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『歩けない僕らは』宇野愛海さん・堀春菜さんインタビュー

 回復期リハビリテーションに携わる新人理学療法士・宮下遥。恋人との別れや同期の仲間の挫折を経験する中で、遥は――。
 映画やドラマなどで活躍する宇野愛海さんは、迷い悩みながら人生と向き合う人々の姿を新鋭・佐藤快磨(さとう・たくま)監督が描いた『歩けない僕らは』で主演をつとめ、主人公の遥をリアルな人物としてスクリーンの中に存在させました。そして佐藤監督の初長編『ガンバレとかうるせぇ』主演でデビューした堀春菜さんが、遥の同期・相馬幸子を演じています。
 『歩けない僕らは』公開にあたり『ガンバレとかうるせぇ』も完成から5年を経て同時上映されます。共演者であり併映作の主演同士でもある宇野愛海さんと堀春菜さん、期待の若手実力派女優おふたり揃ってのインタビューをお届けします。

宇野愛海(うの・なるみ)さんプロフィール

1998年生まれ、栃木県出身。2008年にデビュー後、2009年から2011年までアイドルグループ・私立恵比寿中学のメンバーとして活動。グループを転校(卒業)後はドラマ「なぞの転校生」(2014年・TX)や映画『罪の余白』(2015年/大塚祐吉監督)などに出演し、2015年に『デスフォレスト 恐怖の森3』(鳥居康剛監督)で初の映画主演をつとめる。ほかの出演作に、ドラマ「先に生まれただけの僕」(2017年・NTV)、映画『斉木楠雄のΨ難』(2017年/福田雄一監督)など

堀春菜(ほり・はるな)さんプロフィール

1997年生まれ、神奈川県出身。『ガンバレとかうるせぇ』(2014年/佐藤快磨監督)主演でデビュー以降、多くの作品に出演し、主演作『空(カラ)の味』(2016年/塚田万理奈監督)で第10回田辺・弁慶映画祭女優賞を受賞。ほかの出演作に『過ぎて行け、延滞10代』(2017年/松本花奈監督)、『万引き家族』(2018年/是枝裕和監督)、『21世紀の女の子/珊瑚樹』(2019年/夏都愛未監督)など。近年は台湾で上演された舞台「EATI 2019 in Taipei」出演など海外にも活躍の場を広げる

「好みの作品だからこそ、主演をするのは怖いなあと思いました」(宇野)

―― まず最初に『歩けない僕らは』に出演が決まったときのお気持ち、脚本を読まれたときのお気持ちを聞かせていただけますか?

宇野:私は佐藤監督に演技を見てもらう前にプロデューサーさんの推薦で声をかけていただいたので、まずそこで不安があったんです。それに、医療系のお話ってすごく重いイメージがありましたし、理学療法士というお仕事についても名前すら知らないところから始まったので、そこで私が主演ということですごくプレッシャーがありました。そのあと脚本を読んでみると、派手な物語じゃないからこそ読んでいてスッと入ってきて、個人的にすごく好きなお話だったんです。すべての言葉の節々がリアルで、登場人物が誰もかっこつけていない感じがして、私はもともとリアルなものが好きということもあって。自分の好みの作品だと思ったからこそ、私がこの作品の主演をするのは怖いなあと思いました。

堀:私は、佐藤監督の5年前の『ガンバレとかうるせぇ』から、私ともうひとりの主演の細川岳くん(『歩けない僕らは』では主人公の彼氏・翔役)がふたりで佐藤監督の短編に戻ってくることになって、なんか嬉しさあり、ちょっと恥ずかしさありみたいな感じでした。脚本を読むと、登場人物それぞれの不器用なところとかかっこ悪いところがそのまま出ているというか、それを器用なほうに持っていくのではなく、ただそれをスクリーンに映して淡々と受け止めるという姿勢がすごく好きだなと思いましたね。

―― 理学療法士という名前も知らなかったというお話もありましたが、撮影の前に実際のお仕事を見学されたりして、理学療法士という職業にどんな印象を持たれましたか?

『歩けない僕らは』スチール

『歩けない僕らは』より。宇野愛海さんが演じる主人公の理学療法士・宮下遥

宇野:やっぱり最初は重くて堅いイメージでいたんですけど、実際に施設に行ったら、理学療法士さん同士がみなさんすごく仲よくて、明るい現場だなと思ったんです。患者さんたちも、それぞれに「歩いてなにかをできるように」という目的があって、そのためにリハビリをしていて、すごいポジティブな印象を受けました。

堀:私は理学療法士を目指していた友達がいたので名前は聞いたことがあったんですけど、リハビリをするお仕事だということしか知らなかったので、今回調べていろいろなことを知って、すごいかっこいい仕事だなと思いました。本当に人対人のお仕事というか、もちろんマニュアルなどもあるんですけど、人それぞれですべてが違うというか、目の前の人とどう対話をしていくのかという、人間味あふれる仕事だなと思いました。

―― 宇野さんが演じた宮下遥も、堀さんが演じた相馬幸子も、理学療法士であると同時に悩んだり迷ったりするごく普通の若者として描かれていると感じました。おふたりは、それぞれが演じられた役をどうとらえていらっしゃいましたか?

宇野:遥はすごく不器用なんですけど、不器用なりに熱いものがあって、ひとつのことに集中しちゃうと周りが見えなくなるタイプで、でもどこか憎めなくて、一緒に支えあっていたさっちゃん(※堀さん演じる幸子)が辞めてしまってもブレずに仕事を続けていく姿勢とかはかっこいいなと思っていました。

堀:幸子は結局辞めちゃうけど、じゃあ幸子は一生懸命じゃなかったのかって言われるときっとそうではなくて、一生懸命に仕事はしてはいたと思うんです。不器用なまままっすぐ一直線に進んでいける遥が同期にいる中で、幸子自身は中途半端になっていってしまうという気持ちはすごくわかるというか、きっと幸子はそんな遥が羨ましかったんだろうなとか、でもたまにすごくイラッとしてたんだろうなとか(笑)。そういうふうに、遥を見てどう思っていたのかという方向で幸子を見つめました。

「現場に入ったときの静かな控室が印象に残っているんです」(堀)

―― おふたりの共演シーンは、病院の食堂のシーンと、幸子が仕事に来なくなったあとに会う夜のシーンの2シーンですね。(もう1シーン撮影はされていますが編集でカットとなったそう)。それぞれのシーンを演じられたときの感想を聞かせてください。

宇野:食堂のシーンは、本当に出会ってすぐ始まって(笑)。

堀:本当に初対面で「はじめまして」って言ってすぐ「ハイ、撮ります!」って感じで(笑)。

宇野:急に始まって(笑)。だから距離を縮める時間もなくだったんですけど、遥はさっちゃんの前だったらわりと素でいられるというか、そういう部分が出るシーンだったので、あまり深いことは考えずにその場での感覚でやってました。

『歩けない僕らは』スチール

『歩けない僕らは』より。宇野愛海さんが演じる宮下遥(右)と、堀春菜さんが演じる同期の相馬幸子

堀:私が現場に入ったのはもう撮影がある程度進んでからだったんですけど、そのときには控室の雰囲気とかがすごくできあがっていたんです。宇野さんと落合モトキ(患者・柘植篤志役)さんは、本当にあまり喋ることもなく役とこの映画に向き合っているように私には見えて、静かな控室が印象に残っているんです。だから、その空気に途中から入っていけるのかなという不安もあって、でも食堂のシーンはけっこう楽しいシーンだったから、逆に難しかったですね、私は。

―― もうひとつの、夜のシーンはいかがですか?

宇野:あのときは、遥は一直線にがんばるタイプなので、さっちゃんを説得するつもりで会ったわけではなくて、ただ「なんでそうなってしまったのかを知りたい」という、その気持ちだけでした。

堀:幸子が言う「自分の人生、本気で考えるのって逃げ?」って、遥のまっすぐさとは違うけど、それもほんとの言葉だと思ってるんです。たぶん、私がその言葉を言うことで、遥が考えていなかったことを幸子が投げるところだと思ったので、辞めたほうが負けというわけではなくて、どっちも不器用なりに一生懸命やった結果の選択肢だと思うから、そういうところがこのシーンが出たらいいのかなと思っていました。

―― そのシーンも含めて、この作品はほかの映画やドラマなどと比べてセリフを言うときのトーンが抑え目というか、あまり感情を強く出していないように感じたのですが、その点について佐藤監督はなにかおっしゃっていたのでしょうか?

宇野:私は特に言われませんでした。たぶん、遥はそんなに感情を出すタイプじゃないので、そうなったんだと思います。

―― 宇野さんがご自分の中で遥のキャラクターを考えて、表現した結果がああなったという感じでしょうか?

宇野:そうですね、でも「こういうふうにやろう」とそんなに意識していたわけではなかったです。

―― その部分は堀さんも同じでしょうか?

堀:そうですね。たぶん、それぞれのキャストが本当に思った感情のトーンで言っているから、みんなが無理のない言い方になったのかなって思います。

「佐藤監督の作品ってどうしてこんなに人間臭いんだろうなって思います」(堀)

―― 佐藤快磨監督に現場で言われたことで、特に印象に残っていることがあれば教えてください。

宇野:そんなに現場で言われることはなかったですね。でも、監督の中に正解・不正解はしっかりあって、いつも穏やかなのであんまり強い言葉では言われることはないんですけど、カットがかかったときに「あ、これ違ったな」というのは監督を見ているとわかりました(笑)。

―― 堀さんは、以前に『ガンバレとかうるせぇ』で佐藤監督の作品に出演されていて、数年ぶりに佐藤監督の現場を体験されて、なにか印象が変わったところはありましたか?

堀:特に印象が変わることはなくて「佐藤監督は佐藤監督だな」って感じでしたね(笑)。でも、多くは語らないというのがわたし的には逆に怖くて、本番が始まる前に静かに寄ってきて、なにかボソッと言って去っていくことがあって「いま、すごく大事なこと言わなかった!?」みたいなこととか(笑)。あと、何回かやって、どこが違うとかじゃなくてただ「もう1回」って言って去って行くとか、自分で考えてやっていかなきゃいけないというのは佐藤監督と仕事をしているとすごく感じます。

―― その『ガンバレとかうるせぇ』が『歩けない僕らは』と(現時点では長野・上田映劇以外では)同時上映で劇場公開されることになりましたが、堀さんは初主演作がこうして数年を経て公開されることになって、どんなお気持ちですか?

『ガンバレとかうるせぇ』スチール

『ガンバレとかうるせぇ』より。堀春菜さん演じる主人公の高校サッカー部マネージャー・広瀬菜津

堀:『ガンバレとかうるせぇ』は全員がガムシャラに走って作った作品なので、本当に公開は嬉しいですね、たくさんの人に観ていただける機会をいただけて。公開されること自体も嬉しいんですけど、高校のときの友達とかも「あのとき撮影してたやつでしょ?」って喜んでくれたり、当時上映してくださった映画祭のスタッフの方が喜んでくれたのも嬉しかったです。

―― 宇野さんは『ガンバレとかうるせぇ』をご覧になってどんな感想を持たれましたか?

宇野:すごくリアルで、あまり青春ものや学園ものでは描かれないような部分を描いている作品だなと思いました。それから『ガンバレとかうるせぇ』という題名もすごく好きです。

―― おふたりから見て『ガンバレとかうるせぇ』と『歩けない僕らは』とで、なにか共通する部分というのは感じられますか?

宇野:やっぱり、あまりほかの作品だと描かれないような人間の不器用さだったりまっすぐさが佐藤監督の作品には出ているなと思って、そういったところは共通しているのかなと思います。

堀:佐藤監督の作品ってどうしてこんなに人間臭いんだろうなっていつも思いますね。みんなが本当に不器用で、でも誰も悪くないというところが私はすごい好きだなって思います。全員が全員、一生懸命に生きた結果がこうなっているという、それを佐藤監督が誇張とかせずに、その瞬間をカメラを通してとらえているという、そのリアルさが私はすごく好きだし、共通しているかなと思います。

―― 佐藤監督ご自身が監督の映画の登場人物に似ている部分ってあるんでしょうか?(笑)

堀:そうですね、あると思います(笑)。

宇野:不器用なところとか、あるかもしれないですね(笑)。

「生きることや、当たり前にできていることについて考えるきっかけになれば」(宇野)

―― おふたりは今回の『歩けない僕らは』が初共演ですよね。お互いの印象について聞かせていただけますか?

宇野・堀:フフ(笑)。

宇野:私は堀さんの名前は知っていて、それで『ガンバレとかうるせぇ』を観て、こんなにリアルな生々しい演技をされる方と共演するのは怖いなと思っていましたし、共通の知り合いがひとりいて、その知り合いからも「あの子、バケモンだよ!」と聞いていたので(笑)、実際にお会いするまでは「どんな人なんだろう」と思っていてずっと怖かったんです(笑)。でも、本当に穏やかなあったかい方で、よかったなと思いました。

インタビュー写真

堀:私は初対面が宇野さんがこの作品に全力を注いでいるという集中期間だったので、あんまり話しかけないでそれぞれで集中したほうがいいなと思っていたから、現場中は本当に喋ってなくて、夜のシーンの撮影が終わったときに初めてちゃんと喋ったというか、宇野さんから「共通の知り合いがいますよね」みたいに声をかけてくれて「あ、お話できた」っていう印象がすごくあって(笑)。ほんとに、真摯に役と作品に向き合っている姿がかっこいいなと思って遠くから見ていました。

―― もし、また共演の機会があるとすれば、どんな作品で共演してみたいですか?

宇野:やっぱり、さっきお話しした通り、本当に会ってすぐ撮影っていう感じだったんですよ(笑)。あまり話をする時間もなくて。

堀:そうですね、今日が一番喋ってる(笑)。

宇野:だから、どんな作品でも、もっと深く関わりたいです(笑)。

―― では最後に『歩けない僕らは』をご覧になる方に向けてメッセージをお願いできますか?

宇野:『歩けない僕らは』は、舞台は医療系なんですがいい意味で重くなくて、いろんな人に受け入れてもらいやすい映画なのかなと思っていて、生きることや、当たり前にできていることについて考えるきっかけになればいいなと思っています。

堀:私はこの間、映画祭で『歩けない僕らは』を初めて観たときに、この映画は観終わってからがスタートだなと思ったんです。この映画を観てから、今日はなにを食べようかなとか、そういうことを考えるのがすごく楽しかったので、劇場で映画を観ていただていて、そのあと街をフラリ散歩するというのが、すごくいい1日になるんじゃないかなと思います。

インタビュー写真

年齢はひとつ違いで同じ3月生まれという共通点のある宇野愛海さん(左)と堀春菜さん。おふたりそれぞれの活躍はもちろん、スクリーンでの再共演も期待です

※画像をクリックすると拡大表示されます。

(2019年10月21日/都内にて収録)

作品スチール

歩けない僕らは

  • 監督・脚本・編集:佐藤快磨
  • 出演:宇野愛海 落合モトキ/板橋駿谷 堀春菜 細川岳 門田宗大/山中聡 佐々木すみ江 ほか

2019年11月23日(土)より新宿K's cinemaにて公開 ほか全国順次公開
(同時上映『ガンバレとかうるせぇ』)

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