各地の映画祭で注目を集めた村田陽奈監督の初長編『折にふれて』が、5月31日より新宿K's cinemaで公開されることが発表され、ポスターと予告編、場面写真、監督・キャストコメントが解禁されました。また村田監督の短編『水魚の交わり』が併映されることも発表されています。
『折にふれて』は、父親と引きこもりの兄と3人で暮らす家を出ていこうとしている「ふみ」が主人公。ふたりを置いて家を出ることに後ろめたさを感じる中で、日の沈まない不思議な町で兄の「むっちゃん」と出会うふみの心情が、現実と日の沈まない町のふたつの世界を行き来しながら描かれていきます。
京都芸術大学映画学科の卒業制作作品として2002年生まれの村田陽奈(むらた・ひな)監督たち9人の学生が中心となって作り上げた作品で、ふみをを演じる本田朝希子(ほんだ・さきこ)さん、兄・むっちゃんを演じる豊山紗希(とやま・さき)さんら、キャストも多くが撮影当時は京都芸術大学の学生。スタッフ・キャストのほとんどが長編映画は初となる中、長いキャリアを持つベテラン俳優で京都芸術大学映画学科教授でもある水上竜士さんがお父さん役で出演し、ともに作品を作り上げています。
村田監督の「いるのにいないような家族を描く」という発想から生まれ、刺繍や扉を象徴的に使うとともに画面サイズを変化させるという大胆な手法も用いて主人公を取り巻く世界を表現した『折にふれて』は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024で国内コンペティション長編部門優秀賞を受賞したほか、第25回TAMA NEW WAVEある視点部門選出など、若手監督の登竜門となっている映画祭で注目を集め、待望の劇場公開が決定。
5月31日の公開を前に解禁された予告編は、ふみがむっちゃんが引きこもる部屋のドアに合図のノックをする場面で幕を開け、ふみを取り巻く世界が映し出されていきます。
そして公開決定にあたり、ふみ役の本田朝希子さん、むっちゃん役の豊山紗希さん、お父さん役の水上竜士、村田陽奈監督がコメントを発表しています。
ふみ役:本田朝希子さんコメント
私には、10歳も歳が離れた兄弟も会社員の父もいるわけでもなく、母が亡くなっているわけでもありませんが、ただ、紛れもなく「ふみ」でいれた、そんな作品でした。何もできないもどかしさ、いらだち、周りの無関心さ、見せられない弱み、誰しも抱いたことがあるであろう痛みが垣間みえます。
“家族”という、時に苦しい鎖のようなもの、しかしそれは、各々が相手を想っているからこそでもあり、でも言葉にしないと縺れてしまう。でもその縺れを解き、不器用なりにも縫い合わせたいふみが愛おしいです。シーンの一つ一つが、ふみの心や想いや思い出に繋がっていて、きっと観客の方々の人生の記憶のどこかにも繋がる所があるのではないでしょうか。「大事な人を想う」常日頃四六時中それを意識しているわけではありませんが、観るたびに“折にふれて”それを思い出してもらえる、そんな作品になることを願っています。
むっちゃん役:豊山紗希さんコメント
『折にふれて』は私たちの卒業制作として愛を込めて作った映画です。卒業し、社会に出て改めてこの作品に触れた時、ふみとむっちゃんの存在、日の沈まないまちの存在は、あたたかく心地よいと感じました。
友達や家族、環境など、縁が強いものは救いにもなるし、心を蝕んでくることもあると思います。自分自身を大切にするために、ひとりでいること、時間を無理に進めないことは必要なことがらで、そうして呼吸を整えた時、改めて向き合えると思うのです。この映画が、あなたが立ち返るきっかけになりますように。たくさんの人の心に届きますように。
お父さん役:水上竜士さんコメント
主人公・ふみの家族は少し歪である。10年間家族の誰にも顔を見せない兄、引きこもりの兄への罪滅ぼしのように妹にお節介を焼く父親、そしていつも笑い続けている仏壇の中の母。だがこうした家族の関係はおそらく有り触れた事だろう。むしろ円満な、悩みや苦しみを誰も抱えない家族を探し出す方が難しい時代かもしれない。主人公・ふみは実際に見た事のない兄と四六時中一緒にいて、浜辺で遊び、海の家で食事をして、生きていることを確かめ合う。全てふみの妄想の中なのだ。
だから兄は兄のようでありながら女性みたいな背格好だし、街は街のようでありながら異次元にでもいるかのようなのだ。しかし映画は妄想を行き来しながら現実世界とシンクロし、時間を前へ前へと押し進めていく。この映画には「不思議な世界観」という言葉で済ませられない執着がある。「生きること」への強いメッセージ性を感じずにはいられない。
村田陽奈監督コメント
ほんの5年前までは、わたしが映画を監督し、いろんな人に見てもらえることになるとは、想像もつきませんでした。大学で映画と出会い、こんなにも広く、深い世界があること、そしてそれを生み出すことの果てし無さを知りました。同じくそこで出会った同志たちとともに、ひたむきに、すべてを込めてつくりました。
社会人となり、目まぐるしく日々は過ぎ去り変わって行っても、あのときにしかなかったきらめきは確かに映されていました。10年後にはもう目も当てられないくらい眩しく見えても、ふり返った時に心強い存在になるのだろうなと思います。前に進んでいくためにも、一人ひとりに手渡していくような想いです。新たな出会いのきっかけとなれば幸いです。
解禁された『折にふれて』場面写真。本田朝希子さんが演じる主人公・ふみ
また、劇場公開にあたり、村田監督が大学1年から2年にかけて制作した初監督作の短編『水魚の交わり』が併映されます。
『水魚の交わり』は、村田監督が写真家の梅佳代さんの写真にインスピレーションを受けて生まれた、ふたりの中学生の物語。初監督作ながら国際短編映画祭であるショートショートフィルムフェスティバル&アジア2022ジャパン部門で入選を果たした作品が、待望の一般上映を迎えます。
「家族」という題材を独特の表現で瑞々しく描く『折にふれて』は、5月31日土曜日より6月6日金曜日まで、東京の新宿K's cinemaにて1週間限定上映されます。
『折にふれて』ストーリー
もうすぐ20歳になり、一人暮らしをすることになった〝ふみ〟。おせっかいな父と、10歳年上の兄〝むっちゃん〟と3人で暮らしている。むっちゃんは10年間部屋に閉じこもったままで一度も姿を見せず、部屋の前に食事を置き、ノックで知らせるのがふみの役目。徐々に透明な存在となっていくむっちゃんと、見て見ぬふりをする父。彼らを残していくもどかしさを抱えたふみはある日、日の沈まない不思議なまちに迷い込み、むっちゃんと邂逅する。幼い頃のようにたのしい時間を共にするふたり。だがふみはいつまでもここにはいられないと思っていた。息苦しい日常とむっちゃんと一緒に目いっぱい笑った夏の日々が、ふみの視界で交錯していく──。