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『スレイブメン』津田寛治さんインタビュー

 さえない自主映画監督の青年が、ある日手に入れたスーパーヒーロー“スレイブメン”の力! 青年は、世界を変えるその力を使って、ひとりの少女を守ろうと決意する!! だが、その力を狙う者もいた……。
 日本映画界に欠かせない俳優・津田寛治さんが悪役を演じる『スレイブメン』は、奇才・井口昇監督による異色のダークヒーロー映画。予測不能の展開の果てに衝撃的で切なく美しいラストが待つ、ほかに類を見ない作品となっています。
 これまでも井口監督作品にたびたび出演してきた津田さんは『スレイブメン』になにを感じたのでしょうか? そして、津田さんにとっての悪役とは? ヒーローとは? 井口昇監督とは!?

津田寛治(つだ・かんじ)さんプロフィール

1965年生まれ、福井県出身。1993年に『ソナチネ』(北野武監督)で映画初出演して以降、さまざまな監督の作品に出演し注目を集め、2002年に『模倣犯』(森田芳光監督)でブルーリボン賞助演男優賞を受賞。2004年『イズ・エー[is A.]』(藤原健一監督)で映画初主演。大作からインディーズまで幅広い映画に出演し、ドラマや舞台などでも活躍している。 井口昇監督作品には『猫目小僧』(2005年)、『デッド寿司』(2013年)、『ライヴ』(2014年)、『自傷戦士ダメージャー』(2015年)など多数出演。そのほかの出演作に『恋の罪』(2011年/園子温監督)、『シン・ゴジラ』(2016年/庵野秀明総監督、樋口真嗣監督)など。2017年は主演をつとめた『名前』(戸田彬弘監督)が公開予定。

「井口作品の中での悪役は、人間くさいほうがいいのかなという気がしていました」

―― 今回『スレイブメン』に出演することになったときのお気持ちを最初に聞かせてください。

津田:まず『スレイブメン』という言葉自体があまり聞いたことのない言葉だったので、そこに「どういう物語なんだろう?」という興味はありましたね。それでホン(脚本)を読んでみて、井口さんっぽくなくて新鮮に感じるところもありましたし、やっぱり「取り返せないもの」というのかな、登場人物のそういう価値観を大事に描いているところが井口さんっぽいなという気がしたんです。その大事に描くやり方も、変に狙ってサブカルっぽく見せるのではなく、あんまり狙いもなく井口さんそのものが出ている感じになっていて、井口さんが描こうとしているものが年々コアになっているというのはホンを拝読して思いましたね。

―― 今回は貴龍雄山(きりゅう・ゆうざん)という悪役を演じられましたが、この作品の中で悪役をどう演じようと考えられていましたか?

津田:そうですね、ステレオタイプな悪役にも演じられるとは思ったんですけど、井口作品の中での悪役というのは、そういうふうに演じるよりはもうちょっと人間くさいほうがいいのかなという気がしていたので、そういった意味でそんなに憎悪ギラギラみたいな感じじゃないほうが面白いかなと思ったのは覚えていますね。

―― 貴龍を演じるにあたって、津田さんがイメージしていた悪役像のようなものはあるのでしょうか?

津田寛治さんインタビュー写真

津田:ありましたね。今回演じた役は息子がいるんですけど、親子というのがキーポイントだなと自分の中で思っていたんです。それで、昔観た映画を思い浮かべて、地上げのような事業で登りつめて政治の世界にも足を踏み入れている親子の物語みたいなのをイメージしていました。具体的には『野性の証明』(1978年/佐藤純彌監督)だったと思うんですけど、三國連太郎さんと舘ひろしさんの親子ですね。

―― 津田さんの中で、特に印象に残っている悪役というのはありますか?

津田:やっぱり『復讐するは我にあり』(1979年/今村昌平監督)は残っていますね。あの映画は緒形拳さんが素晴らしい! ほんとに悪い奴って、残忍なことをやるときも心拍数が変わらないみたいなね、その後の『羊たちの沈黙』(1991年・米/ジョナサン・デミ監督)のレクター博士なんかもそうだと思うんですけど、他人から見るとひどいことをやっていてもその人にとっては日常だみたいなギャップですかね。そういうものを自分でもやってみたいなと『復讐するは我にあり』を観たころよく思っていましたね。緒形拳さんの主人公が、金槌で人を殺したあとそこにある柿の実をもいで食べて、渋柿だからペッと吐き出して「土産にもならない」みたいに言うところとかもすごく秀逸なシーンだと思って、ああいうのが元になって、いまは残虐なシーンでもいろいろな広がりができているんじゃないかという気がするんですよ。

―― 津田さんは井口監督の作品以外でも悪役も演じられますし、すごく善良な役も演じられますが、悪役を演じるときは現場に入るときのお気持ちも違ったりするのでしょうか?

津田:悪い奴といっても、いつも「グヘヘヘ」みたいに思って生活しているわけではなくて、やっぱり突発的だと思うんですよ。カーッとなる瞬間があったり、その一方で「ここで怒らないんだ」みたいに気持ちが動かないほうが逆にほんとに悪い奴に見えたりするので、普段から悪そうにやることはあまりないですね。ただ、ほんとに「もうこいつは絶対に許しておけない」みたいな悪い奴をやるときとかは、普段は現場では怒らないんですけど心の中で怒ってみることはありますね。それを表に出すことはないんですけど、動きの悪い助監督さんに心の中で「こいつは何回言われても同じことばかりやってるな!」とかイラッとしてみたり(笑)。普段はそういうことは思わないんですけど、そういう実際のイライラをどこかから拾ってきて、うまく利用することはありますね(笑)。

「今回の現場で、一生懸命な若い人たちとたくさんやれたのは良かったですね」

―― 『スレイブメン』はヒーローものですが、津田さんにとって「ヒーロー」というのはどんな存在でしょうか?

津田:難しいですね……。やっぱり「人助け」だと思うんですけど、ただ、ほんとにヒーローって広範囲というか「ヒーローってなんだろう? 正義の味方。じゃあ正義とはなに?」というように、どんどん迷宮に入ってしまう系のワードだと思うんですよね。だからほんとに定義が難しいものだと思うんですけど、ぼくの中では世代的に「仮面ライダー」なんですね、ヒーローは。そうすると、やっぱり「哀しい人」なんですよ。逃亡者であり、自分を守るために人を助けるみたいな。「哀しい存在」というイメージはありますね、ヒーローというと。

―― 「仮面ライダー」というと、津田さんご自身も平成になってからですが「仮面ライダー龍騎」(2002年)にレギュラー出演されていましたね(※主人公が勤務するニュース配信社の編集長・大久保大介役)。

津田:そうですね、出演させていただきました。実際に出演させていただくと、制作陣の姿勢というんですかね、その熱量に圧倒された記憶はありますね。こんなにみんな命懸けで作っているのかって。やっぱり正義の味方というものを子どもたちに伝えるのって相当に難易度が高いから、このくらいはしないとダメなんだなっていうのは感じましたね。

―― 今回『スレイブメン』では、ヒーローであるスレイブメンになる主人公・しまだやすゆきを「仮面ライダー」経験もある中村優一さんが演じられていますが、共演されての中村さんの印象はいかがでした?

『スレイブメン』スチール

『スレイブメン』より。劇中では津田寛治さん演じる貴龍雄山もスレイブメンに!?

津田:メチャクチャいい子でしたね。わりと最近の現場の特徴だと思うんですけど、今回も若い人たちがすごいいい人ばっかりだったんです。ぼくの息子役の阿部(亮平)くんもそうだし、刀で人を斬るような役の人たちも、みんないい若者がつどっていて、お昼休みも弁当食べながら楽しいなみたいな、つねにそういう感じで現場は進んでいましたね。さっきも悪い奴を演じるときの話をしましたけど、昔からよく言われてるのは、悪い奴を演じるからといって普段から悪ぶっているとスタッフが疲れると(笑)。だから普段はどんな役でもニコニコしていたほうがいいというのはよく聞くんですけど、最近はそういうことをちゃんとやれる若い人が多いなという感じがしますね。

―― 劇中では津田さんご自身もスレイブメンになるシーンもありますが、ヒーローになるというのはどんな感じでしょうか?

津田:ああ、そうですね(笑)。まあ、ぼくはそんな動きもなくて、こうやってる(相手にカメラを向けるポーズ)だけだったので、楽させてもらったかなって(笑)。井口さんのヒーロー系のものでは、この前に『ダメージャー』(『自傷戦士ダメージャー』2015年)というのがあって、井口さんの持っている世界観とヒーローものの世界観の似ているところが混じりあうとすごく面白いものになるんだなと思っていたので、今回もそういうところがしっかり出てくればいいなと思いながらやっていましたし、そこはうまく行ったんじゃないかと思います。

―― ヒロインの小暮彩乃を演じた奥田佳弥子さんは映画で大きな役をつとめるのは初めての方ですが、奥田さんの印象はどうでしょう?

津田:映画って往々にして、あまり経験のない人にビギナーズラックのようなものを授けるところがあると思うんですよね。そういう意味でもすごく輝いていて、あまり見ないようなキラキラした感じを出されているなと思いました。たぶん、井口さんが新人の女の子にお芝居をつけるのが得意なんだというのも思いますね。

―― 先ほども若い俳優さんたちのお話が出ましたが、今回はこれから活躍されていくような若い俳優さんも多い現場だったかと思います。そういう方々と共演するのはどんな感じでしょうか?

津田:メチャクチャ楽しいですよ。もちろんキャリアのある人とやる楽しさもあるんですけど、初めて映画をやるような人たちとやるのはすごく楽しくて、なにが飛び出すかわからないし、慣れた感じの「お見事ですね」みたいな仕事よりは「なんでそういうふうになった?」みたいなことを楽しみながらやったほうが面白いんですよね。やっぱり、一生懸命な人とやれるのは楽しいんですよ、初めての経験に全身全霊をかけて臨んでいるところに立ち会えるというのは。ある程度キャリアのある方だと慣れていらっしゃるから、そういう「ほとばしるもの」に出会えることってあまりないんですけど、そういう意味で今回の現場で若い人たちとたくさんやれたのは良かったですね。

―― 撮影中に印象に残っているエピソードがあればお願いします。

津田:若い俳優さんのひとりが、(貴龍の会社の)部屋で二刀流で暴れるというシーンがあったんです。暴れだすまでは会話が続くシーンで、もしかしたら緊張されていたのかな、監督になにか言われると「ハイ、ハイ」って一生懸命やられていて、それも素敵だったんですけど、会話劇のあと「じゃあここからアクションになります」ってなったら、急に「ぼく的にはこんな感じで行きたいんですけど」って、刀を2本ブワーって振り回して動き回って、それがメチャクチャカッコよかったんですよ。しかも、狭い中でもちろん誰にも当てないし、壁とかにも当てずにきっちり二刀流をこなしていたんですね。その場で手はじめにやってみたとは思えない感じで、その豹変の仕方がすごく素敵でしたね。なんか映画っぽいし、こういう作品ならではだなって。集まった人たちがそれぞれできることを100パーセントやりきろうとする現場だからこそお目にかかれるシーンだったと思いますし、実際に上がったシーンを見ても、そのアクションはもちろん、その前の会話のお芝居もすごく良かったし、そういう力を引き出す映画だったんだという気はしましたね。

「自分が井口監督の作品に惹かれるコアになる部分が『スレイブメン』に描かれている」

―― 津田さんは井口監督の作品にはたくさん出演されていますが、井口監督と初めてお会いになったときのことは覚えていらっしゃいますか?

津田:覚えてますね。竹中直人監督の『119』(1994年)という映画で初めて竹中作品に出していただいたときで、ぼくはそのころほんとに無名で、とてもそんな映画でちゃんとした役をやらせてもらえるような俳優ではないのに、竹中さんってそういう人ほど気になる感じの方なんですね。それで消防士の映画なので、消防士たちが集まる店のシーンを、まだ大船(※松竹大船撮影所。2000年閉鎖)があったころなので大船にセットを建てて撮ったんです。そこで撮ってるときに「津田くん、津田くん」って呼ばれて「彼は井口くんといって、俳優と監督もやっているから。監督はAVが多いんだけどね」と紹介されたんです。そのとき井口さんは「津田さんは映画はそんなにやられていないんですか?」とか、すごく話しかけてくださって、いま思うと現場に慣れていないぼくへの井口さんの優しさで、すごく素敵なところなんですけど、ぼくはAVをやられている監督にお会いするのが初めてだったので、スカウトされたらどうしようかとドキドキしていましてね(笑)、ちょっとそっけなく返事をしていたのを後悔しています(笑)。

―― そうすると初対面のときは出演者同士で、俳優と監督としてお仕事をされるまでにはもう少し時間がかかったのですね。

津田寛治さんインタビュー写真

津田:かかりましたね。そのあとぼくがたまたま『恋する幼虫』(2003年)という井口監督の作品を観て、すごい映画で「そうか、この映画を撮ったのが、あの現場で会った井口さんという方なんだ」と思って、井口監督の前の作品もいろいろ観たんです。それでやっぱりすごい監督だと思って、ぼくのほうから「ぜひ出させてください」と言ったんです。それで現場に行ったら「津田さん、AVですけど大丈夫ですか?」って言われて、ぼくはAVじゃないと聞いていたので「えっ!」って(笑)。まあ、ぼくはAVではないと思っているんですけど、AVのコーナーに置いてあることも多い「18禁」(2004年・オリジナルビデオ作品)という作品ですね。

―― 津田さんからご覧になって、井口監督はどんな方でしょう?

津田:いやあ、なかなか一言じゃ言えないですね。ただ、ほんとに現場のマスコットのような人で、映画の現場ってハードなことも多くて「それがあるからみんなが和める」というマスコットが必要なんですよ(笑)。井口監督の現場もハードなことは多くてね、みんな切羽詰まってグッタリしてると、そこに井口監督がフワッと現れて、ニコニコして「いやあ、面白いの撮れてますよぉ」って言いながらみんなを笑わせてくれたりね、女の子たちはよく井口監督のお腹を触って「気持ちよくって落ち着く」とか、ヌイグルミみたいな扱いになってたり(笑)。マスコットってそんなに簡単になれるものじゃないと思うんですけど、それをご自身でやられていて、なかなかそういう人っていないと思うんですよ。とにかく、人としてもいろいろなことを経験されているからかもしれないですけど、達観したようなところがあって、それと作品を作る研ぎすまされたセンスというのが、ものすごくいいバランスで同居されている方だという気はしますね。だから、もうちょっと規模が大きいというかね、たとえば『電人ザボーガー』(2010年)とかすごく良かったし、そういう環境で撮る井口作品も、もう少し増えたらいいなと思いますね。

―― 昨年の12月におこなわれた『スレイブメン』の最速上映会では、舞台あいさつで『スレイブメン』を観たあとに原稿用紙3枚分くらいの感想文を書かれたというお話をなさっていましたね。

津田:書きましたね。いままで昔の映画なんかを観たあとしばらく時間が経ってから感想を書いておくことはあったんですけど、自分が出ている映画で書いたのは初めてでしたし、観終わってすぐ書いたのも初めてでしたね。

―― 『スレイブメン』のどんな部分が、津田さんが感想文を書く原動力になったのでしょう?

津田:やっぱり、自分が井口監督の作品に惹かれるコアになる部分がここに描かれていると思ったんですね。「これをずっと追い続けていたんだ」という部分があって、それを忘れないうちに書いておきたいという気持ちがすごくあったんです。なんていうのかな……。ぼくは俳優で食えないときにやっていたアルバイトのひとつに個室ビデオの店員というのがあって、要は30分いくらでお客さんに部屋でエロいビデオを見せるという店ですね。そのときぼくはとんでもない量のAVを観たんですよ(笑)。それは趣味ではなくて、ちゃんと終わってるかなというチェックとか、少し上の立場に行くと、どういうビデオを置けばお客さんが喜ぶのかというチェックで観ていたんですね。ちょうど代々木忠さん(※AV黎明期から活躍する伝説的監督)が全盛のころとかですかね、よく観ていたんですけど、やっぱりAVには独特の切なさとか物悲しさってあったんですね。それはたぶん、いまネットで見られるエロい動画なんかとは違う、AV独特の美学みたいなものがひょっとしたらあったのかなって。そういうものと、井口さんの持っているどこか諦めた寂しさのようなものがすごくリンクしているように思っていて、それが如実に見えたのがこの『スレイブメン』だったんです。『スレイブメン』にはエロい場面とかはまったくないですけど、なにか「諦めてしまっている人の切なさ」があって、それは助けてあげたいんだけど簡単には助けられないという……。そんなことですかね。

―― 舞台あいさつのときには、感想文に書いた内容は井口監督と飲んだときに伝えるというようなお話をされていましたが、それは実現したのでしょうか?

津田:いや、まだ全然していないです。やっぱり恥ずかしいし、このまま言わないんじゃないかな(笑)。

―― では、井口監督に伝える代わりというわけではありませんが、記事を読まれる方に向けて『スレイブメン』の魅力を簡単に伝えていただけますか?

津田:奇しくも、さっきおっしゃっていただいた「ぼくにとってヒーローとはなにか?」というのが『スレイブメン』の中でもすごく大事だなと思うんです。ポスターに書いてあるキャッチコピーの「世界平和なんて知るか。僕は、君だけを守る。」という言葉にまさに表れているかもしれないんですけど、ヒーローイコール正義の味方で弱者を助けるものであっても、まずは自分が幸せにならないと人を幸せにはできないんじゃないかって。それは、この歳になってやっと気づいたことでもあるんです。そういった意味も含めまして、まずは自分が幸せになってほしいと思いますね。まず自分が幸せにならないと家族を幸せにできないんだということに、この映画を観て多くの人に気づいてほしいなという気がします。

インタビュー写真

井口昇監督作品へのあふれるような想いを聞かせてくださった津田寛治さん。そんな津田さんの『スレイブメン』劇中での姿も、ぜひスクリーンでたしかめてください。

※画像をクリックすると拡大表示されます。

(2017年2月2日/アークエンタテインメントにて収録)

作品スチール

スレイブメン

  • 監督・脚本:井口昇
  • 出演:中村優一 奥田佳弥子 味岡ちえり 小田井涼平 阿部亮平 岩永洋昭 津田寛治 ほか

2017年3月10日(金)より全国ロードショー

『スレイブメン』の詳しい作品情報はこちら!

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