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『FASHION STORY-Model-』中村さやか監督インタビュー

中村さやか監督写真 モデルとしてなかなかステップアップできず将来に不安を感じる雛子。恋人との関係に揺れるトップモデルのミホ。初めての恋に戸惑うレナ。ファッション雑誌を華やかに彩るモデルたちも、ひとりの女の子として悩みや迷いを抱えている。そして彼女たちは今日もカメラの前に立つ――。
 『FASHION STORY-Model-』は、雛子役の本田翼さん、ミホ役の加賀美セイラさん、レナ役の河北麻友子さんをはじめ、実際に人気ファッション誌で活躍する現役モデルたちがモデルを演じ、モデルたちの日常を描いた青春ストーリー。そして同時に、編集者やカメラマン、メイク、スタイリストなど、雑誌作りに携わる人々の群像劇にもなっています。
 メガホンをとったのは、これが劇場用映画初監督となる中村さやか監督。ドキュメンタリー的な手法も用いて、ファッション誌の世界をリアリティ豊かに描いています。
 登場人物ひとりひとりが魅力的に輝いている『FASHION STORY-Model-』。その輝きの理由がうかがえるような中村監督のインタビューを、どうぞお楽しみください。

中村さやか(なかむら・さやか)監督プロフィール

1978年生まれ、群馬県出身。2001年より助監督として劇映画やテレビドラマの現場に携わる。『三本木農業高校、馬術部』(2008年)『日輪の遺産』(2011年)など、佐々部清監督作品を中心に多くの作品に参加。
近年は「浅丘ルリ子 女優の肖像」(2011年放送/NHK BS)など、テレビドキュメンタリー番組の演出も手がけている。

「なによりも映っている対象が大事。いかにその対象をイキイキ演出できるか」

―― 『FASHION STORY-Model-』は、どのような経緯で監督されることになったのでしょうか?

中村:もともと製作会社のほうで「ファッションモデルの映画を作りたい」という企画があって、女性監督にお願いしたいということだったらしいんですね。それで、プロデューサーの中林(千賀子)さんがオーディションのように何人か女性監督に会って、その中のひとりとして私がいたということですね。

―― 「モデルを主人公とした映画」というのはいろいろなアプローチができると思うのですが、監督はどのような映画にしようと考えられたのでしょうか?

中村:あまり夢物語みたいな映画にはしたくないなと私自身は思っていましたし、私に決まったということはプロデューサーたちにもそういう意向があるんだろうと思ったんです。私は永いこと助監督をしておりまして、社会派の映画を作る監督になっていきたいと思っていましたし、この映画の前に作・演出で舞台をやっているんですよ(2011年公演「階段のある場所」)。それは子供を殺した母親の話で、今回のプロデューサーが何人かその舞台を観にきてくださってるんですね。その上で私に決まったので、すごく甘々な映画にはしなくていいんだなと(笑)。もちろん「さわやかな青春ストーリーにしてほしい」という要望はありましたけど「彼女たちの等身大の話を作ってください」ということだったので、それなら私にできるかなと思ったんです。

―― 出演者の方々からモデルの仕事での実体験を聞いてシナリオに取り入れられたそうですが、それはやはり等身大を描く上でこだわられた部分なのですか?

『FASHION STORY-Model-』スチール

『FASHION STORY-Model-』より。本田翼さん演じる雛子(左)は、加賀美セイラさん演じるトップモデルのミホとコンビを組むことに――

中村:そうですね。私が入った段階でいくつかプロット(あらすじ)ができていたんですが、それがちょっとリアリティが足りないというか、このまま映画にしたら、私が観たい映画はできないなと思ったんです。私は映画が好きで映画の世界に入ったので、自分が観たいと思うものを作らなくてはお客さんに失礼だと思いますし、たぶんこの映画を観にくるのは出演者の彼女たちのファンで、10代や20代の子たちがお小づかいだったりアルバイトで貯めたお金の中から千何百円を持って観にくるわけですから、それに値する作品にしなければというのがまずあったんです。だとしたら、きれいな彼女たちは雑誌の写真でも見られるわけですから、彼女たちの内側がわかるような話にしたほうがファンの子たちへのプレゼントになるだろうと。私が彼女たちのファンならそういう映画が観たいですし。とは言っても、ドロドロした感じになるとそれも非現実的だと思うんですよね。やっぱり彼女たちは中身は普通の女の子なので、その普通の感じを映画でやろうと。「みんなと同じなんだよ」というのを見せて、そして最後にさわやかな感じで映画館を出られるような映画になればいいなと思っていて、そのためには彼女たちの実際の体験を入れていきたいなと思ったんです。

―― 映画の中での登場人物のインタビューシーンはほんとにテレビドキュメントのような撮り方で、撮影現場のシーンでは手持ちカメラで動きも多かったり、主人公の雛子の感情を描くようなシーンではフィックスのカメラでじっくり撮ったり、カメラワークをかなり場面によって大胆に使い分けている印象を受けました。

中村:私は一昨年くらいから何本かテレビドキュメンタリーの仕事をさせていただいていて、今回のお話をいただいたときにドキュメンタリーの手法を使おうと思いついて、プロデューサーも「それ面白いんじゃない?」って乗ってくれたんです。だから、カメラマンも青木淳二という私がNHKのドキュメント番組の仕事でいつも一緒にやっているドキュメンタリー育ちのカメラマンなんです。ほんとに生の表情を撮ってほしかったんですよ。基本的には私が動きを付けて、寄ってほしいポイントだけ説明はするんですけど、あとは彼に任せているんです。手持ちのときに急にサイズがグッと寄ったりするのはほんとに青木の感性ですね。それで、その感じにプラスして、雛子がひとりでいるところとかは映画的に撮りたいと思ったので、そこは「こういうアングルでこういう画でお願いします」と言って、青木さんにがんばってもらって(笑)。そのほうがお客さんが飽きないんじゃないかと思ったんですね。それと、撮影期間が短くて、現場のシーンなんかは一気に十何人とか出るので、もう全部本番でやろうと。とにかく彼女たちがスタジオに入ってきた瞬間からカメラを回すと最初から言ってあったんです。実はカメラも複数台あるんですよ。ほかのカメラマンもいたり、私のiPhoneで撮ったりとかして、基本的にはどこでも撮っています。彼女たちのパワーみたいなものとか、イキイキした感じを表現したかったんですね。この映画はあまり大きな事件が起こるストーリーではないので、いかに彼女たちのキラキラしたところを撮れるかということを常に心がけた撮影方法を選んだという感じですね。

―― iPhoneで撮った映像というのは、完成した映画にも使われているんですか?

中村:入ってますよ。あと、DVD用にメイキングを撮っているカメラの映像なんかもお願いして使わせてもらっています。私はドキュメンタリーを通して、すごくきれいな画じゃなくても熱が伝わったりするということを知ったんですよ。ドキュメンタリーってほんとに生ですからカメラがいいところに入ったりできないんですよね。カメラが追っていったら手前で物事が起きたりするから、大体、裏なんですよ(笑)。だけど、どんなにアングルが悪かったとしても感動するときって感動するんですよね。声とかその場の空気が感動させるというか、そういうことをドキュメンタリーを通して教わったんです。だから、なによりも映っている対象が大事なんだと。いかにその対象をイキイキ演出できるかということに力点を置いていて、あとは青木さんに「いつもと同じだから、ついてきてくれればいいから」って言って(笑)。

―― iPhoneのような機材で、劇場での上映に耐えられる映像が撮れるようになったというのは大きいですね。

中村:大きいですね。カメラが軽量化して、安くなって、簡単にハイビジョン画質が撮れるっていうのはやっぱり大きいですよね。それで操作は簡単でカメラマンじゃなくても回せるっていう。やっぱり、映画的な美しい画を撮るには難しいところがあるので、こういう作品だからこそ活かせるんじゃないかなって。ちょっと荒れた感じもいいんじゃないか、ちょっとフォーカスの合ってない感じもいいんじゃないか、それよりも勢いで押してしまおうという、そういう映画が観たいなというのが自分の中にあったんですね。

「オーディションのポイントはいかに私の声が届くか。そういう子たちを選んだんです」

―― モデル役のみなさんは、全員オーディションで決まったそうですね。

中村:はい、そうです。

―― メインキャストの3人についてお話をうかがわせていただきたいと思うのですが、まず雛子役の本田翼さんの印象はいかがでしょう?

中村:私は「non-no」を見ていて彼女のことは知ってたんです。それで、オーディションをやると決まったときに「この子、なんか雛子っぽいよね」とプロデューサーに言ったら「あれ? この子、オーディションの資料来てるよ」ということだったので、ぜひ会ってみたいと思って。彼女に関しては、入ってきた瞬間「あ、やっぱり雛子だ」と思いました。私が写真で見て想像していたイメージと変わらないままで彼女がいたんです。オーディションは去年なんですけど、そのときの彼女の「これから」っていう原石みたいな感じが雛子っぽかったし、こんなにかわいいのにまだ自分に自信がなくて、自分が芸能界という中でどうなっていくのか不安な感じとかが、すごく雛子と同じだと思ったんですよね。なので、すぐ「彼女が雛子だ」って決まりでした。
 これは3人全員に言えるんですけど、ひじょうに懸命に取り組んでくれたんですね。ワークショップをしたりとか、3人とは私が無理を言って、ノートを渡して交換日記をさせてもらったりしたんです。ほんとに、みんなまだまだお芝居の経験が浅くて、だけれどこれからがんばろうとしている子たちなので、そういう子たちを選んだんです。3人だけじゃなくてほかのモデルの子もそうなんですけど、オーディションのポイントはいかに私の声が届くかだったんです。自分の中で「自分はこうだ」と覆われている子ではなくて、ちゃんと打ったら響いてくれるかどうかをポイントに選んだんですけど、それは3人ともすごく共通していて、こっちが言ったことをスッと理解してくれたりとか、ボールを投げたらすごく快音を響かせて返してくれるタイプの3人ですね。

―― ミホ役の加賀美セイラさんは、カメラマンの宅間との関係に悩むという役柄で、役を作っていくという部分が大きかったのかなと思うのですが、実際はいかがだったのでしょうか?

中村:彼女自身が、ミホというキャラクターと同じようにモデルを永くやっていて、そしてこれから女優さんとして次に行きたいと思っている子だったんですよね。その設定が見事に合致していたので選んだというのもあるんですけど、リアルな彼女はもっとポジティブで明るい子なんですよ。それで、彼女はミホとして交換日記をしてくれたんですね。交換日記の回数も一番多かったんですけど、ミホとして書いてもらっていたんですよ。おっしゃったように、たぶん彼女が一番お芝居が大変だったので、交換日記を書くことでプライベートでもミホになろうとしてくれたんです。そうやって、ミホがモデルになったきっかけとか、家族構成とか、子供のころに楽しかった思い出やつらかった思い出、それからなぜ相手が宅間なのかとか、そういうことをミホとして書いてくれたんです。彼女はすごくって、私が交換日記に返信して渡すとすぐ帰ってくるんですよね。それで1回の文章がものすごく長くて何ページにも及ぶんです。ほんとに熱心にミホちゃんになろうとしてくれて、まさに懸命に取り組んでくれました。

―― レナ役の河北麻友子さんは、メンズモデルの光一郎に恋するという役で、雛子とミホとはちょっと映画の中の位置が違っているように感じました。

『FASHION STORY-Model-』スチール

『FASHION STORY-Model-』より。河北麻友子さん演じるレナ(右)はメンズモデルの光一郎に恋をする

中村:雛子とミホって映画の中でけっこう悩んでいる部分が多いので、キラキラした部分を一番担うのがレナになってると思うんですよ。私の中ではレナはキラキラ担当だったんです(笑)。やっぱり、人を好きになるって大体は10代のうちに通ることなんですけど、実は私の周りにいる新人女優たちを見てると、奥手で全然恋ができない子と、すごい早い子に二極化しているんですよね。すっごいかわいいのに「私、25歳なんですけど1回も恋愛したことありません」という子がけっこういるし、一方で「13歳のときから彼氏いますよ」みたいな子も全然いるんです。いまの時代性なのかもしれないけど、自分に自信がなくて「私なんか迷惑だと思うし」みたいな臆病な子が多いような気がして、そういう悩みというのも入れたかったんですよね。河北さんはアメリカで育った方ですし、普段からすごく元気で明るくて、だけどすごくピュアな方なんです。その感じがすごくいいなと思って、キラキラしてるのに好きになった男の子になに言っていいかわからないみたいなリアリティがあるなと思ったんですよね。彼女もこういう役をやるのが初めてだったようで、すごい緊張していたんですけど、やっぱり交換日記でいろいろなことを書いてもらいました。その中で「なんで光一郎を好きになったのか?」ということがあって、レナはモデルだからカッコいい男の子にはたくさん会ってるけど、自分と同じようなピュアさを光一郎に感じたんじゃないかというところで私と彼女で意見が一致して、そこはよかったですね。
 実は、光一郎のオーディションが一番難航したんですよ。来てくれる子がみんなカッコよすぎて「これじゃダメだ!」って(笑)。それで、小柳友くんに出会ってようやく決まったんですけど、小柳くんはちょっと朴訥としてて、こう言うと失礼かもしれないけど、映画の中でひとり昭和っぽいと思うんですよ(笑)。でも、だからレナが好きになるんだろうって。小柳友だから、いままで恋愛したことのない女の子が好きになる相手を表現できると思ったんです。

―― 3人以外のキャストでは、雛子のモデル仲間のありさ役の長渕文音さんと、スタイリスト助手の梨乃役の森田彩華さんは、監督が助監督をつとめていらした『三本木農業高校、馬術部』(2008年/佐々部清監督)に出演されていて、以前からご縁のあるおふたりですね。

中村:そうなんです。だから彼女たちが10代のときからですね。私は『三本木農業高校、馬術部』のときはセカンド助監督をしていて、彼女たちの馬術の練習とか演技のワークショップとかもずっと私が担当していたんです。文音とはインする10ヶ月くらい前からやっていて、撮影もほぼ1年ですから、2年くらい一緒にやっていたんです。ちょっとした学校を卒業したみたいな気分ですね(笑)。だから私は彼女たちのことをこよなく愛していますし、心配でもあるという親心もあったりしつつ、その後もずっと交流があるんです。それで、私が監督デビューするんだったらぜひ出たいと言ってくれて、私もふたりにこの役をやってもらえたら安心だなって思ってたんです。私も初監督ですから、ちょっと安心させてほしいというのがあって(笑)。やっぱり、翼が映画の中で立つためには、相手がしっかりしていないと立たないんですよね。だからありさは絶対に文音にやってほしいと思ったのと、梨乃もすっごい難しい役なんですよ。要するに腕が必要な役なので、さすがに新人だと無理だろうから彩華にやってほしいと思ったんです。とは言っても、ふたりともオーディションから受けてくれたんです。私はいいんですけど、ほかの人たちはふたりを知りませんから、了承を得ようと思いましてね。それで「どう? こんだけできるからいいでしょ?」っていう感じでしたね(笑)。

「私はそんなに悪い人に会ったことないんです。だから悪い人を出すとリアリティないなと思って」

―― 『FASHION STORY-Model-』は、メインの登場人物だけでなく、脇のキャラクターがすごく魅力的に描かれていると思いました。特に印象に残るのが須賀貴匡さんが演じたメイクのアンディ(安藤)なのですが、あのキャラクターはどのように生まれたのでしょうか?(笑)

中村:アンディに関して言うと、ホン作りの段階で私と脚本家の金杉(弘子)さんとでいろいろな雑誌の撮影現場を見させていただいたんです。そのときにアンディっぽい方がいたというのが大きいですね(笑)。メイクやスタイリストや写真家や、編集者の方にもああいうおネエ言葉の方がいて、その感じをやりたいなと思ったんです。それで、須賀さん自身も現場に行ってそういう方たちに会っていただいたりとか、ほかのスタッフ役の方もそうなんですけど、役が決まってから改めて雑誌の現場を見にいってもらったんですね。実際にメイクさんのところにメイクを習いに行ったりとか。須賀さんはほんとに作ってきてくれて、ただ、あんまり大げさにやるとそこに目が行っちゃうので、それはそれでリアルじゃないんですよね。そこは「このくらいで行こう」と須賀さんと何回かお話をしました。須賀さんも楽しんでやってくれて、衣装合わせの前に自分でメガネかけてストール巻いて「こんな感じでどうですか?」って写メを送ってきたりして(笑)。撮影現場でも、モデルの子たちはもう「須賀さん」じゃなく「アンディさん」って言ってて「アンディさん超リアルなんですけど!」って盛りあがってました(笑)。

―― アンディは、うしろのほうでチョコチョコとほかの登場人物と面白いセリフのやり取りをしていますよね(笑)。

中村:ああ、嬉しいですね(笑)。私は今回、オフゼリフにものすごい力を入れていたんですよ(笑)。なので、そこに気づいてもらえるとほんとに嬉しいです(笑)。

―― そのアンディのセリフも含めて、編集部員やスタイリストや、もちろん中心となるモデルたちといった登場人物のセリフとかやりとりがすごくリアリティがあって、ほんとに映画の中に生きた人たちがいるという感じで印象に残りました。あの感じはどのように作り上げていったものなのでしょうか?

中村さやか監督写真"

中村:まず前提として、さっきもお話ししたように、私たちが徹底的に取材をしていて、俳優部のみなさんにも雑誌の現場を見にいっていただきました。かつ、編集部員役の子ふたりはモデルなんですよ。樋場早紀とティアラというふたりは主演の3人よりもキャリアの長いベテランのモデルなので、編集部のことは私たちよりもわかってるんです。だから、彼女たちならばいけると思ってキャスティングしているんです。
 あと、細かいやりとりに関しては、普通は誰かがセリフを言い終わってから次の人がセリフを言うというルールがありますよね。「それをやめよう」という話をワークショップでしたんです。日常では相手が喋ってる途中で「あ、はいはい」とかあるじゃないですか。「その自然な反応をしよう」と。台本は設計図なんだから、相槌を打ってもいいし、書いてるセリフの語尾が言いにくかったら変えてもいいし、たとえばみんなが同時に喋っても構わないと言ったんです。セリフを録る録音部には申し訳ないことをしたんですけど(笑)。それから「“つながり”なんかは気にしなくていい」と言ったんです。それは私が助監督をやっていたときにずっと思っていたことで、つながりを気にしすぎるとテンションが落ちるんですよ。今回はテンションを大事にしようと思ったので、映画が初めての子たちにもつながりは教えなかったです(笑)。須賀くんなんかは「つながり気にしないでいいんですか? 相手のセリフに噛んじゃっていいんですか?」と面白がってくれましたし、宅間役の伊藤洋三郎さんは長くやっていらっしゃる方ですから、そういうところをすごく気にされるんですけど「気にしないでどんどん行っちゃってください」とお話ししたんです。どんどん行って、キーになるセリフを間違えたりしたらもう1回本番をやればいいんだから、それよりどうテンションを落とさないかということに気をつけていました。今回の撮影期間中はテストをやらずに全部本番だったんです。テストがないと、誰がどう口を挟んでくるか、それにどう返すかもわからないので、そのドキドキ感も含めて撮りたいと思ったんですね。「あなたは台本を読んでいるから相手がなにを言うか知っているけど、雛子は知らないし、お客さんもわからないのよ」という話を全員にして、それを徹底してみんながんばってくれました。だから、そこが印象に残ったと言っていただけるのは、とても嬉しいです。

―― この映画って、モデルの映画であると同時に雑誌を作る人たちの物語でもありますよね。出演者のモデルさんたちの体験談が入っているように、雑誌と映画との違いはありますが、監督がいままで現場でご覧になってきたこととか、あとは監督ご自身の体験も入っているのではないかと思ったのですが?

中村:そうですね、スタッフ周りについてはかなり入っています。メイクさんが女優さんに対しては優しいんだけど助手に対して厳しいとか、私は助監督で見ていて「うわ、こええ」とか思ってましたし(笑)。それってすごく面白いからやりたいなと思ったし、だからかなり入っていますね。助監督としての私の経験も如実に入ってます(笑)。

―― それから、この映画って悪人がひとりも出てこないですよね。これがハリウッド映画でモデルが主人公だったら、絶対に意地悪なライバルがいたりとか、恋の相手がひどい男だとかがあると思うのですが、この映画は気持ちのすれ違いみたいなものはあっても、ほんとに悪い人っていないですよね。

中村:私はそんなに悪い人に会ったことないんですよ。だから、悪い人を出すとそれこそリアリティないなと思っちゃって。たとえば、映画の中の宅間の行動にしても絶対に理由はあるんですよね、それを描いてはいないですけど。それに、ミホが惚れる相手ですから「相手が悪い男でそんな男に惚れるなんてバカじゃない?」みたいなのは嫌だし、絶対にやりたくなかった。やっぱり私は、それよりもなにか懸命にやっている子たちを撮りたいと思ったんです。……なんて言うんですかね、私もウマのあわない人はいますし、まあ、嫌いな人もいます。だけど、その人が悪人かというと、そうではないと思うんですね。みんなそれなりの事情があると思うし、私の生活範囲にはそこまでの悪人っていないんですよ。「どうでしょう、みなさんもそうじゃないでしょうか?」って。やっぱり、リアリティがなくなっちゃって嫌だなというのは一番の理由ですね。

―― いまって、世の中に悪い人とか嫌な人がたくさんいるよって話ばかりがあふれている気がするんですよね。でも、そんな話ばかりしてたら若い人が社会に出るってことに希望を持てなくて当たり前じゃないって思うんです。そういう中で『FASHION STORY-Model-』は、たしかに世の中って嫌なこともあるし楽ではないけど、でもそんなに悪いものでもないよって、特に若い子たちに向けてエールを送るみたいな映画になっていると思いました。

中村:ありがとうございます。ほんとにおっしゃられたとおりで、そういう気持ちはあります。もちろん、私もいままでの人生の中で傷ついたり裏切られたり、ほかの方たちが経るような人生を経ておりますし、もう生きていけないと思って、自分で死のうと思ったことも何度もあります。とは言っても、愛する人も多いですし……やっぱり「生きていく」ということの中で、懸命にやる姿というのが美しいと思うんですよね。どんなことでも結果が求められたりしますけど、でも懸命にやることが美しいと私は思いますし、そういう気持ちが出ているんだろうなと思います。

―― それでは最後に、映画をご覧になる方に向けてメッセージをお願いします。

中村:モデルの子たちが実際に映画の撮影という未知の体験に取り組んだ姿が、たぶん役柄にすごくマッチして彼女たちの懸命さが役の懸命さとして映っていると思うんですよね。すごくいい作用をしてくれてると思っていますし、ぜひ彼女たちの姿を見てほしいです。かつ、私はこの映画を雑誌業界の人物観察映画という意味合いでも作ったつもりなんです。編集者だったり、スタイリストだったり、メイクだったり、みんながいてひとつのものが成り立っているというふうに描いたつもりでいます。もちろん、10代20代の方に向けた企画ではありますけど、そういう人物観察映画として細かいところまで作ってありますので、ぜひ映画好きの方にも観ていただきたいと思っております。

(2012年10月19日/ユナイテッドエンタテインメントにて収録)

作品スチール

FASHION STORY-Model-

  • 監督:中村さやか
  • 出演:本田翼 加賀美セイラ 河北麻友子 ほか

2012年11月17日(土)よりシネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー

『FASHION STORY-Model-』の詳しい作品情報はこちら!

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