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『踊ってミタ』飯塚俊光監督インタビュー

東京でのクリエイター生活に挫折して故郷の町役場に勤める三田は、町の観光PRのため「踊ってみた」動画を作ることに。だが動画作りはうまく進まず、同僚の真鍋や元ご当地アイドルの高校生・ニナも巻き込んで、事態は思わぬ方向へ……。
 インターネット発のムーブメント「踊ってみた」が飯塚俊光監督の手により『踊ってミタ』として映画化! 主演の岡山天音さんをはじめ加藤小夏さん、武田玲奈さんら注目のキャストが揃った『踊ってミタ』は、ボカロ(ボーカロイド)やVTuberといったインターネットカルチャーも登場し、地方の町興しを巡る人々のドラマが描かれていきます。
 「踊ってみた」と「町興し」、そして人間ドラマを見事に融合させた飯塚監督に、その発想の裏側を「聞いてみた」!

飯塚俊光(いいづか・としみつ)監督プロフィール

1981年生まれ、神奈川県出身。ニューシネマワークショップで映画制作を学んだのち、伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2012に脚本を応募し大賞を受賞。受賞脚本を自ら監督した『独裁者、古賀。』(2013年)が多くの映画祭で高評価を得て2015年に劇場公開を果たす。ndjc:若手映画作家育成プロジェクトで制作された短編『チキンズダイナマイト』(2014年)などを経て、田辺・弁慶映画祭第10回記念映画となる長編『ポエトリーエンジェル』(2017年)の脚本・監督をつとめる

マッチしないものをマッチさせたほうが面白いと思ったんです

―― 最初に「踊ってみた」を題材に映画を作ろうと思ったきっかけから教えていただけますか?

飯塚:「踊ってみた」というのはあくまでひとつの切り口だったんです。いま、インターネットの世界からいままでにないかたちでクリエイターや幅広い意味でのアーティストが出てきてますよね。ボカロのプロデューサーとか、今回の映画に参加してくれたユニティちゃんやりりりちゃん、めろちんさんたちとか。ぼくが一番やりたかったのは、そういうインターネットの世界から生まれてきたクリエイターやアーティストたちと、岡山天音くんや武田玲奈さん、加藤小夏ちゃんのようにテレビを主戦場として活躍している方たちをくっつけることだったんです。まだそこが分断されている気がして、それをくっつける場として映画が一番適切なんじゃないかという発想から始まったという感じです。

―― そういうインターネットカルチャーを題材に映画を作るとなると、いろいろなアプローチが考えられると思うのですが、今回の『踊ってミタ』のストーリーはどのように発想されたのでしょう?

『踊ってミタ』スチール

『踊ってミタ』より。岡山天音さん演じる主人公の町役場職員・三田(左)と、加藤小夏さん演じる元ご当地アイドルの高校生・古泉ニナ

飯塚:ボカロプロデューサーとかアニメとかと一番マッチしないものをマッチさせたほうが面白いと思ったんです。たとえば、秋葉原でボカロが流れているのってよくある光景になっちゃうと思うんです。それが「どこかの田舎町でボカロ」とか「どこかの田舎町でVTuber」というのはマッチしない。そのマッチしない感じが面白いと思ったので、田舎町で「踊ってみた」を題材にしようと考えて、そうしたら必然的に町興しとか地方活性化と結びつけるのが一番やりやすいんじゃないかとなったんです。要は、一番遠そうなもの、組み合わせの悪いものを選んでいった結果ということですかね(笑)。

―― 監督の前作である『ポエトリーエンジェル』(2017年)でも地方を舞台にしていらしたので、地方を舞台にしているのは特別な思い入れがあるのかと思っていました。

飯塚:それもあると思います。ぼくは自主映画からやって来た人間なので、地方の映画祭にいく機会が多いんです。そういう映画祭って「町を活性化したい」という目的でやっていることが多かったので、そこで映画祭に関わっている方々の想いをずっと感じていたということもありますし、ぼく自身、出身は神奈川なんですけど都会ではなくて山梨県に近い田舎のほうなので、演出する上でも田舎町のほうがやりやすいということもあると思います。

―― 今回の主演の岡山天音さんと共演の武田玲奈さんは『ポエトリーエンジェル』主演のおふたりですね。前回はおふたりを想定して脚本を書かれていたそうですが、今回も同様だったのでしょうか?

飯塚:今回はそんなに考えていなかったんです。むしろ、天音くんも武田さんもすごくたくさんの作品に出るようになっているので、ぼくの作品のイメージが付くのはあまりプラスにならないんじゃないかという想いもあったりして、逆に使わない方向でいこうかとも考えていたんです。でも、それはそれで純粋にキャスティングしていないなと思いはじめて、もうそういうことは全部忘れて「ぼくが知っている俳優でこの役に一番合っているのは誰だ?」というふうに考えて、天音くんも武田さんも決まっていきました。だから前作とは違っていて、脚本ありきで一番いい人を選んでいった結果ですね。

人を何層にもしたいという気持ちがあるんです

―― 『踊ってミタ』では岡山天音さん演じる主人公の三田をはじめ登場人物がみんなリアルで。特に加藤小夏さんが演じた古泉ニナのリアルさが印象に残りました。人物造形ではどういうことを意識されたのでしょうか?

飯塚:ぼくが実際に過去に会ったことがある人を元にしていっていますね、デフォルメはしていますけど(笑)。天音くんがやった三田が代理店に入ってもちゃんとした仕事をやらせてもらえないというのも、ぼくの友達の実体験だったりするんですよ。それから、わりとラストをイメージして着想して、そこにたどり着くにはどうすればいいかと考えていくことは多いです。たとえば加藤小夏ちゃんのニナで言うと、最後に彼女が華やかに見えてほしいわけで、そこにカタルシスを作るにはどういうキャラクターがいいんだろうかと考えていくと、絶対に性格悪い奴のほうがいいだろうと(笑)。なので、いままで自分が会ったことのある人の中で性格の悪い人の匂いをどんどん入れていった感じなんです。ほかのキャラクターもそういう感じです。

―― 「実際に会ったことのある人」とうかがって、映画の中盤に出てくる三田の東京時代の先輩は、いかにもそんな感じだなと思いました(笑)。

飯塚:いそうですよね、どこの会社にも(笑)。ああいう声の大きい人がいて、その人の言うことを真に受けるといろいろつらくなるというのはぼくの知り合いにもいたし、ぼくもけっこう会ってきたので(笑)。

―― でも、あの人もただ嫌なだけの人物にはなっていないのが、この作品での人間の描き方なのかなと思いました。

インタビュー写真

飯塚:何層にもなっている感じはしますよね。それはあのキャラクターだけじゃなくてみんな。「こいついい奴だな」と思ってたら「あれ?」とか「嫌な奴だな」と思ってたら「いい奴じゃん」みたいな感じで、どちらかと言うと人を何層にもしたいという気持ちがあるんです。

―― いまのお話をうかがって、登場人物にリアルさを感じたのは、何層にもなっているからだったのかと腑に落ちました。

飯塚:そうですね、わりとキャラクターを作るときって一辺倒になりがちなんですけど、そうならないように意識して書いてますね。

―― 登場人物では、中村優一さんが演じた町長の丸山が、中村さんの従来のイメージとはかなり違う役かなと思いました。

飯塚:ほんとそうですね(笑)。でも、ぼくの考え方として「カッコいい人にはブサイクな役、かわいい子にはブスな役」というのがあるんです。「ブサイク」とか「ブス」というのは見た目ではなく内面的な意味です。さっきお話しした加藤小夏ちゃんのニナもそうですし、武田玲奈ちゃんの真鍋も、横田真悠ちゃんのミネタも、基本的には「変な奴」なんですよ。彼女たちの素材がかわいいから最後にはかわいくなっていくんですけど、当てているキャラクターは「変な奴」で、そっちのほうが映えるとぼくは思っているんです。だから中村くんもカッコいいから「このカッコよさをより面白くするのはどういう役だろう?」って考えると、ああいうやっていることがメチャクチャな役のほうが面白いと思うんです。あれを嫌な感じの顔でやってしまうと野暮ったくなるというか、なるべく見た目と行動がギャップを生むようにしてやっています。

―― いまお名前が出た横田真悠さんも含めて、今回は若い俳優さんが大勢出演していらっしゃいますが、若い俳優さんを演出する上で気をつけられた点があれば教えてください。

飯塚:なるべくその人に合った言葉を投げかけるような努力はしていました。たとえば加藤小夏ちゃんは自由にやらせたほうが面白いと最初に会ったときに思ったので、彼女に関してはあんまりああだこうだ言わずに大きな方向性だけは決めて、あとは「自由にやってください」と言っていました。逆に横田真悠ちゃんは演技が初めてだったので、自由にさせてはダメなんです。だから細かいところまでひとつひとつ指示を出して、ぼくの色に染まってもらうくらいの感じでやっていくとか、武田さんは始めのキャラクターの入りだけ寄り添ってあげると後半に生きてくるというのが前からわかっていたのでそういうふうにやっていましたし、全員についてそれぞれ違った人として見るようにしていたということなのかな。それは特段、若い方だからどうとか、年齢が上のほうの方だからどうとかということではなく、同じ目線に立つようにしていたつもりなんです。

「うしろ向きだけど歩いていこうよ」くらいのテーマで行きたかったんです

―― 「踊ってみた」の映画ということで劇中で音楽が効果的に使わていますが、やはり音楽へのこだわりはあったのでしょうか?

飯塚:ありました。自分がずっと聴いていたということもあってすごくこだわりはありましたし、映画を全編通してひとつのアルバムみたいになったらいいなと思ってたんです。だから曲のバランスも、かわいい曲やカッコいい曲があったり、ちょっと懐かしい感じの曲があったり、しっとりとした曲があったりみたいに、トータルでバランスを考えて、その中で自分がいいなと思っている曲を選んで、お願いして提供していただいたという感じですね。

―― 既存の曲だけではなく書き下ろしの曲もありますが、書き下ろし曲について監督からアイディアや要望は出されたのでしょうか?

飯塚:ひとつの曲に対して「こんなイメージ」みたいなことはお話ししています。一番わかりやすい例だと、映画に出てくるご当地アイドルのメインの曲は、名産の干し芋にちなんだ“星いもCo.”というアイドルなので「いかにも干し芋のメインの曲にしたいんですけど」みたいな話をしていたんです。細かいことはあまりお話せずに大きなイメージをお伝えしたら、音楽を担当した40mPさんのほうで作成してくれました。

―― そして「踊ってみた」を題材としているだけに「踊り」が映画の中で大きな位置を占めていますが、踊りを映像に撮るにあたって意識されたのはどんなところでしょう?

『踊ってミタ』スチール

『踊ってミタ』より。三田やニナ、三田の同僚・真鍋(演:武田玲奈)、真鍋の妹・ミネタ(演:横田真悠)たちみんなが、それぞれの想いを抱えて「踊ってみた」!

飯塚:撮影の前に、踊りを使っている過去の作品を観たんです。そういうジャンルの作品を全部網羅できてはいないかもしれないんですけど、印象として「衣裳がみんな一緒、みんな笑顔、みんな振りを一切間違えない」というのが多い気がして、ぼくの中でその3つがリアリティという意味で逆に気になってしまったんです。だから、この映画ではその3つを全部崩そうと思って、衣裳は全部バラバラにして、笑顔である必要性はないと言いましたし、振りも間違えて全然構わなくて、むしろ天音くんに関してはわざと間違えてもらったりしていて、過去のものをいかに崩していくかみたいなことは意識していました。みんな揃ったダンスというのもいいと思うんですよ、前向きな感じがして。でも、この映画はそんなに前向きじゃなくて「うしろ向きだけど歩いていこうよ」くらいのテーマで行きたかったんです。なんか、どこかそういうところは屈折しているというか、外したくなっちゃうんですよね(笑)。

―― 最初のほうにも少し話に出しましたが、岡山天音さんと武田玲奈さんは『ポエトリーエンジェル』に続いての出演で、短編『チキンズダイナマイト』(2014年)も含めると監督の作品には3度目のご出演ですね。今後もおふたりで映画を作る構想はお持ちですか?

飯塚:いまのところ、具体的に毎回ふたりでとか、次にどうのみたいには考えていないです。ただ、天音くんと武田さんはぼくがずっと魅力を感じているふたりで、天音くんはいっぱい出てるし武田さんもかわいいだけじゃない役を当てられるようになってきて「世間がようやく気づいてきたか」という想いがあるんです。これから先ふたりを使えるかどうかはわからないんですけど、ぼくが一番最初に商業作品の現場でプロに囲まれてやったときの役者のふたりなので、ポイントポイントで一緒にやれたら嬉しいですね。

―― では最後に、映画の公開を前にしてのお気持ちを聞かせてください。

飯塚:VTuberが出てきたりボカロが出てきたりしているので、いまの段階ではちょっと色物っぽい映画に映っている部分もあるのかなと思っているんです。ただ、やっているテーマというのはすごく普遍的なテーマですし、ほんとに子どもからお年寄りまで老若男女楽しめる映画になっているとぼく自身は思っていて、家族でも、恋人同士でも、お友達でも、みなさんで見てもらえる作品だと思っています。ぜひ、お誘い合わせの上ご来場いただけると嬉しいです。

(2020年2月13日/都内にて収録)

作品スチール

踊ってミタ

  • 監督・脚本:飯塚俊光
  • 出演:岡山天音 加藤小夏 武田玲奈 中村優一 ほか

2020年3月7日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

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