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『シネマ☆インパクト 第3弾/集まった人たち』いまおかしんじ監督インタビュー

いまおかしんじ監督写真 第一線で活躍する監督が講師となり、受講生とともに2週間の限られた期間で1本の作品を完成させる実践的映画塾『シネマ☆インパクト』。山本政志監督のプロデュースにより2012年にスタートした『シネマ☆インパクト』は、3期にわたり各期5本ずつ、計15本の作品を生み出しました。
 2012年度の『シネマ☆インパクト』の締めくくりを飾る『シネマ☆インパクト 第3弾』に参加した5人の監督のひとりは、男女の関係を独特のタッチで描き幅広い映画ファンの支持を集める、いまおかしんじ監督。いまおか監督は『シネマ☆インパクト』という場を得て、男女関係の悩みを抱える20人近い登場人物ひとりひとりの物語が鎖をつなぐように連鎖していく62分の群像劇『集まった人たち』を完成させました。
 いまおか監督と受講生という“集まった人たち”は、どのような2週間を過ごしたのか? そしていまおか監督にとっての『シネマ☆インパクト』とは? お話をうかがいました。

いまおかしんじ監督プロフィール

1965年生まれ、大阪府出身。シナリオライターを目指し大学中退後に獅子プロダクションに入社。助監督として瀬々敬久監督、佐藤寿保監督の作品や神代辰巳監督『インモラル 淫らな関係』(1995年)などに参加。1995年に『獣たちの性宴』で監督デビュー(“今岡信治”名義)し、以降ピンク映画を中心に活躍する。第17回ピンク大賞で作品部門1位・監督賞など4賞を獲得し海外の映画祭にも出品された『たまもの』(2004年)ほか、一般公開された作品も多い。
近作に『若きロッテちゃんの悩み』『UNDER WATER LOVE 〜おんなの河童』(2011年)『百日のセツナ 禁断の恋』(2012年)『星の長い一日』(2013年)など。山下敦弘監督作品『苦役列車』(2012年)では脚本を担当。

「初日は真っ白けで行ったんです。2週間どういうふうにやるか全然考えてなかった」

―― いまおか監督は、今回の『シネマ☆インパクト 第3弾』で『集まった人たち』を監督される以前に『第1弾』で山本政志監督の『アルクニ物語』に出演者として参加されていますね。

いまおか:最初は出演の予定はなかったんですよね(笑)。もともと山本さんから電話があって「今度『シネマ☆インパクト』というのをやるから、第何弾になるかはわからないけど参加してよ」って言われて「あ、はい、わかりました」みたいな感じで、何回か事務所に行って話をしたりとかしていたんですよ。そしたら、またいきなり電話かかってきて「何日から何日まで暇か?」とか言われて「あ、はい、空いてます」「じゃあ、いい役だから出ろ!」みたいな(笑)。「でも、ぼくセリフとか喋れませんよ」と言ったんですけど「そんな大したセリフねえから!」と言われて、出ることになったんですよね。で、ホン(脚本)をいただいたら、役名が「鈴木卓爾」って書いてあって「あれっ?」みたいな(笑)。「卓爾さん(※1)が出られなくなったからか!」って(笑)。

―― では、ご自分が監督なさる際の参考のために参加したというわけではなかったんですか。

いまおか:違う違う(笑)。たぶん、受講生の中には年齢的にあう人がいなかったんじゃないかなと思うんですよ。それで卓爾さんが出られないんで急遽呼ばれたってことだったと思うんですけど(笑)。

―― 出演者として参加されていかがでしたか?

いまおか:ほかの監督はみんな2週間かけてるんだけど、山本さんのクラスだけやり方が違って、そんなに長くやってないんだよね(笑)。だから俺は衣裳合わせに行って、次はもう現場だったのかな。で、すごいきめ細やかなんですよ、山本さんの演出が。俺、山本さんがそんな人だと思ってなくて、もっと大雑把でガーッて勢いのある感じなのかと思ってたら、衣裳も、美術も、それから芝居も、ひとつひとつすごい丁寧なんですよね。普通に役者扱いしてくれて、いままでエキストラ程度では出たことあるんですけど、こんなちゃんとした役は初めてだったし、すごく面白かったです。できあがった作品を観たら「自分はこんなとぼけたオッサンだったのか」とショックでしたけど(笑)。自分ではもうちょっと普通の芝居をしてるつもりだったんだけど、とぼけてるなって(笑)。

―― そして今回は『集まった人たち』で監督をされたわけですが、受講生の方々との2週間はどのように進められたのでしょうか?

『集まった人たち』スチール

『集まった人たち』より。女医のもとを訪れた患者、その患者は……

いまおか:最終的に1本撮らなくちゃいけないのは決まってるんだけど、どういうものを作ったらいいか全然浮かばないで、とりあえず受講生のみんなの顔を見ながら考えようと思って、初日はもう真っ白けで行ったんです。2週間をどういうふうにやるかも全然考えてなかったんですよ。しかも、俺はワークショップとかやったことなくてやり方がわからないから「みんな最初ってどうしてんの?」って受講生に聞いたんです(笑)。そしたら、橋口さん(※2)はワークショップの最初に「ねるとん」みたいにカップルを作らせるっていうんで「じゃあ俺もそれやろう」って。それで「ねるとん」をして、チームを作って、みんなに一発芸をやらせてみたりとか、そういう「はじめまして」的な初日があって、それからはその作ったチームで芝居を考えてもらって、それに対して「じゃあ次は別なネタで」というふうに、コント作りではないですけど1週間はそういうことをやっていったんです。その中から使えるエピソードを拾い出していって、ふたりの人が会って、そのうちのひとりがまた別の人と会って、次はまた別の人と会って、というチェーン方式みたいな構成は1週間くらい経ってから考えましたね。それを1日でシナリオ書いて、2週目はシナリオを元にもう1回エチュードをやって、3日間の現場で撮影したって感じですよね。

―― では、事前の構想はなくて、受講生の方たちと作り上げた感じですか?

いまおか:そうですね。あと、やっぱりバラバラにやってもしょうがないんで、一本通ったテーマというか、なにかひとつのことにまつわる話にしたほうがいいと思ってたんですよ。それで「なににまつわる話にしようかな?」と考えて、ぼくはその当時「セックスがしたくてもできない人たちの話」というのをすごく考えていたんで、それがいいんじゃないかと思って、それを仮のテーマにして作っていった感じですね。

―― 大勢の登場人物が連鎖していくシナリオを1日で書かれたというのはすごいですね。

いまおか:いや、自分でも自分を褒めたいくらいですよ(笑)。とにかく、2週間のうちにその1日しか空いてないんですよ。だから、その日に書いてしまわないと撮影する場所も探せないし。まあなんとなく当てをつけてはあったけど、もう1日でやらざるを得なかったんですよ(笑)。

  • ※1:映画監督・脚本家・俳優の鈴木卓爾氏。『シネマ☆インパクト』では『第1弾』に参加し、3.11をモチーフにした群像劇『ポッポー町の人々』を監督している。
  • ※2:映画監督の橋口亮輔氏。『シネマ☆インパクト』では『第2弾』に参加し、自身の戯曲を映画化した『サンライズ・サンセット』を監督。

「頭の片隅に“インパクトのあることしなきゃいけねえな”っていうのがずっとあるんですよね(笑)」

―― 『集まった人たち』は、主人公がいて脇役がいるというよりは、登場人物全員にそれぞれ見せ場があるという構成ですね。

いまおか:まあ、主人公がいてサブがいてみたいなのは、普通にいわゆる仕事として商業映画をやるときにそういう作り方をしているので、今回はせっかくこういう機会なんで、そうじゃない方向性にしようと思ったのと、これだけ受講生がいるんだからそこから選んで使うのはもったいねえなあと思って。マンパワーじゃないですけど、とりあえず「これだけ人数いるんだからみんな出ようよ」って。タイトルのとおり『集まった人たち』でなんかやれればいいなっていうことですよね。

―― 20人くらいの登場人物ひとりひとりに印象に残るようなキャラクターを付けていくのは大変だったのではないでしょうか?

いまおか:いや、だけど最初の1週間でやっていたことをもとにしているんで、なんとなくその人たちの感じというのはわかっていましたからね。ゼロから考えるんじゃなかったから、キャラクターは掴みやすかったです。

―― 作品を拝見して、場面が変わるとひとりの登場人物の別の面が見えてくるなと感じたのですが、それは意図はされていたのでしょうか?

『集まった人たち』予告編

いまおか:していましたね。「表と裏」みたいなことは現場でも言っていました。それがうまくいったところといってないところはあるんですけど(笑)、意図としては、まさにそういうのがあるとキャラクターが膨らむ気がしていたんですよね。

―― あと、登場人物同士が口論になると、わりと「死んじゃえ」みたいな言葉がよく出てきたような印象があったのですが。

いまおか:それは意図はしていなかったんですけどね。ただ、衝突して新しいものが見えるみたいなものはあるので、シーンの中でどこかしら衝突させたいなというのはあったんです。この作品は全体としてはわりと平板な構成になっているんで、ワンシーンの中で起伏を作っていきたかったし、そこでやっぱり、そういう強い言葉が出るというふうになっていったとは思いますね。

―― 60分強の作品を3日で撮影されるというのは、現場的にはいかがでしょうか?

いまおか:大変っちゃ大変なんですけど、まあ普段のペースはペースなんですよね。普段も低予算で3日4日で撮るってことが多いので、そういう意味では、徹夜したとか、そういう大変さはそんなになかったんですけどね。ただ、普通は主人公がひとりいると1日目、2日目、3日目でだんだん気持ちが入っていくとか、よくなっていくというようなやり方ができるんですけど、これは3日ともワンシーンワンシーン全部主人公が違うみたいな感じなんで、そこは疲れましたね。すべてのシーン一生懸命エネルギーを注がなきゃならないから(笑)。

―― 監督が普段やられている、いわゆるプロの俳優さんたちのいる現場との違いを感じられた部分はありますか?

いまおか:うーん……。うまい下手じゃなくて、その人が持っている面白いところとかは、プロでも素人でもどこかしらあると思うんですよね。それがタイミングやらその日の体調やら相手との相性やら、いろんなことで出なかったり出たりするんで、プロの人はどんな状態でもそれが出るように自分でコントロールできるんですよね。たとえば監督の言うことを聞かないとか(笑)、あるいは「テストをしないで本番をやってくれ」とか。受講生はみんなそれをしないというか、できないから、真っ白けでこっちの言うことを素直に聞くみたいなところはあったので、やっぱりそこはどうやって引き出すかは考えましたね。

―― 俳優さん以外の部分も含めてのほかの現場との違いという面ではいかがでしょうか?

いまおか:なんか頭の片隅に「『シネマ☆インパクト』だからインパクトのあることしなきゃいけねえな」っていうのがずっとあるんですよね(笑)。そこが違ったかな。普通の商業的な作品だと「あんまりインパクトのあることするな」とか言われることもあるんだよね(笑)。「もう少し泣ける話を」とか「ハートウォーミングなことを」とか。だからそういうのは別にいらなくて、いるのはインパクトのほうだなっていうのがあったんで、そこは面白かったですけどね、規制があまりないと言うか。

―― その「インパクト」のために特に実践されたことはあるのでしょうか?

いまおか:ラストシーンを、ゲリラというか撮影をしちゃいけないところにみんなでバーって行ってやっちゃえみたいなことを考えていたんですよ。最初は新宿の紀伊國屋書店の前の歩行者天国にいきなり撮影隊が来て大騒ぎして、みんなが眉をひそめて見るみたいなのを含めて撮ろうと思ったら、雨が降って歩行者天国が中止になったんですよ。でもその日に撮らなきゃいけないんで、ちょっと移動して、西口の大ガードの近くにわりと大きな歩道橋があって、そこもけっこう人通りが多いんで、そこでやったんですけど、人がいっぱいいるんでうまくいかないんですよ。で、3回か4回やっていたら、近くに警察署があるんですけど、なんか「撮影で裸になっている人がいる」とか通報が入ったらしくて警察が来て、そこもダメになって、最終的に映画の中に出てくる公園みたいなところでやったんですけどね。インパクトのあることをと思ったんですけど、なかなか難しかったですね(笑)。まあ、インパクトのあることで「外で裸で」って単純だけどね(笑)。

「実験精神みたいなことはつねに持っておかないとよくないなと思う」

―― 今回のようにいろいろな監督が参加される企画では、ほかの監督のやられていることは気になるものなのでしょうか?

いまおか:いや、気になりますよ。なんかね「あっちは面白かったけどこっちは」とか比べられるじゃないですか(笑)。すごく緊張しますよ、それは。

―― 作品を作られているときは、ほかの監督がどういうことをやっているかは伝わってくるのですか?

いまおか:なんとなくは聞こえてきますけど、でもそんなにはね。まあ、受講生はほかの監督ともやってる人がいるから「ここのシーンまったく同じですよ」とか言われると「あ、それはやめよう」ってなるのはありますけど(笑)。ちゃんとわかるのは試写で観たときですね。

―― 実際にほかの監督の作品もご覧になってどのように感じられましたか?

いまおかしんじ監督写真

いまおか:みんなよく考えているなって。攻め方というか、どういうものをやるかっていうことをですね。『第1弾』はたまたまみんな3.11についてだったりとか、『第2弾』はけっこうパロディみたいな、フェイク・ドキュメンタリーだったりとか、やっぱり、こういう2週間くらいでやって撮影を3日くらいでやるってことに対しての、内容もそうだけど方法論とかをみんな考えているなと思って。俺も考えたんだけど、なんにも思いつかずにスタートしちゃったんだよね(笑)。やっぱり特色あると思いますよ。なかなかほかの短編映画祭では見られない感じがすると思うんですけどね。

―― こうして作品作りを終えられた時点で『シネマ☆インパクト』を振り返ってみて、どんな感想をお持ちですか?

いまおか:なにをどういうふうに撮るかみたいなことはわりと自由というか、インパクトを持ってやればいいと思うんだけど、ちょっと窮屈かなって思うのは、ワークショップの形式をとっているということが、いい点もあるんですけど、そこの枠の中でしかやれないっていう限界もあると思うんですね。ただ、その限界はあるけど、その中でその形式を活かした方法で撮ったほうがいいんじゃないかと思ったんですけどね。

―― 今回の『シネマ☆インパクト』から刺激を受けられたところや、今後の作品作りに影響しそうな部分はありますか?

いまおか:やっぱりありますよ。なんて言うんですかね、実験精神というか、そういうことはどこでもなんかしら発揮しないと新しい感じがしないというか。たまたま今回はこういう形式だからそうするしかなかったんだけど、そういう実験精神みたいなことはつねに持っておかないとよくないなと思うんですね。

―― では最後に『シネマ☆インパクト』をご覧になる方へのメッセージをお願いします。

いまおか:面白いなと思うのは、2本ずつ上映されるから、それぞれの監督がバトルっぽい、プロレスっぽい雰囲気があるんですよね(笑)。だから、観に来るとそういう盛り上がりを感じると思うんですよ。みんな出て行くときに「どっちが面白かった」という話になるんで、こっちも緊張感はあるんですけど、観に来た人もそういう感じはあるんじゃないかなと思うんですよね。それを楽しんでもらえればいいかなと思います。

(2013年3月19日/シネマ☆インパクト事務所にて収録)

作品スチール

シネマ☆インパクト 第3弾

  • 監督:熊切和嘉/いまおかしんじ/大根仁/廣木隆一/山本政志

2013年3月30日(土)より4月19日(金)までオーディトリウム渋谷にて上映(5作品を3プログラムで上映)

『シネマ☆インパクト 第3弾』の詳しい作品情報はこちら!

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