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柴田剛監督、新作『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』を旧知の2監督と語る

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トークショーをおこなった柴田剛監督(右)とゲストの山下敦弘監督(中央)、松江哲明監督
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 柴田剛監督の7年ぶりの新作となる『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』(7月15日公開)の特別先行上映が5月19日に渋谷ユーロライブでおこなわれ、上映後に柴田監督とゲストの山下敦弘監督、松江哲明監督が同作の「面白がり方」についてトークを交わしました。

 『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』は、山口情報芸術センターの映画制作プロジェクト「YCAM FILM FACTORY」で制作された長編映画で、柴田監督の前作『ギ・あいうえおス -ずばぬけたかえうた-』(2010年)に続く作品。映画制作クルーを音楽を演奏するバンドと同等のものとして描くという発想のもと、柴田監督自身を含む13人の映画制作クルー「ギ・あいうえおス」が「謎の発光体」を撮影するため旅をしていく姿を描いた実験的ロードムービーとなっています。

 トークゲストの2監督は、山下敦弘監督は柴田監督と大阪芸術大学映像学科の同期、松江哲明監督も柴田監督と十数年来の付き合いという旧知の仲であると同時に、柴田監督が「最近の自分の中で娯楽が少ない中で唯一の癒やしとなっている」というテレビ作品「山田孝之のカンヌ映画祭」の監督をつとめたふたり。
 「山田孝之のカンヌ映画祭」も含めフィクションとドキュメントの狭間のような作品を数多く手がけ、柴田監督が「このふたりだったら絶対にこの映画を、後付けでもいいから、いかに観ているお客さんに面白がらせる言葉・フレーズを繰り出せるかなと思って」トークショー出演を依頼したという2監督も、トークショー序盤では「でも喋ると胡散臭くなっちゃうもんね、こういう映画ってね」(松江監督)、「そうそう。思っちゃった俺、難しいなって」(山下監督)と『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』の独特の世界を言葉で表現するのに苦慮するような様子も見せました。

 しかしトークは活発に進行し、山下監督は「剛ってさ、昔から作る前の俺らに語るときの企画の面白さがすごいの。“うわ、すげえ!”って圧倒されて、でも意外と剛ってすごく真面目な部分があって、それはストーリーだったりとかテーマにだったりとか、対象の人に対してどこかで真面目とか、完成したときに最初の勢いが少し失速して“きっちり映画を作ろう“みたいなことを感じちゃってたんだけど、これはそれはあまりない気がしたんだよね。だから、剛の最初に“映画を作りたい”って言ったときの衝動がちゃんとかたちになっているのかなと今日観ていて思って」とコメント。
 松江監督も山下監督の言葉を受けて「ぼく、いま山下くんの話を聴いていて“ほんとにそうだな”と思ったのは、前作(『ギ・あいうえおス -ずばぬけたかえうた-』)もそう思ったんだけど、フィクションの作品と違ってすごく現場を大事にしているっていうか、現場そのマンマ撮影も編集もおんなじテンションで作ってるんだなって思っていて」と印象を述べました。
 柴田監督は松江監督のコメントに答えるかたちで「編集の段階でその(現場の)空気がマンマできたらいいなって、あの空気のマンマ。不真面目じゃないんだけど生真面目になるのがまずいなって。失速しちゃう」と、制作過程を振り返りました。

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松江哲明監督

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山下敦弘監督

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柴田剛監督

 その後も山下監督と松江監督、柴田監督は、この作品における“音”や、映画の中で実際に映像にとらえられた「謎の発光体」をめぐる話、映画でギ・あいうえおスが出会う人々に関するエピソードなど、映画の本質に迫るようなトークを繰り広げ、松江監督は『ギ・あいうえおス』に登場する映画クルーが「関西のオッサンたち」であることを「アメリカ映画で言うとさ、(ジョン・)カサヴェテスっていうかそういう感じだよね」と評すると「映画ってさ、いまキラキラしたりいい人を描くじゃない? 道徳の教科書みたいな映画が多いじゃない。なんで若い子がこんな映画を観なくちゃいけないんだみたいな」「俺はさ、やっぱり好きな映画って“ダメでいいよ”っていうか、くだらない人とかダメな人とかさ、そういうの観て安心するじゃない?」「別にキラキラして青春してもいいんだけどさ、そういうのばっかりって、いまどんだけ日本って窮屈なのって気がしてさ」と、『ギ・あいうえおス』とは対照的ともいえる現在のメジャーな日本映画とその観客である若い世代について言及。
 山下監督は「だから、そういう(映画を観る)子たちは(『ギ・あいうえおス』を)絶対に観ないよね」と述べた上で「逆に学校上映とかできないのこれ? 高校とか行ってさ。もちろんこれは一般映画で、映画として(映画館で)公開すべきなんだけど、山口県の芸術センターの作品でもあるから、そっちの切り口というか」「渡辺文樹(※)方式みたいな、公民館に高校生とかを集めてさ」と提案しました。
 その山下監督の発言に松江監督も「でも安心する子いると思うよ、この映画を観て。行き当たりばったりでもいいんじゃないかみたいなさ(笑)」と同意し、山下監督は「俺、逆にこれ高校生くらいで観ていたらけっこう食らうんだよね。いまはもう年取っちゃって体力ないからさ、(映画を)浴びるじゃない。浴びてフワァってなるけど、17(歳)とかだとこれ考えるじゃない。考えて全力で観るじゃない。そういう人に観てほしいんだよね。17とかで渡辺文樹の『ザザンボ』(1992年)を観にいったときの全身で考える感じ。だからいろんなところで観てほしいな」。
 さらにそのやり取りを受けた柴田監督の「シネコンでかかれば(映画が)説得力持つのかな、夢のない中高生たち、窮屈な中高生たちは」という発言から、トークは若い観客の映画の選び方や映画の鑑賞スタイルにまで及び、松江監督が映画館で周囲が高揚していても自分は気持ちが下がることがあると実体験を挙げると、山下監督は「だから、俺はもしこれ(=『ギ・あいうえおス』)をシネコンでやったら、観にいってさ、あえて拍手してやろうかなって(笑)」と語り、松江監督も「不特定多数の人と映画を観るってそういうことだからね。“この人ここで笑うんだ”とかさ。あえてそういうのやってみたいよね。だから、むしろ1回でも(シネコンなどで)上映してくれれば人の記憶には残る映画になると思っている」と『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』の持つ可能性に期待を寄せました。

※自ら各地の公民館などに赴き作品を上映する活動で知られる映画監督。作品に『ザザンボ』や『罵詈雑言』(1996年)など

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トーク中の柴田剛監督、山下敦弘監督、松江哲明監督(右より)

 柴田監督は「シンプルなことをやっているつもりなんですけど、やっぱり来てもらうお客さんがよっぽど冒険的な人なんだなって。そういう人に支えられるからこそ、この映画はつねに延命するんじゃないかと思います。まあ死なないんですけどね、発光体として引き続き。ご静聴ありがとうございました」とあいさつしてトークイベントを締めくくりました。

 ギ・あいうえおスの“セッション”をモノクロ・パートカラーの映像と現実以上に臨場感をつたえる環境音で記録していく『ギ・あいうえおス 他山の石を以って己の玉を磨くべし』は、7月15日より渋谷ユーロスペースにて1週間限定レイトショー上映されます。

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