舞台あいさつをおこなった監督・出演者ら。後列左より吉田祐健(よしだ・ゆうけん)さん、古川藍さん、上西雄大(うえにし・ゆうだい)監督、徳竹未夏さん、堀田眞三さん。前列左より、空田浩志さん、川合敏之さん、楠部知子さん
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“くず”のような男が虐待される子どもを救おうとする姿を描いた『ひとくず』が3月14日にユーロスペースで初日を迎え、主演もつとめた上西雄大監督と古川藍さん、徳竹未夏さんら出演者が舞台あいさつをおこないました。
『ひとくず』は、犯罪を繰り返してくずのように生きてきた男・金田が、空き巣に入った家で出会った幼い少女・鞠を虐待から救おうとする姿を通して、児童虐待の現状やその背後にあるものを描き出していく作品。上西雄大監督が主演と監督に加え脚本とプロデューサー、編集も兼任して作り上げました。
公開初日を迎え「万感の想い」だという上西監督は、自ら主宰する劇団・10ANTS(テンアンツ)での映画制作がさまざまな困難に出会いつつも多くの助力を得て完成に至ったと振り返り「この世はほんとに良心にあふれていて、いろいろな問題があってもそれに立ち向かっていくことができるということを作品から学びまして。今日はぼくにとって人生最良の日であります。みなさま、ほんとうにありがとうございました」と、涙を見せながら心境を語りました。
そして上西監督は、別の作品のリサーチのために会った児童精神科医の楠部知子さんから児童虐待について話を聞き「自分の心が壊れるくらい」の衝撃を受け「どういったかたちであれば虐待を救えるのだろうかと想像して、救いを求めて」一晩で『ひとくず』のストーリーを書き上げたことを明かし“虐待に対する最大の抑止は関心である”と言われていることから「ぼくら役者が作品を作ることで世に役立てることができるんじゃないか」という想いで作品を作ったと経緯を話しました。
作品が生まれるきっかけを作り、作品の監修もつとめた楠部知子さんは、映画で描かれている児童虐待の様子は楠部さんが児童相談所で接する実際の児童虐待の代表的な例であり、またニュースなどで報じられる虐待は「氷山の一角」だと話し「知っていただいて、考えていただくということが一番大切かなと思います」と、映画が児童虐待を防ぐ一助となることに期待を寄せました。
幼い実の娘・鞠を虐待してしまう母親で、虐待を止めさせようとする金田と奇妙な関係を築いていく北村凛を演じた古川藍さんは児童虐待や育児放棄になかなか実感が持てない中で「凛という役の感情の起伏をすごくつけること」を意識して演技をしたと、金田の母親でかつて恋人が幼い金田に暴力を振るうのを止められなかった佳代を演じた徳竹未夏さんは「佳代も愛情に恵まれずに育った一面があると思うので、どう息子に対して接していいかわからない」という微妙な部分が演技から伝わればいいと思いながら表現していたと、ふたりの“母親”を演じた女優陣はそれぞれ演技について語りました。
金田とは顔なじみの刑事・桑島を演じた空田浩次さんは「(金田に)弟のような感じで接しているという、そんな役柄なのかなと」思いながら演じていたと、故買屋の男を演じた吉田祐健さんは監督から「悪(ワル)で」演じてほしいと言われ「悪ですか、行きます!」と乗り気で演じたと、刑事を演じた河合敏之さんは「監督はじめこのカンパニーが熱いパッションにあふれているのでぼくも負けずにがんばりました」と、それぞれコメント。
数々の作品で悪役を演じてきたベテラン・堀田眞三さんは『ひとくず』では、堀田さん自身が「あれ? こういう役を」という役を演じており「驚きとともに喜びが大きかったですね」と感想を述べ「難しいテーマの中で、どういうふうな存在感を出せるんだろうなって」と、演じた役について語りました。
自身、驚きがあったという役について語る堀田眞三さんと、古川藍さん、上西雄大監督、徳竹未夏さん
最後に上西監督は「本作はですね、虐待を入口に置いて作った映画ですが、決して暗く悲しい、そんな気持ちで劇場をあとにするような映画ではございません。むしろ、家族の暖や人間の良心を描いた、あたたかい人間味のあふれる、そういった映画にしたいという想いで作りました。そして、みなさまが劇場を去るときに、あたたかい感動の想いで劇場を出ることができますことを祈って、ご覧いただくことを心から感謝いたします」と舞台あいさつを締めくくりました。
重いテーマを真摯に、かつエンターテイメント性も高い人間ドラマとして描き、内外の映画祭での作品賞や上西雄大監督、鞠を演じた子役の小南希良梨さん、古川藍さん、徳竹未夏さんの個人賞受賞が続く『ひとくず』は、舞台あいさつ登壇者のほか木下ほうかさん、飯島大介さん、田中要次さんらが出演。3月14日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開されます。