日本映画専門情報サイト:fjmovie.com

fjmovie.comトップページインタビュー一覧>『怪談新耳袋 異形』井口昇監督インタビュー

『怪談新耳袋 異形』井口昇監督インタビュー

井口昇監督写真 人里離れた旅館で、引っ越してきたばかりのマンションで、住み慣れた家の寝室で、友達と忍び込んだ廃墟で、少女たちは“異形のもの”と出会う――。
 ベストセラーの実話怪談集「新耳袋」を映像化した「怪談新耳袋」シリーズが2年ぶりに劇場のスクリーンに登場します。劇場版最新作となる『怪談新耳袋 異形』は、主演に人気女性アイドルグループのスマイレージを迎え、タイトルのとおり“異形のもの”がもたらす恐怖を4話構成のオムニバス形式で描いていきます。
 監督をつとめたのは、日本だけでなく海外からも熱い注目を集める奇才・井口昇監督。これまでも「怪談新耳袋」テレビシリーズをはじめホラー作品を多く手がけてきた井口監督は“異形のもの”という題材を得て、従来のホラー映画とは一味違った世界を作りあげています。
 “美少女と異形のもの”が生み出す、現代の妖怪譚とも呼ぶべき『怪談新耳袋 異形』。その背後にはなにがあるのか? 井口監督にお話をうかがいました。

井口昇(いぐち・のぼる)監督プロフィール

1969年生まれ、東京都出身。学生時代より映画を制作し『わびしゃび』(1988年)がイメージフォーラムフェスティバル審査員賞を受賞。1998年に『クルシメさん』が劇場公開される。以降『恋する幼虫』(2003年)など続々と作品を発表しカルトな人気を得る。さらに『片腕マシンガール』(2007年)『ロボゲイシャ』(2009年)が海外でヒットを記録し、国外からも注目を集める。原案もつとめた「古代少女ドグちゃん」(2009年・MBS)「古代少女隊ドグーンV」(2010年・MBS)などテレビ作品も多い。また、劇団・大人計画所属の俳優としての顔も持つ。
近作に『富江 アンリミテッド』(2011年)『電人ザボーガー』(2011年)『劇場版 はらぺこヤマガミくん』(2012年)『ゾンビアス』(2012年)『デッド寿司』(公開予定)など。

「いつの間にかできたルールみたいなものを1回壊したい」

―― 井口監督はこれまでもホラー作品をたくさん手がけられていますが、今回『怪談新耳袋 異形』では、どのようなホラー作品を目指されたのでしょうか?

井口:やっぱり、『リング』(1998年/中田秀夫監督)や『呪怨』(オリジナルビデオ版1999年・劇場版2003年/清水崇監督)のような作品があって、日本で“Jホラー”と呼ばれるものがブームとなってから10何年経っていて「怪談新耳袋」も今年で10周年らしいんですよ。だから世の中でJホラーというものはだいたい出尽くしたと思われている中で、ちょっと過剰な作品をやってみたいと思ったんです。いわゆるJホラーというと、幽霊はピントがぼけて画面の隅にチラリと心霊写真のように映らなければならないとか、幽霊は近づいてきても人に直接危害は加えないとか、いつの間にかできたルールみたいなものを1回壊したいというのがあったんです。

―― 今回の『異形』は、いままで日本のホラーで主流となってきたような幽霊や怪奇現象とは種類の違う“怖さ”ですね。

井口:そうなんですよ。たとえば第2話の「赤いひと」には、いわゆるモンスターのようにも見えるキャラクターが出てくるんです。実は原作の「新耳袋」にはそういう話がたくさんあるんですけど、そういう妖怪のような“もの”をストレートに着ぐるみを使って表現したり、幽霊が出てくるときもクローズアップで映したりとか、表現として大胆に行きたいなと思っていました。だから、自分の中ではどの話も過剰さみたいなものを意識して作った感じですね。第1話の「おさよ」でしたら女性のお化けが出てくるんですけど、そのお化けがひとり出てくるだけでは終わらないというような「一粒で2度おいしい」感ですね(笑)。そういうものを出したいなとすごく思っていました。

―― オムニバス4話がどれも“異形のもの”が登場する話になっていて、まさに『異形』というタイトルがピッタリの作品になっていると思いましたが『異形』というタイトルはどの時点で決まったのでしょうか?

『怪談新耳袋 異形』スチール

「赤いひと」より。竹内朱莉(たけうち・あかり)さん演じるアイリに無気味な“赤いひと”が迫る……

井口:実は、ぼくにお声がかかる前にプロデューサーサイドと脚本家の間で、どの話をやるかというのは決まっていたんですね。それで、脚本がある程度かたちになった段階でぼくがお誘いをいただいて「タイトルはどうする?」と言われたときに、ぼくが最初に言ったのが『異形』というタイトルだったんです。やっぱり、脚本を読んだときに思ったのが、今回はいままでの「新耳」と違ってストレートに怪物が出てくる話なんだなと。それは4話ともそうだし、外見もいわゆる人間のお化けというよりは、人形であったり、赤いひとであったり、いわゆる人間のかたちに留まらないものなんだなと思ったので、そこは『異形』というタイトルがピッタリ来るんじゃないかと思ったんですよね。

―― その“異形のもの”を映像化される上で、工夫されたのはどんな部分でしょうか? あるいは苦心された部分は?

井口:会議のときとかに議題になったのは「どこまでをどのように表現するか」ということだったんです。たとえば「赤いひと」であれば、脚本では「赤い異様な姿をした人」としか書かれていないんですよ。じゃあそれをどう表現するかと考えたら、人間の顔を赤く塗ったメイクで表現することもできるし、服で赤を表現するということもできる。どうとでも表現できるんですけど、原作の「新耳袋」を読むと、ゴム人間とかゼリー人間のようなものが出てくるエピソードがけっこう多いんですよね。だから、メイクをした人間を使うのではなくて、着ぐるみを使って表現したほうが面白いんじゃないかと。それはいままで多くのホラー作品のスタッフが避けてきたであろうやり方でしょうし、もしかしたら観ている人に引かれてしまうかもしれないやり方なんですけど、でも、あえてその大胆なやり方でアプローチしたほうがいいんじゃないかと思ってやったんです。「まさか着ぐるみを使うとは」という感じですね(笑)。

―― 特に「赤いひと」では着ぐるみのデザインが重要だったと思うのですが、やはりデザインは相当に検討されたのでしょうか?

井口:そうですね、最初は造形チームも「これはどういうふうにやったらいいっすかね?」と言っていたので、かなり話をしました。ぼくが言ったのは、質感としては昔の円谷プロさんの「ウルトラQ」とか「怪奇大作戦」(※1)に出てきそうな感じがいいんじゃないかと。ただ、ゼリー人間というか液体人間のようにしたかったので「液体感を出してほしい」と言いました。あとは「人間の顔はなくていいんじゃないか」ということですね。こういうのって、ほんとに表現ひとつでギャグになってしまうところもあるので、そうはならないように禍々しさみたいなものを感じさせたかったんです。観ている人に異様さを感じてほしかったので、デザインはかなり試行錯誤しました。

  • ※1:「ウルトラQ」は1966年、「怪奇大作戦」は1968年より放映された円谷プロダクション制作のテレビシリーズ。「ウルトラQ」にはさまざまな怪獣や宇宙人、「怪奇大作戦」には吸血鬼や冷凍人間のような怪人が登場した。井口監督は2012年放送のテレビ番組「ウルトラゾーン」内で「ウルトラQ」の怪獣・宇宙人が登場するミニドラマ「ウルトラゾーンチャンネル」の脚本・演出を手がけている。「ウルトラゾーンチャンネル」には『怪談新耳袋 異形』の脚本家・継田淳氏も脚本・演出で参加している。

「女優さんの資質をうまく活かすのが一番いいと思っているんです」

―― その“異形のもの”に脅える少女たちをスマイレージのみなさんが演じられていますが、スマイレージさんの印象はいかがでしたか?

井口:ほんとに、スマイレージさんのご両親がみなさんぼくより年下だったりするんですよ(笑)。ぼくはいま43歳なんですけど、親御さんは全員ぼくより年下らしいので、学校の先生みたいな気分でしたね(笑)。お父さんになったような気持ちでずっと演出していました。スマイレージのみなさんは演技がほとんど初めての方が多かったので、まずは映り方とか基本的なことから説明したんです。「ホラー映画は、ヒロインが怖がっている姿を見て、観ている人も怖がるんだから、まずその怖がり方を練習しようよ」と言って、絶叫の特訓とかをしました。悲鳴をあげるときって、みんな目をつぶっちゃうんですよね。だから「目を開けたまま悲鳴をあげてくれ」って。これが意外とできないんですよ。あるいは、部屋の中を不安そうに歩く練習もしましたね。これも意外とできないんですよ。みんなわりと小走りに歩いちゃうので「必要以上にゆっくり歩いてくれ」って言ったんです。ぼくは特に動きの速度にこだわってまして、みんな日常の中では怖がることってあまりないので、逃げるときにすごいスピードで逃げようとするんですよ。そうじゃなくて「普通はものすごいスピードで逃げようとするけど、ホラー映画というのは腰が抜けるものなんだ」と(笑)。「腰が抜けてからが勝負なんだ」と説明して「リアリティじゃなくて映像用の怖がり方をしよう」というのをすごく説明しましたね。

―― 4話それぞれで、スマイレージさんおひとりずつの魅力がすごく出ているなと感じました。

井口:ありがとうございます。ぼくは女優さんとお会いするときはいつもそうなんですけど、その女優さんのお人柄をけっこう見るんですよね。やっぱり、映画の演出というのは型にはめすぎると良くなくて、女優さんの資質をうまく活かすのが一番いいと思っているんです。今回だと、スマイレージさんはみなさん個性が違うので、それぞれの役とご本人にあったお芝居の付け方を考えました。コミカルな話もありますし、シュールな話もあるし、王道の話もあって、お芝居のトーンも変えていったほうがいいんじゃないかなと思いましたので、やっぱり人柄ありきでしたね。

―― スマイレージさんを魅力的に見せるために、具体的に工夫された部分はありますか?

『怪談新耳袋 異形』スチール

「和人形」より。田村芽実(たむら・めいみ)さん演じるミサキが見つけた和人形の秘密とは?

井口:やっぱりご本人に会って、お芝居の練習をして「こういう雰囲気の方だったら、こういうセリフの言い方にしようか」とか、そこはご本人にあわせましたね。たとえば第2話だったら、最初はもっとシビアな緊張感のあるエピソードだと思っていたんですけど、竹内(朱莉)さんご本人がすごく愛嬌のある方だったので、追いつめられている状況だけど、その中でもユーモラスなところがあったほうがいいんじゃないかと考え直したりしたんです。竹内さんが逃げながら携帯の充電器を探すところはちょっとコミカルに「充電器、充電器」みたいにやったほうがこの子はあっているんじゃないかなとか。あるいは、第4話の田村(芽実)さんだったら「お父さんに対してこういう口の聞き方をするんじゃないかなあ」とか。特に田村さんのやった役は一番複雑な感情を持つ役だったので、感情的なお芝居を田村さんの力量にうまくあわせていった感じですね。

―― 田村さんのお芝居は拝見していてもすごく印象的だったのですが、田村さんは普段のアイドルの活動だと一番明るくて元気な感じの方なんですよね(笑)。

井口:そうなんですよ。撮影でもカットがかかるとピョンピョン跳ねてニコニコしているようなはっちゃけてる女の子なんですけど、お芝居をさせると一番しっとりとしたお芝居をするんですよね(笑)。そこらへんがすごく面白かったです。

―― 3話の「部屋替え」はコミカルな部分があって、福田花音さんの雰囲気が作品全体を引っ張っているところがあるのかなと思いました。

井口:そうですね。福田さんの話は映画の真ん中になるので、観ている方がホッとする回にしたいなというのがあったんです。コメディに近い回で、福田さんもすごくユーモアのある子なんで、お母さん役のいしのようこさんとの掛け合いもうまく行ったなと思いましたし、うまくやっていただけましたね。

―― 1話の和田彩花さんはほんとに正統派の美少女で、導入としてすごくいいなと思いました。

井口:実は第1話は順撮りで撮影できたので、クランクインの初日が1話の冒頭だったんですよ。だから、たぶん和田さんご本人も緊張していたと思うので“緊張しているデビューしたてのアイドル”という役柄と和田さん本人がうまくシンクロしたところもあって、一種のドキュメントのようなものが撮れたんじゃないかと思いますね(笑)。やっぱり、撮影はひとりずつが多かったのでみんな緊張していたんじゃないかと思いますけど、みなさんすごく真面目に取り組んでいただけたし、すごくやりやすかったですね。

「日本でしかありえない場所の空気感を大事にしたい」

―― 4話それぞれお話のタイプや主人公も違いますが、悲鳴をあげるときはみんな一緒のポーズになりますね(笑)。やはり、あのポーズは相当にこだわられたのでしょうか?(※記事トップの写真は井口監督にそのポーズを実演していただきました!)

井口:そこはけっこう試行錯誤したんですよ(笑)。やっぱり、ホラー映画というのは怖がっている姿も魅力的に見せたいと思いますし、悲鳴をあげているところがかわいく見えるのもホラー映画の醍醐味だと思いますので、最終的に決めたあのポージングが一番よかったんじゃないかと思います(笑)。

―― あの悲鳴のあげ方は、楳図かずお先生のような恐怖漫画とか怪奇漫画を思い出しました。

井口:そうですね、ぼくも楳図先生の作品は何本か映像化させていただいていて(※2)、楳図先生の漫画は手をすごく大事に描かれているんですね。だから「手がどこにあるか」といったようなポージングはすごく映像として重要だなと思っていたので、そこはやっぱり何度も考えましたね。

―― 悲鳴のポーズ以外にも、楳図先生をはじめとする恐怖漫画のようなイメージは作品全体にあるように感じたのですが?

井口:やっぱり、ぼくは『四谷怪談』をはじめとする怪談物みたいな怪奇映画を観て育ち、漫画も楳図先生や古賀新一先生の漫画をすごく読んできましたので、そういうものが自分の無意識の中に自然と刷り込まれているところがあるんですよね。だから「やっぱり日本の美少女ホラーの怖がり方はこれだろう」というのが、自分の中でできているところはありますよね(笑)。

―― たとえば「赤いひと」を見たときに「この嫌な感じと同じようなものを以前に体験しているな」と思ったんですよ。それでいろいろ考えたら、水木しげる先生のすごく精緻な妖怪画を見たときのゾッとする感覚に近いんだなと思ったんです。

井口昇監督写真"

井口:ああ、それはすごく嬉しいですね。やっぱり自分の中でも楳図先生や水木しげる先生の絵のタッチを映像にできるといいなというのはずっと思っていたんです。それは絵だとできることなんですけど、映像では生々しさというのが先に来ちゃうので、なかなか難しいことだったんです。今回の「赤いひと」に関しては一種の妖怪ものにしたかったので、漫画的な表現や劇画的な表現をあえてやりたかったんです。「赤いひと」では着ぐるみを正面からクローズアップで撮っているところがあって、着ぐるみがクローズアップで画面に近づいてきて画面いっぱいになるというのは一歩間違ったらかなりの失笑ものだと思うんですけど、あえてそこに挑戦したいなと。楳図先生の漫画でも、ページを開くと見開きを使ってバーンと強烈な絵が来たりするんですよね。子供のころに読んだそういう漫画的な表現をできたらいいなと昔からずっと思っていたので、そういうのがうまく伝わっていたなら、とても嬉しいですね。

―― もうひとつ4話に共通するものとして、どの話もどこかに日本的なテイストがあるように感じました。それは意識されていたのでしょうか?

井口:やっぱり、今回まず脚本を読んで「どの話も部屋の中で少女が追い詰められていく話なんだな」と思ったときに、部屋の内装はすごく重要だと思ったんですね。同じ部屋だと飽きてくるだろうなと思ったので、4本それぞれ見かけが違うのがいいだろうなと思ったんです。それから「新耳」のよさというのは「日本で起きている怖い話」だというところなんですよね。日本が持つ独特の質感というんですかね、“湿気感”みたいなものが「新耳」の怖さだと思うので、日本でしかありえない場所の空気感を大事にしたいなと思ったんですね。だから第1話は旅館の畳で、第2話は日本らしいマンションで、第3話はいわゆる一軒家で、第4話は廃墟と高級マンションという“日本の部屋の中”ということにはすごくこだわりました。やっぱり、この内容を外国の方が外国で撮ったら全然違うと思うんです。日本の怪談は日本の建物の構造の中で起こるから怖いんですよ。細い廊下が多かったり、部屋がそんなに広くない。あとはふすまとか隠すものが多くて“闇の隙間”が多いのが日本の部屋のイメージなんじゃないかと思うんです。外国の部屋の造りとはだいぶ違うので、そのへんが日本の怪談がほかの国と雰囲気が違うところだと思うんです。だから今回も“THIS IS JAPANESE”にしたいなと思いましたね。

―― では最後に『怪談新耳袋 異形』をご覧になる方へのメッセージをお願いします。

井口:今回の作品はホラーではありますけど、スマイレージさん主演のアイドル映画でもあるので、まず彼女たちの魅力を楽しんでもらえたらそれがいいなと思いますし、いまもお話したように日本のホラーというのはほかの国にはないものですから、日本の怪談ならではの禍々しさみたいなものが伝われば嬉しいですね。あと、ぼくとしてはとにかく映画館で観てほしいですね。映画館のスクリーンという闇の中で観て、一種のイベントとして楽しんでもらえたらいいんじゃないかなと思います。この作品は今年の2月にゆうばりの映画祭(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭)でプレミア上映されたんですけど、そのときに50歳くらいのおじさんが「おおっ!」とか悲鳴をあげてくれたので、それはすごく嬉しかったですね(笑)。やっぱり、みんなで観て、みんなで嫌な気分になったり、みんなで緊張したりするのがホラー映画のよさだという気がするんです(笑)。ちょうど夏休みに上映ですし、ほんとに友達同士や、ご家族連れでぜひ観ていただきたいと思っています。

  • ※2:井口監督が監督した楳図漫画の映画化作品に『楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女』(2005年)『猫目小僧』(2006年)がある。

(2012年7月13日/キングレコードにて収録)

作品スチール

怪談新耳袋 異形

  • 監督:井口昇
  • 出演:スマイレージ ほか

2012年8月11日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次ロードショー

『怪談新耳袋 異形』の詳しい作品情報はこちら!

スポンサーリンク