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『ゆらり』岡野真也さんインタビュー

 現在――民宿を切り盛りする母と、母に甘えたい幼い娘。未来――入院したシングルマザーと、神様への手紙に想いを託す息子。過去――夢を諦めた娘と、反発する娘を優しく受け止める母。岡野真也さんと内山理名さんのダブル主演で時代の異なる3組の親子を描く『ゆらり』は、TAIYO MAGIC FILMの舞台を原作にした三部構成のヒューマン・ファンタジーです。
 舞台の作・演出を手がけた西条みつとしさんが脚本を担当し、横尾初喜監督が長編初監督をつとめたこの作品で、岡野真也さんは現在と過去の主人公・凜香(りんか)を演じ、現在パートでは岡野さんにとって初めての母親役に挑みました。
 31歳の現在の凜香、23歳の過去の凜香。岡野さんはふたつの時代の凜香をどう演じ、なにを感じたのでしょうか?

岡野真也(おかの・まや)さんプロフィール

1993年生まれ、栃木県出身。オーディションをきっかけに芸能活動を始め、2007年にドラマ「介助犬ムサシ~学校へ行こう!~」(CX系)で女優デビュー。以降、ドラマや映画などで活躍し、2015年『飛べないコトリとメリーゴーランド』(市川悠輔監督)で映画初主演をつとめる。2017年秋放送開始のドラマ「ブラックリベンジ」(YTV系)にレギュラー出演中。
映画出演作に『アナザー Another』(2012年/古澤健監督)、『図書館戦争 THE LAST MISSION』(2015年/佐藤信介監督)、『下衆の愛』(2016年/内田英治監督)など。

「自分の過去を思い出す作業から入りました」

―― 最初に、第一部の現在パートからお話をうかがいたいと思います。現在パートの民宿の女主人という役柄は、これまで岡野さんが演じられたことのないタイプの人物かなと思ったのですが、岡野さんご自身はどう感じられましたか?

岡野:まず、初めての母親役というのが大きくて、私はもちろん出産の経験もありませんし「どうしようかな?」というのは思いました。また、民宿の女主人ということで、私の身近にはいないような人物像ですし、でも彼女の芯の強さですとか、民宿を切り盛りする姿勢ですとか、力強い女性だなとは思っていました。

―― その役を演じる上で、どのように役作りをされたのでしょう?

岡野:どちらかというと母親役というほうに重点を置いていたので、自分の母親に取材すると言いますか、私が子どものころの話を聞いたりとか、図書館などで育児書や出産の本を読んでみたりとか、私が小さいときに担当してくださっていた保育士さんにお話を聞いたりとか、そういう自分の過去を思い出す作業から入りました。

―― その保育士さんは、いまも岡野さんの地元にいらっしゃるんですよね?

岡野:はい、そうです。なので遊びに行って(笑)。

―― では、役のためにかなり手間と言いますか、時間をかけられたのですね。

『ゆらり』スチール

『ゆらり』より。岡野真也さん演じる31歳の凜香(右)と、筧礼さん演じる凜香の娘・ゆかり

岡野:そうですね。幸い、この作品のお話をいただいていたのがけっこう前で、2年前とかだったのかな? 映画になるのが決まってからも撮影まで半年くらいはあって、しっかり時間があったんです。もちろん、その中でほかのお仕事はしていたんですけど、頭の片隅にはどこか凜香という役のことがあって、この役に関しては、できることは全部やって演じたいなと心から思っていたので、手間とは思わなかったですね。

―― そうやってお話を聞いたり本を読まれたりした上で、母親らしさを出すために気をつけられた点はどんなところですか?

岡野:31歳の凜香については、単純に見え方の問題なんですけど、私が当時まだ23歳だったので、手振りひとつにしても幼さが見えてしまうというのが難しいところで、どうしたら31歳に見えるかというのを監督と一緒に研究するというか、ちょっと時間をいただいて、お芝居をしてモニターで確認してというのを初日にちょっとやりとりをして作っていきました。

―― 現在の凜香は、母親らしさに加えて、人との接し方とかに変な意味じゃない「オバちゃんっぽさ」があると感じました。岡野さんは、そういう部分で意識されたり、あるいは参考にされたことはありましたか?

岡野:特に「オバちゃんっぽく」とは意識はしていなかったですね(笑)。ただ、原作が舞台で、私は舞台そのものは観ることができなかったんですけど資料として舞台の映像をDVDで見せていただいて、その舞台での女主人・凜香の要素を少しもらっている部分もあります。あとは、参考にしたといえば町なかの女性の方です(笑)。私はいつも、次にやる役のイメージができた段階で、町なかをなんとなく見ているんです。

―― 現在パートは凜香と娘のお話が軸ではありますが、いろいろな登場人物のドラマがあって、それを凜香が包み込んでいるようなところがあると思いました。その凜香のポジションについて、どう考えられていましたか?

岡野:そうですね、きっとそれが、さっきおっしゃっていた「オバちゃんっぽい」ということにつながると思うんですけど、31歳の凜香はいい意味でおせっかい焼きなんですよね。でないときっと民宿を切り盛りできないと思いますし、人のことが好きで、喜んでもらえることが好きな女性なので、なんとなく世話を焼いてしまうし、首を突っ込んでしまう。でも出すぎた真似はしない。民宿をやっている空気の中で得た懐の深さだと思います。撮影では実在する民宿をお借りして撮影していたので、そこのお母さんとお話をしたんですけど、ほんとに柔らかくてあたたかみのある女性で「こういう感じなんだなあ」というのは思いました。その民宿の方は朝ごはんをみなさんに振る舞ってくれたり、そういうところが民宿を切り盛りする女性像なのかなというのは撮影中に思いました。

「私に近い部分も見せちゃおうという感覚ではありました」

―― 次に第三部の過去パートについておうかがいしますが、撮影の順番は現在と過去はどちらが先だったのでしょう?

岡野:先に現在を撮っていました。

―― では、若返ったわけですね(笑)。

岡野:はい(笑)。

―― 現在パートと過去パートの間で撮影に間隔はあったんですか?

岡野:いえ、もう次の日からパツンと若返りました(笑)。

―― 過去の凜香は、実家に帰ってきた娘で、母となった現在の凜香とは違う部分も出ていますが、どう演じようと考えられていましたか?

岡野:わりと、私のままとまでは言わないですけど、近い部分も見せちゃおうという感覚ではありました。

―― 先ほどのお話ですと現在と過去を続けて撮ったということですが、演じる上での気持ちの切り替えに苦労されることはなかったのでしょうか?

岡野:特になくて、すんなりでしたね。過去では凜香は23歳で、ほんとに私と同年代なので、ただ私に戻っただけという感じでした(笑)。

―― 23歳の凜香と31歳の凜香は、違った面もありつつあくまで同じ人物の違う時代なわけですよね。その「違うけど同じ人」という部分は、演じる上で意識されていましたか?

岡野:それはなんて言いますか……私はそういうところをやろうとしてできるほど芸達者ではないと自分では思っているので、とにかく、自分が、岡野真也自身が、自分のことを信じてお芝居をしていれば、(過去と現在が)つながると思って取り組んでいました。

―― 現在では凜香は娘のいるお母さんで、過去では逆に凜香が娘でと、ひとつの作品の中でお母さんと娘を演じるというのは、どんな感覚なのでしょう?

『ゆらり』スチール

『ゆらり』より。岡野真也さん演じる23歳の凜香(右)と、鶴田真由さんが演じる凜香の母・美和

岡野:私もいまは自分のお母さんの娘ですけど、将来いつかは自分の娘や息子ができてお母さんになるのは自然なことなので、そこに特別な意識はないです。同年代の、たとえば同級生で子どもがいる友達とかを見ていても、子どもを産むと急にお母さんの顔になるんですよね。そういうのを何人も見てきたので、娘のときとお母さんのときでなにかを切り替えなければとは思わなかったです。

―― 過去パートでは、凜香は鶴田真由さんが演じるお母さんの美和と一緒のシーンが多かったと思いますが、お母さんに対してはどのような気持ちで演じられていたのでしょう?

岡野:鶴田さんが現場でもずうっとお母さんでいてくれたんです。作品に出てくるお母さんと同じような空気で現場でもいてくださったので、私は特別になにか「お母さんと思わなきゃ」みたいな意識もなく、鶴田さんがいまのお母さんなんだと思えました。過去のパートでは私(凜香)は、ものすごくお母さんに反抗していますけど、それも柔らかく受け止めてくれますし、あそこまで懐深く受け止めてくれるからこそ、娘も依存して我がままができるんだなあって、甘えていました(笑)。

―― いまお話にあったように、過去の凜香はすごくお母さんに反抗していますが、岡野さんご自身は親御さんに反抗する経験というのはお持ちですか?

岡野:ありますあります(笑)。

―― では、凜香みたいな反抗する気持ちも岡野さんの中にはリアルにあるというか。

岡野:でも、反抗しているときって、なんで自分が反抗しているかわからないんですよね(笑)。そういう反抗する時期がまた数年後に来たら嫌なんですけど(笑)、なんかちょっとしたことがイライラしちゃうんですよね、あの時期って。いま思えばそんな感覚です。そこに、ちょっと小うるさいことを言ってくる母親がいるから反抗してしまうという、反射的なものなので(笑)。

「家族のことを考える時間は増えたかなと思います」

―― もちろん脚本をお読みになって全体のお話はご存知だったと思いますが、作品が完成して、内山理名さんがメインの未来パートも含めて全編つながった作品をご覧になったときは、どのように感じられましたか?

岡野:もう、全パートで泣きました(笑)。実際「どうつながるのかな?」と思っていたんですけど、「こうなったか」といいますか、私は素直に面白いなあと思いました。

―― 原作舞台の作・演出と映画の脚本を手がけられた西条みつとしさんとお話する機会はあったのでしょうか?

岡野:はい、お話させていただきました。ただ、撮影前にはお話することができなかったので、撮影がほぼ終わりかけのときに西条さんがわざわざ撮影現場の石川県まで来てくださって、少しだけお話ができたんです。まず、私が演じている凜香の役のことを「どういう女の子だと考えて書いていたんですか?」というようなことをお聞きしたのと、あとは西条さんのお母さまのお話を聞きました。

―― 西条さんのお母さんのお話を聞いて、特に感じられたことはありましたか?

インタビュー写真

岡野:やっぱり、西条さんはお母さんが好きなんだなというのが伝わりましたし、私は西条さんのほかの舞台も観ているんですけど、どの作品のお母さんも、だいたい柔らかくて懐が深い女性なんですよね。西条さんはそういうお母さんに見守られてきているのだなとも思いましたし、きっと、特に男性が思う理想のお母さん像なのではないかと思いました。

―― 岡野さんがご出演になっているシーンもそれ以外も含めてなのですが、今回の映画で岡野さんが特に好きなシーンや、印象に残っているシーンはあれば教えてください。

岡野:そうですね……。各パートで涙の出るところはもちろんなんですけど、自分のところで言えば、マジックのシーン(※第三部で渡辺いっけいさん演じる父親・幸雄が凜香と宿泊客に手品を見せるシーン)はお気に入りです。ほんとに、いっけいさんと理科実験のように楽しく楽しく作ったシーンなので(笑)。あとは、二部の未来のパートですと、青空くん(※二部の主人公・ゆかりの息子)と平山(浩行=青空の父・正樹役)さんがサッカーをしているところが印象的だったんです。初めて完成した映画を観たときに印象に残って、平山さんとはドラマ「ブラックリベンジ」でもご一緒しているんですけど、現場で平山さんもやっぱりそのサッカーのシーンのことを話していらっしゃいました。素の親子の関係が一番見えるところで、素敵だなと思いました。

―― 『ゆらり』は、凜香と娘やお母さんだけでなく、ほかの登場人物も含めて「親子」というのが作品全体を通したテーマになっていますが、今回『ゆらり』にご出演になったことで「親子」について考えられたことがあれば教えてください。

岡野:親子は一生の付き合いですよね。私はこの作品に関わって、家族のことを考える時間は増えたかなと思います。いろいろな家庭環境があって、いろいろな親子像があると思うんですけど、私はこの作品で謝りたいことも感謝したいことも、本当にたくさん思い出したので、映画を観に来てくださったみなさんも、ぜひこの作品を観て、家族のことを思い出して、電話の1本、メールの1本、会いに行っちゃうでもなんでもいいんですけど、そういうきっかけになればいいと思いますし、きっかけにしてほしいです。いろいろな人の想いが詰まって、本当ににひとりでも多くの人に観てほしいと思える作品にすることができたので、ぜひ劇場で観ていただきたいと思っています。

インタビュー写真

取材時にはキュートな姿を見せてくれた岡野真也さん。取材時とは違った『ゆらり』での岡野さんの姿も、ぜひ劇場のスクリーンでたしかめてください。

  • ヘアメイク:宇賀理絵
  • スタイリスト:瀬川結美子
  • ニット:マノン/エムケースクエア(http://manon-japan.com
  • パンツ:ティグル ブロカンテ(http://tenkumaru.com

  • (お問い合わせ先)
    エムケースクエア 06-6534-1177
    ティグル ブロカンテ 092-761-7666

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(2017年10月3日/都内にて収録)

作品スチール

ゆらり

  • 監督:横尾初喜
  • 原作・脚本:西条みつとし(TAIYO MAGIC FILM)
  • 出演:岡野真也 内山理名 戸次重幸 萩原みのり 山中崇 遠藤久美子 平山浩行 渡辺いっけい 鶴田真由 ほか

2017年11月4日(土)より池袋シネマ・ロサ ほか全国順次公開

『ゆらり』の詳しい作品情報はこちら!

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