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『日本のいちばん長い夏』トークショー&試写会

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トークショーに出演した半藤一利さんと富野由悠季さん、倉内均監督(左より)

 太平洋戦争終戦の裏側に迫る映画『日本のいちばん長い夏』(倉内均監督/8月7日公開)のトークショー&試写会が7月30日に新宿バルト9でおこなわれました。
 『日本のいちばん長い夏』は、終戦から18年を経た1963年(昭和38年)に、さまざまなかたちで太平洋戦争に関わった28名を集めておこなわれた座談会をもとに編まれた半藤一利さんの同名書籍が原作。座談会を再現しようとする現代の演出家を主人公に、文士劇として演じられる座談会の様子や、文士劇の出演者たちが本人として語る戦争の記憶など、フィクションと現実が幾層にも重なりあうユニークな作品となっています。
 「戦争を語り継ぐ」をテーマにおこなわれたトークショーには、原作者である半藤一利さんと、文士劇の出演者のひとりとして元陸軍大将・今村均を演じたアニメ映画監督の富野由悠季さんのふたりが登壇しました。

 半藤さんは、昭和38年当時、戦争関係者の訃報が続く中で「昭和史というものと太平洋戦争というものをしっかりと残しておかないと消えちゃうんじゃないか」という想いから座談会を企画したと説明し「28人集めてダメになる(収拾がつかなくなる)かと思いましたが、約5時間、延々とやったんですね。みなさん黙って聞いていました。実に静かに聞いていたので“これは日本人全体がどうやって戦争が終わったかということをほんとうに知らないんだな”とよくわかりました」と座談会当時を振り返りました。
 さらに、10数年前、大学で講師をつとめた際「日本と戦争をしなかった国は?」というアンケートに「アメリカ」と答えた学生が50人中13人いたというエピソードを紹介し「この状態を続けていくと、この国は歴史というものを知らない国民だけの国になってしまう。これはなんとかしてしっかりと残していかないといけないなと。そのために「語り継ぐ」という言葉があるんですが、お喋りだけじゃなくて、形として残していかないとなんにもなくなってしまうぞと思っていますので、現在まだまだこれからもやってやるぞと頑張っているところでなんでございます」と語るとともに「(自分は)もう半分あちらに行っていますので(笑)、いまの若い方で“後に続くを信ず”と、そう思っております」と、若い世代に期待を寄せました。

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トークをおこなう半藤一利さんと富野由悠季さん

 出演者である富野さんは、司会者から「俳優として」と紹介されると「この歳になって俳優なんかやれるわけないじゃないですか」と笑い、出演の動機について「ぼくには10何歳年上のいとこがおりまして、いとこがラバウル帰りだったんです。そしてラバウル帰りの陸軍の一番の大将である今村大将の役だということが理由で受けたというのが公式の答えになります」と話したあと「ほんとは全然理由が違います。ある日突然“こういう企画で文士劇に出てくれ”と言われて“撮影はいつ?”とスケジュールを聞いて、ぼくもアニメと言えども企画・制作する人間です。キャスティングのこととかアニメーターの手配なんかもやるような人間ですから、ここでぼくが断わったら現場は困るなということがわかったので引き受けたというのが一番の理由です」と明かしました。
 そして「戦争を語り継ぐ」というテーマについて富野さんは「ぼくの場合は、敗戦の戦史とか俗にいう戦記ものを読むということは20歳のときにやめていました。つまり、こんなひどい戦争の負け方をする戦記ものを読んで楽しいわけがないんです。ですから、基本的に戦争を考えることを遮断をしたという経緯はあったんですけど、こうやって40年近く経ってみると、やっぱり語り伝える必要があると思い直すことができた。そういう意味では今回こういう作品に参加させてもらってありがたかったと思います。きわめてプライベートなことですが、個人的に死ぬまでやる仕事が見つかったってことがあります」と話し、代表作であるアニメ『機動戦士ガンダム』について「『機動戦士ガンダム』の企画を立てたときには、戦争ものを作るつもりなんていうのはまったくありません。あれはあくまでも巨大ロボットがらしく活躍できる場所を考えたら戦場しかなかったから戦争ものにしただけです。そして、それをなおかつ宇宙戦争にしたのは、SFっぽくしないと、それからマンガっぽくしないと子供たちに観てもらえないということで、しょうがなく宇宙戦争ものにしたという部分があります。ただ、いま“しょうがなく”と言ったのは半分嘘です。むしろ、宇宙戦争ものにすることで戦争ものを作ることができれば、それはそれで作品として面白いものになるだろうなという予定は立てました。どうせ戦場を舞台にするならば、戦争もので極めて手を抜いている描写があると思っていたので、その部分だけは入れてみせるということをやりました。映画の中で一番抜け落ちているのは兵站の問題です。兵站というのは補給です。つまり前線部隊にどのように物資が補給されなければいけないか、物資が補給されないかぎり戦場というものは成立しないんです。ぼくが20歳までに知っている昭和日本軍について言うと、これは陸海軍ともにです、兵站のことをなにひとつ考えていないバカがやった戦争なんです」と厳しい言葉も交えつつ「そういう昭和の軍隊ということを考えたときに“巨大ロボットアニメでも兵站のことくらい考えているよ”というくらいのことだけは見せておこうと思って作ったんです」と話しました。

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壇上から倉内均監督の姿を見つけて舞台へ呼び寄せる富野由悠季さん

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富野さんの招きで急遽倉内監督も登壇し、あいさつをおこないました

 また、司会者から映画の見どころを聞かれると、富野さんは「ぼくはチョロっとだけ出させてもらったので、それの説明なんかできるわけもないじゃないですか。そういうのは監督が喋るものじゃない?」と、半藤さんは「これは監督さんに言っていただいたほうがいいですよね、私たちふたりが言うよりもね」とふたりとも固辞し、富野さんの「監督あそこにいるじゃない」という紹介で急遽、倉内均監督も登壇。監督は「両先生のお話で充分見どころは語られていると思いますので、これからごゆっくりご覧いただければと思います。いろいろなご批評をいただければと思います」とトークショーを締めくくりました。

 富野さんのほか、国際弁護士の湯浅明さん、ジャーナリストの鳥越俊太郎さん、アナウンサーの松平定知さん、ジャーナリストの田原総一郎さん、脚本家の市川森一さん、マンガ家の江川達也さんら、各界から集まった豪華なメンバーが出演する『日本のいちばん長い夏』は、8月7日(土)より新宿バルト9、丸の内TOEI2ほか全国公開されます。

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