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『ドクムシ』朝倉加葉子監督インタビュー

インタビュー写真 大学生のレイジとキャバ嬢のアカネたち7人は、気づくと校舎のような建物の中にいた。すべての出入り口や窓は厳重に封鎖され、食糧は見当たらない。壁では電光掲示の数字がカウントダウンを続ける。これは「毒虫」のような人間を殺しあわせる呪いの儀式「蠱毒(コドク)」なのか……。
 新世代のホラー監督として注目される朝倉加葉子監督がメガホンをとった『ドクムシ』は、ネット小説として投稿された八頭道尾さんの「コドク~蠱毒~」にオリジナル要素を加え合田蛍冬さんがコミック化した「ドクムシ」の映画化。村井良大さんと武田梨奈さんをダブル主演に迎え、廃校に閉じ込められた7人の男女の7日間を描いていきます。
 朝倉監督はこの作品で原作に映画オリジナルの展開も加え、極限状態に置かれた人間の姿を映像としてリアリティ豊かに浮かび上がらせていきます。
 半年間で劇場用作品が3本公開と精力的に作品を発表する朝倉監督は、映画『ドクムシ』にどんな「毒」を込めたのでしょうか?

朝倉加葉子(あさくら・かよこ)監督プロフィール

山口県出身。東京造形大学卒業後、テレビ番組制作会社勤務を経て映画美学校に入学。同校修了後にテレビシリーズ「怪談新耳袋 百物語」(BS-TBS)の一編「空き家」(2010年)で商業作品デビューを果たし、2013年に全編ロサンゼルスロケによるスラッシャー映画『クソすばらしいこの世界』で劇場長編監督デビュー。2015年にアイドルグループ・ゆるめるモ!を主演に迎えた『女の子よ死体と踊れ』(2015年)が公開。ホラー作品のほか、人気バンド・RADWIMPSに密着したドキュメンタリー『RADWIMPSのHESONOO Documentary Film』(2016年)も手がけている。
ほかの作品に、カンヌ映画祭マーケット部門Short Film Corner2013参加作品『HIDE and SEEK』(2013年)、ネット配信ドラマ「リアル鬼ごっこ ライジング/佐藤さんの正体!」(2015年)など。

「無情な感じのある結末にしたい。そのためにはどうすればいいのか」

―― 今回の『ドクムシ』は小説・コミックを原作にした映画化となりますが、原作にはどういう印象を持たれましたか?

朝倉:私はまず小説を読みまして、極限状態に追い込まれた人間を小説ならではのやり方で描写しようとする作品だなと感じて、話の持っていき方がストイックな作品だなと思ったんです。そのあとマンガを読んで、マンガは小説のストイックさとは違ってかなりエンターテイメントの方向に持っていっていて、それは原作に対するアプローチとして共感するところがありました。

―― 監督は映画化にあたってどんなアプローチをしようとお考えになったのでしょうか?

朝倉:やっぱり映画ですから小説ともマンガとも違ったものにしたかったので、生身の人間がそういうシチュエーションに置かれてどうなっていくかというのを、ある種のリアリティを保ちつつ描けたらいいなと思っていましたね。

―― この作品のように「閉鎖された空間に主人公たちが集められて」というタイプの話は、ここ約10年くらいの間にジャンルとして確立した感じがありますが、そういうタイプの作品を新たに作る上で特に考えられた点はありますか?

朝倉:それについては、最初に企画のお話をいただいたときに「いわゆるシチュエーションホラーと似ているんだけども一線を画すものにできたらいい」というお話をしていただいていたんです。そういう映画に見せるけれども、単にゲームのようなシチュエーションの中で生き抜いていく人たちの話ではない話にしようというのは最初からあって、それが私がこの企画に興味を持った理由のひとつでもあったんです。なので、最初からいわゆるワンシチュエーションものとは少し違うものを作ろうとは思っていました。

―― その「少し違うもの」という部分で意識されたのはどういうところでしょう?

『ドクムシ』スチール

『ドクムシ』より。レイジとアカネたち、7人の男女は閉鎖された廃校に閉じ込められる……

朝倉:お話をいただいた時点でマンガは未完で小説は完結していたんですけど、映画は結末までずっと原作の設定に沿わなくてもいいということだったんですね。むしろソリッドシチュエーションホラーでよくあるような状況より、もっと無情な感じのある結末にしたいと、最初からいまの結末に関するアイディアも話に出ていて。なので、最終的にその無常感に無事着地するためにはどうすればいいのかというのを考えながらプロットなりシナリオを作っていったという感じですね。

―― 先ほど「ある種のリアリティ」というお話もありましたが、特にアクションシーンというか暴力の絡む場面で生々しさを意識されているような印象を受けました。

朝倉:まさにそういうものにしたいとは思っていました。人間って、実は特殊な状況下に置かれてもそんなに暴力を振るわないし、そんなに簡単に人を殺さないものだと思うんです。それはよっぽど精神的に溜まっていくものがあってこその到達点として初めて行為に現れるというか。だから、そういう発露がきちんとあるものにしないとすごく嘘っぽく見えちゃうんじゃないかと思っていました。私自身がちょっとずつ箍(たが)が外れていくさまに興味があるんだと思います。

―― 「ちょっとずつ箍が外れていくさま」ということは、異常な状況とかよりも、あの空間にいる7人の人間を描くということに主眼を置かれていたわけでしょうか?

朝倉:そうですね。やっぱり、自分とほかの人間しかいないような空間で向き合うのは、ほんとに自分かほかの6人かどちらかになると思うので。

―― そうやって人物を描く上で、監督が登場人物を見る視点というのはどこにあるのでしょう?

朝倉:目線は同じにしたいというか、神の視点みたいなことではなく、カメラを通して別室から見ているような人間の視点でもなく、実はこの中には7人のほかにもうひとりいて、その人が怯えながら過ごす日々みたいな視点でみんなを描こうと思っていました。それは、映画を観るお客さんの視点もそうあってほしいという願いもこめてます。

「登場人物への愛と、その人物がどれだけ苦しむかは比例してますね(笑)」

―― その7人の登場人物の中で、主人公のレイジはあまり積極的に行動しない人物で、目立たない人物になりかねないキャラクターかなとも思いましたが、そういう人物を主人公として描くにあたって意識されたのはどういうことでしょうか?

朝倉:でも、比率で言うと、レイジくんみたいな人がけっこう多いんじゃないのかなって思っていて、自分のやりたいことをすぐ見つけられてすぐに動ける人ってどちらかというと少数派のような気がしているんです。レイジくんは少しずつ「周りから置いてけぼりになっている」という感覚をレイジくん自身も持つような状態になるんですけど、それはこういう状況下ではリアリティのあることなんじゃないかと思っていました。彼は目立ったアクションでは動いていない部分はあるんですけど、むしろ「置いてけぼりになる感じ」は丁寧に描きたいと思いました。

―― レイジはかなり過酷なシーンなどもありますが、演じる村井良大さんに監督が求められたのはどんなことでしょう?

朝倉:やっぱり、いまお話したような「レイジくんみたいな人が大多数だと思うので」という話を村井さんともしていて「素直にやってください」というようなお話をしました。

―― 村井さんのファンの方がちょっと驚くんじゃないかなと思うようなシーンもありましたが、ああいうシーンの狙いはどんなところなのでしょうか?

朝倉:お話の中での意味で言うと、レイジくんはほかの登場人物にいろいろ見せ場があるときも長い助走をしているような人なので(笑)、彼にも彼なりの華々しい見せ場を作りたいというのはあって、意図して衝撃が強いように持っていった部分はあります。衝撃というか重さを持たせたかった部分ですね。それで、村井さんはほかの作品を拝見していてもすごく演技に対して意欲的な方なんですよね。どんなことでも「やりたい」と言ってくださる感じの方だったので、今回はちょっと刺激が強いようなこともやっていただいたんですけど、この先もっといろいろな役をやられる中で、たぶんこんなものではないくらいのこともやられるんだろうなという感じもしています(笑)。だから、村井さんのファンの方はドキドキしながらそういうところも楽しみにされるんじゃないかと思うんです。

―― もうひとりの主人公のアカネは、いろいろ策略を図ったり、別の意味で主人公っぽくないところがありますね。

『ドクムシ』スチール

『ドクムシ』より。主人公のレイジ(中央)とアカネ(右)、同じように閉じ込められた男・タイチ

朝倉:最初からやる気満々ですね(笑)。でも、私がこの話で好きなところのひとつはアカネも主人公であるところなんですよ。レイジくんはいわゆる普通を身にまとっている人で、やっちゃいけないことはやっちゃいけないんだって思うし、正義でありたいし善でありたいというふうに自分を持っている人ですよね。それで、彼と同じくらいの比重を占める人として、自分のやりたいことをやって、自分が生きて帰りたいと思ったらその欲望に忠実に行動するんだというアカネがいて、しかもその人が悪役ではないというのが好きなところなんです。欲望を肯定する話として描くのはある種の平等というか、さっきもお話したように世界の無情さみたいなものをラストに持っていきたかったので、出てくる人たちもいろいろな立場の人間をどちらかが悪いとかではなくて同じ高さで描きたいというのがあったんです。「悪いことをするようになる人たちも同じように生を生きるんだ」というふうにしたかったので、それの象徴的な表現として、かたやレイジ、かたやアカネに表したかったというのはありますね。

―― アカネ役の武田梨奈さんには、どういうものを求められていましたか?

朝倉:武田さんには、アカネはいろいろとアクセサリーがある役ではあるんですけど、むしろこの人が7人の中で誰よりも素直で、生きて帰りたいという欲望、希望に忠実に生きているだけの人で、だからこの中では一番純粋な人だと思うという話をしました。この映画の中では戦士みたいな役だと思うんですよね(笑)。武田さんならそこを清々しくやってもらえるんじゃないかと思って、だから「彼女はいろいろ策略を描いて実行していく人ではあるんですけど、行動原理はピュアで」という話を武田さんには懇々としました。

―― この作品は当然、主人公のふたりを含めて登場人物が悲惨というか過酷な状態になるわけですけど、そういう描写って登場人物への思い入れが強いとやりにくかったりはするんでしょうか?

朝倉:それは全然ないですね、私(笑)。逆に思い入れがあればあるほど、ひどい目に遭うようなシーンもしっかり見せたいというか、やっぱりそういうシーンってその人の感情の頂点になるところなんですよね。そこは見せ場になるようにみんなにきっちり作ってあげたいなと思うので、どちらかというと比例していますね、人物への愛と、その人物がどれだけ苦しむかは(笑)。

―― 比例しているということだと、監督は今回の登場人物7人全員に相当に強い思い入れがありそうですね(笑)。

朝倉:そうなんです(笑)。やっぱり、ホラーってそういうところがいいですよね。悲惨な目とか苦しい目に遭うのがいいというわけではなくて、そういうふうな人間の魅力の描き方がセオリーとして組み込まれているのが私がホラーが好きな部分だったりもするので、今回こういう機会がもらえて、きっちり7人の見せ場を演出したいなというのはずっと思っていました。

―― あえての質問なんですけど、その中で一番好きキャラクターというと誰でしょうか?

朝倉:難しいですね(笑)。……みんな好きですけど、いわゆるホラーの楽しさみたいなものを担ってくれたのが駒木根(隆介)さんが演じたタイチさんだと思うんですよ。しかも、序盤はお腹がすいたとか言ってうなだれたりとか、そのあとはちょっと恋に走ったりとか、食に走ったりとか、いろんな変遷をたどっていろんなバージョンを描けた人でもあるので、7人みんな欠かせないんですけどタイチさんは特に欠かせないという気はしています。

「自分が体験しないようなことを疑似体験できるのが映画の素晴らしさのひとつだと思います」

―― 印象に残った点のひとつに、今回は音楽が最近のホラー映画で多いタイプの音楽ではないなと感じました。

朝倉:そうですね、音楽に関してもいろいろ考えたんですけど、いまのソリッドシチュエーションホラーのはやりとしては、打ち込み系であったりノイズっぽさを引き立たせたりみたいな音楽がありがちな感じだと思うんですけど、今回も『女の子よ死体と踊れ』に続いてゲイリー芦屋さんに作ってもらえることになって、ゲイリーさんと部屋の環境音の話からさせてもらえたんですよ。それで、映画の中にずっと這っている空気の音というか環境音をゲイリーさんが全部作ってくださっているんです。そういう、いわゆるドローンをいくつも用意してくださって、それが劇伴と少しずつ混じりあって曲になっていくみたいなことをいろいろ提案もしてくださったんです。なので、そちらのほうが作りこみが楽しいので、そういうふうにしたいなというのもありましたね。ゲイリーさんは演出を考え抜いて考え抜いて曲を作ってくださるので、いつも本当に助けていただいてます。

―― もうひとつ印象に残った部分で、ユミという登場人物の過去というか回想シーンが、映像的にもほかの場面とはかなり異質になっていますね。

朝倉加葉子監督写真

朝倉:やっぱり、7人の中にひとり精神のバランスを崩していく人を絶対に入れたいなというのがあって、バランスが崩れていくのを丹念を描写することでほかの人たちの追い込まれ方も総じて持ち上がるだろうと思ったんです。なので、なるべく序盤のほうにユミのバランスが崩れていくのをしっかり描きたいなというのがありました。それと、現在の苦しい状況の対比として回想でノーマルなシーンを入れたほうが、より現在の現実の暗さや冷たさみたいなものが引き立つだろうと思ったので、回想シーンは元気よく暖かい色味で、正反対の方向に振ってしまおうというのは思っていました。

―― そのユミのシーンも含めて、今回はエロティックな場面もけっこう登場しますね。

朝倉:私はエロティックさに関してはあまり自信がなくて、ちょっとおっかなびっくりやっているところがありますね(笑)。でも、暴力と同じくこの状況下で発生しうるものの延長線上に置きたいなとは思いましたし、あんまり自信がないので精一杯がんばりましたというくらいしか言えないです(笑)。

―― 監督は今年に入ってからドキュメンタリーの『RADWIMPSのHESONOO Documentaly Film』、そして『ドクムシ』とすでに劇場公開作が2本目で、昨年の『女の子よ死体と踊れ』から数えると約半年で3本と、かなりのペースですね。このペースで作品を作られていかがでした?

朝倉:いや、去年はこのペースでやっていて死ぬかと思いました(笑)。「もうちょっとで死ぬ」と思いながらやっていたんですけど、ほんとにすべてにおいてただただ幸運なタイミングで、感謝しかないですね、やっぱり、それぞれ別々の作品ですけど次々にやれると自分的には少しずつ蓄積があるんです。次にはよりいいものをという感じでやれるので、すごく楽しいですね。

―― 今回の『ドクムシ』は若い方が多くご覧になると思うのですが、監督が若い観客の方に作品を通して伝えたいことというのはありますか?

朝倉:そうですね……「監禁されたと思っても落ち着いて注意深く見て。あんまり焦らないで」みたいな感じですかね(笑)。

―― すごく現実的なアドバイスですね(笑)。

朝倉:でも、実際に普段と違う状況になるとパニックになったりして、デマも飛び交って惑わされたりということがあるわけじゃないですか。震災のときの日本もそうだったし、もっと以前にも世界の各地でおこなわれてきたことで、私はそういうのはやっぱり憎むべき事象だと思うんです。こういう映画を作っておいてなんですけど(笑)。

―― では最後に、若い方だけでなくもっと広い範囲にむけて、映画の見どころをお願いします。

朝倉:私は、自分が決して体験しないようなことを映画を観ることで疑似体験できるところが映画の素晴らしさのひとつだと思っていて、それで言うと、この映画はかなりS級に体験しづらい擬似体験になると思います。ワンシチュエーションもので、状況的にも想像しやすく、入り込みやすい映画にできていたらいいなと思っていますので、2時間弱を楽しんでもらえたら嬉しいですね。

(2016年3月18日/セディック ドゥにて収録)

作品スチール

ドクムシ

  • 監督:朝倉加葉子
  • 原作:合田蛍冬/八頭道尾「ドクムシ」(双葉社刊・E★エブリスタ)
  • 出演:村井良大 武田梨奈 ほか

2016年4月9日(土)~22日(金)新宿ピカデリーほか2週間限定上映・「niconico」ネットシネマ同日公開

『ドクムシ』の詳しい作品情報はこちら!

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