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『還暦高校生』河崎実監督インタビュー

 星雲高校に赴任した若き熱血教師・野々山健一が出会ったのは、42回留年を繰り返した還暦の高校生・椎名一平! 学園のマドンナ・亜紀子先生や椎名の元・同級生で孫持ちの伊藤、クラスメイトたちとともに、椎名と野々山は青春を駆ける!!
 “日本バカ映画の巨匠”と呼ばれる河崎実監督の新作は、現在60歳のひかる一平さんが学生服に身を包んで主演をつとめる『還暦高校生』! 河崎監督ならではの突飛な発想のこの作品は、1960年代から80年代の青春学園ドラマや、かつてひかる一平さんが出演した「3年B組金八先生」へのオマージュと愛が詰め込まれた「青春学園映画」となっています。
 令和の時代に熱い青春を謳うこの作品について、監督にお話をうかがいました。これが河崎監督流の青春だ!

河崎実(かわさき・みのる)監督プロフィール

1958年生まれ、東京都出身。大学在学中より8mmでの自主映画制作を開始。『エスパレイザー』(1983年)では8mm自主映画の常識を越えた特撮技術を駆使して注目を集める。1987年にオリジナルビデオ作品「地球防衛少女イコちゃん」で商業監督デビュー。以降『いかレスラー』(2004年)『日本以外全部沈没』(2006年)『地球防衛未亡人』(2014年)『三大怪獣グルメ』(2020年)など奇想天外な発想の作品を次々と送り出し「日本バカ映画の巨匠」と呼ばれる。2025年は『サイボーグ一心太助』『松島トモ子 サメ遊戯』『還暦高校生』と、監督作の公開が続く

青春学園ドラマは「人生の理想郷」ですよね

―― 『還暦高校生』は、かつての青春学園ドラマにオマージュを捧げた作品ですが、河崎監督にとって青春学園ドラマというのはどんな存在でしょうか?

河崎:やっぱり「人生の理想郷」ですよね。昔の青春ドラマは、夏木陽介主演の「青春とはなんだ」(1965年)から始まって、竜雷太の「これが青春だ」(1966年)、森田健作の「おれは男だ!」(1971年)、村野武範の「飛び出せ!青春」(1972年)とか、ほぼ全部リアルタイムで観ていましたけど、どれも「ああいう学校に通いたいな」とか「ああいう先生に会いたいな」とか「ああいう友達に会いたいな」と思うような、理想の学校生活みたいなものを見せてくれたので、別の言い方をすると「夢」ですかね。しかも、それを教育的に押し付けがましくやるのではないから素直に観られたんですよ。だから、青春学園映画というのは、やってみたいジャンルだったんです。

―― 今回は、ひかる一平さんを主演で青春学園映画ということで、具体的なストーリーはどのように組み立てていかれたのでしょうか?

『還暦高校生』場面写真

『還暦高校生』より。ひかる一平さん演じる主人公・椎名一平(右)と、直江喜一さん演じる伊藤悟

河崎:これはね、完全に元となったものがあって、ひとつは「青春とはなんだ」「これが青春だ」といった東宝の青春学園シリーズ。それと、一平さんが出ていた「3年B組金八先生」(第2シリーズ・1980年)。もうひとつは、大映テレビの「スクール☆ウォーズ」(1984年)。その3つの要素をてんこ盛りにしようと(笑)。基本は東宝青春学園ドラマですよね。いきなり先生が赴任してきて、生徒とぶつかり合ったり、スポーツをやったり、泣いたり笑ったりして生徒たちと青春を送るっていう。そこに「金八」と大映ドラマを入れ込んでいったということなんです。

―― その3つって、いまの時代だと「昭和の青春学園ドラマ」とひとつに括られがちですが、実は「3年B組金八先生」は、それまでの学園ドラマとはかなり違うことをやっていましたよね。

河崎:そう。「金八」は生徒が妊娠したりとか、校内の問題に警察が介入してきたりとか、そういった当時のリアルな教育現場の問題を脚本の小山内美江子先生が書いていて、さっき「理想郷」と言ったけど、そういう東宝の青春ドラマとかがやっていた理想の青春を「そんなわけねえだろ!」って否定したわけじゃないですか。だからこそ、あれだけの名作が生まれたと思うんです。で、その「金八」のあとに「スクール☆ウォーズ」が来て、また熱い先生が出てきたりとか、ちょっと昔に戻るというか、当時の大映ドラマの独特なテイストでね(笑)。だから、青春学園ドラマと言ってもいろいろ違うんだけど、それでもひとつのジャンルとして日本に存在しているわけで、今回はそれをひとつの作品で、てんこ盛りにしていった感じですね。

―― 脚本には、4月に公開された『松島トモ子 サメ遊戯』に続いて、『野球どアホウ未亡人』(2023年)の監督の小野峻志さんが参加していますね。

河崎:小野くんは、彼が高校生のときにSNSを通じてぼくのところに来てね。超マニアだし「こんなに昔のことを知っている高校生いねえぞ」って思ってたら、日芸に入って、いつの間にか映画を撮ってたっていう(笑)。脚本は、ぼくがあらすじを考えて、彼に書いてもらって、それをぼくが直してっていう、キャッチボールでできているんです。だから、セリフとかも「ここは小野くん、ここは俺」みたいな感じになっています。

―― 小野さんは、ある意味で河崎監督の後継者的存在というか、通じるテイストを持った方だと思いますが、そういう若い世代が現れたことを、どうお感じになられていますか?

河崎:まあ、なにかを教えたわけではないから、弟子ではないんですよ。ただ、私のとんでもない発想は受け継いでいるんじゃないですかね(笑)。だから、小野くんは小野くんで勝手にうまく行ってほしいし、うまく行くんじゃないかと思ってます。こういう、脱力系の「バカジャンル」っていうのは、やろうとする人がいないんだよね、俺とアイツしか(笑)。

すごく楽しいことが現場では起きていました

―― 主人公の椎名を演じたひかる一平さんとお仕事をされての感想を聞かせてください。

河崎:いやあ、素晴らしかったです。さすがビッグアイドルだった人ですね。ご本人は「セリフを覚えるのがキツい」みたいなことをおっしゃっていましたけど(笑)、もうカメラの前に立ったらなにも問題なく、さすがの存在感でした。ただ、サッカーのシーンでは、だいぶ苦労をおかけしちゃってね(笑)。何本もシュートを打って、3ヶ月ずっと筋肉痛が続いたって言ってました(笑)。ご本人は60歳で主演をやるとは思わなかったと言ってたし、ぼくも一平さん主演で映画を撮るとは思っていなかったけど(笑)、すごく楽しいことが現場では起きていましたよね。公開決定のときに出したコメントで一平さんが「16歳の自分に、お前は60歳になっても制服着てるぞって教えてあげたい」みたいなことを書いていて、だから「SixteenからSixty」ですよ(笑)。

―― 「金八先生」でひかる一平さんと共演していた直江喜一さんも元・同級生の伊藤役で出演されていますが、直江さんの出演はどのような理由で決まったのでしょう?

『還暦高校生』場面写真

『還暦高校生』より。ひかる一平さん演じる椎名一平や、石田泰誠さん演じる野々山健一(一番左)たち、星雲高校の生徒や教師たち

河崎:一平さんと仲がいいというのは知っていたから、これはもう「あれ」をやるしかないじゃないかって(笑)。直江さんも素晴らしかったですよ。芸能以外の仕事もしながら、ずっと現役で役者をやってきている人だから。直江さんの見せ場みたいなシーンで2回振り返るんですけど、そこもバッチリのカメラアングルのところで振り返るしね。そういう技術はさすがと思いました。ほんとに面白かった。

―― おふたり以外にもレジェンド的な方々が何人も出演している中で、若手の石田泰誠さんが、野々山先生という重要な役を演じていますね。

河崎:石田くんのキャスティングが一番大事だったかもしれないですね。さわやかなヤングの先生にしたかったんだけど、いまの若い人は、ファッションとか髪型とか、文化が違うじゃないですか。だから、なかなかぼくの思う「さわやかなヤング」が見つからなくてね。昔の青春ドラマの先生っていうのは、みんなそのときどきの若い人の憧れなんですよ。「飛び出せ!青春」の村野武範は長髪だもんね。今回は、森田健作的な風貌の石田くんで行こうと(笑)。石田くんは昔の青春ドラマのお芝居なんてわかってなかったから、訳のわからないままでセリフを言わされてたんじゃないかと思うけど(笑)、よくやってくれましたよね。亜紀子先生役の戸苅ニコル沙羅さんも、さわやかな感じですごくよかったね。彼女は、昔の青春ドラマだったら「飛び出せ!青春」の酒井和歌子とか「われら青春!」(1974年)の島田陽子、あと「金八」だと名取裕子がやっていたような「美人マドンナ先生」という枠ですよ。

―― 今回の『還暦高校生』に限らず、河崎監督の作品では「この人がこの設定で」という、キャスティングだけでひとつ勝負に勝っている感じがありますね。

河崎:そこに一番、努力を払っていますよ。松島トモ子さんなんかは出てくるだけで勝ちじゃない?(笑) あとは、いかに現場を円滑にするかってだけ(笑)。やっぱり、ぼくは映画はキャスティングがすべてだと思ってるし、お客さんは「この人が出るから観にいこう」って思うんで、監督じゃないんですよ。それから、最近の『侍タイムスリッパー』(2023年/安田淳一監督)のように、無名の人ばかりで作ったいい映画があるけど、ぼくはそうじゃなくて「過去のある人」でやりたいんです。たとえば、ぼくは真夏竜さんが出てきたら「ウルトラマンレオ」(1974年)の主人公のおゝとりゲンとしか見られないから、自分の映画で真夏竜さんに出てもらうときは「あのおゝとりゲンが、いろいろな人生の中で年を取って出てきた」という設定を考えちゃう。「元・◯◯」だった人が、その世界を踏まえて出てくるということしか考えられないんですよ。だから、ひかる一平さんが「金八先生」に出てたとか、松島トモ子さんがライオンに噛まれたとか、元を知らないと俺の映画はさっぱりわからないでしょうね(笑)。でも、そういうニッチな世界が好きなんで、まあいいんじゃないですかね(笑)。

みんなが「いい加減にしろ!」って怒るようなことをやりたい

―― ひかる一平さん主演で青春学園映画をやるとなったら、ひかるさんが先生として学校にやってくるみたいな設定もあると思うのですが、そうではなくて42回留年の高校生にするのが、監督の発想のすごいところですね。

河崎:直江さんも似たようなことを言ってましたね。直江さんは、最初に『還暦高校生』の話を受けたとき、中学しか出ていないおじいちゃんが努力して高校に入って、いまの若い世代と触れ合うヒューマンドラマかと思ったって(笑)。そうはいかないよって(笑)。年取ってから高校に入るとか、先生だとかは、普通の発想ですよ。俺は普通のことはしたくないし、常に裏切りたいって感じですね。まあ、42ダブなんて、そんなに学校にいられるわけないんだけど、そこはあえて知らんぷりをするっていう(笑)。『いかレスラー』(2004年)も、イカがレスラーをやっていても誰もなにも言わずに知らんぷりをしているじゃないですか。それが俺の映画のパターンで、知らんぷりっていうのがいいんですよ(笑)。

―― 「常に裏切りたい」というお話がありましたが、今回も青春学園映画のはずが、終盤でビックリするような展開がありますね。

インタビュー写真

河崎実監督

河崎:やっぱり、なるべく予想のつかない展開にして、みんなが「いい加減にしろ!」って怒るようなことをやりたいんです(笑)。前に作った『大怪獣モノ』(2016年)では最後に毒蝮三太夫が出てきてオチを付けるとか、『三大怪獣グルメ』(2020年)は最後にとんでもないものが出てくるとか。唐突にすごいものが出てきてオチを付けちゃうのをデウス・エクス・マキナって言うけど、それが好きなんですよ。今回もそれの変形だよね、伏線は一切なしでね(笑)。それから、公開決定のときのコメントにも書いたけど、去年ヒットしたドラマの「不適切にもほどがある!」を観てたら、1986年にタイムスリップしただけでいまとのギャップにビビってるんだよね。だったら、60年代70年代の青春ドラマなんて「特訓でウサギ跳びで校庭何周!」とか、いまなら大問題になるようなことばっかりやってるし、もうSFの世界なんじゃないかって思ってね。で、SFってところから、あの展開につながっていくんです(笑)。

―― あの展開は、奇をてらっているだけでなく、社会へのメッセージも含まれているように感じました。『還暦高校生』に限らず、監督の作品は「バカ映画」と言いつつ、どこかにメッセージ性があるように思います。

河崎:まあ、人間がいがみ合って、いろいろな紛争が常に起きているわけじゃないですか。それがいかに愚かなことかっていうのは、常に入れてますよね、くだらない世界の中で。「みんな同じなのに、なんで争うんだ」って、ちょっと博愛主義みたいなところはありますよね。昔の「ウルトラシリーズ」とかでも、そういう話をやってたりするし。だから、なるべく楽しくやろうってことですよ(笑)。

―― そんな『還暦高校生』が間もなく公開ですが、今年はすでに『サイボーグ一心太助』と『松島トモ子 サメ遊戯』が公開されていて、3作品目の公開ですね。自主映画時代からすると40年以上のキャリアをお持ちの河崎監督が、これだけハイペースで作品を生み出す原動力はなんなのでしょう?

河崎:食うために。あははは(笑)。まあ、好きだからやっているんですけどね。それで、今回だったら長谷摩美さんとか、『サイボーグ一心太助』や『突撃!隣のUFO』(2023年)のときは幸田町商工会さんとか、たまたま製作費を出してくれる人がいて、奇跡的にできていますよね。ぼくは、自分から「こういう映画が作りたい」って考えて脚本を書いてっていうんじゃなくて、今回だったら「ひかる一平さんがいるから、こうしよう」とか、この前は「松島トモ子さんがいるから、こうしよう」って感じで映画ができているんですよ。まずお題があるんです。それが、普通の監督とはちょっと違うんじゃないかな。年齢は関係ないですよ。実相寺(昭雄)監督なんて、亡くなる直前まで『シルバー假面』(2006年)撮っていましたからね。

―― では最後に『還暦高校生』をご覧になる方に向けて、メッセージをお願いします。

河崎:これはただの青春映画じゃなくて、スクリューボール的な、相当の変化球なんでね、覚悟して観に来てください。もう、それしか言えないね(笑)。

(2025年5月29日/都内にて収録)

ポスター

還暦高校生

  • 監督:河崎実
  • 製作:長谷摩美
  • プロデューサー:河崎実
  • 脚本:小野峻志/河崎実
  • 出演:ひかる一平 直江喜一 森井信好 石田泰誠 戸苅ニコル沙羅 ほか

2025年6月27日(金)より 池袋HUMAXシネマズ、ヒューマントラストシネマ渋谷 ほか全国ロードショー

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