２０２２年11月12日に世を去られた大森一樹監督が生前に進めていた企画を緒方明監督がメガホンをとって佐々木蔵之介さん主演、内藤剛志さんらの共演で映画化した『幕末ヒポクラテスたち』が２０２６年初夏公開となることが、大森監督３回目の命日となる11月12日に発表されました。

　大学在学中に映画監督デビューを果たし、長年にわたり幅広いジャンルの作品を送り出して日本映画界を支えてきた大森一樹監督。京都府立医科大学卒業で医師免許を持つ異色の映画監督であった大森監督20代の代表作『ヒポクラテスたち』は、母校の学生寮や鴨川沿いの喫茶店など京都で撮影をおこない、自身の経験を反映させて医大生たちの日常や葛藤を描き出し、高い評価を受けました。

　それから約40年、京都府立医科大学が２０２２年に創立１５０周年を迎えるにあたり、記念事業プロジェクトの企画公募がおこなわれ、大森監督の映画『幕末ヒポクラテスたち』の企画が最優秀賞に選ばれました。
　『幕末ヒポクラテスたち』は、かつて東宝が製作した時代劇『ふんどし医者』（１９６０年／稲垣浩監督）を原案として、旧来の漢方医と西洋医学を学んだ蘭方医が混在した幕末期の京都の村を舞台に、村医者の蘭方医・大倉太吉の奮闘と次代への思いの継承をいきいきと描き、京都府立医科大学の前身となる京都療病院の黎明期を伝える、まさに「元祖ヒポクラテスたち」の物語となっています。

　大森監督が２０２２年に急逝されたことで、一旦は企画が消滅しかけたものの、京都府立医科大学の協力のもと、過去に大森監督の作品で助監督をつとめた経験を持ち『独立少年合唱団』（２０００年）などの監督作で知られる緒方明監督がメガホンをとっての映画化が実現しました。

　主人公の蘭学医・大倉太吉を演じるのは『嘘八百』シリーズ（武正晴監督）などで知られる佐々木蔵之介さん。京都出身で映画の舞台との縁もある佐々木さんが、貧富や立場の区別なく市井の人々を救う蘭学医をおおらかに、快活に体現します。
　共演には、ケガをしたところを太吉に救われる若者・相良新左役に『佐々木、イン、マイマイン』（２０２０年／内山拓也監督）など注目作への出演が続く藤原季節さん、新左の妹・相良峰役に『ソロモンの偽証』（２０１５年／成島出監督）で主演デビューし活躍を続ける藤野涼子さん、太吉の妻で太吉をときに優しくときに厳しく支える大倉フミ役に『さよなら渓谷』（２０１３年／大森立嗣監督）などの真木よう子さんと、たしかな演技力で知られる俳優陣が集結。

　そして、太吉のライバルであり“どんな病も葛根湯”の漢方医・荒川玄斎を45年前に『ヒポクラテスたち』で学生寮の寮生を演じてデビューした内藤剛志さんが演じ、謎の侍・弾蔵を同じく『ヒポクラテスたち』で年長の研修医を演じた柄本明さん、ナレーションを大森監督作品『風の歌を聴け』（１９８１年）で映画デビューした室井滋さん、さらに脚本を１９７０年代より大森監督を知りさまざまなかたちで関わりがあった脚本家・西岡琢也さんが担当と、大森監督と縁の深いキャスト・スタッフが参加し、緒方監督とともに大森監督の意思を伝えていきます。

　公開決定にあたり、緒方明監督が以下のようにコメントを発表しています。

コメント

私にとって大森一樹は師であり、兄貴であり、大学で映画を教える講師仲間であり、映画を肴に痛飲する友人だった。そんな大森さんが還らぬ人となったのはコロナの猛威がほんの少し落ち着いたかに見えた2022年の秋。私はただただ呆然とするしかなく深い喪失感に包まれた。

そして、大森一樹は巨大な宿題を遺していった。『幕末ヒポクラテスたち』と題された一冊の脚本。西岡琢也さんと作り上げたそのホン。生前下北沢の飲み屋で「これが俺の遺作やな！」とよく語っていた企画だった。その映画を完成させないか？森重プロデューサーから話があった。私は震えた。とんでもない「置き土産」だった。世の中には「断れない依頼」というものが存在する。大森さんの不在をなかなか受け止められない私は大森さんの遺作になるはずだった作品を監督することにした。

この歳になって初めてのことばかりだった。初めての時代劇。初めての京都太秦撮影所。スタッフルームには大森さんのニッコリ笑った写真を置き毎朝手を合わせてから現場に向かった。

頼もしい東京、京都混成チームのスタッフや豊かな俳優陣と共に濃密で幸福な時間が流れ作品は完成した。映画は暗闇で観るもの。でも映画を作る私たちはいつだって「暗くなるまで待てない！」でいる。

　『ヒポクラテスたち』から45年を経て、幕末から未来へと医師がつなぐものを描いていく『幕末ヒポクラテスたち』は、２０２６年初夏全国公開されます。