舞台あいさつをおこなったキャストと監督。前列左より、中野マサアキさん、辻野正樹監督、大塚ヒロタさん。後列左より、西山咲子さん、加藤満さん、山下容莉枝さん、関口アナンさん、芦原健介さん、如月まりなさん
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中年兄弟の巻き起こす出来事を描き海外の映画祭で高い評価を受けた『北浦兄弟』が、4月12日に東京・渋谷のユーロスペースで初日を迎え、ダブル主演の中野マサアキさん、大塚ヒロタさんら出演者と辻野正樹監督が舞台あいさつをおこないました。
『北浦兄弟』は、実家で引きこもり気味の45歳の兄・ソウタと、セクハラ告発で仕事も家庭も失った弟・アキラの兄弟が、ソウタが弾みで殺してしまった父親の遺体を遺棄しようと悪戦苦闘するさまを、コミカルかつブラックに描くストーリー。
ダブル主演のひとりの中野マサアキさんと辻野正樹監督が企画してプロデューサーもつとめ、企画から4年をかけて公開を迎えており、辻野監督は「4年経って、ようやく上映されてみなさんに観ていただくことができて、ほんとに嬉しく思っています」とあいさつ。
弟の北浦アキラを演じた大塚ヒロタさんは「あまたある映画の中から週末の貴重な時間を『北浦兄弟』に使っていただき、ありたとうございます」とあいさつし「ぼくは滅多に自分の主演の作品なんてないので、その作品をこんなにたくさんの方と、ユーロスペースで初日を迎えられることを、とても嬉しく思っています」と、初日を迎えた心境を。
兄の北浦ソウタを演じた中野マサアキさんも大塚さんと同じように「本日は数ある映画の中から」と話しはじめ、大塚さんから「言ったよ」と突っ込まれると「もう思いつかなくて、そのまま言います(笑)」と、劇中の兄弟の会話さながらのやり取りを見せました。
中野さんは、コロナ禍の時期に自分がやり残したことはないだろうかと考える中で「主役の映画ってやったことないな、依頼されたことないなって思って(笑)、だったら後悔ないように自分で作ってみたらどうだろうかというところから始まりました」と、自ら作品を企画した動機を明かし「主役の映画を作りたいという願いで進んできました」と作品への想いを感じさせました。
中野さんと面識はある程度だったという大塚さんは、中野さんからダブル主演のひとりにという話があったときを「意外だったんですけれども嬉しくて」と振り返り、その時点で引き受けようと思いつつ台本を読み「めちゃくちゃ笑って、これはいろいろ楽しそうだなと思って“ぜひお願いします”という感じになりました」と、当時の印象を述べました。
また、役作りについて大塚さんは「(ソウタとアキラの)ふたりとも、だいぶ足りてないところがあるんだけど、人生ってそうだよなって。自分もそういうところはいっぱいあるし、普段、自分の中に潜んでいるものを膨らますみたいなイメージでやっていました」と話すとともに「それにプラスして、役者の意見もスタッフの意見もみんなフラットで、いい意見だと思ったらどんどん受け入れていくっていう辻野さんと中野さんのスタイルで、楽しいという言い方は語弊があるかもしれないですけど、ほんとに楽しかったですね」と、現場の雰囲気についてコメント。
一方の中野さんは役作りについて「監督から口酸っぱく当て書きと言われていたので、普段のぼくでいいんだってことで、そんなに役作りについてはアレだったんですけど、それでも自分にはないところも見ていただきたいと思って、いろいろ提示はしていったんですけど、ことごとく“それいらないから”と言われたことが大変でした」と話し、客席の笑いを誘いました。
中野さんとともに企画を立ち上げた辻野監督は「40代の中年の男ふたりが主役ってことだけ最初に決まっていたので、兄弟の話がいいんじゃないかって提案して」と、発想のきっかけを説明しました。
作品は小規模な体制で作られたそうで、兄弟の父の恋人・すずえを演じた山下容莉枝さんは「私は小規模でワチャワチャとものを作るのか大好きで、すごく楽しかったんですけども、いまこんなに大それたことになってしまいました。ほんとに感激しています」とコメント。
兄弟の叔父・北浦大輔を演じた加藤満さんは、あるシーンで体をぐるぐる巻きにされて海辺にに横たわっていたところ「どんどん潮が満ちてって、こっちでは打ち合わせをしていて、これはヤバいことになるんじゃないかと思って(笑)」と撮影中の裏話を披露。
アキラの妻・明美を演じた西山咲子さんは、現場での衣裳担当としてスタッフも兼任していたため、出演シーン以外も撮影の全期間に参加しており「みなさんが元気なときと疲れているときとか,ちょっと機嫌悪いなってときとか(笑)、いろいろなみなさんを見てきて、陰ながら支えさせていました」と撮影を振り返りました。
初めて舞台に出演したときの主演が中野さんだったという縁で出演した配達員・伊藤役の関口アナンさんは、配達員の衣裳が本格的なサイクルウェアな一方で自転車は中野さんのアイディアでママチャリが用意されていたと話し「そういう、ホンにないところのオモシロを用意してくださった上で、現場では好きにやらせていただきました(笑)」と話し、現場でそれぞれがアイディアを出しあっていたと話しました。
警官を演じた芦原健介さんは、海辺での撮影で小道具の拳銃の火薬が湿気てしまい「テイクは良かったんだけど(音が)鳴らなくて」ということがあったと話し、そのときにあとで効果音を足すのではなく「もう1回ってなって。そこは、どうしても現場の音でやりたいという、監督と中野さんのこだわりなんだなって」と中野さんと監督の姿勢を感じさせるエピソードを紹介。
ソウタが呼ぶデリヘル嬢・モモコ役の如月まりなさんは「私のシーンが緊迫したシーンとかではないので、現場はわりと穏やかで、猫ちゃんとかもいて、猫ちゃんと遊びながら、みんな和気あいあいと」と、現場の様子を話しました。
トーク中の辻野正樹監督(中央)と、揃ってデニムジャケットの中野マサアキさん(左)と大塚ヒロタさん
舞台あいさつの終盤、公開までの4年は大変なことが多かったという辻野監督が「面白かったですか?」と尋ねると、客席から大きな拍手が。
昨年エストニアで開催された第28回タリン・ブラックナイト映画祭のクリティック・ピックス・コンペ部門で最優秀作品を受賞していることが辻野監督から改めて報告され、大塚さんは小規模な作品が海外で評価されるのが「映画の醍醐味」とコメント。客席の拍手の中で舞台あいさつは終了しました。
“ダメ人間”の兄弟ふたりの行動を現代日本社会へのシニカルな視点たっぷりのブラックなテイストで描く〈ダーク〉エンターテイメント『北浦兄弟』は、舞台あいさつ登壇者のほか、たかお鷹さんらが出演。4月12日土曜日より東京・渋谷のユーロスペースで公開中、ほか全国順次公開予定。ユーロスペースでは、13日日曜日に女優・歌手の酒井法子さんをゲストに迎えたトークショーが開催されます。