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『フイチンさん』スタッフ・インタビュー

 昭和30年代に雑誌「少女クラブ」で連載され人気を博した上田トシコさんの漫画「フイチンさん」がアニメーション化され、4月29日まで下北沢トリウッドで上映されています。
 この作品はアニメ制作会社“あにまる屋”が自主制作作品として制作したもの。数多くのテレビシリーズ作品などを手掛けてきたあにまる屋があえて自主制作で作品を送り出す理由とは。あにまる屋社長で『フイチンさん』の企画、キャラクターデザイン、作画監督を手掛けた本多敏行さん、湖山禎崇監督、豊永ひとみプロデューサーにお話をうかがいました。

写真:左より本多敏行さん、豊永ひとみプロデューサー、湖山禎崇監督



自分たちで作ったものを自分たちの手でみせてみよう

―― 最初に、あにまる屋の今までの活動をお聞きしたいんですけど。

本多:1982年の12月に会社を作りまして、国内のテレビシリーズと、途中からはアメリカとの合作作品も増えてきました。会社を始めたときには原画の人間しかいなかったんですけど、演出とか背景とか、徐々に部門を増やしていって、1990年ごろからシリーズを全部自分のところでやるっていうかたちが取れるようになってきましたね。

湖山:ぼくが入社したのは83年かな。一番の古株なんですよ。そのときは動画で入りまして、もともと演出志望だったんで、2年ほどしてから絵コンテを描き始めて、それから今までずっとテレビシリーズをやっていますね。

―― 自主制作を始められたきっかけはなんだったんでしょうか?

本多:テレビシリーズっていうのも結構不安定なんですね。作品の発注を受けて納品するっていうのは、元請頼りの加工業ってことですから常に不安定ですし、同じ不安定ならばやはり自分たちの作品を作りたいというのはプロダクションを作った当初からあったんです。
 それから、長い間やっていると通常のテレビアニメの作り方に少し疑問が出てくるんです。制作期間が短いとか、制作費が安いので大変だということもありますけど、内容も人気のある雑誌漫画の追随が主になってきていて、人気があれば連載が終わっても同じ路線で続けていったりとか、当たり前のことですがスポンサーの商品を売るためのコマーシャルみたいなところがあるんですね。最近はむしろアニメーション自体を商品化するようになってきましたけど、特にバブル以降、キャラクターを売るのは不況に強いというので、購買力のある層に向けて作品を出すという傾向がすごく強くなってきたと思うんですよ。アニメで育って大人になった人たちは購買力ありますから、その辺の層を刺激する内容のものが圧倒的に多くなってきた。もちろんそういう作品があってもいいと思うんですけど、小さい子供に向けた作品が非常に少なくなってきているなっていう印象があるんです。
 もうひとつには、最近もありましたけど、幼女誘拐事件とかが起こると、犯人がアニメファンだったと言われたりする。やはり、アニメーションというものが多少なりとも社会的な影響力を持って来てしまっているんですよね。そういうことを考えると、自分たちが作っているものに対する反応というのが、テレビの視聴率というかたちでしかわからない。それでいいのだろうかという疑問が出てきましてね、だったら自分たちで作ったものを自分たちの手でみせてみようということになったんです。それで、最初に自主制作でかこさとしさんの絵本の『だるまちゃん』シリーズというのをアニメ化しまして、自分たちで、近くの保育園なんかで上映するというのをやってきたんですね。

―― その『だるまちゃん』と今回の『フイチンさん』と、アニメ化する原作を選んだ理由はなんだったんでしょうか。

本多:やはり、子供に観てもらいたいと思う作品ということですね。
 保育園で上映会をやって、実際に子供たちと触れ合ってアンケートを取ったりすると、10人中9人くらいはアニメやゲームより友達と遊ぶのが好きだったりするんですよ。でも遊ぶところがないから、ゲームやるしかないし、テレビを見るしかない。それで親からは勉強しろと言われているし、今の子供たちってパンク状態になっていると思うんです。そんな状態でいろんな刺激が飛びこんでくると、これはまともな子供は育たないんじゃないかと。娯楽として与えたものでも、脳にとっては教育になってしまうわけですよ。だから、こちらから発信するものは責任があるなと実感しましてね。まだ判断力のない3歳や5歳くらいの子供に向けては、こういうものを観て欲しいっていうものを大人が意識的に与えていく必要があると思うんですよね。で、我々は完全なオリジナルを作る能力はないので(笑)、自分たちの考えにあった作品を探した結果が『だるまちゃん』であり『フイチンさん』なんですね。
 『だるまちゃん』はスタッフの奥さんが実際に自分の子供を保育園に預けていて、保育園においてある絵本で子供たちに人気があるっていうところがきっかけとなったんですね。
 『フイチンさん』に関しては私自身の思い入れがあって、私が小さい頃は漫画が子供たちにとって一番の娯楽で、友達同士でいろんな種類の雑誌を1冊ずつ買って回し読みするのが友達の中のルールだったんです。その中に女の子の友達もいたので、女の子の漫画もペラペラって見るようになりまして、そんなに少女漫画を好きにはならなかったんですけど『フイチンさん』というキャラクターと上田トシコさんという原作者の名前は、ほかの作品と違うインパクトがあって、ずっと頭の中に残っていたんですね。それで7、8年前に復刻版を手に入れたときに、懐かしい作品に再び会えた喜びで、絶対アニメにしようって思ったんです。昔、我々にとって漫画というのは、生きるパワーを与えてくれたり、正義感であるとか他人に対しての思いやりとかを教えてくれるものだったんですよね。親や学校の先生は読んじゃイカンというんだけど、実は漫画から学ぶことは非常に多かったし、同じようなものを今の子供たちにもぜひ観て欲しいと思って企画したんですね。

―― 『フイチンさん』の企画がスタートされたのはいつごろだったんでしょう。

本多:6年くらい前ですね。最初は女性スタッフで固めようと思っていて、女性の演出を立てようと思っていたんですけど、シナリオを書いたり議論していく中で、段々こっち(湖山監督)にいっちゃいましてね(笑)。3年くらい前から彼が入って、一昨年の1月にコタツにあたってシナリオをこうしよう、ああしようと相談したのが実際のスタートですね。

―― 監督は漫画の『フイチンさん』を呼んでいた世代ではないですよね。

湖山:ええ、世代ではないです。でも上田さんの絵だけは覚えているんですよ。今見てもモダンな絵ですし、簡単な線ですごくきれいだったんで、興味はすごくあったんですよ。

―― 監督をすることに決まったときにはどう思われました?

湖山:これは売れないだろうと(笑)。今と逆行している作品なんですよね。対決があるわけでもなし、派手なアクションがあるわけではなし。だから今の子供には受けないだろうなっていうのが第一印象でしたね。でも、線のきれいさはあったんで、アニメにしたらいい画面ができるんじゃないかとは思っていました。ただ、今風にアレンジすべきか、それとも原作をそのままの雰囲気で作っていくのがいいのかが、ちょっと悩んだところですね。でも、今になって考えると流行りを追っかけなくて良かったなと思いますね。流行を追った作品って、ほんの数年前の作品でも今観ると古いなって思っちゃうんですよ。これは何年経っても観られますからね。最初から古いですから(笑)。

―― そういう昔風の雰囲気がある作品ですけど、作り方は今のデジタルの作り方なんですよね。

湖山:ええ、上映会で16ミリのフィルムでかけたかったんで、最初はフィルムでやろうと思っていたんですけど、もうフィルムで撮れるところがなくなってきちゃって。セルがなくなっちゃったんですよね。だから、色塗り、仕上げはデジタルでやるという、今の普通のアニメの作り方ですね。

―― 制作は、あにまる屋の普段のお仕事をしつつ並行して進められていたんですか?

本多:そうです。まず、脚本ができますよね。それから彼が絵コンテの作業に入って、絵コンテができたらこの人はまた別の仕事に戻ると。それで今度は作画をやって、作画ができたら、また彼が戻ってきて演出をするというかたちで仕上げていくわけです。場合によっては、ほかの仕事も脇に置きながら、あっちもやってこっちもやってと、とっかえひっかえでやったところもあります。ですから、時間はかかっちゃいますよね。

じっくり、丁寧に作ろうと心がけていました

―― 作品を拝見すると、実際に舞台となった時代や地域を知っているわけではないんですが、リアリティというか、そこでキャラクターが生きて生活をしているっていう感じがすごく出ていたと思うんです。それを出すために特に意識された部分はありますか。

湖山:とりあえず家族で飯を食うっていうのにはこだわったところがありますね。やたら飯食うシーンが多いんですよ(笑)。

本多:「冷めないうちに食べよう」っていうセリフが3回ぐらいあるんですよ(笑)。
 リアリティっていうことでいうと、やはり実際にあった街が舞台なので、その街を知っている人たちが見ても不自然じゃないようにしなければならないというプレッシャーはあるんですよね。我々はそこに行ったことはないので、頼りになるのは、資料と、原作者の記憶と、原作者のスケッチだったんです。だから、雰囲気が良く出てたっていうのは、これは原作者の記憶が鮮明だったってことだと思います。我々は全く知らない世界ですから。
 最初はね、舞台となるお屋敷を、すごい豪華な宮殿みたいな設定を作ったんです。そしたら原作者が、こんな豪華な建物はハルピンにはありませんと(笑)。そういう部分や、言葉、服装は原作者のアドバイスで変えていますね。弁髪の物売りが出てくるんですけど、それも、当時は弁髪の人はもういなかったと。でも、まあそれはいいでしょうって(笑)。

―― 細かいとこなんですけど、料理人がジャガイモとかニンジンの皮を向くシーンがね、ああ、ちゃんと生きているキャラクターなんだ感じがしました。

湖山:テレビシリーズだとああいうところは同じところを剥いているのをずっとリピートさせちゃうんですよね。でも、それはないだろうっていうのがあって(笑)。

本多:あれもね、ほんとに中国の人がああいう風に剥くのかわからないんですけどね。でも、そういう感じを取り入れると生活観が非常に出るというのは確かにあったんで、演出で意図的にやっていますよね。そういうちょっとしたところでリアリティは出るので、そこはこだわって。

―― テレビシリーズでできないことで、この作品でやってみたことってありますか?

湖山:やっぱり、制作過程そのものじゃないですかね。一番でっかいのは。時間に追われて作るんじゃなくて、じっくり、丁寧に作ろうと心がけていましたし。

本多:だから、ストップしちゃうときもあるんですよ。演出上のことで、監督から言われたことがみんなが納得できなかったりとか、そういうときはディスカッションしますよね。あるいは、色ひとつ決めるのにも、この色はちょっと違うんじゃないかと思ったら、わざわざ夜中に色指定の方に来てもらったりして。今はデータでやりとりができるんですけど、みんなでその場で集まって話し合って。そういうことに時間をかけたんですね。普通ならもうお任せにするんですけど、みんなが思ったことを出し合って、それで決めてくみたいな。それでみんな意見が違ったりするから、その時間はかかりますよね。

湖山:でも、これが本来の作り方なんだろうなっていうのは感じましたね。今のテレビシリーズの方が時間に追われているわけで。やり方が違うなっていうギャップも感じましたけど。

―― 普段とは作るときの意識も違っていましたか?

湖山:いや、基本的には同じですね。普段も作品によって、小さい子向けにはこういう風に作ったほうがいいのかとか、対象年齢が高ければ、こうすれば喜んでくれるかなとかの違いはありますし。この作品は子供とお年寄りをターゲットにして作っていたということですね。

本多:どうしてもね、湖山も私も子供を持ったことないんですよ。そうすると、子供を対象にするのに、自分の知識と、自分が小さい頃どうだったかっていう記憶で子供っていうのを把握しなくちゃならなくて「子供なんてわかんねえよ」って頭が爆発しそうになったことがあるんですよ。そういうときにこの人(豊永プロデューサー)とか、子供を育てたことのある人は的確なアドバイスができるんですよね。

湖山:ラストシーンで、リイチュウっていう子供がロープに浮き輪を付けて壁を降りてきますよね。あれも最初はロープだけだったんですよ。それで作って完成したんですけど、ロープが危なそうに見えるっていう意見がありまして。

本多:スタッフのひとりからそういう意見が出て、保育園の先生にも観てもらったら、今は事故を防ぐために保育園の中にロープは置かないと。それは注意をすればいいんで、取り払ってしまうのはおかしいという我々の意見はあるんですけど、現状からすればそれにも配慮しなければならない。じゃあどうすればいいかって考えて、直接ロープで縛らずに浮き輪を使うという妥協案を出したんです。それはたまたまスタッフがそういう意見を言ってくれたんですけど、元のままだったら批判があったかもしれないし、大勢で作る良さっていうのはそういうところにもありますよね。

映画を観たら、表に出て遊んでよ

―― トリウッドでの上映はどういう経緯で決まったんでしょうか。

豊永:新しい試みをしてみたかったんですね。『だるまちゃん』は地元のホールで毎年上映会をやっているんですけど、『フイチンさん』は違う切り口でみんなにアピールしたい、映画館で上映したいという発想がそもそもあったんです。それで、この作品はオシャレだから、若い人たちにも受けると私は信じていて、渋谷の単館上映館にいくつかあたってみたんですけど、上映するにもこちらでかなりの額の保証金を用意しなければならないところばかりで、これはもう不可能だと思っていたんです。そんな中でトリウッドのオーナーの大槻(貴宏)さんにお会いして「ここは実験的に映画をどんどん発表する場ですから」ということで、最初はこちらから持ち込んで上映してもらうかたちを考えていたんですけど、何回かお話する内にロードショーをやりましょうってことになって、もちろん作品を観てもらって、気に入ってもらった上でのことなんですけど、ほんとうに大槻さんのご厚意によるところが大きかったですね。

―― トリウッドでの上映以降はどのような展開をされるんでしょうか。

豊永:やはり大槻さんの紹介なんですけど、何ヶ所かの劇場にあたってみようと思っています。そのほかには、青山こどもの城の方のアドバイスを受けて、全国何ヶ所かで上映できないかアプローチしています。それから、この前冗談みたいに考えていたのは、ドサ回り的な興行もやってみたいなと(笑)。フィルムを持っていろんなところにね、現場の仕事をみんな持っているからなかなかできないけど、期間限定でそんなのをやってみたいなっていうのはありますね。

本多:というのはですね、人に影響を与えるものを作っていると、自分たちの作っているものがどう受け入れられるかに無関心ではいられないと。どう反応するかを直接その場で見てみたくて保育園での上映とかもやっているので、1年くらい仕事はほっぽり出してね、映画を持って歩き回りたいなっていう気持ちが結構あるんですよ(笑)。都市部の映画館でバーッと売れるものとは違ってね、映画館のない地方にも子供も人もいっぱいいるわけだから、そういう人たちを励ますことができるというのは自分たちの生き甲斐にもつながりますし、そういう展開も半分くらい真面目に考えています(笑)。

―― 『フイチンさん』の次の作品の予定はあるんでしょうか。

本多:まだ作品名は言えないんですけど、企画しているのはあります。『だるまちゃん』では子供たちの遊びの世界に焦点を当てて、特別な理屈もメッセージもそんなになくて、楽しく遊ぼうみたいなことだったんです。そして『フイチンさん』では、勉強ばっかりしていた子供が外に出て、外の世界を知って自立するというメッセージをちょっと入れたんですね。それで、今度予定している作品では、子供に仕事をさせたいと思っているんです。というのは、自立するためには仕事をしなきゃいけない。仕事をするってことは、社会に関わる一番のポイントだと思うんですね。大人が勉強だけを教えて仕事を教えないと、子供がずーっと子供のままで行っちゃうような気がするんです。我々が小さな頃は親の手伝いとか家事をするのは当たり前だったし、小さな頃から子供は子供がやれる仕事をやるのがいいんではないかと思いがありまして、たまたまそういう原作があったので、次は子供が仕事をするっていうのをテーマにしようと思っているんです。
 やっぱり自分たちとしては、育っていく子供に向けて頑張れっていうメッセージのようなものを作り続けたいと思っているので、これからの子供たちが未来を悲観しないで生きられるようなものを大人としては渡したいと。なんか大上段に構えてカッコよくなっちゃうけど(笑)、気持ちとしてはそういうものを込めているっていうことですね。

―― 最後に、観客の方へのメッセージがあればお願いします。

本多:観ていただけるだけで嬉しいんですけどね。比較的に年配の人が多いんですよね。原作を知っているので、それで観てくれる人が多いんですけど、できれば若い人たちにも観て欲しいなっていうのはありますよね。若い人も観てくれたら、結構楽しんでもらえると思います。

湖山:感想はもう観てくれた人に委ねますよ。でも、子供たちにはね、表に出て遊んでよっていう気持ちはありますね。世の中こんなに広いんだし(笑)。

本多:そうだね、それはありますね。

豊永:アニメ作りながら、アニメなんか観ている場合じゃないぞっていうのが私たちの側のメッセージとしてあるのでね、だから、観てもらったら、外に出て遊びたい気分になってくれるのが一番ですね。

(2004年4月2日/あにまる屋で収録)


 いまや海外からも注目されるようになった日本のアニメーション。2004年は話題の大作が続々と公開されます。しかし、それらの大作アニメが持つ魅力とはまた別の“アニメーションの楽しさ”もあるのではないでしょうか。『フイチンさん』は、そんな魅力が詰まった作品です。アニメファンも、そうでない方々も、ぜひご覧ください。


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