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『刺青 〜堕ちた女郎蜘蛛〜』川島令美さんインタビュー

川島令美さん写真  出会い系サイトのサクラをしているアサミは、メールで知り合った男・二ノ宮と会うことになる。自己啓発セミナーの勧誘をしている二ノ宮はアサミにセミナーの主催者・奥島を紹介する。背中に刺青を持つ奥島はアサミを気に入り、アサミに自分と同じように刺青を入れさせようとするのだった。そしてアサミは刺青を入れることを決意。彼女の背中に描かれた女郎蜘蛛は、彼女の内面にも変化をもたらしていくのだった――。
 谷崎潤一郎の小説をもとに瀬々敬久監督が描く『刺青 〜堕ちた女郎蜘蛛〜』。刺青を入れることにより穢れた過去を洗い流そうとするヒロイン・アサミを演じたのは女優・ファッションデザイナーとして幅広く活躍する川島令美さん。初主演にして個性派男優陣を相手に見事な存在感を見せた川島さんにお話をうかがいました。

川島令美(かわしま・れみ)さんプロフィール

1979年生まれ。1997年にテレビドラマ「ガラスの仮面」でデビュー。以降、ドラマ、映画、舞台、バラエティ番組など幅広く活動。主な出演作に映画『東京攻略』(2000年・香港/ジングル・マ監督)、『悪魔が棲む家2001』(2001年/宮下昇監督)、テレビドラマ「D-girls」(2001年:主演)など。また、雑誌連載や、芸能人女子フットサルチームへの参加、アパレルブランド“MARIACIDA”のデザイナーをつとめるなど、多方面でその才能を発揮している。

刺青を入れると強いものを自分の中に持てる

―― 最初に『刺青 〜堕ちた女郎蜘蛛〜』のお話があったときはどう思われました?

川島:谷崎文学が原作ということもありましたし、以前から瀬々監督の作品をいろいろ観ていて、一度お仕事をしてみたいなと思っていたんですね。なので、ぜひやらせていただきたいですとお返事させていただきました。

―― では、激しい部分もありますけど、そこも抵抗なくお引き受けになったという感じですか?

川島:1作目の『刺青』(1966年/増村保造監督 ※谷崎潤一郎「刺青」の初映画化作品)を観たことがあったので、谷崎作品を映像化するとどういうものになるのかというのは感覚的にわかっていましたし、瀬々監督の『HYSTERIC』(2000年)だったり『雷魚』(1997年)のような、バランスの悪い男女の危うさを描いている作品をとても魅力的に感じていたんです。今回もそういう作品に通じるものになるのだろうとは感じていたので、そういうシーンが必要なのであればやりますという感じに思っていました。ただ、気持ちの上では抵抗はなかったんですけど、今まではそういう濡れ場のようなシーンをやったことがなかったので、いざ現場に入ったときに100%大丈夫と思えるかどうかが自分の中ではわかりませんでした。でも、そこはスタッフのみなさんや瀬々監督が私の気持ちに配慮してくださって、最初から濡れ場や墨を入れるシーンを撮るのではなくて、ストーリーをきちんと組み立てたところで撮影してくださったので、抵抗なくすんなり入れたんです。すごい考えてくださっているなあとありがたく感じました。

―― この作品では出会い系とか自己啓発セミナーという現代的な題材が取り入れられていますが、そういう題材についてはどうお感じになりましたか?

川島令美さん写真

川島:すごく“今”だなって思いました。今って、自己主張がすごく強い方もたくさんいらっしゃいますけど、主張が多い一方で世の中にいろいろなものが溢れている分、自分っていうのを見失いがちだと思うんです。そういう中で、自己啓発セミナーみたいなものに惹きつけられたり、寂しさを感じて出会い系みたいなものにはまってしまう男性もいますし、それを商売にする方もいて、サクラというものがあったりとか、すごく現代というものを象徴している作品だなと思いました。刺青を入れるというのも、自分を見失いがちだから、自分はほかの人とは違うみたいな感情を求めているというのがあるんじゃないかなと思いました。私は実際に入れたわけではないのでリアルなところはわからないんですけど、撮影のために仮想で入れた刺青でも気持ちの中にすごい刻まれるものがあるというのを感じました。

―― ちょうどお話が出たところでお聞きしたいのですが、撮影用の刺青は撮影期間ずっと入れてらっしゃったんですか?

川島:撮影の初日には入っていなくて、入れたのは2日目からだったと思います。色とかすべて入れて3、4時間くらいかけて描いていただいたんです。それで撮影期間はずっと入っている状態で、何日間かは手直しをしてもらいながら撮影していたんですけど、染料で描いてあるものですからどうしても時間が経つと薄くなってしまうんですね。クライマックスのあたりの刺青を見せるシーンの撮影のときにちょっと滲んでしまっていたので、そこで1回描き直していただいています。だから、撮影に入る最初のころとと半ばと、2回描いていただいたんです。

―― ずっと刺青が描いてあると、いろいろ気を遣わなければならないことがありそうですね。

川島:シルクのシャツを着ると消えにくいらしいんですよ。だから常にそれを着て生活していて、撮影のときの衣裳もあまり摩れるものを使わないような配慮をしていただきました。あとは、シャワーを浴びるだけで身体を洗うことができなかったというのはちょっとつらかったですね(笑)。でも、撮影期間中はタイトなスケジュールで撮影して家に帰っての繰り返しだったので、あまり苦労したということはないですね。松重豊さん(奥島役)も墨を入れている役だったんですけど、松重さんは撮影中に空き時間ができてしまったらしくて、描いている上からワイシャツ1枚羽織って渋谷の街を時間つぶしで歩いていたんですって。ワイシャツ1枚だと透けることもありますし、それを想像するとちょっと怖いなって感じましたね(笑)。

―― 松重さんは体も大きいし、きっと迫力ありますよね(笑)。ところで、刺青は数時間かけて描いていただくわけですよね。描かれているときというのはどんな気持ちなんでしょう?

川島:描かれているとき自体はあまり描かれている感覚ってそんなに感じないんですよ。ペンが肌を沿うので気持ちいいくらいで、だから描いていただいている途中も寝てしまったんです(笑)。それで、できあがったのを見たときに「ああ、こんなにすごいものができあがったんだ」という感じでした。あの女郎蜘蛛って、刺青としても和彫りのとてもすごいものですから、消えるものとはわかっていてもそういうものが自分の身体に入ったという衝撃は大きかったですね。やっぱり、刺青を背負うってすごく勇気の要ることだから、そこに踏み込むまでが大変なんでしょうけど、入れてしまうととても強いものを自分の中に持てるのだろうなと思いました。

―― 逆に、撮影が終わって刺青を消すときにはどんなことを感じられましたか?

川島:二ノ宮が傷を負ってアサミが泣き崩れるクライマックスのシーンが、ほんとに撮影の最後だったんです。そのときまではずっと気持ちが張り詰めていたので、そのシーンが終わって開放された気分になって「ああ、この現場が終わってしまうんだ」ってすごく悲しくなってしまったんですね。その気持ちがあったまま刺青を取っていただいたので、撮影期間中にずっと付き合ってきたものが消えていくという、とても名残り惜しい気持ちはありましたね。

アサミみたいな部分も自分の中にある

―― 最初に脚本を読まれたときに、登場人物たちについてどんな印象を持たれましたか?

川島:最初に脚本を読んだだけのときは、もっと殺伐とした形で描かれるだろうと思っていたんです。アサミも、自分が演じたんですけどああいう形で表現することになるとは思わなかったですし。やっぱり、脚本だけでは見えないことがあるんですよね。今回はほんとうに個性的で個々に魅力のある役者さんが揃ったと思うので、役者さんが演じることで「こういうものになるんだ」というのは現場でも徐々に感じていましたし、完成した作品を観て感じました。

―― 二ノ宮を演じた和田聰宏さん、奥島役の松重豊さん、彫光役の嶋田久作さん、神崎役の光石研さんそれぞれの印象はいかがでした?

劇中スチール

『刺青 〜堕ちた女郎蜘蛛〜』より。川島令美さんと共演の和田聰宏さん

川島:和田さんは、作品を通して一番一緒にいる時間が長かったんですが、ほんとに先輩として優しくサポートしていただけて助かりました。二ノ宮ってすごくあやふやなところがあるじゃないですか。純粋なんですけど、純粋過ぎてもろいところもあるし、そこをすごく人間味を持って演じられる方なんだなというのはそばにいて感じましたし、そういう方と共演できてやりやすかったですし、面白かったですね。
 松重さんはほんとに眼力がすごかったですね。アサミが最初に奥島に会って自己啓発セミナーに勧誘されてしまうシーンでは、こんな目で勧誘されたらほんとに入っちゃうなって思いました(笑)。今までもいろいろな作品でも観ている役者さんだったので、やっぱりすごいなというのは感じました。
 嶋田さんは、猫を抱き上げたりとかフッと視線を変えるシーンとかでは静かな感じで、アサミの背中に墨を入れるときにはクワッと力強くて、“静と動”というか、その両方がすごいなあと思いました。現場でもストイックで、ほんとに役者さんだという感じの方でした。
 光石さんとのシーンは、あの映画の中で一番、現実の世界だったように感じるんですよ。不倫相手という役で情けないところもあるんですけど、その情けない姿にもすごくリアル感があって。光石さんとホテルに入るシーンは、アサミの中でなにかが切り替わるシーンだったと思うんです。あそこのシーンって部屋にクリムトの絵画(「人生の三時期」)が飾ってあるんですけど、私はクリムトが好きで、その絵も好きだったので現場に入ったときに驚いたんです。女性の人生の3時期が描かれている絵なので、女性の美しい面と朽ちていく面というのがその空間の中にあるんだろうと思ったんです。その空間の中で、光石さんというリアルな演技ができる方が一緒だったことで、自分でもすごく入り込むことができましたし、アサミの中でスイッチが入った瞬間というのを感じさせる手助けをしていただけたんだなと思いますね。撮影が終わってから監督にその絵について聞いてみたら、やっぱり意味を持たせたかったというお話をしていました。

―― 撮影中は瀬々監督とは役についてどんなお話をされたんですか?

川島:正直な話、瀬々監督とは現場ではそんなに話した記憶がないんですよ。あんまり目を見てくれなくて、呼ぶときも「女子!」みたいな感じで、名前を呼んでくれないんです(笑)。それでピンポイントピンポイントで「こうして欲しい」ということをすごく簡潔に伝えてくださるんです。なので、迷いがなくてやりやすかったですね。撮影の前に、瀬々監督から「アサミは懸命に生きようとしているけど、すごい迷いがあったり自分に自信が見出せなかったりして、人に対する怖れがある子なので、自分の中にあるそういう不安だったりを出してやってくれればいい。あまり考えて作り込み過ぎないで欲しい」と言われていたんです。だから現場では私が「アサミってこうなのかな」と考えるものを出していって、それに瀬々監督が随所随所で短い言葉でエッセンスをポンって加えてくださるという感じでした。なので「瀬々監督ってこんなにお話をする方だったんだ」っていうのはつい先ほど、別の取材でお会いしたときに知ったんです。さっきお話ししたクリムトの絵の話をしたのもついさっきなんですよ(笑)。

―― アサミを演じる上で、川島さん自身がアサミに共感するところや、逆にここはアサミと違うなというところはありますか?

川島:アサミの、自分の中にこもってしまう感覚っていうのはわかる感じがしますね。私は思ったことを言ってしまう性格なのでアサミみたいに溜め込むことはないんですが、自分の中でのつらいことだったり、生きていく中での不安っていうのが積み重なってしまったら、たぶんアサミみたいになってしまうと思いますね。今、思い返すと、この映画のお話をいただく少し前あたりから、たまたま人間不信になりかけていたところがあって、あまりうまく人と話せない時期があったんです。だからそういうアサミみたいな部分も自分の中にあって、そこから引き出していけたものだろうなと思います。アサミと違う面は…私は刺青はたぶん入れないと思うんですけど、アサミも人に導かれていった面があるので…どうなんだろう、ちょっと考えちゃった(笑)。でも、アサミはサクラをやっていて、後半では男性に謝罪するつもりで肌を重ねていくじゃないですか。私だったらサクラをやって人を騙していたら、さらに嘘を厚塗りして抱え込んでしまうような気がするんです。やっぱりアサミみたいにそこでなにかを見出すというのは難しいと思いますね。

男性って強い存在だからこそ、危うさに惹かれてしまう

―― アサミと二ノ宮はちょっと変わった関係を築いていますが、このふたりの関係についてはどう思いました?

川島:不器用ですよねえ(笑)。もっとストレートでいいのにと思いますね。瀬々監督のほかの作品にもこういう「なんでうまく生きていけないんだろう」っていう歯痒さがある作品があるんですよね。今回自分でやってみて思ったのは、人の生き方に正解ってないですけど、第三者から見ればこう生きて行けば幸せになれるだろうっていうのがあるじゃないですか。でも、そういうのって自分ではなかなか気づけないんですよね。だから、アサミも二ノ宮も突飛な方向に走ってしまっていると思うんですけど、すごく不器用なふたりだとは思いますね。私はアサミを演じたので、アサミの生き方については客観的に考えられないところが出てきてしまったのですけど、二ノ宮に関しては、ああいう不器用さというか、純粋さっていうのはほんとにどうしようもないと思うんです。でも、アサミにとってはそこに惹かれる部分があったんだと思いますね。

―― 川島さんは、アサミが二ノ宮のことをどういう風に思っていると考えながら演じていたんでしょうか?

川島:アサミにとって二ノ宮はほんとに愛しい人だったんだと思いますね。ずっと気づかずにいたと思うんですけど、自分の中では引っかかっていて、残る人ではあったんだと思うんです。なにかのきっかけがなければ通り過ぎてしまって別の人生を歩んでいたと思うんですけど、一度離れたあとに二ノ宮が見つけてくれますよね。そういうきっかけを二ノ宮が与えてくれて、再会して、彼の純粋な面や不器用な面に触れていって、すごく母性を感じたんだと思いますね。愛しているっていうよりも「この人のためになにかをしたい」という気持ちが先に立っていたんだと思います。だから二ノ宮のために身を投げ出すことができたんだと思いますし、二ノ宮ともう2度と会えないと思ったときに、この人を失ったことが自分の中で重大なことだって初めて気がついて、その喪失感を埋めるように、彼との出会いのきっかけだった蝶を身体に刻むことで、彼と一体化したかったんだと思います。

―― 後半の二ノ宮って、かなりいろいろ見失ってしまって、アサミにもひどいことをしている部分がありますよね。

川島:でも、そんな二ノ宮を肯定してしまう気持ちがアサミにはあったと思うんです。やっぱり、恋愛ってそういうところがあると思うんですよ。すべてがうまく行っている男の方を好きになる女性もいれば、そうじゃない人を好きになる女性もいるじゃないですか。もともと男性って強い存在ですよね。だからこそ、強さのほかにある危うさみたいなものに惹かれてしまうっていうのはあるんじゃないかな。その意味でアサミには二ノ宮はすごく魅力的な男性だったんだと思います。

―― もし、川島さんが二ノ宮と似たような男性に出会ったら、恋愛関係にはなるでしょうか?(笑)

川島令美さん写真

川島:うーん、なかなか難しいですね(笑)。私もどっちかというと好きな人のためになにかをしたいというタイプなので、男性の危うさっていうのに惹かれるんです。だから自分が出会ったことで間違った方向に行っていた彼を軌道修正できるように導けたら嬉しいですけど、ズルズルああいう形になってしまうと大変ですね(笑)。

―― では、川島さんがこの映画の中で気に入っているシーンというとどこでしょう?

川島:まず、二ノ宮との海でのシーンですね。中盤の手を握り合うシーンも好きですし、そこからときが経った終盤のシーンも、自分の中での込み上げる気持ちのとても強いところだったので、海でのシーンは中盤も終盤のところもとても印象的ですね。それから、墨を入れられるシーンは深夜の遅い時間までかかってずっとやっていたんですけど、照明の具合もあってすごく幻想的な気分になるんです。特に最後の刺青を完成させるシーンは、自分でも二ノ宮に対しての気持ちがすごい溢れていたので、撮っている間はずっとアサミに入り込めていましたし、とても重要なシーンだったなと思いますね。

―― その墨を入れられているシーンって、川島さんはうつ伏せになっているので、あんまり動いたり、表情を見せることもしにくいですよね。そういう状況でどうやってアサミという役を見せようと考えていらっしゃったんでしょうか?

川島:あんまり考えることはなかったですね。嶋田さんが彫り師の役なのでずっと手を添えていらっしゃるんですけど、その肌の体温というのを感じるんですね。それで、二ノ宮との関係とは違った、彫り師と墨を入れられる人との一体感みたいなものがあったんです。嶋田さんもお芝居がぐいぐい来る方だったんですけど、その中でも私のことを考えてサポートしてくださるところがあったので、すごく自然に役に入れたんです。

―― そう考えると、この映画ってメインになっているのは二ノ宮とアサミのラブストーリーですけど、彫光とアサミのラブストーリーでもあるし、さらには奥島や神崎とのラブストーリーでもあるのかもしれませんね。

川島:それは私も感じますね。彫光との間には墨を入れられることによっての一体感という形での交わりがあって、二ノ宮とは身体を交わさないからこそのピュアな突き通されたものがあると感じます。アサミはそういう気持ちがありましたし、愛の形はほんとにいろいろ描かれていますよね。

―― 最後に、映画をご覧になる方に川島さんから「ここを観て欲しい」という見所をお願いします。

川島:この作品は、すごく現代というのを映し出している映画だと思うんですね。人の危うさというものを垣間見て、そこからみなさんが生きていく上で自分なりに見出せるなにかを見つけてもらえたらいいなあと思います。ご覧になる方によっていろいろ視点も違うと思いますが、なにか感じていただけたら嬉しいです。

(2006年12月13日/アルゴ・ピクチャーズにて収録)

劇中スチール

刺青 〜堕ちた女郎蜘蛛〜

  • 監督:瀬々敬久 原作:谷崎潤一郎
  • 出演:川島令美 和田聰宏 光石研 嶋田久作 松重豊 ほか

2007年1月13日よりユーロスペースにてレイトショー公開

『刺青 〜堕ちた女郎蜘蛛〜』の詳しい作品情報はこちら!

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