知多良監督の初長編で福井映画祭16THでグランプリと長編部門観客賞をダブル受賞した『ゴールド』が、10月25日より東京のポレポレ東中野、11月29日より大阪のシアターセブンほか、全国順次公開されることが発表されました。
『ゴールド』は、高円寺の路上ライブで出会い恋人になったミキと弘樹が主人公。企業の正社員として働くミキと、彼女に憧れフリーターをやめ正社員となる弘樹、仕事やさまざまな人々との出会いの中で、少しずつズレていくふたりの姿が描かれていきます。
監督・脚本をつとめた知多良(ちた・りょう)監督は、福井映画祭11THでグランプリに輝いた『ロープウェイ』(2016年)など「恋愛と生活」を題材とした短編で各地の映画祭などで高い評価を受け、2023年には特集上映「恋と生活」が開催されるなど注目の監督。
知多監督は、フォークシンガー・グッナイ小形さんが高円寺の高架下で歌っているところに偶然出会うというきっかけから小形さんと親交を結び、2020年に小形さんの曲「きみは、ぼくの東京だった」のミュージックビデオ(MV)を監督。ミキと弘樹という男女を主人公に物語が浮かび上がるようなMVが完成しました。
その「きみは、ぼくの東京だった」MVのために書いた脚本から発展し、知多監督が自身の実体験をもとに取材を重ね、多くの文献から得た情報も盛り込んで長編映画の脚本を執筆、3年をかけて。恋愛模様だけでなく、ジェンダーバイアス、職場における人間関係や上下関係の葛藤など、現代社会が抱える問題に切り込んだ意欲作『ゴールド』が生まれました。
出演は、佐藤ミキ役にモデルとしても活躍する小畑みなみさん、西弘樹役に『この日々が凪いだら』(2021年/常間地裕監督)主演のサトウヒロキさんと、過去の知多監督作品にも出演し「きみは、ぼくの東京だった」MVで主演をつとめたふたりが引き続き主演。
そのほか、弘樹の職場の人々には、山田役をやはりMVに続いて出演となる『Life record』(2024年/矢野瑛彦監督)などの松木大輔さん、田崎役を『カフネ』(2023年/杵村春希監督)の太志さん、千川役を『温泉シャーク』(2024年/井上森人監督)の藤村拓矢さん。ミキを取り巻く職場の人々や高円寺の仲間に、山中由美役に知多監督の短編『掘る女』(2023年)にも出演する幸田純佳さん、本田あずさ役に『光る鯨』(2023年/森田博之監督)主演の関口蒼さん、三澤役に『大拳銃』(2008年/大畑創監督)などの小野孝弘さんら、500名を越えるオーディション参加者から選ばれた俳優陣。
さらに、シンガーソングライターのKsayaka(けー・さやか)さんが歌唱とともにキーとなる登場人物・木野サヤ役で出演を果たしています。
また、スタッフでは『愛のくだらない』(2020年)など多くの監督作を発表し近年の日本映画界で注目を集める映画監督で、知多監督と共同の上映会なども開催している映画監督・野本梢さんが共同プロデューサーとして参加しています。
福井映画祭16THでグランプリと長編部門観客賞をダブル受賞したのをはじめ、沖縄NICE映画祭3準グランプリ、第16回福岡インディペンデント映画祭長編優秀賞、十三下町映画祭2024シネマプランナーズ賞、第15回日本映像グランプリ主演俳優賞と、5つの映画祭で6つの映画賞を受賞している『ゴールド』が、ついに劇場公開を迎えます。
「ありのままで」という価値観が大切にされ、男女を問わず「自分らしく」生きられる社会が理想とされつつ、実際にはそうでない社会。『ゴールド』は、「生活」と「仕事」と青春の終わりを描き、「ありのまま」に生きることが難しい現実の中でひとりの人間の中の多様性を描き出す映画となっています。
120分という上映時間でこそ味わえる濃密な映画体験をもたらす知多監督の長編デビュー作『ゴールド』は、10月25日土曜日より東京のポレポレ東中野、11月29日土曜日より大阪のシアターセブン、ほか名古屋のシネマスコーレなど全国順次公開されます。
知多良監督メッセージ
本作は、2人の男女の恋愛の始まりから終わりまでを描いた映画です。そして恋愛の外で出会った多様な人たちを描いた映画です。大切にしているものを傷つけられたり、それなのに誰かを傷つけてしまったり。簡単に誰かを加害者や被害者と決めつけず、1人の人間の中の多様性を描くことを心がけました。
このテーマは、私自身が生きていく中で感じてきたことでもあります。実際に、男ばかりの清掃の仕事を経験し、仕事ができて頼りになる人がパワハラやセクハラ発言をしていたり、男同士の職場でも陰湿ないじめがあったりするのを目の当たりにしました。一方で、ジェンダーバイアスについて共感し合っていた女友達が、正義を振りかざすことで誰かを傷つけてしまうこともありました。こうした現実の経験が、本作の脚本のベースになっています。そんな私の経験をもとに、主人公たちはあらかじめ決められた「性別の役割」と「欲望」の狭間で葛藤しながら、「自由」や「意志」という問いに向き合います。「自由」や「意志」は、私自身の考えだけでは到底太刀打ちできるテーマではありませんでした。そこで、スピノザやアーレント、ユクスキュルといった思想家たちの文献を手がかりにしながら、映画の中で描こうと試みました。
「ありのまま」で生きていけない多くの人たちにこの映画を届けたいです。ぜひ、映画館で本作をご覧いただきたいです。
『ゴールド』場面写真。小畑みなみさん演じる佐藤ミキ(左)と、サトウヒロキさん演じる西弘樹