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『女の子よ死体と踊れ』朝倉加葉子監督インタビュー

インタビュー写真 ある日、清掃会社でバイトをする5人の女の子たちが見つけた“特別なもの”、それはとても美しい女の子の死体。5人は、ブラックメタルバンドの曲を使った儀式でその死体を蘇らせる……。
 5人の少女と1体の死体の不思議な物語『女の子よ死体と踊れ』は、スラッシャー映画『クソすばらしいこの世界』で鮮烈なデビューを飾った朝倉加葉子監督待望の長編第2作。話題の女性6人組ニューウェーブアイドルグループ“ゆるめるモ!”が主演をつとめるこの作品で、朝倉監督は女の子たちの魅力を巧みに引き出し「ファンタジック・ガーリーホラー」と呼ぶべき独特の世界を作り出しています。
 朝倉監督自身がこの作品を語る中で登場するのは「普遍性」というキーワード。『女の子よ死体と踊れ』は「ゆるめるモ!という個性豊かな6人の映画」であると同時に「特別ではない女の子たちの映画」でもあるのです。
 監督の言葉を、いまを生きるすべての女の子たちに向けて。

朝倉加葉子(あさくら・かよこ)監督プロフィール

山口県出身。東京造形大学在学中に映画制作をはじめ、大学卒業後にテレビ番組制作会社を経て映画美学校に入学。同校修了後の2010年にテレビシリーズ「怪談新耳袋 百物語」(BS-TBS)の一編「空き家」で商業作品デビュー。2013年に全編ロサンゼルスロケをおこなったスラッシャー映画『クソすばらしいこの世界』で劇場長編デビューを飾る。
ほかの作品に、カンヌ映画祭マーケット部門Short Film Corner2013参加作品『HIDE and SEEK』(2013年)、テレビ用ショートムービー「スマホラー劇場/悪魔召喚」(2014年・BS-TBS)、ネット配信ドラマ「リアル鬼ごっこ ライジング/佐藤さんの正体!」(2015年)など。

「10代20代の女の子たちの魅力を映画にするというのはどういうことなんだろう?」

―― 『女の子よ死体と踊れ』は前作の『クソすばらしいこの世界』とは雰囲気の異なる作品になっていますが、今回はどんな作品を意図されていたのでしょうか?

朝倉:最初に「ゆるめるモ!で映画を撮りませんか?」というのがそもそもの企画でした。「ゆるめるモ!が主演で内容はホラー映画がいいんだ」という企画だったんですけど、ホラー映画でかつアイドル映画っていろいろあると思うので、あまり暗い話にはしたくないなというのが私の中でまずひとつあったんです。それで、アイドルである彼女たちの魅力というか、もっと普遍的に「10代20代の女の子たちの魅力を映画にするというのはどういうことなんだろう?」ということをけっこう主軸として考えたんです。女の子たちを魅力的に撮るにはどうすればいいかを考えつつ、それをホラー映画にもする落としどころというのをいろいろ探りまして「まあ、主役を死体にすればいっか」という結論ですかね(笑)。「死体もの」って、ジャンルとしてそんなに浸透はしていないとは思うんですけど、ゾンビではなく死体が動くようになって出てくるという映画っていくつかあるんですよね。今回の映画も、主人公をゾンビではない死体にすることによって、題材としてかなり相性がいいというか、彼女たちの抱えている普段の切迫感みたいなものをストレートに表現できる話になるのかなと思いました。

―― 監督は女の子を描くということへの興味はもともとあったのでしょうか?

朝倉:うーん、女の子って面白い生き物だというのは思っていますね(笑)。

―― 女の子を描いたいわゆる「少女映画」と呼ばれるような作品はけっこうありますが、そういうような作品群についてはどのような印象を持たれていました?

『女の子よ死体と踊れ』スチール

『女の子よ死体と踊れ』より。清掃会社で働く女の子たちは森の中で死体を見つける……

朝倉:いわゆる「ガーリーな映画」といわれるものって、雰囲気が重視されているものが多いかなっていう印象はありますね。でも、いわゆる「少女映画」といわれるような作品と「女の子が主人公の映画」というのはちょっと別かもしれないですよね。少女を描くってけっこう難しいよねっていう印象です。

―― 主演のゆるめるモ!さんは、監督はもともとご存知だったのでしょうか?

朝倉:名前を知ってはいましたし、曲を聴いたこともありました。私は彼女たちが出ている『BELLRING少女ハートの6次元ギャラクシー』(2014年/継田淳監督)をちょっとお手伝いしていたので「あの映画に出ていたな」という印象もありましたし。でも、詳しいわけではなかったので、この映画のお話をいただいてから改めて調べたり見たりという感じですね。それで、ライブも観にいったんですけど、一番最初に観たときがちょうど去年(2014年)のハロウィンの日で、彼女たちが各々ハロウィンのコスプレをしてライブに出ていて、そのとき6人のうちの何人かが顔が全然わからないようなコスプレをしていたんですよ(笑)。ミイラなのかなんなのか、包帯をグルグル巻きにしていて誰だかサッパリわからないみたいな感じで、そのままライブをやって退場していったんですね。「ええっ! 全然わかんないんだけど!!」って、それにけっこう衝撃を受けて(笑)。「アイドルなのにこんなことをやっていいのか」って思って、そのときに「すごい面白い人たちだな」って思いましたね(笑)。

―― 今回はゆるめるモ!さんが主演でホラーということ以外は、内容はわりと自由に発想されたのでしょうか?

朝倉:そうですね。今回はプロデューサーのひとりに『クソすばらしいこの世界』のプロデューサーだったキングレコードの山口(幸彦)さんがいることもあって、プロデューサー側からの意見も「こうしてくれ」みたいに言われるのではなくて、ほかのプロデューサーや企画の人たちも一緒になって、みんなでワイワイとアイディアを出していったりしていました。

―― 映画全体に悪い意味ではないB級っぽさのようなテイストがあると感じたのですが、それは当初から狙いとしてあったのでしょうか?

朝倉:実際のところ、この映画はけっこう予算の少ない映画なんですよね(笑)。それで、予算が少ない中での闘い方というと大げさかもしれないんですけど、私は「チャーミング」という言い方をしていて、チャーミングな映画にはしたいなと思っていましたし、それが彼女たちの魅力にもなるのだろうという想定をしていました。

「彼女たちを通して、みんなが持つような悩みだとか日々だとかを描けるんじゃないか」

―― ゆるめるモ!さんが主演であるということが作品に与えた影響というのはありますか?

朝倉:ありますね。たぶん、もしほかのグループだったらこういう話にはならなかったと思います。私の見た彼女たちは、ひとりひとりの個性が非常にバラバラで、非常に各々が複雑なんですけど、非常に普遍性が高いなって印象でした。それぞれ個性的な髪型をしていたりいろいろ個性があるんですけど、でもその彼女たちひとりひとりの中に普遍性が高いところがあるし、集合体になったらもっとあるという感じがしたんです。そこがすごく面白いというか。

―― 「普遍性が高い」というのは、あの年代の女の子たちが誰でも持っているような特別じゃない部分があると。

朝倉:そうですね。だから、ちょっと変わったグループである彼女たちを通して、ほんとに誰もの周りにいるような女の子たちの、みんなが持つような悩みだとか日々だとかを描けるんじゃないかなという気がしたんです。

―― 6人のメンバーの中で、あのさんが死体役を演じられていますが、彼女を死体役に起用した理由はどういうところなのでしょうか?

朝倉:誰になる可能性もあったんですよね。それで、本格的にシナリオを書く前に彼女たち全員と会う時間をもらったりライブを観にいったりしたんですけど、彼女は動くときと動かないときの差が面白い人だなって感じがあったんです。ライブのときでも瞬発的にポンって動くときとそうじゃないオフのときがあったりして、そこの切り替えが非常に魅力的だなと思ったというのがありますね。

―― ほかの5人のメンバーが清掃会社のアルバイトという役の中で、ちーぼうさんは物語の発端となる、ちょっと突出した存在になっていますね。

『女の子よ死体と踊れ』スチール

『女の子よ死体と踊れ』より。ゆるめるモ!の6人。左より、ちーぼう、けちょん、しふぉん、ようなぴ、もね、あの

朝倉:ちーぼうは一番複雑な人かと私は思っていて、その複雑さが非常に好感が持てたというか。本人は普通にのんびりした人なんですけど、自分の複雑さに自分で気づいているところと気づいていないところがあるように思いました。それって一番普遍性が高いというか、すごくあの年代の女の子の「あるある」かなって思ったんです。だから、語り部というかストーリーテラーみたいな役にしたいと思いました。

―― ほかのメンバーのみなさんについても、それぞれ印象をお願いできますか?

朝倉:しふぉんさんは、精神的に部活動みたいな人なんですよ(笑)。本人も剣道をやってたことがあるらしいんですけど、その経験を乗り越えているメンタルというか、部活精神がすごいんですよね。そこが面白い人だなあと思って、バイトのリーダーみたいな役にしたって感じです。彼女の責任感とかがみんなへの説得力になったらいいなと思っていました。
 ようなぴちゃんは、非常に明晰な人なんです。自分に対しても他人に対してもすごくクリアな思考を持っている人で、だから説明ゼリフは彼女に全部振っているというのがあるんです(笑)。やっぱり、思考が明晰だから情報量が高い喋り方ができる人なんですね。そういう意味で、説明をする役を担ってもらいました。
 もねさんは、この映画は女の子の映画なので、やっぱりマンガみたいな女の子をひとり入れたかったんです。それで、彼女はかわいいものが好きで、かわいいに対する根性があると思ったんですよね。なので「マンガみたいなキャラクターを演じてください」と言ったら、期待していた以上のものを返してくれた感じですね。
 けちょんは、いわゆる「ゆるめるモ!のイメージ」の土台を担っている人だなと思っているんです。ゆっくりした喋り方だったり振る舞いが非常に「ゆるめるモ!感」というのを体現している人じゃないかと思っていて、なので、たとえば儀式のところだったり、重要なポイントで彼女が喋ったり動くことによってムードが作れるのかなと思っていて、そういうのを効かせたいときに前に出てくるようにしてもらったんです。

―― 印象的な場面としてゆるめるモ!さんがダンスを踊るシーンがありますが、あれはやはりゆるめるモ!さんだから生まれたシーンなのでしょうか?

朝倉:そうですね。あそこは「どうしようかな」って考えていて、最初は単純に女の子たちが遊んでいるっていうふうにプランも立てていたんですけど、けっこう土壇場になって「ここはもう踊り推しだろ」と思って(笑)。ゆるめるモ!って、振り付けをもねちゃんがやっていたりするんですけど、その中で私が好きな踊りがいくつかあったので、それを伝えて組み合わせて作ってもらったのを踊ってもらった感じなんです。やっぱりいろいろなことができる人たちなので、あの美しい感じの踊りは彼女たちのクライマックスとして入れたいなという感じでしたね。

「女の子たちに観てほしいと思って作りました。“人生がつまらない”と思っている人たちに観てほしい」

―― 今回の映画では、女の子たちの死への憧れのような感覚が描かれていますよね。その感覚って、女の子にとっては実感があるというか身近な感覚なのかなという感じがしました。

朝倉:やっぱり、10代の女の子たちって非常に切羽詰まっていて、自殺の真似事をするしないは別として、意識としてすごい死に近いんじゃないかって私は思っているんです。つい「死にたい」みたいなことを言ってしまって、それは実行はしなくてただの口癖みたいなものなんだけど、でもある程度本心なところがある。「あれはなんなんだろうな」っていうのが興味があるところですね。

―― この映画はポップな感じが前面に出てはいますが、そういう面ではすごくシビアな題材を描いていますね。

朝倉:そうですね。どういうふうに見えるかという見え方は別として、切羽詰まった感じは真面目にやろうと思っていました。

―― 監督はこの映画を「かわいらしい映画」と表現されることがありますけど、この映画は残酷な映画かなとも思うんですね。監督のおっしゃる「かわいらしい」って、どこか「残酷」に近いものがあるんじゃないかと。

朝倉加葉子監督インタビュー写真

朝倉:非常にあると思います。その残酷さに耐えられない女の子たちと、その残酷さを自分たちの中に持っている女の子たちというのが同居しているものだと思うんです。その同居しているさまもかわいらしいし、反発しあっているさまもかわいらしいし、10代の子たちって「日々、毎日死んでいく」みたいな感じがある気がするんですよね。「今日は明日になったらもう帰ってこない、明日はまた生きるけど今日はもう死んじゃった」みたいな感じがあるというか、そういうはかない感じを「かわいらしい」と言ってしまっているところはあるかもしれないです。

―― その感覚って、もしかすると以前の『クソすばらしいこの世界』にも流れていたのかなとも思いました。

朝倉:ああ、自分ではあんまり意識してはいないですけど、なにかしらあるかもしれないですね。 

―― 今回はタイトルが『女の子よ死体と踊れ』と女の子に呼びかける言葉になっていますよね。映画自体を女の子に向けてという想いがあるのでしょうか?

朝倉:やっぱり、女の子たちに観てほしいと思って作りました。私は10代のときって本当に人生がつまらないと思っていたんです。もうすべてが最悪だと思って生きていて、周りから見るとなんてことない普通の高校生だったんですけど、内面はそんな感じだったんですね。なので、同じように「人生がつまらない」と思っている人たちって潜在的にいっぱいいるんじゃないかなというのが体感としてあるので、そういう人たちに観てほしいです。

―― では最後になりますが、女の子以外の方たちにも向けて、この映画について一言お願いします。

朝倉:そうですね、この映画は、面白くて、気楽に観られて、そして最後にちょっといいものが観られるような映画を目指して作りましたので、ゆるめるモ!のファンの方にもそうではない方にも、たくさんの方に観てもらえると嬉しいですね。

(2015年10月6日/日本出版販売にて収録)

作品スチール

女の子よ死体と踊れ

  • 監督・脚本:朝倉加葉子
  • 出演:出演:ゆるめるモ!(もね けちょん しふぉん ようなぴ あの ちーぼう) ほか

2015年10月31日(土)よりシネマート新宿、11月14日(土)よりシネマート心斎橋、名古屋シネマスコーレ、12月12日(土)より広島・横川シネマ、12月博多・中洲大洋映画劇場 ほか全国順次公開

『女の子よ死体と踊れ』の詳しい作品情報はこちら!

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