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『無伴奏』遠藤新菜さんインタビュー

インタビュー写真 日本中で学生運動が盛んな1969年。仙台に住む高校生の響子は、運動に身を投じつつもそれが人真似でしかないという虚無感を抱えていた。そんな響子は「無伴奏」という名のクラシック喫茶で3人の若者と出会い、それまで知らなかった世界に触れていく……。
 1969年からの2年間を舞台に、激しい時代の中で生きる若者の姿と恋を描いた『無伴奏』。主人公の響子に影響を与えていく女性・エマ役には、女優・モデルとして活躍する遠藤新菜さんが抜擢されました。
 響子を演じる成海璃子さんをはじめ、渉役の池松壮亮さん、祐之介役の斎藤工さんと若手実力派キャストが揃った『無伴奏』で、遠藤さんは見事にその存在感を発揮し、観る者の心に鮮烈な印象を焼き付けていきます。
 作家・小池真理子さんの半自伝的小説を原作に矢崎仁司監督がスクリーンの中に描き出したひとつの「時代」。1994年生まれの遠藤さんは、その「時代」になにを感じ、エマとしてその「時代」をどう生きたのでしょうか?

遠藤新菜(えんどう・にいな)さんプロフィール

1994年生まれ、東京都出身。2013年に『海にしずめる』(田崎恵美監督)でスクリーンデビューにして主演をつとめる。その後、映画やドラマなどで女優として活躍するとともに、2014年開催の「第45回ノンノモデルオーディション」準グランプリを獲得し、ファッション誌「non-no」専属モデルとしても活動中。
出演作に『Starting Over』(2014年/西原孝至監督)、『白魔女学園 オワリトハジマリ』(2015年/坂本浩一監督)、『やるっきゃ騎士(ナイト)』(2015年/平林克理監督)など。

公式ブログ:遠藤新菜オフィシャルブログ http://ameblo.jp/endo-nina/
公式ツイッターアカウント:@ninaendo1003

「髪を切ったときに“やっとエマになれたかもしれない”って安心したんです」

―― 『無伴奏』は主な舞台が1969年で遠藤さんがお生まれになるずっと前ですが、その時代にはどういうイメージを持っていらっしゃいましたか?

遠藤:あまり知らない時代なので、私の中では「お洒落」というイメージがすごく強かったです。逆にいま流行っていたりするファッションとか、レトロな文化とか、レコードとかもそうですし、憧れる時代ですね。携帯もないから家から電話をかけるしかなかったりとか、待ち合わせをするのもその時間に行かなければ会えないとか、そういう時代は逆にうらやましいなって思います。

―― その時代に生きていた人を演じるにあたって意識した点はどんなところでしょう?

遠藤:意識した点は、いまはだんだん言葉が乱れてきているということもあると思うんですけど、当時の方々のほうが身振りも手振りもストレートだし上品だと思うんですよね。エマは役としては上品というよりは自由奔放な部分も多いんですけど、現代の人とはまたちょっと違う素直さというか、チャーミングさとか、その時代らしい上品さというのは残したいと思っていました。

―― なにか、当時の雰囲気を知るために参考にしたりとかはありましたか?

遠藤新菜さんインタビュー写真

遠藤:エマは見た目が特徴的だったので、とにかく当時の流行ファッションとか、そのころのエマくらいの歳の女の子がどういうものに憧れていたのかとか、そういう部分をまず知ろうと思ったんです。それで本屋さんに行って、ツイッギー(※1)の写真集とか当時の写真集とかを読みあさりました。ファッションとか、思想とかもなんとなく表情でわかるなと思って。もちろん原作も読んでいましたし、当時からある喫茶店とかに足を運んだり、なかなか当時のものに触れられる機会も少ないんですけど、自分なりにできる限り妄想して(笑)、触れようとしていました。

―― ファッションというと、今回は劇中で当時を再現したファッションを着ていらっしゃいますよね。遠藤さんから見て、当時のファッションはどのように感じられました?

遠藤:いまよりも自由ですね。特にエマはチャイナ服みたいな格好で普通に歩いていたりとか、自由すぎるくらい自由なんですよね(笑)。いまだったら信じられないですけど、当時は自由さがあって、それぞれが表現したいものがあって、たぶん現代以上にファッションに挑戦を始めたような時代だろうなって思って、素直にお洒落だなって思いました。

―― 今回は、髪型も役に合わせてショートにされているんですよね。

遠藤:そうですね、セシルカットにしています。

―― ショートにされたのは初めてですか?

遠藤:初めてです。ずっとロングだったのでここまで切ったのは初めてなんですけど、原作を読んでいてもエマの「セシルカット」という描写が出てきたときのインパクトが強かったので、エマという役には絶対に必要なんだろうなと思っていました。

―― 髪を短くしたのをご自分でご覧になったときの感想はいかがでした?

遠藤:アハッ(笑)。そうですね、そのときはとにかく「エマになろう、エマになろう」と思っていたので、切ったときに「やっとエマになれたかもしれない」って安心したんですね。それで、撮影が終わって現実に戻ったときに「すごいなあ」って思いました(笑)。街を歩いているとみんな見てるなって(笑)。

  • ※1:1960年代に世界的な人気となったイギリスのモデル。当時のミニスカート流行の象徴的な存在で「ミニの女王」と呼ばれた。

「エマは、祐之介にすべてを注いでいるんだろうなと思いました」

―― 先ほどツイッギーの写真集を見たというお話もありましたが、エマを演じる上でイメージの参考にしたものはありますか?

遠藤:それこそセシルカットの写真で最初に見たのがジーン・セバーグ(※2)なので、ジーン・セバーグの映画をちょっと観たりしました。やっぱり、セシルカットにして口紅を塗ってお洒落をしている女性は大体は気が強いというか、それなりに自信がないとあそこまで髪を短くする気にはなれないんだろうなと思って(笑)。オードリー・ヘップバーンとかもセシルカットまではいかないですけど髪を短くしているのを見たりして「本当はなにかを抱えているんだろうけど自信があるんだろうな」という強い女性像を感じたんです。強い女性ということはすごく弱い部分もあるし、すごくつくろっている部分もあるんだろうし、そこがエマの淋しさとか哀しげな雰囲気につながっていくのかなと思って、だからエマは、パッと見はすごく元気で気が強い女の子かなと思いました。

―― エマのイメージについて、矢崎監督と相談などはされたのでしょうか?

遠藤:少ししました。それも「こういう役だから痩せよう」とか、そういう部分の話で(笑)、基本的には「まずはやってみて」という部分があって、いい意味ですごく任せてくださっていたんです。ただ「こういう明るさと、こういう切なさと、こういう愛おしさがエマにはあるというのは忘れないでくれ」というのははっきり言われていたので、それは意識して探りながら撮影していった感じですね。

―― 遠藤さんはもともと細いのに「痩せよう」というのは大変ですね。

遠藤:いえいえいえ、全然(笑)。やっぱりセシルカットが似合うように顔を痩せようということで、顔だけ痩せないので結果ダイエットになっちゃったんですけど(笑)。5キロくらい落としました。

―― エマは、髪型とか見た目の部分は原作にも書いてありますけど、恋人の祐之介や主人公の響子と一緒にいないときにエマがなにをしているかとか、どんな内面なのかとかは作品中にはあまり出てこないですよね。そういう中で、遠藤さんはどうやってエマの人物像を掴んでいったのでしょう?

『無伴奏』スチール

『無伴奏』より。遠藤新菜さんが演じるエマ(左)と、斎藤工さんが演じるエマの恋人・祐之介

遠藤:そうですね、そこが私も一番苦戦したというか考えたところなんですけど、具体的に「エマはこれをしているんだろう」とか考えるよりは、たぶん基本的にはとにかく祐之介さんと一緒にいたいという子で、ひとりの時間があるくらいなら祐之介さんのところに行くっていうくらい祐之介さんにまっしぐらで、ずっと待っているんだろうなって思っていました。それこそ、エマがなにもしていないときって大体は祐之介に断られたときなんだと思うんですね(笑)。そういうときは、ひとりで歩きまわってタバコを吸って祐之介が帰ってくるのを待っていたり、彼に依存しているんですよね。だから、普段の彼女の生活とか家庭とかは明らかにされていないですけど、彼に依存するくらいなので、いろんなストレスとかがあるんだろうなって思うんです。

―― いま「依存」という言葉も出ましたけど、エマにとっての祐之介ってどういう存在だと思います?

遠藤:もう、すべてだと思います、エマにとっては。祐之介に会うまでのエマがどう過ごしてきたかはわからないんですけど、きっと出会った瞬間からエマは「祐之介が嬉しいなら私も嬉しいし、祐之介がいなくなるなら私もいなくなる」というくらいにすべてを注いでいるんだろうなと思いました。たぶん、エマ自身は先のこととか細かいことはあまり考えないようにしているんだと思うんですけど、とにかく「この人以上の存在は現れない」って強く信じつつも、なにかしら満たされない哀しさとかも持ち合わせていて、それでもブレずに強行突破で信じ抜こうとしている感じがしますね。

―― そのエマと祐之介の関係を表現する上で、祐之介役の斎藤工さんとお話し合いなどはされたのでしょうか?

遠藤:役に対して「こうしよう」「こうしましょう」という話はしていないです。していないんですけど普通の会話の中でわかってたというか……。もう、原作がすごく良くって、台本もすごく良かったので、たぶんみんな話し合う必要はないと思っていたんだと思います。少なくとも私はホン読みをしたときに「みんなピッタリなんだな」って思って、もうその瞬間にわかったんですよね。みんな変に作らずに、斎藤さんは祐之介でいてくれたし、もちろん成海(璃子)さんは響子でいてくれたし、池松(壮亮)さんは渉でいてくれたから、話し合うというよりは、みんな憑依しているような感じがしました。

  • ※2:アメリカ出身の女優。『無伴奏』劇中のセリフにも出てくる『悲しみよこんにちは』(1957年・米/オットー・プレミンジャー監督)でセシル役を演じ、その際の髪型が「セシルカット」として流行した。『勝手にしやがれ』(1959年・仏/ジャン=リュック・ゴダール監督)の主演でも有名。

「柔軟でいたいです。与えられたものは全部やってみたい」

―― 遠藤さんはモデルのお仕事と女優のお仕事を両方やられていますけど、両方をやっているからこそ感じる女優さんというお仕事の魅力というのはありますか?

遠藤:いっぱいありますね。モデルさんと女優さんって、似ているようで全然真逆だなと思っているんです。モデルっていかに自分をきれいに撮ってもらうかで、服をきれいに見せるとかとか、自分をかわいく撮ってもらうとか、私がお仕事させていただいている雑誌ではそういう部分が多いんです。だけど、女優ってある意味でどこまで自分の醜い部分を怖がらずに見せられるかになってくると思っていて、言い方は悪いですけどブサイクな自分を恥ずかしがらずに出せるかとか、グシャグシャな顔を見せられるかとかで、そこが逆に美しくなるものなのかなと思って。
 でも、やっぱり両方やっていることで学べることもありますね。たとえば自分の見せ方はモデルの仕事から学べるんです。自分がきれいに見える角度とか、モデルの仕事で感じたものは映像の中でも意識します。あんまり意識するとうるさくなっちゃうのでそうならない程度にですけど(笑)。女優さんとモデルさんとでは気合いの入れ方というか気合いの種類が全然違うんですよね(笑)。撮影のときに寒さに耐えるとか、セリフも覚えなければいけないとか、女優さんの仕事ではそういうタフさを学べるので、そのタフさはモデルのときに活かそうと思っています。

遠藤新菜さんインタビュー写真

―― 遠藤さんは、今回の『無伴奏』のような作品もあれば、コメディタッチだったりSFっぽかったり、いろいろな作品でいろいろな役を演じられていますけど、作品ごとに全然違う世界を体験するというのはどういう感覚ですか?

遠藤:もう、どれが本当の自分なのかを見失わないようにしないと喋っていることが毎月変わっちゃうなとか思うんですけど(笑)。でも、いろんなものを吸収できて情報はすごく多いから、毎回いろんな人になれて、いろんなことに悩んだり苦しんだりして、でも映画が終わったらプツっとそれを切り替えてというのが新鮮です。逆に、ほかの仕事をしている自分というのが想像できないですね。もしほかの仕事をしていたらどういうふうに生活するのかなって思います。

―― 今後、遠藤さんがどういう存在になっていきたいかという目標があれば教えてください。

遠藤:自分の中では去年くらいにやっと一歩を踏み出せたくらいかなと思っていて、逆に自分が「こういう人です」って語れるようになりたいですね。柔軟でいたいです。どういう要求にもどんなお芝居でもやりたいし、逆に「嫌だ」と思うものがないのが自分の強みかなと思っているので、与えられたものは全部やってみたいです。

―― では最後に『無伴奏』という作品に興味をお持ちの方に向けてメッセージをお願いします。

遠藤:まず、映像もすごくきれいで、当時の雰囲気と、それと違う新鮮さもあるなと私は思っています。そういうレトロな美しい時代背景はもちろんですし、登場人物それぞれの関係性がかなり過激というかドロドロとしたりするんですけど、それでもみんながもがいている姿が美しく見える映画だなと思っています。そして、私が演じたエマに関しては、とにかく祐之介に対する想いとかを妄想しながら観てほしいです。

インタビュー写真

取材時の遠藤さんのスタイリングとメイクは映画本編と同じスタッフによるもの。劇中の時代設定にあわせたエマらしさのあるスタイルでした。

  • スタイリスト:江頭三絵
  • ヘアメイク:宮本真奈美

※画像をクリックすると拡大表示されます。

(2016年1月21日/都内にて収録)

作品スチール

無伴奏

  • 監督:矢崎仁司
  • 原作:小池真理子「無伴奏」(新潮文庫刊、講談社文庫刊)
  • 出演:成海璃子 池松壮亮 斎藤工 遠藤新菜 ほか

2016年3月26日(土)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー

『無伴奏』の詳しい作品情報はこちら!

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