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映画が描き出す現代の日本とは? 『日本の悲劇』トークショー付き試写会

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トークショーをおこなった小林政広監督(左)と湯浅誠さん

 小林政広監督が実在の事件をモチーフに現代社会の問題を描いた『日本の悲劇』(にっぽんのひげき/8月31日公開)の一般向け試写会が8月19日に都内で開催され、上映後に小林監督と、貧困の問題に取り組んでいる社会活動家の湯浅誠さんがトークショーをおこないました。
 『日本の悲劇』は、部屋の扉を閉ざしてこの世を去ろうとする老いた父親と、失職しうつとなり父親の年金を頼りに暮らす息子という父子の姿から“無縁社会の深淵”を描き出す作品。2010年に報じられた年金不正受給事件がモチーフとなっています。
 湯浅さんは『日本の悲劇』のモチーフとなった事件が起きたときに「まさにこの映画で描かれたような家族が背景にいるんだと思っていた」と話し「(事件は)こういう問題をどうするかと社会的に問いかけられるべき端緒だったのがそうならずに残念な感じがしていたのが、映画を拝見したら、まさに“こういう家族がいるはずだ”と思っていた家族を監督が描いてくださっていた。現実を見てくれていた人がいたんだ、しかもそれを伝わるようなかたちで示してくれる人がいたというのは、率直に言ってありがたいと思いました」と映画の感想を述べました。
 イラク人質事件をモチーフにした『バッシング』(2006年)以降、社会問題を扱った作品をたびたび手がけている小林監督は「自分は社会的なものから遠い映画を作ろうと思っていたし、映画に社会性みたいなものを入れるのはあんまり好きではなかったんですけど、すごく行きづまって“ああしちゃいけない、こうしちゃいけない”と考えていたことを全部やってみようと思ったのが『バッシング』なんです」と明かし「ドキュメンタリーやノンフィクションではなくてフィクションのシナリオですから、あるテーマを引き寄せて自分のものにしていくということだと思います。(事件を知ったときに)年金の問題から“即身仏になる”(※モチーフとなった事件で死亡していた男性の発言)ということや、いろいろ調べて書いていく中で自分と重ねて話を作っていった」と、今回の『日本の悲劇』について語りました。

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トーク中の小林監督(左)と湯浅さん

 トークは社会保障制度や雇用問題、うつの問題など、映画に関係するさまざまな話題へ広がり、湯浅さんは「国勢調査の結果を見ても(映画に登場するような)こういう家族はたくさんいるんですね。それが今後さらに爆発的に増えるというのが各種データで出ているわけで、それに向けて手を打つことができれば、20年後、30年後にこの映画が観られたときに“こういう時代もあったんだな”となるだろうし、このままズルズル行けば“20年、30年前に警告されていたのにね”になるだろう。それはまさに社会の選択ですし、同時に私自身の力量の問題でもあります」と、この映画が示す“現実”についてシビアなコメントを。
 そして小林監督は「この映画は、ぼく自身がすごく追いつめられた時期に書いたシナリオが元になっているので“こんな暗い話をしていいのかな”ということもずっと思っていたんです」と話しつつ、監督自身が少年時代に『大人は判ってくれない』(1960年・仏/フランソワ・トリュフォー監督)を観て「すごく暗い映画なんですけど、ぼくにとっては“自分と同じような想いを持っている人が映画の中にいる”という、それが生きていくあれになった」という自身の経験を挙げ「この映画と同じ状況になっている人は映画を観に来られないかもしれないけど“追いつめられてるのは自分だけじゃない”と思ってくれたら、作った甲斐があると思います」と、トークショーを締めくくりました。

 父親役に小林監督作品『春との旅』で好演を見せた名優・仲代達矢さん、息子役に日本映画に欠かせない個性派・北村一輝さん、そのほか大森暁美さん、寺島しのぶさんという実力派キャストの共演で送る『日本の悲劇』は、8月31日(土)より、ユーロスペース、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショーされます。

作品スチール

日本の悲劇

  • 監督:小林政広
  • 出演:仲代達矢 北村一輝 大森暁美 寺島しのぶ

2013年8月31日(土)よりユーロスペース、新宿武蔵野館 ほか全国順次ロードショー

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