舞台あいさつをおこなった芦原健介さん、小野塚老(おのづか・らお)さん、イトウハルヒさん、西原亜希さん、みやなおこさん、吉田浩太監督(左より)
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生活保護を題材とした社会派作品『スノードロップ』を上映中の新宿武蔵野館で、10月11日に主演の西原亜希さん、助演のイトウハルヒさん、吉田浩太監督らが舞台あいさつをおこないました。
『スノードロップ』は、高齢の両親と同居し生活に困窮する女性・葉波直子を主人公に、生活保護受給の申請を進める直子たち一家が下す矛盾した選択とその背景にあるものを、過去に実際にあった出来事をもとに描いた作品。カイロ国際映画祭などへの出品を経て、撮影から3年をかけて劇場公開を迎えました。
オーディションで直子役に選ばれた西原亜希さんは、SNSでオーディション募集を見つけたときに「ピンと来たというところがありまして、同時に自分の中がざわついたんですね。このざわめきはなんだろうと」と、その時点で作品と役にのめり込んでいたと回想。「この作品を届けたいという気持ちがオーディションからすごくあったので、直子として作品に参加することができて、今日、お届けすることができて、すごく胸がいっぱいです」と、公開を迎えた心境を述べました。
吉田浩太監督は、直子はセリフが少なく「喋らないということの余白の中でどう演じることができるかということが大事」であり、西原さんはオーディションでその部分が抜きん出ていたことと「静かな場面と気持ちを吐露する場面のあり方みたいなものも素晴らしい」ことから主演に起用したと話しました。
また西原さんは、セリフの少ない直子を演じるにあたり「心の中でなにを感じているのか、どんなことがあるのか、直子自身が知らなくても、演じる私が知らないといけないなって」思ったと話し、そのために「思い浮かぶ直子のいろいろな気持ちをノートに書き出して、点として自分の中に置いておくということを、撮影に入る前の準備として」おこなっていたと、役への取り組みについて話しました。
直子に親身になって対応するケースワーカー・宗村幸恵を演じたイトウハルヒさんは「私もオーディションで選んでいただいて、当時まだ(俳優を始めて)3年目とかで、すべてのことが必死だったなという思い出があります」「いろいろな国だったりいろんな地域の方の感想を聞いたりして、映画がどんどんみなさんに届いていくんだなという過程を身近で感じさせていただいた作品だなと思っています」と作品への思い入れの深さを感じさせ、劇中では宗村の人物像かあまり描かれていないため「リハーサルの段階で監督と一緒に、宗村ってこういう人なんじゃないかなとアドバイスをいただきながら」人物像を作り上げ、さらに実際の元ケースワーカーの方に話を聞き「こういうふうに仕草をしたらいいのかなとか考えていきました」と、役作りについて振り返りました。
そして吉田監督は、30歳のときに脳梗塞を発症して療養のため休業せざるを得なくなり、1年間生活保護を受給していた自身の経験を話し「そのときぼくはすごく助けられたという気持ち、おかげで映画監督として再起できたという気持ちがすごくあって」とコメント。その経験があったからこそ映画のもとになった出来事に衝撃を受け「なぜなんだろう? と自分の中で大きな疑問になりまして、それが最初のきっかけだったかなと思います」と、映画制作の動機を説明しました。
直子の父・栄治を演じた小野塚老さんは、俳優をしている奥さんが直子役のオーディションに参加しており、奥さんが関係者に小野塚さんを「猛プッシュ」したことが出演につながったという裏話を紹介し「いろいろな縁がありますね」。
直子の母・キヨを演じたみやなおこさんは、実際はキヨの設定よりかなり若く「過酷な撮影だったので、実年齢の女優さんを使ったらヤバいことになるかもという気持ちから、監督は私にこの役をといってくださったのかなと思っています」とユーモアを交えながらコメント。
宗村の先輩ケースワーカー・吉岡を演じた芦原健介さんは「ぼくが普段やる役は賑やかすような役が多いので、オファーをいただいたとき、ほんとにぼくですか? って聞いたんですけど、吉田さんの中ではぼくの先輩としての一面を見てくれていたんだなと思って、感慨深いものはありましたね」と、以前からの知り合いである吉田監督の作品に参加しての感想を話しました。
作品の内容はシリアスですが、舞台あいさつでは、撮影前のリハーサルで直子が幼いころの幸せな葉波家を、西原さんが「5歳児になりきって」エチュード(即興のお芝居)で演じたなどのエピソードも紹介され、たびたび笑いも起こる和やかな雰囲気で進行。
最後は登壇者それぞれのメッセージで締めくくられました。
西原亜希さん「この作品を観て、みなさんの中でも“なぜ?”という疑問が浮かんだんじゃないかと思います。私も台本を初めて読んだとき、そういうふうに思ったので。でも、その“なぜ?”という問いがすごく大事なのかなと思っています。“なぜ?”というところから、おひとりずつ考えていくということが、この先に小さな光となって、誰かを照らすことになったりとか、自分自身を照らすことができたりということにつながるんじゃないかなって思います。切り捨てないで、家に持ち帰っていただけたら嬉しいなと思います。それから本作は、とてもとても小さな作品なんですね。感想にするのがなかなか難しいとは思う映画なんですけど、SNSですとか、友人知人の方に、感想を伝えていただけたら、大変嬉しく思います」
イトウハルヒさん「この作品は、ほんとにいろいろな観方ができると思うんですけれども、私が演じたケースワーカー側の視点で観ると、どうしたら他人に寄り添うことができるのか、近くの困っている人だったり弱っている人だったりに、どうしたら手を差し伸べて、みんなで一緒に生きていくことができるのかという、問いかけをしている映画だと思っています。これは一朝一夕に答えが出るものでないですし、私もいまもずっと探しているものではあるんですけど、ぜひこの映画を通して、一緒に考える機会を持っていただけたら、ほんとに嬉しいなと思います」
小野塚老さん「あのお父さんは、一回家出をして、また戻って来ることを選択して、さらにあの環境でひとつの選択をしたんですけど、どうすればそれ以外の選択ができたのかとか、そういうことをみんなで考えていけたらなというのは思います。答えはわかりませんけど、ひとりひとり違う答えがあると思います。なにか胸に刻んで考えていただければなと思います。公開まで3年かかりましたけど、撮影を体験して、この映画って不思議な力を持っているなと感じています。これが第一歩ですので、これから先、いい方向に歩んでいければと思っています」
みやなおこさん「家族の話でもあるし、社会的な問題、福祉の問題であったりとか、そういうこともはらんでいると思うんですけど、閉鎖的なものというのが、いかに人間を追い詰めるのかなということをすごく考えました。地域とか社会とかで支えあって生きていけば、この家族はその選択をせずに済んだのではないかというのと、あの家族のように思わないでいい車愛になればというのを、この映画をやって強く感じました。たくさんの方に観ていただいて、それぞれ思うことを持って帰っていただいて、わかちあっていただけたらなと思います」
芦原健介さん「この映画の中で見せているように、普段は目を向けていない人たちの中でも苦しんでいる人とかもいて、そうう人たちにただ正論を言っても違ったりするし、付き合い方というのがどうしていったらいいのかわからないんですけど、人間の尊厳とはなんなのかなとか、とにかく気にかけ続けるというか、そういう姿勢を持てたら、人に優しくなれるんじゃないかと思ったので、この映画が、みなさんにとってきっかけになったら嬉しいなと思っています」
吉田浩太監督「人間ってやっぱり“存在している”ということだと思うんですね。“存在している”ということがすごく大事だと思っていて、いまSNSとか中心に見ていくと、お金がある人が偉いとか、強い者が勝つとか、そういう恐ろしい価値観が蔓延しているような気がしていて、それはどの時代でもあったのかなとも思うんですけど、それがひじょうに可視化されてきている時代かなと思っていまして、ただ、ぼくは自分の経験値上もあるんですけど、弱いときの視点というのが真実だと思っているんです。この映画としては、“弱者”という言い方が正しいかはわからないんですけど、自分が弱者の立場になったときに見える景色に立ち帰るというか、その存在感というのを自分の中では大事にしていて、それが最後のメッセージになればいいかなと思っています。“弱さ”というのものは人間の本質であって、逆に弱い者が強いというか、そういうふうにぼくは思っていて、そういったメッセージも、この映画を通じて伝わるといいかなと思っています」
吉田浩太監督が、真摯にある一家の選択に向き合って生み出された『スノードロップ』は、舞台あいさつ登壇者のほか、芹澤興人さん、はなさんらが出演。10月10日金曜日より東京の新宿武蔵野館で上映。上映期間中は、連日キャスト・監督やゲストを迎えてのトークイベントが開催されます。