互いを知らない男女の３日間のロードムービー『東京遭難』が11月18日に東京の新宿K's cinemaで初日を迎え、主演の木原勝利さんとヒロインを演じた秋谷百音さん、加藤綾佳監督が舞台あいさつをおこないました。

　『東京遭難』は、酔い潰れて財布も携帯も失くした会社員・柳進一が、助けてくれた若い女性「えりな」に半ば脅されるように人探しを手伝わされることになり、ふたりで３日間の旅に出るストーリー。

　加藤綾佳監督が監督デビュー以前の12年以上前からあたためていたアイディアを映画化した作品で、加藤監督は満席となった客席を前に「今日のこの光景を見るためにこの12年間があったんだなと考えると、ものすごく感慨深いなという想いでいます」とあいさつ。
　進一を演じた木原勝利さんは、12、３年ほど前に加藤監督と出会い、一緒に映画が撮れたらいいと話をしていたと振り返り「やっと今回ご一緒することができて、どんな映画になっているか、お楽しみいただければと思います」と、長年かかっての加藤監督との作品の実現に、やはり感慨深げ。
　えりなを演じた秋谷百音さんは、昨年の10月におこなわれた撮影から公開までが「あっという間でしたね」と、初日を迎えての心境を述べました。

　映画はストーリーが進行する中で次第に隠された事実が明らかになっていく、加藤監督曰く「わりと伏線伏線の映画」となっており、木原さんは「伏線がわかった上でもう一度観るとですね、さらに“だからか！”みたいなことが楽しめる」、秋谷さんは「（もう一度観ると）答え合わせができる」と、それぞれコメント。
　加藤監督は「関係性というか表情が変化していく作品かなと思っていて、ほぼほぼ（木原さんと秋谷さんの）二人芝居という感じの作品なんですけど、もう１回観返したら“あのときの表情って、こういう理由だったんだ”とか思っていただけるんじゃないかなって。２度楽しめる映画になっています」と、作品の巧みな構成をアピールしました。

　その内容のため上映前の舞台あいさつでは触れられない部分も多く、演じた役について質問された木原さんは「何十年か生きてきて、くじけたり、前に進めそうになかったり、悩んだりすることってあるけど、そういうものがあっても、どんなかたちでも歩みが前に進められたらいいなと思うような役柄」と説明しつつも「観ていただいたあとなら、たっぷり話せるんですけど」と、もどかしそうな様子。
　秋谷さんも「言えることがまだまだ限られていて」と言葉を選びながら「とらえどころのない感じをどうやって出そうかなとか、言葉をまっすぐに、声をまっすぐに出しながらお芝居をしようかなという演じ方」でえりなを演じていたと話しました。

　また、撮影はほぼストーリーの進行に沿った順撮りでおこなわれたそうで、木原さんは「順番に撮ることで時間系列が順番に進めるじゃないですか。ふたりの関係もそれで変化していくのを重視していただいて」と、順撮りでの撮影で初共演の秋谷さんと実際に精神的な距離を近づけながら撮影できたとコメント。さらに、撮影の都合で一部分だけストーリーの序盤に戻って撮影したときに「近づいたかなと思っていたけど、一気にガーンと（秋谷さんに）突き放されて」というエピソードを紹介し「さすがにプロだなと思いました」と、秋谷さんのストーリーに合わせた距離感の取り方を称賛しました。
　秋谷さんもふたりの距離感について「お芝居の距離感は大事でしたね。大きくなにかが動いたり、なにか目に見えて物理的にわかるわけではないですけど、そのわずかな変化を見逃さないでいただけたら、すごく楽しいのではないかなって思います」と話しました。

　舞台あいさつは、登壇者ひとりひとりのコメントで締めくくられました

加藤綾佳監督「本日は、この映画を選んでいただいたことに本当に感謝しております。監督・脚本作として、自分の子どもがようやく育ったというか、そんな気持ちで今日を迎えております。なので、ぜひ、その子どもが愛されるような未来を願いたいと思います。本当にありがとうございます」

秋谷百音さん「短い時間ですけど、ごあいさつができて嬉しかったです。みなさんが悩んでいることとか、いままでトラウマに思っていたりとかすることが、救われるまでは行かなくても、ちょっと肯定できるような気持ちになって帰っていただけたら、嬉しいなと思います。楽しんでください」

木原勝利さん「引き金を引くのも、花束を渡すのも、人の手だと思うのですけど、その手は人の心が動かすと思うんですね。なので、この映画が人の心を少しでも前に、いい方向になるきっかけのひとつになればと思います。ごゆっくりお楽しみください。ありがとうございました」

　木原勝利さん、秋谷百音さんに加え、今里真さん、占部房子さん、永井秀樹さん、大沢真一郎さん、増澤璃凜子さんら実力派俳優が共演、映画『おんなのこきらい』（２０１４年）やドラマ「オールドファッションカップケーキ」（２０２２年）などの加藤綾佳監督が、３日間の旅を通してふたりの男女それぞれが抱えるものを繊細に描き出していく『東京遭難』は、11月18日より新宿K's cinemaで上映中。ほか、全国順次公開されます。