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『さいはて』北澤響さんインタビュー

 夜の居酒屋で偶然に出会った若い女性・モモと40歳の男性・トウドウ。お互いの素性すら知らないまま、ふたりは手をつないで夜の街を歩き体を重ねる。そして夜が明け、ふたりは街から森、海へと“最果て”までの旅を続ける――。
 これまで映画やドラマ、舞台で着実に経験を重ねてきた女優・北澤響さんが、人々の生と性を独自の視点で描く“孤高の映像詩人”越川道夫監督の最新作『さいはて』で初の長編映画主演をつとめます。
 映画の大部分がふたりの登場人物だけで進行していくこの作品でヒロイン・モモを演じ、トウドウ役の中島歩さんとともに作品の世界をしっかりと作り上げた北澤さん。『さいはて』はどんな経験となったのか、お話をうかがいました。

北澤響(きたざわ・ひびき)さんプロフィール

1999年生まれ、東京都出身。高校で演技を始め、ノックアウト主催通年ワークショップ参加を経て2020年にノックアウト所属、以降舞台や映像作品で活躍する。『さいはて』で長編映画初主演。映画出演作に短編『セーラー忍者かげちよ』(主演:2020年/小山亮太監督)、岡山ハレウッドムービー(県PR短編映画)『ぽつり、岡山』(ヒロイン役:2019年/前野朋哉監督)など

お芝居をしていく中で見えてくるものはたくさんありました

―― 『さいはて』は、越川道夫監督ならではの独特な雰囲気を持った作品ですが、脚本を読んだときにはどう感じられましたか?

北澤:ラストの印象がけっこう強かったですね。あまりほかに見ないようなラストでしたので。それから、セリフも喋り言葉にしては少し変わった感じなので、そういうところも印象に残りました。やはり、おっしゃっられたように独特な雰囲気のあるホンでしたので、このホンがどう三次元に立ち上がっていって、どういう映像になるんだろうという楽しみがありました。

―― この作品では童謡の「靴が鳴る」が印象的に使われていますね。この曲はご存知でしたか?

『さいはて』スチール

『さいはて』より。北澤響さん演じるモモ(左)と、中島歩さん演じるトウドウ

北澤:私、保育園のころとかも歌ったことないと思うんです。サビの「お手々つないで」というところはなんとなく聴いたことがあったんですけど、そこしか知らなくて、続きがあるということも今回知ったんです。たぶん、映画の中のモモと一緒の気持ちですね。モモも、トウドウさんが歌っているのを聴いて「あ、続きあるんだ」って思ったんじゃないかなって(笑)。モモは「靴が鳴る」というタイトルもトウドウさんに聞いて初めて知るんですけど、私もタイトルを知らなくて、ほんとにモモと同じでした(笑)。

―― モモは、途中で過去が描かれる部分もありますが、どういう人物なのかという背景があまり見えないキャラクターですね。北澤さんは、モモという人物を掴んでいったのでしょうか?

北澤:現場に入る前に「モモってこういう人なんじゃないかな?」と想像したり考えたりもしたんですけど、実際に現場に入って、中島(歩)さんと一緒にお芝居をしていく中で気づくことがたくさんあって、モモという人物の輪郭がだんだんはっきりしてきたという感じがすごくありました。たしかに背景についてあまり描写はないんですけど、お芝居をしていく中で見えてくるものはたくさんありました。

―― モモは、ときどき子どもっぽいような部分が見えるような気がしました。そういうモモのキャラクターについて、越川監督とお話はされていたのでしょうか?

北澤:「モモはこうだよね」とか「こういうふうに演じて」というようなお話はしていないんです。子どもっぽいというのも、演じているときには意識していなくて、いまおっしゃっていただいて「たしかにそうかも」って思ったくらいで(笑)。そういう部分も相談とかはしていなくて、監督と中島さんと私と、現場のみなさんで一緒にやっていく中で、モモが生まれてきた感じですね。

モモは聖母みたいだなって現場で思ったんです

―― 相手役のトウドウを演じた中島歩さんの印象を聞かせていただけますか?

北澤:中島さんは身長がすごく高い方なので「大きい方だな」というのが最初の印象でした(笑)。それから、私にとってはずっとスクリーンで見てきた方だったので、その方と共演するということで緊張もしていたんですけど、ちゃんと一緒にお芝居をしていこうという強い気持ちも、そのときに感じていました。

―― 先ほど、監督とは役についてのお話はあまりしていなかったということですが、中島さんとも事前にお話はされていなかったのですか?

北澤:そうですね、役柄についてお話したことはあまりなかったです。

―― モモとトウドウは、ずっとお互い敬語で話している距離感が面白いですね。

『さいはて』スチール

『さいはて』より。北澤響さん演じるモモ(左)と、中島歩さん演じるトウドウ

北澤:あの距離感が“ちょうどいい”ではないですけど、違和感はなかったです。やっぱり、前半の敬語と後半の敬語の感じって、ちょっと違ってきているとは思っていて、ふたりの距離感が最初とは違っているんじゃないかとは思っています。

―― モモとトウドウの関係は、普通の恋愛とはちょっと違う感じですよね。北澤さんは、なぜモモとトウドウが惹かれ合ったのだと思いますか?

北澤:それはけっこう考えました。やっぱり、モモもトウドウさんも、お互いが孤独で、その孤独の匂いみたいなところを感じたんじゃないかなって思うんです。特にモモはトウドウさんの孤独を感じているんじゃないかって。できあがった作品を観て思ったんですけど、モモってすごくまっすぐな子で、すごく優しいんですよね。モモは聖母みたいだなって現場で思ったんです。それくらいの優しさがモモにはあって、その聖母みたいな優しさが、トウドウさんの孤独を感じたんじゃないかと思います。

―― ストーリーが進んでいく中で、モモがトウドウに引っ張られているように見えるところもあれば、逆にモモがトウドウを引っ張っているようなところもあって、立場がときどき逆転しているような印象を受けました。

北澤:そうですね、現場でやっていく中でも立場が逆転しているというのはすごく感じて「実はモモのほうがトウドウさんより全然強いんじゃないか」みたいな気もしていました。それは最初から「このホンはこういう構成だから、ここで立場が逆転するんだよ」みたいに相談していたわけではないですし、意識してやっていたのでもなく、やはり中島さんとお芝居をしていく中でそうなっていたんだと思います。

観る人によって違う世界が見えていていいんじゃないかなと思っています

―― 『さいはて』は北澤さんが映っていないカットが数えるほどしかなくて、主演でもここまで出ずっぱりなのは珍しいのではないかというくらい出ずっぱりですね。

北澤:たしかに、ずっと映っていますね(笑)。でも、私はまだ映画の現場をそんなに数多くやっているわけではないので、いま言っていただいて初めて気がついたくらいで、経験がない分、スッと受け入れてやっていた気がします。そこに対する大変さみたいなものは感じていなかったです。

―― 北澤さんご自身が作品の中で印象に残っているシーンはどこでしょう?

インタビュー写真

北澤響さん

北澤:たくさんあるんですけど、実際にできあがった映像を観たときに印象に残ったのは、森の中をモモとトウドウさんがふたりで歩いていたら大きな木があるというカットで、そこが「ああ、いいなあ」と思って、すごく好きでした。

―― その森の中を歩くシーンや、予告編で使われている海の中に入るシーンなど、今回は大変な撮影が多かったのではないでしょうか?

北澤:森を歩くシーンは、普通に木が生えていて道がないところを無理矢理歩いていったりしていたんですけど、私はそういうのがちょっと冒険みたいで楽しいなって思っていたんです(笑)。ただ、みなさんはけっこう「大変だ」って言っていましたね(笑)。海のシーンも、ほぼ1回しか撮れないという緊張感はありつつ、服のままで海にバシャバシャと入っていくことなんてあまりないので、撮影を理由にして普段できないことができるなって、心のどこかで楽しいなって感じたりしていました(笑)。

―― わりと大変な状況でも楽しめるタイプなのでしょうか?(笑)

北澤:そうですね、行ったことがないところとか、いろいろなところに行くのはけっこう好きですね(笑)。

―― では最後に、この映画をご覧になる方に向けてメッセージをお願いします。

北澤:この映画は、いろいろな捉え方ができる映画だと思っています。悲劇に見えるかもしれませんし、喜劇に見えるかもしれませんし、あのラストの続きにまだ先があるとしたら、行く先はいいほうなのか、悪いほうなのか、観る人に委ねられていると思うんです。それぞれの解釈で捉えられるのがこの映画の魅力なのではないかと思いますし、観る人によって違う世界が見えていていいんじゃないかなと思っています。ぜひ、モモとトウドウの行く先を劇場で見届けてほしいです。

インタビュー写真

モモに通じる“まっすぐさ”も感じさせる北澤響さん。『さいはて』はもちろん、今後の活躍も楽しみです。

  • ヘアメイク:稲月聖菜(MARVEE)
  • スタイリスト:矢野恵美子

※画像をクリックすると拡大表示されます。

(2023年2月24日/キングレコードにて収録)

【『さいはて』予告編】
作品ポスター

さいはて

  • 監督・脚本:越川道夫
  • 出演:北澤響 中島歩/金子清文 美香 杉山ひこひこ 君音 内田周作

2023年5月6日(土)より新宿K's cinemaにて公開 ほか全国ロードショー

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