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理学療法士役の宇野愛海さん「距離感について」つねに考えた 『歩けない僕らは』トークイベント

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トークイベントに出席した佐藤快磨(さとう・たくま)監督、板橋駿谷(いたばし・しゅんや)さん、宇野愛海(うの・なるみ)さん、落合モトキさん、門田宗大(かどた・そうだい)さん(左より)
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 女優・宇野愛海さんが新人理学療法士役で主演をつとめる短編映画『歩けない僕らは』(2019年公開予定)の完成を記念したトークイベントが4月15日に都内でおこなわれ、宇野さんと佐藤快磨監督、共演の落合モトキさんらが出席しました。

 初長編『ガンバレとかうるせぇ』がPFFアワード2014で映画ファン賞と観客賞を受賞するなど多くの映画祭で高評価を得た佐藤快磨監督の新作となる『歩けない僕らは』は、病気や怪我などの症状が安定に向かう時期に集中的にリハビリテーションをおこなう“回復期リハビリ病院”が舞台。仕事に就いて1年目の新人理学療法士・宮下遥が、脳卒中のため若くして左半身麻痺となった患者・柘植篤志を担当する中で、迷いを感じつつも進むべき道をたしかめていく姿が描かれていきます。

 宮下遥を演じた宇野愛海さんは、役作りのために撮影前から実際の病院を訪れてリハビリについて学んだそうで「遥と同じ、本物の1年目の理学療法士さんにお話を聞けたのはすごく大きくて、参考になったなと思っていて」と、事前の取材が演技の助けになったと語り「患者さんとの距離感というのは大切で難しいという言葉を(実際の理学療法士の方が)おっしゃっていたので、距離感についてはつねに考えていました」と、演じる上で意識した点を挙げました。

 長期にわたる病院での取材を経て脚本執筆と撮影に臨んだ佐藤監督は「患者さんとセラピスト(療法士)の関係を描きたいと思った」と作品のテーマについて語り「回復期リハビリというものは、患者さんは身体の内側から、セラピストは外側から、ひとつの身体を共有して改善させていくということかなと思っていたのですが、共有するためにはそこにコミュニケーション・言葉というものが必要で、そのコミュニケーションというものの“答えのなさ”と言いますか、ひとりひとりの人生が違うという、それについて本気で考えていくということの答えのなさをこの映画に閉じ込めることができたらなと思いました」とコメント。
 また、佐藤監督は療法士の方に話を聞く中で「歩けることが重要なのではなくて、歩いてなにをするかが重要なんです」という療法士の方の言葉が「本当に普遍的な言葉で、歩ける自分にすごく刺さってきた」と語り、監督の身近にはリハビリ経験のある方がいない中で、その言葉がきっかけで「自分にも関わるテーマとして捉えることができたのかなと思います」と振り返りました。

 患者の柘植を演じた落合モトキさんは、やはり撮影前に病院を訪れた際、患者の方に話を聞くことはできず「ただただ見ることしかできなくて」と実際のリハビリの様子を見ての印象を述べ「病院の方に“左半身不随の役なんですけど、どういうところに気をつけてやればいいですか?”って(意見を聞いて)、見た目を気にして演じたというところはありますね」と役作りを回想。「他人事ではない、明日、自分になることかもしれないので、この映画を観て考えてもらえればいいなと思います」と患者を演じての想いを語りました。

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脚本・監督・編集をつとめた佐藤快磨監督

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理学療法士・宮下遥役の宇野愛海さん

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患者・柘植篤志役の落合モトキさん

 理学療法士のリーダー・田口を演じた板橋駿谷さんは、1年半ほど前に舞台出演中に靭帯を切る怪我をして手術とリハビリを経験しており「そのときの経験を活かしながらという感じでしたね。今回は(患者と理学療法士と立場が)逆ですけど(笑)」とコメント。「(リハビリのときに理学療法士の方が)いろいろなことを声をかけてくれるので、映画のようにどうでもいい会話とかもしながら、でもそうすることによって安心するし、それで回復していく自分もわかるので、すごく(声をかけるのは)大事だなというのはありましたね」という経験に基づいた板橋さんの理学療法士の演技は、監修をつとめた実際の病院関係者の方々にも「声かけがうまい」と絶賛されたそう。

 柘植の職場の後輩・安田を演じた門田宗大さんは、先輩に怪我による仕事やプライベートの影響など話しづらいことを伝えるという役どころのため「とにかく言いづらいし、たくさん自分と葛藤していて、普段は意見できない柘植さんになんとか自分の意見を言って」と「吐きそうでした」というくらい気持ちを入れて演じたと話しました。

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田口リーダー役の板橋駿谷さん

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柘植の後輩・安田役の門田宗大さん

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撮影を振り返る宇野愛海さんと落合モトキさん

 トークイベント終盤にはキャストそれぞれに映画の見どころについて質問がされ、門田さんは「ぼくの安田という役はそんなにいっぱい出ているわけではないんですけど、そんな安田でさえ(演じていて)気持ち悪いくらいいろんな背景があって、ひとりひとりのキャラクターがとても濃厚な背景が見えるのが、この作品、監督がすごいなと改めて思いました」、板橋さんは「自分のリアルタイムで生きている時間帯と映画の時間帯が一緒にあるみたいな、映画の中に出てくる人の日常も、俺のリアルタイムの日常もきっと変わらなくてというのは感じてほしいかな。いろいろな人生があるし、もちろんこれも日常だし、決して非日常ではないということが伝わっていけばいいかなと思いました」とそれぞれ回答。
 落合さんは「リハーサルやっていたときは降っていなかったんですけど“本番!”ってなった瞬間に大降りになってずっと降っちゃっていて、結果的に降ってよかったんじゃないのかなと思いました」という映画冒頭の雨のシーンを見どころに挙げ、宇野さんは「(遥が)あるものを壊すシーンがあるんですけど、台本で見たときから楽しそうだなってずっと思っていて、やってみたときも快感ですごく楽しかったので“あっ、ここか!”と思って観てほしいです」と、たまたま撮影を見かけた人も驚いたというあるシーンをちょっと思わせぶりにアピール。

 そして佐藤監督は「もし突然自分が歩けなくなったらとか、もし大切な人が明日突然歩けなくなったらとか、そういうことを1年間ずっと考え続けて、やっぱり人生はひとりきりでは生きていけないなという普遍的なことにたどり着いたと思います。この映画がこれからどういう道のりを歩いていくかはわからないんですけど、観ていただく方々と一緒に、そのことについて考え続けることができたらなと思います」とトークイベントを締めくくりました。

 トークイベント出演者のほか、堀晴菜さん、細川岳さん、山中聡さん、ベテランの佐々木すみ江さんらが共演、栃木県野木町のリハビリテーション花の舎(いえ)病院による脚本監修・現場監修・取材協力などを得て制作された『歩けない僕らは』は2019年公開予定。現在、映画をより多くの方々に届けるべく宣伝費支援のクラウドファンディングがおこなわれています。

※記事初出時、トークイベント出演者のお名前の一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(4月16日修正)

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