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『ホペイロの憂鬱』白石隼也さんインタビュー

 「ホペイロ」とは、サッカーで用具の管理やメンテナンスなどをおこなう専門の職業。サッカーに造詣の深いことで知られる白石隼也さんは、主演作『ホペイロの憂鬱』で、まだ一般には馴染みの薄い職業といえるホペイロを演じました。
 井上尚登さんの同名小説を加治屋彰人監督のメガホンで映画化した『ホペイロの憂鬱』は、J3のサッカークラブ・ビッグカイト相模原のJ2昇格を巡るドラマやクラブの周りで起こる騒動を、ホペイロ・坂上栄作を主人公に描いていきます。
 実在のJ3サッカークラブ・SC相模原や相模原市の協力を得て「サッカークラブがある街」をリアルに描いた『ホペイロの憂鬱』。サッカーを題材としたこの作品は白石隼也さんにとってどんな経験となったのか、お話をうかがいました。

白石隼也(しらいし・しゅんや)さんプロフィール

1990年生まれ、神奈川県出身。2007年開催の第20回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストで準グランプリを受賞し芸能界デビュー。2008年『制服サバイガール2』(金子大志監督)で映画に初出演し、以降も映画やドラマで活躍。2012年より放送された「仮面ライダーウィザード」(EX系)とその劇場版で主演をつとめファン層を広げる。2016年には配信ドラマ「グッドモーニング・コール」(FOD/Netflix)に主演、また「真田丸」でNHK大河ドラマ初出演を果たす。
映画出演作に『GANTZ』(2011年/佐藤信介監督)、『カイジ2~人生奪還ゲーム~』(2011年/佐藤東弥監督)、『ストレイヤーズ・クロニクル』(2015年/瀬々敬久監督)、『彼岸島 デラックス』(主演:2016年/渡辺武監督)、『東京喰種トーキョーグール』(2017年/萩原健太郎監督)など。

「“Jリーグの映画を作れたらいいね”という話はずっとしていたんです」

―― ホペイロの憂鬱』はプロサッカーを題材にした作品ですが、白石さんご自身もサッカーのご経験があるんですよね。

白石:そうですね、サッカーは幼稚園から高校を卒業するまでやっていました。

―― ご自分でプレイするだけでなく、応援するほうはいかがでしょう?

白石:ぼくは東京ヴェルディというチームが好きで、ちっちゃいころから好きだったんですけど、10年くらい前からスタジアムで試合を観るようになって、いまでもけっこう観ています。

―― では、今回サッカーを題材にした作品に主演するというのはどんなお気持ちでした?

白石:前々からJリーグの広報をしている方たちと仲良くさせていただいていて「一緒にJリーグの映画を作れたらいいね」という話はずっとしていたんです。そんな中でこのお話をいただいて、原作も読ませていただいたらサッカーへの愛が溢れている原作でしたし、ぜひこの映画の力になりたいという気持ちで受けさせてもらいました。

―― 今回の作品は、選手やサポーターではなく、ホペイロが主人公というところが特徴ですね。ホペイロが主人公ということについてはどうお感じになりましたか?

『ホペイロの憂鬱』スチール

『ホペイロの憂鬱』より。白石隼也さんが演じる主人公のホペイロ・坂上栄作

白石:ぼくもサッカーが好きなのでホペイロという名前は知っていたんですけど、実際にどんな仕事をしているか詳しくは知らなかったんです。それで、原作を読んだり、お話を聞いたりすると、ホペイロって現場スタッフの中で唯一プレイに関係ないところで仕事をしているんですよね。ほかの現場スタッフ、たとえばコーチングスタッフとかは選手たちと一緒にピッチの上で仕事をするんですけど、ホペイロは現場にはいるんですけど裏方の仕事なので、ひじょうに面白い立ち位置の仕事で、なのでホペイロという切り口でしか描けない視点が描けるんじゃないかなと思いました。

―― この役を演じるにあたって、実際のホペイロの仕事について学んだりということはあったのでしょうか?

白石:映画に出てくるクラブのモデルとなったSC相模原でマネージャーという立場で仕事をされている伊藤さんという方が、相模原の前のクラブでホペイロをやられていた方だったので、伊藤さんからいろいろと技術的な話であったり、ホペイロがいかに多岐にわたる仕事であるかということをお聞きしました。意外だったのは、ホペイロは選手たちのメンタルケアみたいなことも担っているということだったんです。さっきお話したように、ホペイロは現場スタッフの中で唯一プレイに関する仕事をしていない分、選手たちにとっては話をしやすい存在らしくて、そういうお話を聞いて、ホペイロというのは現場の潤滑油のような仕事なんだということを感じました。

「自分の仕事にしがみついてでもやろうという感じは似ている気はしました」

―― 白石さんが演じられた主人公の坂上栄作は、ナチュラルな人物として描かれていると感じました。白石さんは坂上を演じる際にどんなことを意識されていたのでしょうか?

白石:そうですね、彼は人間的にも特別変わった性格の持ち主でもなくて、ある意味「普通の男」なんですよね。映画をご覧になる方も、彼に共感して作品を見ることになると思いましたし、変に「こういうキャラクターで」というようなことはまったく意識せずに、ぼくと似ていると言えば似ているところもすごくあったので、わりとぼくが感じたまま、坂上を通して表現したかたちでした。

―― 「似ているところもある」というのは具体的にどういう部分か、よろしければ聞かせていただけますか?

白石:彼はホペイロという仕事をやりたいわけですけど、周りが彼のことを求めているかと言えばそうではないんですよね。ぼくも役者をやっていて「自分が求められていないんじゃないか?」と思う瞬間ってけっこうあるんです。「自分が抜けてもそこを埋める人はたくさんいるんじゃないか」って、漠然と仕事に対して不安に思うこともあるんですけど、ただどこかで「俺じゃなければできないこともある」と思っているんです。ぼくだったら役者、彼はホペイロという仕事にしがみついてでもやろうという感じは、境遇とかそういうところも含めて、似ているのかなという気はしました。

―― 加治屋彰人監督とは、坂上の人物像についてお話をしたりはあったのでしょうか?

『ホペイロの憂鬱』スチール

『ホペイロの憂鬱』より。白石隼也さん演じる坂上栄作(右)と、水川あさみさんが演じるクラブの広報担当・鬼塚撫子

白石:いろいろアイディアとか提案はしてくださいましたし、どういう役柄にしたら面白いかみたいなことはけっこう話し合いました。ぼくは、坂上が畳屋の息子で30歳になったら畳屋を継がなくてはいけないという、脚本には書いていない裏設定を加えたらどうかという話をしたんです。要はリミットを作るということですね。「あと何年かしか自分は好き勝手できない。だから俺はここまでがんばるんだ」みたいな、自分の好きなことをやっていい期間というのを役に授けたら坂上がもっとイキイキするんじゃないかと監督に提案したら、すごく監督もノッてくれたんです。監督は特に畳屋というところが気に入ったみたいで「畳屋はいいねえ」って、ぼくとしては「そこはあんまりどうでもいいんだけどな」みたいなことは思ったりしたんですけど(笑)。最初の段階では若干意見が食い違うようなこともありましたけど、役を作っていくためにそういう話し合いはしていました。

―― 撮影中の共演者の方々との印象的なエピソードがあれば教えていただけますか?

白石:やっぱり、ホペイロ坂上はこの映画に関しては一番下っ端の役なので、できる限りほかの方ともコミュニケーションをとっておいたほうがいいなと思っていたので、なるべくメインキャスト以外のサッカー選手役の子たちともたくさんお話ししましたし、できる限り近くにいました。そういうことが芝居に活きてくるんじゃないかなと思っていたんです。選手役の子たちはサッカーの練習をするために撮影の別日に集まったりもしていたんですけど、そこにも顔を出して一緒にサッカーをして、ちょっとでも打ち解けられるようにしていました。

「“仕事論”みたいなものがテーマになっていると思っているんです」

―― 映画ではクラブを応援するサポーターの方たちの姿も描かれていますが、実際にクラブを応援する側でもある白石さんは、そこに共感する部分はありましたか?

白石:そうですね、サッカーやほかのなにかを応援したことがない方から見ると、サッカーのサポーターというのは一番わけがわからない人たちだと思うんですよ(笑)。「なんであんなに熱くなっているの?」って、海外だとフーリガンとかもいますし、なんでそんなにサッカーが人生に作用してしまっているのかわからないという人も多いと思うんです。だけど、ぼくもどっちかというとサッカーに人生を振り回されちゃっているほうで、試合の結果に毎週一喜一憂していますから、すごく気持ちはわかるんです。選手の人生を追うのも応援だし、街の誇りとしてチームを応援するのもそうだし、応援にもいろいろな要素があると思うんですけど、週に1回みんなで集まって大声で叫んでバカみたいに歌を歌っている瞬間って、ものすごく気持ちがいいことなんですよね。だから、サッカーを観たことのない方には、この映画を観てもらって「1回サッカーを見てみようかな」と思ってもらえたらすごくいいかなと思っています。

―― 撮影はSC相模原や相模原市の協力を得ておこなわれたそうですが、実際にサッカークラブのある街で撮影されて感じたことはありましたか?

白石:撮影に使った公園の方とか、エキストラに参加してくれる方とか、普段からSC相模原を応援している方々もひじょうに協力してくださったので、サッカーを応援している街の土壌というのは少なからずあるなと感じましたし、話が早いというか「こういう応援をしたい」と言うとすぐに意図を汲んで撮影に協力してくれますし、ほんとにSC相模原のサポーターの方、相模原の方々にはすごく感謝していますし、相模原でやった意味というのがあるんじゃないかと思っています。

―― そして(2017年の)10月には、SC相模原のドリームマッチで元・日本代表選手の方々と同じピッチに立って試合をされましたね。そのときのお気持ちはいかがでしたか?

白石:やっぱり、ぼくも昔サッカー選手になりたいなと思った瞬間はあったので、特にぼくが小さいころに見ていた元・日本代表の選手たちと一緒のピッチでやれたのはすごく嬉しかったですね。

―― 小さいころに見ていたようなレジェント的な方々と試合をするというのはどういう感覚なのでしょう?

インタビュー写真

白石:そうですね、あんまり気にせずにやっていて、1回、名良橋(晃=Jリーグ・ベルマーレ平塚や鹿島アントラーズなどでプレイした元・日本代表選手)さんとマッチアップしたときに、名良橋さんがキープするのに手をこう伸ばしてきて、ぼくは思わずその手をパシッて払っちゃったんですよ(笑)。サッカーではよくあることなんですけど、でもよく考えたらフレンドリーマッチだし、相手は名良橋さんだし「ヤベっ」と思って(笑)。なんか、ちょっと変な気分でしたね(笑)。みなさんやっぱりうまかったです(笑)。

―― 映画の話に戻りますが『ホペイロの憂鬱』の中で白石さんが気に入っているシーンというとどこでしょう?

白石:この映画はちょっとした謎解きの話でもあって、原作はミステリーというジャンルですし、ホペイロ坂上が探偵的な仕事をするシーンがいくつかあるんですけど、とんでもなく緩い推理をして、なぜかそれが当たってしまうという、どの謎解きシーンもけっこうコミカルなシーンにもなっているんです(笑)。この映画においてホペイロ坂上の探偵シーンというのは、いい意味でのブレイクになっていて、そのシーンがあることでこの映画が観やすくなっているとも思うので「そんな要素もあるんだよ」という意味で、ホペイロ坂上の謎解きシーンはちょっと注目してもらえたらいいですね。

―― では最後に、記事を読まれている方に向けてメッセージをお願いします。

白石:この映画はJリーグクラブが舞台にはなっているんですけど、テーマとしては、ひとつの組織の中で各個人がどういう仕事をして、周りの人たちとどう協力していけば組織がうまくいくのかというようなことが描かれていると思っていて、ぼくとしては“仕事論”みたいなものがテーマになっていると思っているんです。なので、会社で働いている方や、なにかの学校や組織といったコミュニティに入っている方であれば、必ず共感して観てもらえるような普遍的なテーマの作品になっていると思います。サッカーを好きな方はもちろん楽しんで観てもらえると思うんですけど、サッカーやJリーグに今まで興味なかった方も、そういうことを全然気にすることなく楽しんでもらえる作品になっていると思います。ぜひ、映画館で観ていただきたいです。

インタビュー写真

取自身が演じた役・坂上栄作のことを、まるで友人のように「彼」と呼んでいた白石隼也さん。その呼び方に、演じた役や作品への想いがうかがえるようです。スクリーンを通じても感じられるはずのその想いを、ぜひ映画館でたしかめてください。

※画像をクリックすると拡大表示されます。

(2017年11月29日/都内にて収録)

作品スチール

ホペイロの憂鬱

  • 監督:加治屋彰人
  • 原作:井上尚登「ホペイロの憂鬱」(創元推理文庫)
  • 出演:白石隼也 水川あさみ 永井大 郭智博 小室ゆら 菅田俊 川上麻衣子 佐野史郎 ほか

2018年1月13日(土)より角川シネマ新宿 ほか全国順次公開 1月6日(土)よりMOVIX橋本にて先行ロードショー

『ホペイロの憂鬱』の詳しい作品情報はこちら!

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