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『レディ in ホワイト』大塚祐吉監督インタビュー

 白いスーツに身を包み自信満々の発言を連発するお嬢様育ちの新入社員・如月彩花。だが、ホワイト企業に入社したはずが、横暴で体育会系な典型的ブラック上司の部下になることに。当然のように如月は上司と衝突、このバトルの行方は!?
 幅広いジャンルを手掛ける大塚祐吉監督の新作『レディ in ホワイト』は、会社を舞台に個性的な登場人物たちが繰り広げるコメディ。『罪の余白』に続き大塚監督と2度目のタッグとなる吉本実憂さんが主人公・如月彩花を演じています。
 大塚監督は『レディ in ホワイト』で吉本実憂さんのコメディエンヌとしての才能を引き出すとともに、笑いの中で現代のリアルを浮かび上がらせています。この異色コメディはどのように生まれたのか、大塚監督にお話をうかがいました。

大塚祐吉(おおつか・ゆうきち)監督プロフィール

リドリー・スコット監督『ブラック・レイン』(1989年・米)など数多くの海外作品・合作作品の制作に携わり、1998年に自ら監督した『Peach』が世界各地の映画祭で受賞するなど高評価を得る。その後、東葛映画祭オリジナル作品『妹 -sister-』(2005年)、「首領の一族」シリーズ(2007年)など幅広いジャンルの作品を手掛ける。2015年には野性時代フロンティア文学賞受賞作の小説『罪の余白』を吉本実憂さんをヒロイン役に映画化。ほかの劇場公開作に『スープ~生まれ変わりの物語~』(2012年)、日仏合作作品『FLARE~フレア~』(2014年)、『RED COW』(2015年)など。

「キャラクターを肉付けしていく間にコメディ色が強くなったと思います」

―― 『レディ in ホワイト』は、会社が舞台の仕事をテーマにしたコメディで、日本では珍しいタイプの作品かなと思いました。企画の発端はどういうかたちだったのでしょうか?

大塚:一番最初の時点では、そこまでコメディ色の強いものではなかったんです。「新入社員がいまの社会の中でどういうふうに生きていくか」みたいな「“組織”対“個人”」というところからスタートしていました。

―― では、コメディという方向はどの段階で決まったのでしょう?

大塚:当初から「大きい組織の中にこういう人間が入ってきたら面白いだろう」というキャラクターありきの部分はありまして、キャラクターを肉付けしていく間に「白い服しか着ない女の子」だったりという部分が入ってきたんです。そうすると、そういう人間が組織の中に入ってなにが起こるかというのが、かなりコメディチックに感じられたので、そういうところでコメディ色が強くなったと思います。

―― そういうキャラクターの肉付けも含めて、ストーリー作りはどのように進められたのでしょうか?

大塚:まずプロットがあって、そのあと脚本を進める段階で、ライターの方(能登秀美さん)に「こういうキャラクターで、こういう人間とぶつかって」という大まかな部分を書いてもらって、そのあとにまたぼくが手直しするみたいなプロセスでした。ぼくが普段ホン(脚本)を書くときはひとりでやるケースが多いんですけど、今回はライターの方がいらしたので、ほんとにコラボレーションという感じでした。

―― ストーリー作りの過程で、監督が絶対に入れておこうと思った要素というのはありますか?

『レディ in ホワイト』スチール

『レディ in ホワイト』より。吉本実憂さんが演じる主人公・如月彩花

大塚:主人公の女の子の個性というか、社会ではネックになったり叩かれるような部分があるというところですね。それは決して害ではないんですけど、ある種の社会的なルールだったり固定概念の中ではちょっとはみ出てはいるんです。ただ、そういう個性が能力に変わったりプラスになるときもあるのではないかと考える部分があります。映画というジャンルも同じだと思うんです。まったく新しいアプローチをかける人が出てくれば、それはそれですごく面白いものが生まれる可能性はあると思うんです。

―― その主人公の如月彩花は吉本実憂さんが演じていますが、吉本さん主演というのは当初から決まっていたのでしょうか?

大塚:キャスティングが進んでいく中で決まったことでした。

―― 監督は以前に小説を原作としたサスペンス『罪の余白』(2015年)で吉本さんとお仕事をされていますが、吉本さんの主演は監督から希望されたのですか?

大塚:頭の中にはありました。でも、以前『罪の余白』で彼女が演じた役があまりにも邪悪なヒロインだったので、まったく逆のキャラクターをお願いするというのは、かなり負担はかかるだろうなと思っていたんです。実際、見事に負担がかかっていました(笑)。

―― 『罪の余白』に限らず、吉本さんは翳のある役やクールな役のイメージもあったので、今回ここまでコメディのお芝居をされているのに驚いたのですが、監督は吉本さんのコメディエンヌとしての資質に気づいていらっしゃったのでしょうか?

大塚:普段はクールでそんなにものすごく明るくて社交的には見えなくても、奥底に眠っている部分ではいろいろ面白い部分を持っている人はいると思うんですね。吉本さんもそのひとりでもあるのではないかなとは思っていて、バカなことがまったくできない人ではないとは思いました。まあ、メディアに露出する人というのはご自分の立ち位置などである程度キープしなければいけない部分はあるので、もしかしたら吉本さんもクールだったりする部分に比重を置いていた方なのかもしれないとは思うんですけど、今回はもう「こういう役なんでやりなさい」としか言いようがないですから(笑)。

「吉本さんも“こうやればいいんだ”というのを掴んでいたと思います」

―― 監督は、吉本さんがこういうキャラクターを演じられるという確信のようなものは持たれていたのでしょうか?

大塚:正直、不安のほうが大きかったです。相当お互いに苦しむだろうなと思っていましたし、案の定リハーサルは大変で、そういう部分では予想通りみたいなところはありました。当初はそういう感じで、1回リハーサルの最後に「もう、これは無理だね」という話をふたりでしたくらいだったんですけど、そこから一皮剥けるというか、開き直ったらけっこう楽でしたね。ほんとに最後のギリギリでうまく行ったみたいな感じでした。

―― 如月彩花というキャラクターは、言動だけを見るとすごく嫌な人物に感じられておかしくないと思うんですけど、実際に吉本実憂さんが演じられているのを見ると、チャーミングでキュートな人物に見えました。

大塚:それはよかったです(笑)。ほんとに、ホンだけ読むと普通に「生意気で嫌な新入社員」に見える部分は多々あると思うんです。ただ、ぼくはいままでに会った人の中にすごいワガママな人はたくさんいたんですけど、単にワガママなだけじゃなくてワガママを通せるだけの魅力を持っている人というのもいて、その人たちにはやっぱり共通点があったりしたんですね。なので、その辺は吉本さんにも同じふうに演じてもらいました。たぶん彼女も「こうやればいいんだ」というのを掴んでいたと思います。

―― 監督が吉本さんに具体的にアドバイスをした部分もあるのでしょうか?

大塚:たくさんありますね(笑)。動きひとつとっても「こういう動きでやってほしい」というのがあったので、最初にぼくがやってみて、それを吉本さんに感じてもらってやってもらうという感じでした。

―― 如月彩花は笑い方も印象的だったのですが、そういったことも細かく指示はされていたのですか?

『レディ in ホワイト』スチール

『レディ in ホワイト』より。波岡一喜さんが演じるブラック上司・松山翔平

大塚:笑い方に関しては言わなかったんじゃないかな。ぼくが言ったのは、言い方というか暴言の吐き方だったりとか(笑)、人にものを頼むときの甘え方だったりとか、そういう部分のほうが多かったです。それから叫び方ですね(笑)。啖呵を切るところとか、そういうのはいろいろお願いしました。

―― 如月だけでなく周りのキャラクターも面白い人物がそろっていますが、ある意味で敵役といえる波岡一喜さんが演じた上司の松山翔平に関しては、どのような人物として作り上げていったのでしょうか?

大塚:たぶん、すごいファシストな映画監督をイメージして作っていたと思いますね、その辺は(笑)。絶対的に君臨していて自分の思い通りにならないと罵声を浴びせるみたいな、ステレオタイプの監督像ではありますけど、そういう人をイメージしました。たぶん、ここまで横暴になれる職業というのはもう映画監督くらいなんじゃないかと思うんです(笑)。いまの社会だとなかなか難しいですよね。

―― 実際に翔平を演じられた波岡一喜さんにはどういうことを求められたのでしょう?

大塚:もう、人を罵倒するのを楽しんでもらいたかったですね、笑えるくらい(笑)。怒っている姿というのがあるラインを超えるとコメディになると思えるので。

―― 如月彩花が嫌な人物に見えないようにというのとは逆に、翔平はほんとに嫌な人物に見えてほしいと。

大塚:そうですね。構図としては、嫌な映画監督と、自分のことを女王様だと思っている無知な新人女優みたいな関係じゃないかなと思いますね(笑)。

―― もうひとり重要な位置にいると思う人物で吹越満さんが演じた酒田部長がいますが、酒田部長に関してはこの作品の中でどういう存在として考えていらっしゃったのでしょうか?

大塚:ある種、人と色が違っていても受け入れるキャパのある、心が広い人だというふうには考えていました。さっきも話したように、実憂ちゃんがやった役はほんとに一歩間違えるとお客さんから反感を買うキャラクターだと思うので、理想としては、お客さんがみんな『レディ in ホワイト』をこの人のような心の広さで観てくれればいいなと思うようなキャラクターですね(笑)。

「各キャラクターがほんとに人間として生きてもらえなければいけない」

―― この作品は、コメディでキャラクターも個性的ですが、リアリティを感じる部分も多くて、たとえば序盤で如月彩花と先輩社員の相川がやりあうシーンは、ストレートにものを言わないところが実際にありそうだなと感じました。

大塚:そうですね。リアクションとかそういう部分ではコメディ色は強いんですけど、言っていること自体は理にかなっているというキャラクターも多いですし、そのシーンで言うと組織の中で自分が嫌いな人間がいたときに大人の対応としてそつなくその人を排除していくみたいな(笑)、そういうのはある程度気にはしていました。「なんでもあり」という感じにはしたくなかったんです。

―― 相川は翔平とは別のかたちで主人公と対立するようなポジションですが、相川を演じる久住小春さんにはどのように役の感情を作っていただいたのでしょう?

大塚:実憂ちゃんの如月を徹底的に憎んでもらいました(笑)。「いままで会った嫌な人を思い浮かべてほしい」みたいに(笑)。でも、久住さんはお芝居になったらすごい役に入りやすい人なので、そこまで大変ではなかったと思います。ずっと役者をやられてきた方ではないですけど、入る能力というのはひとつの才能だと思います。あの役はオーディションだったので多くの役者さんとお会いしていて、彼女はオーディションのときからちょっと異彩を放っていましたね。

―― その序盤のシーンに限らず、如月彩花や翔平の隠している部分が見え隠れするような描写もありますし、ある意味でリアルに人間を描いた作品でもあるように感じました。

インタビュー写真

大塚:そうですね、もちろん映画の世界の話ではあるんですけど、各キャラクターがほんとに人間として生きてもらえなければいけないので、お芝居に関してはかなり説得力のある役作りもしてもらいました。矢本(悠馬=先輩社員・猪瀬康太役)くんがリハーサルのときに言っていたことが象徴的で「脚本を読んで軽いタッチの話かと思って来たら、リハーサルがこんなに厳しいとは思わなかった」みたいなことを言っていたんですよ(笑)。そういう部分では、お芝居合戦みたいな部分はありました。工場長をやられていた國本(鐘建)さんとかもすごい気合いの入ったリハーサルをやられていましたし、コメディなんですけどリハーサルのときは実際すごい入り方をされていましたね、みんな。

―― やはりキャスティングではそういう部分が表現できる俳優さんということを重視されていたのでしょうか?

大塚:はい、かなりの数の方がオーディションで役をとられているので、そういう意味ではほんとに役に合う、説得力のあるお芝居をしてくださる方をキャスティングできたと思っています。

―― いまはまさにこの映画で描かれたような「ブラック企業」や、働くということについて社会でも話題になることが多いですが、その中でこの映画をどうご覧になっていただきたいですか?

大塚:最悪の状況のときほどユーモアのセンスが必要になってくるという部分ですね。もう自分で楽しむしか残っていない状況にしなくてはいけないときはあると思います。組織を変えるような力を持てればまた別だと思いますし、ほんとに嫌になったら出て行くのもいいと思います。もうひとつは、主張するにはリスクを負うというのもありますね。主人公の如月みたいに、あれほどの主張をするのであれば、叩かれる覚悟もしていなきゃいけないことはあると思います。

―― 監督は、ご自身の経験の中で「働く」ということについて特に考えられていることはありますか?

大塚:映画作りに関してとかだと「24時間ぶっ通しで撮影する」みたいな話もあって、そういう現場もたくさんあると思うんですけど、ぼく個人はそれを良しとしていないですね。なんでかというと、ぼくが一番「なるべく早く撮影を終えて帰りたい」と思っているから(笑)。そのためには準備をしっかりして、リハーサルもしっかりやって、現場では極力、画だけにこだわれるようにして、何度もやり直しはしないと。みんなが早く帰って次の日ベストのコンディションで仕事をしてもらいたいというのがあるので、今後もそういうふうにやっていきたいですね。

―― では『レディ in ホワイト』は現場もホワイトだったと(笑)。

大塚:そうですね、現場自体はホワイトだと思います(笑)。遅くまで働くことはなかったし。

―― 最後にもうひとつ、吉本実憂さんをヒロイン役に作品のジャンルとしても役としてもまったく違う2作品を作られましたが、また吉本さんと組んでみたいというお気持ちはありますか?

大塚:ありますね。いつになるかわからないですけど『罪の余白』の続編は考えていますので、そのときは彼女にまた同じ役でお願いしたいなと思っていますし、別の作品で全然違う役というのもやってみたいですね。繊細で弱さ丸出しのキャラクターとかもやってもらいたいです。すごい振り幅のある役者さんですから、彼女がリミットさえかけなければどんな役でもやれるんじゃないかと思います。

(2018年11月5日/都内にて収録)

作品スチール

レディ in ホワイト

  • 監督:大塚祐吉
  • 出演:吉本実憂 波岡一喜 矢本悠馬 久住小春 小山田サユリ いとうまい子 利重剛 吹越満 ほか

2018年11月23日(金・祝)よりユナイテッド・シネマ アクアシティお台場、ミッドランドスクエアシネマ ほか全国順次公開

『レディ in ホワイト』の詳しい作品情報はこちら!

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