『第3の選択』について調べましたし、本編の中に出てくる映画会社の名前を「第三選択映画社」にしているんです(笑)。
 それに加えて、日本においてのモキュメンタリーによるホラーとして石井監督の『邪願霊』があって、1988年の製作ですから『パラノーマル・アクティビティ』より20年も前、やはりモキュメンタリーのホラーとして有名な『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(※4)の11年も前に作られているわけですよね。その上、ぼくのビデオ版『ほんとにあった怖い話』(※5)がいわゆる「Jホラー」の先駆的なものとしてよく挙げられるんですけど『ほん怖』は1991年ですから、その3年前に『邪願霊』が作られていて、ほんとに『邪願霊』がJホラーの起源だと思うんです。それを考えると、やはりJホラーとモキュメンタリーとは切り離せないところがあるんじゃないかとfjmovie.comさんからお話があり、この機会に石井監督と対談できることになって、とても光栄に思っています。

鶴田法男監督、石井てるよし監督写真"

石井:『邪願霊』の成り立ちから言うと、当時はレンタルビデオ屋が出始めたころだったんですよね。それでレンタル用の作品というのが作られはじめて、ある会社の依頼で、亡くなられた野沢尚さん(※6)のホン(脚本)で低予算のホラーを1本撮ったんです(『代官山ワンダーランドHORROR』1987年)。そのときに特殊メイクと特殊効果で来てくれたのが『邪願霊』のホンを書くことになる小中千昭くん(※7)で、現場でいろいろな話をしているうちにクレイジーキャッツの映画が好きだという話で盛りあがって、そこから小中くんと仲良くなったんです。そのあと、同じ会社から「もう1度ホラーを作りたい」と言われまして、前の作品のときに小中くんがホラーについていろいろ話をしていたので「ホン書いてみない?」って話をしたんです。小中くんは当時はシナリオライターじゃなかったから他人の監督する作品にホンを書くのは初めてで、書いてもらうことにはなったんですけど、ほんとに低予算なものですから普通のドラマはできないだろうと。そこで小中くんが考えて『第3の選択』に行き当たるんです。低予算でテレビや映画の真似をしたらちゃちいものしかできないし、しかもほとんど無名の人間しか出ないんだから、普通のドラマはやめようと。それでふたりで『第3の選択』を観て「この手法でやるか」と始めたんですけど、周りは誰ひとり理解してくれませんでしたね。

鶴田:たしか『第3の選択』が日本でビデオソフトで発売されたのって1991年か92年なんですよね。だから、そのころだと作品を知っている人も少ないですよね。

石井:ええ、それで、たしか小中くんがテレビで放送されたのを録画したVHSを持っていたので、それをプロデューサーたちに見せるんですけど、見せてもわからないんです。「わかった」と言うんですけど、みんなドキュメンタリー風のドラマって思うんですよ。

鶴田:ドキュドラマですか。

石井:そうなんです。私たちが目指していたのはそうではなくて、ほんとにフェイク・ドキュメンタリーで、観た人がドキュメンタリーだって思うものだったんですけど、プロデューサーが小中くんが書いた第一稿を見て激怒しましてね。名前は忘れちゃったけど2時間もののサスペンスなんかを書いていた別のシナリオライターに書き直させて、単なる安っぽいサスペンス・ホラードラマがあがってきたんですよ。『邪願霊』には竹中直人さんが出ているんですけど、竹中さんと主人公の女の子がホテルで密会するシーンがあったりする、わけわからないホンができあがってきたので、まあ「それで撮りましょう」と言って、現場では小中くんのホンどおりに撮ったんです。ただ、プロデューサーが集めてきた俳優さんたちが理解していなくて、いわゆる「お芝居」をするんですよ。

鶴田:ああ、なるほど。芝居してますって、お芝居ですね。

石井:ええ、小中くんがそのときに書いたホンのセリフというのは「大体こういう内容を喋ってくれればいい」という目安みたいなものなんですけど、そのセリフを一字一句覚えてきてそのまま言うんですよね。それで相手が喋り終えるのを待ってキチっとセリフを喋るというやりとりをするので、フェイク・ドキュメンタリーとして成立しなかったんですよ。だから、実は私はできあがったものにすごく不満があって、もうちょっとなんとかできたんじゃないかって思っていたんです。ところが、そのままレンタルビデオで出て消えていくものだと思ったら、数年後に高橋洋さん(※8)が雑誌で紹介してくださったりしたんですね。その少しあとくらいに「ジャパニーズ・ホラー」という呼び方が出てきて、その原点と言われることがあって、実は面映いんですよ。何年か前に『邪願霊』のDVDが出たんですよね(2005年リリース)。そのときにDVDを貰ったので10数年ぶりに改めて観てみたら、まったく怖くなかったし、まったく面白くなかったですね(笑)。

鶴田:いやいや、そんなことはないと思います。今回、対談させていただくので改めて観てみたら、たしかに役者さんがお芝居をしちゃっていて、いまの目で見ると石井監督が最初に狙っていたフェイク・ドキュメンタリーというところには行き着いていない感じもありますけど、やっぱり「画面の端に見切れるように女が立ってる」というようなことをやっていらっしゃるわけですよね。その手法は、そのあとでぼくなんかが散々やったために、いまからするとありふれた手法に見えてしまいますけど、1988年の段階でこういうことをやっていたというのは、すごい画期的なことをおやりになっていたんだなと思うんです。

石井:10年くらい前かな? 小中くんと別の件で会ったときに「なんでのちに評価が高まるかわからないよね」という話をしたんです。ほんとに瞬間芸だったと思うんですよ。レンタルビデオで出たときは普通のビデオソフトと同じようなパッケージになったんですけど、ほんとはそんなパッケージにしたくなかったし、タイトルもいらなかったんですよ。小中くんが書いてきたホンは『サイキックビジョン』というタイトルで、さすがにそれでは出せないので、怖そうなタイトルを付けなくてはというのでプロデューサーたちが忌まわしい文字を並べてこうなったんですね。私たちは、タイトルもなんにもない、真っ白で安っぽいAVのダビングしたやつみたいなパッケージでビデオ屋の棚に並べてほしかったんです。

鶴田:要するに、のちの『リング』に出てくる“呪いのビデオ”みたいなものですね(※9)。

石井:そうですそうです。レンタルビデオの特性を活かして、なんだかわからないけどほかのビデオと一緒に借りて観たら変なものが映っていて、観終わったらすごく後味悪い。そういうものを作りたかったんですね。その初期の目的には全然、達しなかったんですけど。

鶴田:でも、やはり当時そういうことをやるというのは、すごく急先鋒な作品だったと思うんですよ。

  • ※1:イギリスのアングリアTVが1977年6月20日に放送したテレビ番組。「米ソが極秘裏に人類の地球外移住計画を進めている」という内容を科学ドキュメント番組『サイエンス・リポート』の形式で描いた。ラストには4月1日=エイプリル・フールの製作であることが強調され、番組内に登場した人物を俳優が演じていることが明かされているが、多くの視聴者が事実と誤解したというエピソードがある
  • ※2:元・日本テレビディレクター。『11PM』『木曜スペシャル』などの担当番組でUFOや宇宙人の題材を頻繁に扱った。両監督の話にあるように『第3の選択』も1982年に『木曜スペシャル』でノンフィクションとして放送され大きな反響を呼んだ
  • ※3:2007年製作のアメリカ映画。監督はオーレン・ペリ。あるカップルが家の中で起きる変異の理由を探るためにビデオカメラで生活を記録するという設定のモキュメンタリー。アメリカでは2009年、日本では2010年に公開。その後パート2、パート3が製作されたほか、日本版の続編も製作されている
  • ※4:1999年製作のアメリカ映画。監督はダニエル・マイリックとエドゥアルド・サンチェス。魔女伝説の残る森を訪れた学生たちが体験した恐怖を主観映像のモキュメンタリーで描いた。インターネットなどを連動させたプロモーションでも注目を集めた
  • ※5:鶴田監督のデビュー作となるオリジナルビデオ作品。略称『ほん怖』。同名の実話恐怖体験コミックを原作にしたオムニバス形式のホラー。1991年に第1弾の『ほんとにあった怖い話』がリリース、好評により『ほんとにあった怖い話 第二夜』(1991年)、『新・ほんとにあった怖い話 幽幻界』(1992年)の2本の続編が製作された。1999年からはフジテレビ系のドラマとして復活
  • ※6:脚本家として数多くのテレビドラマや映画を手がけたほか、小説家としても活躍した。2004年逝去
  • ※7:特殊脚本家。鶴田監督のビデオ版『ほんとにあった怖い話』シリーズをはじめ、オリジナルビデオ作品やテレビドラマ、映画で多数のホラー作品を手がける日本のホラー界のキーパーソンのひとり。鶴田監督、石井監督とも複数の作品でコンビを組んでいる
  • ※8:脚本家・映画監督。脚本作品に『女優霊』(1996年/中田秀夫監督)『リング』シリーズ、監督作に『恐怖』(2010年)など。『リング0〜バースデイ〜』(2000年)『おろち』(2008年)など、鶴田監督とのコンビ作も多い
  • ※9:『リング』(原作・映画版とも)には、貸別荘で貸し出される正体不明の“呪いのビデオ”が登場する

フェイクとリアルと役者の存在

石井:フェイク・ドキュメンタリーをやるときには役者の問題があるんですよね。『邪願霊』を作った当時に小中くんと話したのは、やっぱり低予算の作品に出るような役者には売れてないだけの理由があって、要は私たちがフェイク・ドキュメンタリーをやろうとしても理解できないんだと(笑)。かといって、そこが理解できるような力のある役者というと売れている人になるから、売れている役者を集めるとフェイク・ドキュメンタリーにはならない。『POV』はそこをうまく作られていると思うんです。志田未来と川口春奈という有名な子がふたり出ているわけですよね。売れてるし、かわいいし、芝居もちゃんとできる。その子たちでモキュメンタリーというのが素晴らしい。

鶴田:そうですね。『POV』に関して言うと、最初は「女子高生が主人公で学園ホラーにしてくれ」というお題だけもらって、あとはオリジナルでやってくれという依頼だったんです。それでぼくが当初考えたのは、霊能力がある女子高生が学校に巣食っている亡霊みたいなのをバリバリやっつけるというホラーアクションで。

石井:全然違いますね(笑)。

鶴田:全然違うんですよ(笑)。そういう作品を前からやってみたいと思っていたので、その方向で脚本を書いて提出したら「いや、こういうのじゃなくて」って言われまして(笑)。「どういうのがいいんですか?」と聞いたら「『パラノーマル・アクティビティ』みたいなものを」ということだったんです。それで「わかりました」と言ったんですけど、そのあとでまたプロデューサーから「有名な役者を出したい」という要請がありまして、でも有名な役者を出して『パラノーマル・アクティビティ』みたいなものというのは無理がある(笑)。なので「もし出てくれる役者さんが実名で登場するのであれば成立するけど、それでも大丈夫ですか?」と聞いたら、しばらくして志田未来ちゃんと川口春奈ちゃんが本人役で出てくれるということになって、そこでぼくは拍車がかかったところがあるんですね。というのは、一応ぼくもJホラーの先駆者と呼ばれている中で、さっきもお話しましたけど「『パラノーマル・アクティビティ』の二番煎じをやります」みたいなことはちょっと引っかかっていたんです。でも、フェイク・ドキュメンタリーはいろいろ作られていますけど、志田未来ちゃんと川口春奈ちゃんみたいに知名度のある人がそのまま出てくれるというのはないんですよね。アメリカでもダコタ・ファニングがダコタ・ファニングとして出てくるみたいな映画はないですし、だからすごい画期的なことなんです。

石井:それがすごく成功していると思って。私は『パラノーマル・アクティビティ』はまったく乗れなくて、怖くなかったんですよ。もうフェイク・ドキュメンタリーってダメなんじゃないかと。だけど『POV』は久々に怖かった。観終わって疲れましたよ、なんかここに悪いものが憑いてるんじゃないかと(笑)。久々に怖いフェイク・ドキュメンタリーを観ましたね。

『POV〜呪われたフィルム〜』スチール

『POV〜呪われたフィルム〜』より。携帯電話配信用の番組を収録中の女優・川口春奈(左)と志田未来(中央)は奇妙な現象に遭遇する……

鶴田:ありがとうございます。やっぱり、未来ちゃんと春奈ちゃんがすごく一生懸命やってくれたし、周りの役者さんも当然あまり名の知れていない方たちをキャスティングしたわけなんですけど、みなさんすごくこちらの狙いをわかってくださったんです。さっきのお話ですけど、やはり石井監督が『邪願霊』を作られたときには『第3の選択』とか『食人族』(※10)とかはあったけど、フェイク・ドキュメンタリーというものが一般的には浸透していない時代だったから、みなさん感覚的に理解できなかったんだと思うんです。その点では、『ブレア・ウィッチ』のヒットから始まって『パラノーマル』という流れがあったので、みなさん「これはフェイク・ドキュメンタリーなんです」と言うと「ああ、わかりました」とやってくださるんですよ。

石井:鶴田さんがうまいなと思ったのは、なにも起きないけどカメラが入っていくだけですごく怖い。フェイク・ドキュメンタリーって、なにかが起こるとあまり怖くないと思うんですよ。『POV』はなにも起きなくても怖いから、すごく成功していると思いますよ。それから、霊みたいなものがバンバン出るのではなくて、志田未来と川口春奈のリアクションで行くじゃないですか。それがすごく怖かった。「この子たちはなにを見てこんなに脅えているんだろう?」と思うのが怖かったです。

鶴田:これは自慢話のようになっちゃうかもしれませんが、ぼくはビデオ版の『ほん怖』を作ったときに、役者さんのリアクションを大事にするという撮り方をしていたんです。というのは、幽霊とか化け物とかは見慣れてしまうと大したことなくなってしまうんですよね。たとえば『エクソシスト』(※11)でリーガンの首が360度回転するのも、当時はすごいショッキングだったけど、いま観るとそんなに驚かないじゃないですか。だけど、役者さんの芝居というのは、見慣れても「この人うまいな」とか「説得力あるな」みたいに観られるところがあるので、生身の役者さんの芝居はものすごい重要だと思っていたんです。結局、いまもずっと同じことをやっているんですよね。

石井:それは大正解で、私はホラーのなにが怖いかと言うと登場人物のリアクションで、観客がそれに同化して怖がるのだと思うんですよ。そこに異形のものが見えても所詮は作り物だからそんなに怖くないと思うし、たとえば「ここで自殺した女がいてその恨みが残っていて私たちに悪いことをする」とかの因果関係がわかるとあんまり怖くないだろうと思うんですよ。「なんだかわからない変なものがいて、それがなにもしないけど生理的に嫌だ」というのが一番怖いんじゃないかと思うんです。それを一番きちんと見せるのは役者のリアクションで、だから『POV』はものすごく成功していると思います。ほんとに久々に観ていて鳥肌立ちましたよ(笑)。『POV』はなんか違和感があるんですよね。観ていると変な違和感をずっと感じて、そうするとカメラがスッと動いたりとか「嫌だなこれ」って(笑)。そういうところが鶴田さんのうまさなんでしょうね。

鶴田:ただ、ちょっと悩んだのは、やっぱりモキュメンタリーで作ったら、公開するまでずっと「これは本物だ」ってウソをつきとおさなくてなくてはいけないんじゃないかって(笑)。『食人族』なんかにしても、観てみると明らかに作り物なんだけど「これはほんとだ」と宣伝をしたわけじゃないですか。

石井:ヤコペッティ(※12)なんかは全部ドキュメンタリーで売ってますもんね(笑)。

鶴田:そうそう(笑)。だからドキュメンタリーだと思って観にいってたし、当時はまだ子供だったから、観終わってからも「ああ、すごいドキュメンタリーだった」って思ったりするわけですよね(笑)。そのころの記憶がいまだに鮮明に残っているので、今回の『POV』もそういう宣伝の仕方をしなくてはいけないんじゃないかって思っていたんです。でも、いまの時代は誰もこれがドキュメンタリーだとは思わないだろうと割り切ったんですけど。

石井:だけど『POV』は志田未来と川口春奈が「志田未来と川口春奈」として出てるから、ほんとだって思う人がいると思いますよ。実は、私も若干「ほんとかな?」って思いましたもん(笑)。

鶴田:アハハハハ(笑)。

石井:一緒に試写を観にいった人も「これ、ほんとだよね?」って言うから「きっと根底にはなんかほんとの話があるんだよ」という話をしていたんです。ほんとに川口春奈の学校でこういう話があったんじゃないかなって。そういう都市伝説というか学校の怪談みたいなものを取材して、携帯番組でなにかがあったのとうまく結びつけて作ったんだろうなって。根っこには実話があるんだろうと思いましたね。

鶴田:それはもちろん、ここに描き込んでいるいろいろな怪奇現象は、ぼくが経験したことだったり人から聞いたり取材した実際の体験談を基にしていたりしていますし、窓に映っている人の顔なんかも心霊写真を参考にしていますから、たしかに実話を基にしているんです。

石井:いや、そういうひとつひとつのエピソードの基が実話だというのではなくて、この映画の枠組みそのものが実話なんじゃないかと思ったんです。プレス資料で「関係者が公にされることを頑なに拒んできた映像」と書いてありましたけど、ほんとに関係者がそう思うような嫌なことがあったんだろうという気がしますよ。それを実話として出してしまうとなんかまずいことがあるから、はっきり言わずに作り物として出しているんじゃないかって。きっと信じる人はいると思う。

鶴田:だったら、こうやって「モキュメンタリーだ」とオープンにする対談はやらないほうがよかったんですかね(笑)。

石井:いや、でもこうしてオープンに話すのも、逆になにか隠そうとしているんじゃないかって思うかもしれませんよ(笑)。

鶴田:じゃあ、もうそれは否定せずに、そのまま秘密のベールに隠しておくことにします(笑)。

  • ※10:1980年のイタリア映画(日本公開1983年)。監督はルッジェロ・デオダート。アマゾン川上流で消息を絶ったドキュメンタリー撮影隊の残したフィルムが発見されたという設定のモキュメンタリー
  • ※11:悪魔祓いを題材とした1973年のアメリカ映画。監督はウィリアム・フリードキン。悪魔に憑かれた少女・リーガンが醜い顔に変化し、口から液体を吐く、首が回転するなどの描写は公開当時センセーショナルな話題となった
  • ※12:グァルティエロ・ヤコペッティ。イタリアの映画監督。『世界残酷物語』(1962年)など「モンド映画」と称されるフェイクを含んだドキュメンタリータッチの作品を監督

なぜ「怖い映画」を求めるのか

石井:もうひとつ『POV』でうまいなあと思ったのは字幕で出していくところで、私も『邪願霊』でやっていますけど、鶴田さんのように使うとまだ有効な方法なんだなと思いましたね。

鶴田:そうですね、ぼくは昔からテロップだけで押していくのは好きで、それはぼくが小中さんと一緒にやった『霊のうごめく家』(ビデオ版『ほん怖 第二夜』収録)で、小中さんがテロップで出すという脚本を書かれてきて「それはうまい手だなあ」と思ってやったところはあるんですよ。

石井:『霊のうごめく家』も怖かったなあ。観たときに、しばらく家から出るのが嫌でしたから(笑)。やっぱり、小中くんにとって『邪願霊』は助走だったと思うんですよね。「この手は有効だ」と思って、そのあと鶴田さんの『ほん怖』で本格的にやったんだと思うんです。『邪願霊』で字幕を出すのは小中くんが最初のホンに書いていたんですけど、そこに私が足したところもあるんです。

鶴田:あ、そうなんですか。

石井:ええ、それはなぜかと言うと、私はもともと岩波映画でドキュメンタリーを、フェイクではない本物をやっていまして(笑)、そのときにナレーションが嫌だったんです。きれいな声のナレーターがナレーションで説明するのが当時のドキュメンタリーのオーソドックスなやり方だったんですけど、それがすごく嫌で、字幕で時系列を説明したり、画面で説明できないことを字幕で入れたりしてたんです。スポンサーからは「ここはちゃんとナレーションで説明しろ」とNGがくるんですけど、ナレーション原稿を書くのも嫌だったし、面倒くさかったし(笑)。それを小中くんに話したことがあって、それが小中くんが考えていたこととうまくクロスしたんだと思います。

鶴田:そういう意味では、石井監督とかぼくとかが小中さんのような方と出会って試行錯誤していたことが、結果的に現在のJホラーに繋がってるのかなとは思うんです。

石井:Jホラーの話をすると、私はJホラーがあれだけブームとなったときからずっと疑問があって、なんで人は怖いものを観に行くんだろうかって。コメディを観にいくときは笑いたいし、アクションを観るならスカッとしたい。だけど怖いものを観るのって嫌じゃないですか(笑)。

鶴田:でも、ぼくにしてみると、ぼくはジェットコースターみたいな乗り物が大嫌いで、子供と遊園地に行って子供が乗りたがっても「絶対に乗らないから」と言って断るくらいなので、なんでみんな乗りたがるんだろうって思うんですよ(笑)。そこから考えると、遊園地のお化け屋敷なんかも、たとえば富士急ハイランドには「戦慄迷宮」という、入ってから出るまで50分くらいかかるお化け屋敷があって、入ってから出るまで散々ひどい目に遭うんですけど、でもみんなそこに入るし、喜んで出てくるわけですよね。

『POV〜呪われたフィルム〜』スチール

『POV〜呪われたフィルム〜』より。ふたりの女優の体験はさらに新たな恐怖を呼ぶ……

石井:まあ、お化け屋敷は一種のイベント的なものだと思うんですけど、『POV』のようなちゃんと作られたホラー映画って、後味がすごく悪いじゃないですか。観たあとに幸せな気分では映画館を出られない(笑)。なんでわざわざ金を払って不幸な気持ちになりに行くのか、物好きな人が多いなって思うんですけど(笑)。

鶴田:アハハハ(笑)。でも、偉そうな言い方になっちゃうんですけど、ぼくは人間には喜怒哀楽という感情に加えて恐怖という感情がとても大切だと思っているんです。やはり、我々はなにか危機に瀕したときに恐怖を感じるから避けるわけじゃないですか。その恐怖の感情が鈍感だと危機を避けられなくなくて、たとえば高いところが怖くないから平気で崖に近寄って落っこちてしまったり、火を怖がらないから燃えてる中でも平気で手を入れてしまうということになっちゃうわけですよね。やはり、恐怖心というものを磨いておくことで自分の身や自分の大切な人たちを守ることができるわけですから、普段から「怖い」という感情を敏感にしておくことは大切なことだと思うんです。

石井:それはわかります。わかるんですけど、ホラー映画というのは、恐怖の感情を磨くというよりは、もっと根底的なところで嫌な気持ちにさせるものだと思うんですよ。私もホラーものを何本か撮っていますが、後味のいいものだけは撮りたくないと思っていたんです。変な例ですけど、ときどき道端のガードレールのところに花とかが置いてあったりするじゃないですか。あれは誰かがそこで死んでいるということなわけで、すごく怖いし気持ち悪いんですよ。ああいう感情を味わわせたい。「車に轢かれたネコの死骸を見ちゃった」みたいな、生理的な嫌悪感までもたらすようなものを作りたいと思っていたんです。それは、いま鶴田さんがおっしゃった「恐怖の感情を磨く」というのではなくて、ある意味でもっと人間の感情を否定するような行為だと思うんです。私は『POV』も相当に観終わったあとで嫌な気持ちになると思うんですけど(笑)。

鶴田:そこは、ぼくが石井監督と少し違うところかもしれなくて、ぼくは映画は娯楽だと思うし、同時に作品でもあるけれど、そこで徹底的に陰惨な気持ちにはしたくないんですよね。だから『POV』でも、基本的には最後は解決して終わるかたちにしているんです。

石井:解決してるかなあ?(笑) 試写を拝見して、微妙に嫌な気持ちが残りましたよ。家に帰ってからもジワジワと嫌な気分がするから、救われないと思う(笑)。

鶴田:それはね、結局ぼくは小学校3年のときに幽霊を見たという記憶があって、それがものを作らせている根底的な原動力のひとつなんですね。やっぱり、幽霊を見たってことに対して、なんの理屈もないし、突然見ちゃったんですよね。それ以来、幽霊を見たという記憶が自分の中にずっと残っていて、そこから逃れられないんですよ。これは黒沢清さんがおっしゃっていたんだけど、アメリカ的な『13日の金曜日』みたいに殺人鬼が出てきて人が殺していくみたいなものは単純に殺人鬼を撃ち殺せば解決するんだけど、幽霊というそこにいてはならないものを見ちゃうと、見ちゃった人は一生その恐怖から逃れられなくなっちゃうと。それはまったくそのとおりで、そういう理解のできない得体の知れない恐怖というのは存在していると思うんですよ。ぼくはそれといつもお付き合いしながら生きているところがあって、それを作品に反映させているんです。人間というのは必ず理解できないものと対面していないと生きていけないし、そういう恐怖と共存していかなくていけない。特に日本の場合は欧米と違って白黒をはっきりさせずにグレーゾーンで物事を進めていったりするところがあるじゃないですか。グレーのところといいかたちでお付き合いしながら生活ができているのは日本人のいいところだと思うんですよね。まあ『POV』では結末をつけているつもりなんですけどね(笑)。

石井:うーん、鶴田さんはちゃんと結末つけたとおっしゃっているけど、そうじゃない気がとてもするんですよ(笑)。観たらみなさん満足すると思うんですよ、怖いものを観に行こうとしているんだから。怖いのを観に行って怖くないのが一番腹立つから満足はすると思うんですけど、あんまり怖くなると一般性がなくなってしまうんじゃないかなと思うんです。アメリカの『13日の金曜日』とか『エルム街の悪夢』とかはデート・ムービーだと思ってるんですよ。ほんとにお化け屋敷みたいに楽しむもので怖くもなんともないんじゃないかと思うんですけど、日本のホラーは『POV』のようにほんとに怖いものがあるんですよね。これは夜に観ないほうがいいんじゃないですか?(笑) のちにDVDで出ると思うんですけど、夜に部屋でひとりでヘッドフォンして観るのなんかは怖すぎると思う(笑)。

鶴田:たしかに、みなさんひとりじゃなくてお友だちや家族と一緒に飛びきり怖い遊園地のお化け屋敷に入ってもらうつもりで観ていただければと思って作っているので、あまりひとりで観るのはお勧めしないですね(笑)。とりあえず、みんなでワイワイ楽しんで観てもらえればいいのかなって。

石井:『POV』はそういう作りになってないじゃないですか!(笑) ワイワイ楽しんで観られるかなあ?(笑)

鶴田:いや、ぼくはそういうつもりで作っているんですけど(笑)。

石井:ほんとに怖いものは楽しくないんじゃないかなあ? 楽しさの質が違うのかもしれないけど(笑)。この感じはお化け屋敷では体験できないでしょうね。テレビでもダメだと思う。やっぱり、映画館のスクリーンで観るべきものだと思う。映画館でほかの席から悲鳴があがったりしたら、ほんとに怖くなりますよ。

鶴田:そうですね、なるべく映画館の人がいっぱいいる中で観たほうが絶対に楽しい……ぼくは楽しいと思っているんですけど(笑)。

世界へと発信する恐怖

石井:私はトビー・フーパー(※13)が好きで、そこがホラーの出発点になっているんですけど、鶴田さんの『霊のうごめく家』は衝撃的でしたね。こんな怖いことがやれるんだって。やっぱり、シナリオと演出というのは車の両輪で、それがとても幸せなかたちで出ていると思うんです。たぶん、小中くんのホンの意図を超えたかたちで映像化されていて、それを小中くんがフィードバックして「小中理論」(※14)と呼ばれるようなやり方を形成していったと思うんですよ。それで、いろんな人がそれを踏まえてJホラーといわれるものを作っていくわけですよね。

鶴田:ぼくはビデオ版の『ほん怖』をやり出した当時って、幽霊が出てくるということに関してなにかしら理由がないといけないんじゃないかと思っていたんです。それで『夏の体育館』(『第二夜』収録)という作品で、主人公の女の子が幽霊を見るときに「親戚に霊能者がいる」というセリフを現場で付け加えたんですね。そしたら小中さんに「幽霊というのは見える人には見えるし、出てくるときは出てくるんだ」とむちゃくちゃ怒られて。そう言われてみるとぼくが幽霊を見たときはたしかにそうだった。やはり、そういうところ小中さんは優れていらっしゃいますよね。

石井:そうですよね、なんだかわからないけど見ちゃったわけですからね。小中くんはよく「人間が怖いって話は嫌だ」と言ってたんですよ。「怖いのは幽霊なんだ」と。私もそう思うんですね。人間は物理的に怖いことはあるけれど、根底から心が揺さぶられるような恐怖感を感じるということは、人間に対してはないんですよね。やはり、異形のものとか得体の知れないものが出てきたほうが怖いんです。それをきちんと言い切った人はいないので、そこらへん小中理論は優れていますよね。大抵「幽霊は怖いけど人間のほうが怖いよね」という話になりがちなので。

鶴田法男監督、石井てるよし監督写真"

鶴田:そうですね。やっぱり人間至上主義というか、人間優位主義にしちゃったほうが話がしやすいと思うんです。でも実際には人間じゃなくて得体が知れないものが怖いことっていうのはいっぱいあるんだから、ぼくは人間が怖いということも否定はしないけど、すべてを人間中心に描いてしまうことに関しては異論がある。それはたぶんJホラーを作ってきたみなさんも同じ想いなんですよね。映画を作ろうとすると、どうしても脚本を書いたときに「これは人間が描けていない」とか言われるわけですよ。だけど、人間ありきで考えていかなくてはならないというのは作品としての幅を狭めてしまう。すべての映画が人間ドラマでなければならないという法律はないわけですから。

石井:言いがちですよね。だけどジャンルムービーに対して「人間が描けていない」というのは間違いで、SFだったらSFとして成立していればいいし、ホラーだったら怖ければいいと思うんです。人間なんか描けてなくていいと思うんですよね。ましてやモキュメンタリーなんて人間の描きようがないので、観る側がそれぞれにその人間像を作ってくれればいいと思うんですよ。ただ『POV』の場合は、知名度の高い本人が出てきているので、志田未来という子が出てきたときに我々は「志田未来ってこういうドラマや映画に出ていてこういう子で」とわかっているんですよね、もう人間が成立しているわけですから。

鶴田:そういう意味ではほんとに『POV』は幸福で、志田未来ちゃんと川口春奈ちゃんというふたりがそこにいるわけなので、改めて人間を描きこむ必要がなかったんですよね。いきなり怖い話に入っていけたんです。

石井:うん、そのスピード感がいいんですよね。やっぱり、怖い映画を観にいったら早く怖くなりたいというか(笑)。先ほども言いましたけど、私はここのところずっとモキュメンタリーに批判的というか、冷ややかに見ていたんですね。もう、映画館とかテレビでかかる時点で誰もほんとだとは思わないだろうし、日本でいろいろモキュメンタリーが作られているのを見て「いまさらなにをやってるんだ」みたいに思っていたんです。そこに『POV』だったので、まだまだモキュメンタリーという手法は有効だなと思いましたよ。目の前が明るく開けましたね。

鶴田:ありがとうございます。いまの観客の方たちは、映画館で上映される映画に異空間に入り込めるような臨場感にあふれるものを求めてらっしゃるんじゃないかと思うんですね。ぼくはいま3D映画に興味があるんですけど、モキュメンタリーという手法が一般化したことと、3D映画がこれだけ作られていることは決して無関係じゃないと思うんです。やはり、臨場感をみなさんが求められているから、こういう手法が一般的になっているんじゃないかなと思うんですよね。ただ、そこであまり手法だけを意識してしまうと中身が薄くなってしまうことがあると思うんです。せっかく面白い手法が一般化してきたのだから、それを充分に使いこなさないままにブームが去ってしまうのは避けたいなという気がしますね。

石井:Jホラーのブームもそうでしたよね。たくさん作られると玉石混合になって、つまらない作品も多くなってしまう。ブームのときにビデオとか映画とかでいっぱい作られたけど、作っている方たちがなにをしたいのかがわからないものが多かった。ほんとに怖いものを作りたいのか、それともホラーは低予算でできて儲かるからやろうとしているのかがわからなくて、私もいろんな作品を観たんですけど、ほぼ、クズですね(笑)。

鶴田:……いや、ぼくはなにも言えないです(笑)。

石井:アハハ(笑)。私はJホラーはすごい可能性があって、いま、日本から海外に出すコンテンツとしてアニメとかゲームとかが挙げられていますけど、ホラーもそうだと思うんですよね。ただ、ホラーがわかるプロデューサーがあまりいないんじゃないかと思うんです。世界中にもそんなにいないだろうと思うんですけど。

鶴田:ありがたいことに『POV』は海外での公開も決まっているんです。ぼくは『POV』の脚本を書き終えたときに、自分の作品の中でも一番の恐怖作品が作れるという自信を持ってプロデューサーにメールで脚本を送ったんですが、実はそれが去年の3月11日の朝だったんです。その日の午後に震災があったわけで、1度は「これはホラー映画を作っている状況ではないな」と思って作るのをやめようと思ったんですけど、プロデューサーと話をしていく中で「監督にそれだけの自信があるなら、Jホラーは世界に発信できる日本の映像文化なんだから、むしろ萎縮せずに作って世界に日本が元気だと見せるべきじゃないか」と励まされて、それで「やっぱり作ろう。全身全霊で作ろう」と決意したんです。震災の影響もあって予定していた資金が集まらなかったりもしたのですが、もう自腹になっても日本のために作ろうって。それで、こうやって東宝映像事業部さんの配給で公開することができて、海外でも公開されるので、この『POV』でJホラーを日本でも、世界でも復権させたいと思っています。

  • ※13:アメリカの映画監督。監督作に『悪魔のいけにえ』(1974年)『ポルターガイスト』(1982年)など
  • ※14:高橋洋氏や映画監督・黒沢清氏が名づけた恐怖演出の方法論

(2012年1月19日/東宝本社にて収録)

『POV〜呪われたフィルム〜』スチール

POV〜呪われたフィルム〜

  • 監督:鶴田法男
  • 出演:志田未来 川口春奈 ほか

2012年2月18日(土)よりTOHOシネマズ渋谷ほかにて全国ロードショー

『POV〜呪われたフィルム〜』の詳しい作品情報はこちら!

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