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高畑勲監督、過去と現在、未来を語る 三鷹コミュニティシネマ映画祭トークショー

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トークショーをおこなった高畑勲監督(右)と、聞き手をつとめた東海ラジオパーソナリティーの小島一宏さん

 50年以上にわたり日本アニメーション界で活躍する高畑勲監督が、11月23日、三鷹市で開催されている「第5回三鷹コミュニティシネマ映画祭」でトークショーをおこないました。
 同映画祭は11月22日より24日までの3日間、1日ごとに異なった企画で上映をおこなっており、この日は高畑勲監督特集として代表作のひとつ『火垂るの墓』(1988年)と最新作『かぐや姫の物語』(2013年)を上映。特集上映とは別に連日開催の企画「傑作アニメーション特集」では初演出作品『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)が上映されており、1日に高畑監督作品3作品が上映されました。
 東海ラジオパーソナリティーの小島一宏さんを聞き手に迎えたトークショーは、過去に同映画祭で上映された作品のポスターを見ながらのトークでスタート。高畑監督が大きな影響を受けたフランスの詩人、ジャック・プレヴェールが脚本を担当した『天井桟敷の人々』(1945年・仏/マルセル・カルネ監督)について、フランスがドイツの占領下にあった中で製作されたという時代背景を説明し「精神は自由であるということを気概を持って作った作品。フランスの映画人の底力というのをはっきりと見せている作品だと思いますね」と語りました。
 そして、高畑監督が幼少時に初めて観たアニメーションである『くもとちゅうりっぷ』(1943年/政岡憲三監督)が「(自分が)子どものときはすごく怖かったんですね」という回想から自身の監督作『火垂るの墓』に話が及び「(『火垂るの墓』は)子どもに見せていいんだろうか? と自問自答して、ぼくらのころに比べたら子どももみんな死に触れないように生きているから、一種の疑似体験として見せても構わないんじゃないかという結論でぼくはやったんですよね」と、制作時の想いを明かしました。
 さらに、学生時代に映研に入り、撮影所の見学やエキストラ参加で実写映画の現場に触れ「臆病者の内気な人間にはとてもこんな業界に入って仕事なんかできないなと思いましたね(笑)」というエピソードを紹介し、アニメーションを何作か監督して以降「実写をやらないかという話は何回かありました。それを全部お断りしたのは、やっぱり仕事が(アニメーションの監督とは)違うなという気がするんですね。アニメーションは決断に一拍置くことができるんですよ」と、実写とアニメーションそれぞれの監督観を語るなど、トークショーの前半は高畑監督のバックグラウンドをたどるような内容となりました。

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過去の三鷹コミュニティシネマ映画祭のポスターをバックにトークする高畑監督と小島さん

 高畑監督がアニメーションの世界に入るきっかけとなった作品であるジャック・プレヴェールが脚本の『やぶにらみの暴君』(1951年・仏/ポール・グリモー監督)とその改題・完成版『王と鳥』(1980年仏/ポール・グリモー監督)についての興味深い話に続いては、デジタル技術を駆使して手描きの絵のタッチをアニメーションに活かした高畑監督の最新作『かぐや姫の物語』について、アメリカに代表される3DCG作品と対比し「セルアニメができなかったことのひとつは、キャラクターなんかに陰影を付けて立体感をちゃんと付ける。コンピューターが発達したときにアメリカなんかは3DCGアニメに全部切り替わっちゃったわけですね。もともと西洋人は立体が当たり前だとだと思っているからね。セルアニメはいろいろなものを捨てざるを得なかった。ぼくは立体感も考えてやるわけですけど、絵で描いたものの面白さを出したくても(セルアニメでは)出せなかった。だけどコンピューターの導入によって描いたものを活かすことができるというかな。田辺修(『かぐや姫の物語』人物造形・作画設計)という大将と、男鹿和雄(『かぐや姫の物語』美術)という大将と、すごい才能のあるふたりがいなければ実現しないんですけど、そのあとそれをフォローしてみんながすごくがんばってくれた。それプラス、コンピューターです。コンピューターのおかげで描いたものを取り込んでうまくやることができる」と説明。「線というものが大事。先史時代以来、人間はずっと線でものを捉えようとしてきたんですよ。立体感ということについて言えば、ルネッサンスのはじめころから西洋が特殊におこなっただけです。日本でも立体を意識することはするんですよ。簡単に言えば北斎とか国芳とか広重とかは西洋の立体感を知っているけれど、彼らは自分たちが打ち出すべきことを知っていた。西洋画のようなことをやるんじゃなくて浮世絵のようなものを活かしながら空間を表現したことで西洋にあれだけ影響をあたえることができたんだと思いますよ」と、日本と西洋の絵の表現に見る特性にも言及し、話は高畑監督の考える日本人の国民性にまで広がりました。
 トークショー終盤に「いま映画人が世に送り出す作品、監督が作るに値すると考える映画とは」と質問された高畑監督は、小津安二郎監督の戦後初の作品『長屋紳士録』(1947年)を例に挙げ「当時、全然評価されなかったそうです。なんか能天気なんですよ。だから時代に切り込んでいないって批判があっても当然なんです。でも、いま観ると古典として成り立っているんです。映画ってそういうことが起こるからね、あんまりそのときの時事に直接絡まなくたっていいんじゃないかなって気がぼくはしていますけどね」と回答。「アニメーションの可能性は?」という質問には「これは全然わからないです(笑)。わからないけど、実写もアニメになりつつあるんじゃないですか。CGを使ったり、アニメと同じように起こりっこないことがないことが起きてもファンタジーとして受け入れられているところを見ると、アニメの特徴はなくなっているんじゃないかな(笑)。そういう映画が増えていることは間違いない」とアニメと実写の垣根が低くなりつつあると指摘しました。
 トークショーでは来場者からの質疑応答の時間も設けられ、次回作の構想を尋ねられると高畑監督は「けっこう具体的な企画としては持っているんですよ。ただ、自分の体力、気力、それから知力。どんどん物忘れしたりしてるから(笑)。その3つがちゃんとあって、なおかつお金を出してくれたり、うまくスタッフを集めてくれるプロデューサーとか、そういうことが揃えばぜひやりたいと思う企画はある。できない可能性も強いんですが」と答え、小島さんの「次回作、観たいですよね?」の声に会場からは大きな拍手が。また、アニメ監督を目指して勉強中の方から「いい監督になるために必要なことや素質」を質問されると「それは一番わからないですね。ぼくは素質がないと思ってきましたから。宮崎駿はすごい素質があるんですよ。彼は天才だと近くでずっと見ていて思います。だけど、天才を見ていて天才とは違うものを作りたくなっちゃうわけですよね。それはそれで面白いんじゃないでしょうか。ぼくもしょちゅう自問自答したけど、辞めてしまわずにやれるのはふたつ理由があるんですよ。ひとつは好きだということですよね。もうひとつは、自分がひとつやったことから次に前進していると、また次の前進ができるかもしれないと思うわけですよね。それがバネになって次の道が拓けるかもしれません」とメッセージを贈りました。

 「三鷹コミュニティシネマ映画祭」は、三鷹市民有志によって運営され今回で5年目を迎える映画祭。映写まで市民スタッフがおこなうという手作りの映画祭で、高畑監督も「こういうのはほんとにいいですよね」と感想を寄せました。
 映画祭最終日となる11月24日には「三鷹の映画人」と題して女優・渡辺真起子さんの特集上映と、映画祭スーパーバイザーである鶴田法男監督が聞き手をつとめる渡辺真起子さんのトークショーがおこなわれます。

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