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『台湾より愛をこめて』大野拓朗さんインタビュー

 漫才コンビを解散し、ピン芸人としてお笑いを続けている雄介は、元・相方の光一に背中を押され、5年前にある人と約束を交わした台湾を光一とともに訪れる。旅の中で雄介たちが出会う日本の少女・メイや、人気者の三原慧悟。やがて雄介は……。
 映画やドラマで注目の若手俳優・大野拓朗さんが主演をつとめる『台湾より愛をこめて』は、台湾を舞台にした若者たちのロードムービー。出演者が撮影した映像も劇中で使われるドキュメンタリータッチの作品となっています。
 台湾でアイドルとして大人気の三原慧悟監督がメガホンをとったこの作品で、大野さんは夢に向き合う若者の迷いや悩みをリアルに表現しています。近頃、漫才への縁が続いている大野さんに、雄介としての「旅」を振り返っていただきました。

大野拓朗(おおの・たくろう)さんプロフィール

1988年生まれ、東京都出身。大学在学中の2010年に俳優オーディション「キャンパスター☆H50」でグランプリを受賞し、映画『インシテミル〜7日間のデス・ゲーム』(2010年/中田秀夫監督)で俳優デビュー。2017年10月より放送中のNHK連続テレビ小説「わろてんか」では漫才師・キース役でレギュラー出演。同作で漫才の相方を演じる俳優の前野朋哉さんとのコンビで漫才コンクール「M-1グランプリ」に出場し話題となった。
主な出演作に、映画『セーラー服と機関銃 -卒業-』(2016年/前田弘二監督)、『猫忍』(2017年/渡辺武監督)、『サバイバルファミリー』(2017年/矢口史靖監督)、ドラマ「三匹のおっさん」シリーズ(2014年、2015年、2017年/TX)、終戦記念ドラマ「ラストアタック」(主演:2016年/NHK)、「LOVE理論」(初主演:2015年/TX)、大河ドラマ「花燃ゆ」(2015年/NHK)、 ミュージカル「エリザベート」(2012年)「ロミオ&ジュリエット」(2017年/ともに小池修一郎演出)、舞台「ヴェニスの商人」(2013年/蜷川幸雄演出)など。待機作に、舞台「シラノ・ド・ベルジュラック」(2018年5月/日生劇場)など多数控える。

「撮影しながらとっても楽しめましたね」

―― 今回の『台湾より愛をこめて』はタイトルの通り台湾が舞台ですが、大野さんは台湾にはどんなイメージを持たれていましたか?

大野:そうですね、みんながよく旅行で行きたがるところですし、ご飯が美味しいという話をよく聞いていました。あと、ぼくがボイストレーニングを受けている先生が台湾の方なんです。それもあって、台湾はすごく行きたい憧れの地でした。だから、台湾が舞台の映画に出られるというのはメチャクチャ嬉しかったです!

―― 今回は、わりと集中したスケジュールで撮影されたそうですね。

大野:はい。3日間で朝から晩までのけっこうハードなスケジュールでやっていましたけど、超楽しかったです。すっごくいい思い出! ぼくの役者人生の中で一生思い出に残るくらい、この3日間の思い出はとっても大きなものですね。

―― 撮影では台湾の名所のようなところを何ヶ所も訪れられたようですが、実際に訪れての印象はいかがでしたか?

『台湾より愛をこめて』スチール

『台湾より愛をこめて』より。大野拓朗さん演じる雄介(右)と、落合モトキさんが演じる光一

大野:すごく好きな感じでした。匂いとかもいいですし、よく台湾の町並みは「昔の日本に似ている」って言うじゃないですか。ぼくは「昔の日本ぽさ」というのがよくわからないんですけど、でもなんか親近感が湧くんですよね。どこか懐かしいというか。そう感じるということは、たぶん日本人が好きな町の感じなんだろうなって思いました。台湾の方も温かかったですし、撮影しながらとっても楽しめましたね。

―― 映画の中では、大野さんが演じた雄介と落合モトキさんが演じた光一がお互いにビデオカメラで撮り合っている、ドキュメンタリーのような部分も多いですね。

大野:あのシーンはカメラマンさんや監督、スタッフが誰もついてこないで、完全にふたりで撮影しています。ハンディカムを渡されて、基本はオッチー(光一役の落合モトキさん)がハンディカムを持って質問をして、ぼくの役は芸人だから受け答えの練習みたいにコメントをしていくノリでした。ふたりで商店街を歩きながら気になるところはツッコんで、だから完全にアドリブですし、ほんとに旅行に行っている感じでしたね(笑)。ひと周りして戻ってきて(ハンディカムを)「ハイ」って渡して、監督がチェックして終了です。

―― ちょうどお話に少し出ましたが、今回演じられた雄介は元・漫才コンビでいまは解散してひとりでやっているお笑い芸人という設定ですね。お笑い芸人という設定はどうお感じになりましたか?

大野:この映画のお話はたしか「わろてんか」の撮影が始まって2ヶ月くらいにいただきました。その段階ではまだぼくが「わろてんか」に芸人さんの役で出るというのが発表されていなかったので、とってもビックリしました(笑)。

―― 今回も劇中で実際に漫才をやるシーンがありますが「わろてんか」での経験が役立ったりはしたのでしょうか?

大野:いや、この撮影のときには「わろてんか」ではまだ漫才をやっていなかったので、逆にこの経験が「わろてんか」に活きました。映画ではオッチーと、「わろてんか」では前野(朋哉)さんと組んで漫才をやらせていただいているから「相方を変えた」みたいなところがあります。両方ともぼくがボケなんで「ああ、ツッコミによって漫才の色がすごく変わるんだな」とか、いい経験になりました。

―― 『台湾より愛をこめて』の漫才シーンのためには、練習はかなりされたのですか?

大野:中国語で漫才をやらなければならなくて、それを覚えるのが精一杯で、練習は現場で合わせたくらいなんです。でも、漫才として、複雑じゃなくて簡単な構造でやりやすいスタイルだったので問題ありませんでした。「わろてんか」での漫才と、去年(漫才コンクールの)「M-1グランプリ」にも出ているので(※前野朋哉さんと組んだコンビ・潮干狩として出場)、そういう経験を経た上で、思いますね。

「その場で役を通してお互いに楽しんでいました」

―― 才コンビの元・相方で旅のパートナーでもある光一を演じられた落合モトキさんとは、これまで共演されたことはあったのですか?

大野:初めてです。でも「オッチーでよかったー!」と思いました。オッチーはいいやつで、面白いし、だからふたりで旅をしている感じがして、とっても楽しかったです。もちろんお芝居もうまいし、今回の作品はアドリブっぽいというか、セリフがあるようでない、セリフの交換だけじゃなく、お互いに心のやり取りをしていく作品だったから、とっても刺激的で楽しい時間でした。

―― では、落合さんとは、会ってすぐに打ち解けられて。

大野:最初にリハーサルで会ったときにはそんなに喋っていないんです。そのあとにご飯に行って、そこで打ち解けたっていうところまではいかなかったのですけど、台湾に行くころにはもう「元・相方だ」っていう感じがしていたし、たぶんオッチーもそう感じていたと思うので、関係性ができていましたね。だから、(真剣な表情で)会えない期間がぼくらの絆を深くしたみたいなことですかね。(その場の全員が大笑い)

―― 先ほどもお話に出た落合さんとおふたりだけでのシーンとかは、雰囲気を作っていくというよりは、おふたりの自然な空気が出ているという感じでしょうか?

『台湾より愛をこめて』スチール

『台湾より愛をこめて』より。台湾を旅する雄介と光一

大野:台本にある部分は、リハーサルでそれぞれのキャラクターに対してのサジェスチョンが三原監督の方からありました。読みあわせを何回かやって、台湾に向けてお互いに役を練り上げていったので、現場でやったのも、役に乗った上でのアドリブでした。だから、完全にその場で役を通してお互いに楽しんでいました。コンビニで飲み物を選んでいるところとか「ちょっと水分補給したいね」ってコンビニ寄って「ここ、撮ろっか?」ってなって、撮ったのが使われたみたいな(笑)。

―― 役を演じつつお互いにそれぞれ自身でもあるみたいな感じですか?

大野:基本、ぼくは役に入ったらプライベートも役に引きずられるんです。関係性とかムチャクチャ引きずられるので、たとえば誰かを嫌いになる役だと、その相手の役の方をプライベートでもちょっと苦手になってしまいます。だからなのか、オッチーとは自然な関係性が築けました。

―― では、撮影の間はずっと雄介と光一でいたと。

大野:はい! オッチーもそういう感じでした。

―― そして、今回メガホンをとられた三原慧悟監督は、映画に出演もしていて共演者でもありますね。

大野:メチャクチャ人気ですよ! 街なかでメッチャ「キャー!」って言われるんですよ(笑)。空港に着いた瞬間に「サンエン(※「三原」の中国語読み)! 写真撮って!」って15人くらいに囲まれて。街なかでも若い女の子たちがすれ違いざまに「キャー!」って言ったりとか、若い子の認知度はほぼ100%でした。すっごい有名人です。日本でも京都国際映画祭(※2017年10月に開催の京都国際映画祭2017で『台湾より愛をこめて』が上映された)に参加したとき、京都の台湾料理屋さんに行ったら、台湾留学生たちが「サンエン? サンエン? えーっ、こんなところで!」みたいな。日本に来ている台湾留学生でもわかるくらい超人気! ビックリしちゃいました。

―― そういう、台湾で大人気の映画監督としては異色の方とお仕事をされていかがでしたか?

大野:役者の誰よりも現地で人気がある監督ってメッチャ面白いなと思いました(笑)。

―― 日本でロケ撮影していると俳優さんが騒がれちゃうことがありますが、今回は監督が騒がれちゃうわけですね。

大野:それが面白かったですね。三原さんは某テレビ局のドラマ部を辞めて「アイドルになる!」って言って台湾に行ったくらい変わった人で、面白かったです。脚本とかセリフとかに関してもご相談させてもらいました。雄介と光一の役って三原さんの体験談らしいんですよ。だから思い入れも強いというか、三原さんがこだわる部分はすごくこだわるし、でも自由なところは役者が好きなようにアドリブでという感じで、こだわる部分と自由な部分が三原さんの中にドンとできあがっていたので、とても楽しくやらせていただきました。

「お互いに心、魂をぶつけあった芝居をしたという感じがする」

―― この作品は、主人公がお笑いをやっていて、5年前の約束のために台湾へ行ってと、設定は少し特殊かもしれませんが、目標に向かっていてもうまく行かなかったり、身近な人がほかの道に進んだりという部分は、共感される方も多いのではないかと思います。大野さん自身は、この作品で共感されたところはありますか?

大野:そういう意味での共感で言うと、ぼくは大学受験のときに滑り止めを受けていなくて見事に全滅しちゃって、浪人しているんです。だから、周りのみんなが先に大学に行っていて、サークルがどうだとか、授業がどうだとか、第二言語がという話を聞くのはちょっと寂しかったですね。そこは似た感じなのかなあ。役としては、雄介は人を笑顔にしたいということでお笑い芸人を目指している人なんですけど、ぼくも人を笑顔にできたり元気を与えられる役者になりたいという目標がずっとあるので、そういうところは共通しているなって思っています。それから、夢だったけど諦めて現実を見はじめる光一とか、メイも別のかたちで夢について考えたり、三原さんに関しては安定した生活を捨てて夢を追いかけているとか、いろんな夢の追いかけ方や向き合い方があるから、日々を一生懸命生きている方は、誰でも共感できるんじゃないかなと思っています。

―― 楽しい中にそういうメッセージ性もある映画だと思いますが、この映画の中で大野さんが一番気に入っていらっしゃるシーンというとどこになるでしょう?

大野:やっぱり、(雄介と光一が)夜市でケンカしているところは台湾ならではだなって感じがしました。日本だったら夜中にあんなところでケンカしていたら、たぶん人目を気にしちゃって言いたいことが言えなかったり、ちょっと我慢する部分がきっと出てくると思うんです。でも、ふたりで海外に来て、見知らぬ土地で、日本語がわからない人たちの中だからこそ、あそこまで全力でケンカができたのかなと思います。雄介と光一としても特別な経験ですし、ぼくとしても貴重な経験をさせてもらいました。

―― あのシーンのやりとりは、脚本にはどの程度まで書かれていたのでしょうか?

インタビュー写真

大野:脚本からはだいぶ変わっています。今回は監督とプロデューサーさんがいいものにしようと撮影中もセリフ直しをされていて、あのシーンも脚本にあったのが前日に変わって、もらったのは撮影の直前だったと思います。 ぼくらもそこからさらに自分たちの気持ちでセリフを変えてやっていたので、けっこうアドリブに近いですね。

―― では、それまでの撮影で作られてきた雄介と光一の関係でやりとりをしあっていたという感じですか?

大野:そうですね。だからこそ楽しかったのもあります。お互いに心、魂をぶつけあった芝居をしたという感じがするので。

―― ストーリーの上では、何年か分の溜まった気持ちをぶつけあっているわけですよね。実際の撮影は短い間でも、大野さんと落合さんの中では何年か分の気持ちをしっかりと作られていたのですね。

大野:作ったというか、勝手にできていましたね。もう、台湾で撮影した初日には「ふたりは大学時代からの親友で」ってぼくは勝手に思っていましたし、オッチーもたぶんそう思っていたから、役作りができているんです。

―― そうすると、おふたりの中には大学時代からの共通の思い出なんかもあるみたいな。

大野:ありますあります。「こういう思い出があって」みたいな話はしていないんですけど、お互いの中にあるなという雰囲気はオッチーからも感じましたし、ぼくは完全に心の中にありました。

―― それでは最後に、記事を読まれているみなさんに向けてメッセージをお願いします。

大野:誰もが共感できる部分がある映画になっていると思います。夢を追っかけていた青春時代を思い出して「懐かしいな」という気持ちにもなれると思いますし、あといま夢を追っている真っ最中の方々にとっても前を向いていまを精一杯生きようって思わせてくれる作品になったと思います。全編60分、サクっと観られて笑えて楽しめる素晴らしい作品になりましたので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。

インタビュー写真

言葉のひとつひとつから飾らないおおらかさが伝わってくる大野拓朗さん。『台湾より愛をこめて』では、きっとそんな大野さんのナチュラルな部分も見ることができるはずです。ぜひ、劇場へ足をお運びください。

※画像をクリックすると拡大表示されます。

(2018年1月15日/都内にて収録)

作品スチール

台湾より愛をこめて

  • 監督:三原慧悟
  • 出演:大野拓朗 落合モトキ 岡本夏美 ほか

2018年3月24日(土)より新宿シネマカリテほか 順次公開

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