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『コワイ女』菜葉菜さんインタビュー

 “怖い女”を共通の題材に、3人の監督がみっつの異なる“恐怖”を描くオムニバス・ホラー『コワイ女』。鈴木卓爾監督が青年と奇妙な女性の出会いを独特のタッチで描く「鋼−はがね−」でヒロイン・鋼(はがね)を演じたのは、『YUMENO』主演など、幅広く活躍する菜葉菜(なはな)さん。
 なんと本作では、菜葉菜さんは全編にわたって頭からすっぽりとズタ袋を被ったまま。袋から脚だけが飛び出ているという特異なキャラクターを体当たりで演じています。
 スピンオフ企画として生まれた井口昇監督によるコメディタッチのショートフィルムシリーズ『鋼ちゃん』の話題も含め、撮影時のエピソードなどをうかがいました。



菜葉菜さんプロフィール
東京都出身。2005年公開の『YUMENO』(鎌田義孝監督)で主演をつとめ注目を集める。出演作に『ZOO/SEVEN ROOMS』(2005年/安達正軌監督)、『夢の中へ』(2005年/園子温監督)、『Breath Less』(2006年/渡辺寿監督)、『THE GRUDGE 2』(2006年米公開/清水崇監督)など多数。映画以外にも、劇団・絶対王様の舞台や、NHK教育「スペイン語講座」レギュラー(2006年4月〜8月)など、幅広く活動。


「顔が出ないということにこそ意味がある」

―― 『コワイ女』の「鋼−はがね−」のお話があったときにはどう思われました?

菜葉菜:脚本を読んで「なんじゃこりゃ」って思いましたね(笑)。でも、頭からズタ袋を被っていて、出ているのが脚だけっていうのは今までにない役だから、これは面白いかもって思ったんです。脚本もすごく好きだったし、すぐに「やりたいです」って返事をさせていただきました。

―― 映画の中で顔が一切出ないというのは脚本の段階でわかっていたんでしょうか?

菜葉菜:わかっていました。普通の考えだと顔が出ないのにこの役をやる意味があるの? って思うかもしれないですけど、私は逆に顔が出ないということにこそ意味があるんだと思って、すごい惹かれたんです。私は基本的に脚本が面白いかどうかで見るんですね。それで、この脚本はすごく面白くて、その中でたまたま顔が出ないだけなんだって感じでした。

―― 鈴木卓爾監督に最初に会ったときはどんな話をされたんですか?

菜葉菜:監督からは「鋼は、ただ脚がきれいな人がやれば誰でもいいような役ではないんだ」っていう話を最初にされました。人間か化け物かわからないんですけど、人間の持つ感情も持っているし、脚によって感情を表現できることが大事だから、ちゃんと役者さんにやってもらいたいっていうのが監督の中にあったんです。人間っぽい感情を見せたかと思ったらいきなり化け物みたいな行動をしたりとか、難しい役なんですけど、監督はそういうところをちゃんとわかりやすく説明してくれたんです。

―― 役が決まってから撮影に入るまではどれくらいあったんでしょうか?

菜葉菜:1ヶ月くらいあったと思います。ズタ袋を被った格好で走ったりするのに基礎体力が必要なので、アクションの先生に付いてもらって3週間くらいアスリート並に基礎体力作りをやったんです(笑)。それからリハーサルをして撮影に臨みました。

―― やっぱり、頭から袋を被ったこの格好ってそれくらい準備しないときつかったですか?

菜葉菜:そうですね、袋の中で腕を組んだ状態にしているんで、歩くときにも手を振った反動がないと歩きづらいんだっていう、人間の体の仕組みみたいなのが改めてわかりましたね(笑)。視界もハッキリしてない感じで、ヘルメットも被って、ダウンも着ている状態でくるまれているので、体力的にはきつかったですね。

―― これは簡単に脱いだりはできるんですか?

菜葉菜:面倒くさいんですよ。だから着たままでいいかなと思っていたんですけど、実際に撮影に入ったら、走ったあととか苦しくなっちゃうし、脱がないと息もしづらいんです。すごい過酷でとにかく脱ぎたいっていう気持ちになっちゃうので、基本的には本番以外ではすぐ脱がしてもらえるようにしていました。

―― 精神的にもきつそうですね。

菜葉菜:精神的にもきつかったですし、体力と精神力と両方消耗してとても大変でしたね(笑)。真冬に撮ったので、上は袋を被っていて暑いんだけど、下はミニスカで脚を出していたり裸足になったりするので凍えるくらい寒くって、なんだかもう揉みくちゃにされました(笑)。

―― この格好のまま転んだりとか、危険なシーンもありますね。

菜葉菜:スタントの女性の方がいてくださって、自転車にぶつかるところとか、水の中に入るところとかはやってくださったんです。ぶつかるシーンは脚に傷を付けるとほかのシーンとつながらなくなっちゃうということもあったのでやっていただいたんですけど、スタントの方はぶつかったりとかをなんでもないようにやるのですごいなあって思いました。そういう方たちもいたからこの映画はできたんだなって感謝してます。

―― 実際に菜葉菜さんご自身が体を張ってやっているところもあるんですよね?

菜葉菜:張りました(笑)。突き落とされて落ちるところは、マットを敷いたところに後ろ向きに引っくり返って落ちてるんです。そんなに高くはないんですけど、手が使えないし、周りが見えないから怖いんですよ。でもやらなきゃしょうがないし、あれはきつかったなあ。だからほんとに体当たりですね。私は結構過酷な現場を踏んでいるんですけど、これをやったらどんな現場も怖くないってくらい大変でした(笑)。スケジュール的も結構キツキツで、1週間くらいだったんですけど最後のほうはほとんど寝てないですね。倉庫の中で私と(柄本)佑とふたりでのシーンがあるんですけど、そこはふたりとも撮ったのを覚えてないんですよ。眠かったのと寒かったのとで、ほんとに究極に行くと人間って意識が飛ぶんですよね(笑)。スタッフの人も監督もみんな限界が来ていたのかもしれないですけど、でも余計にみんなで作り上げたっていう感じはしますよね。



「必見なのはミニのタイトスカートのお尻と細過ぎない脚」

―― 普段は顔の表情とかセリフを喋るというのが演技する上で大きな要素だと思うんですけど、「鋼−はがね−」ではそれが両方ともない状態ですよね。それで演技をする苦労というのはありましたか?

菜葉菜:そうですね、たとえば不気味な歩き方とかはちゃんと怖いように見せなきゃならないし、ちょっとエッチなシーンはエッチに見せなくちゃならないし、そういう「こう見せたい」っていう技術的なところで瞬時に反応できないといけなかったし、最後のほうのシーンでは私は本当に泣いているんです。そこでは脚だけで悲しさだったり切なさだったり人間の部分の感情を出さなきゃならなかったりするから、技術面と内面の感情の面と両方がないとできなかったので大変でしたね。自分じゃ見えないから、どう見えているんだろうっていう不安もあったんです。そこは監督が「良かったよ」とか「そういう風に見えた」って言ってくれたら大丈夫なんだっていう監督との信頼関係でしたね。だからある意味では、表情とか声じゃない部分でどれだけ見せられるかっていう自分の中での挑戦でもあったんですけど、できあがった作品を観て、やっているうちに鋼の人間の部分の感情っていうのは意識しないでも出せていたのかなって思いますね。

―― 鈴木監督は演技について具体的に指示を出すんですか?

菜葉菜:見た目的な部分で「ここはこう」って言われた部分もあるんですけど、感情の部分でやるところは多くは語らないで「感情のままにやってごらん」って感じでやらせてくれていましたね。監督は役者さんもやっていますし、撮影するにつれて言葉じゃなくて監督が求めているものがわかってきて、すごく監督を信頼してできました。

―― 鋼が特殊なキャラクターですから、共演者の柄本佑さんも難しい点があったと思うのですけど、柄本さんとは演技について話し合いは?

菜葉菜:いま思うと、そんなに話し合いというのはなかったですね。佑も監督と同じで多くは語らないんで、あんまり「この芝居はこうだよね」みたいなことは言わないんです。撮影が過酷だったからそこまで話し合う余裕がなかったのかもしれないけど(笑)。でも、佑って自然体なんですよ。だから自然にこの役に見えてきて、その雰囲気の中に入れば大丈夫だろうって信頼していたので、すごくやりやすかったですね。撮影のあとで会うと、私が年上なのに口の聞き方とか生意気だなあと思うんですけど、現場では先輩として支えてくれた部分はありましたね(笑)。すごく自然な優しさを持っているので、役者として助けられました。

―― お兄さん役の香川照之さんの印象は?

菜葉菜:一緒に共演できてすごく嬉しかったですし、私が出ていないシーンの撮影のときは香川さんの演技をずっと見ていたんです。香川さんの演技は見ているだけで鳥肌が立つくらいすごくて、お話ができたのも幸せでしたし、すごく感動しました。それから、香川さんは最初に「ズタ袋を被った大変さはわかるよ」って言ってくれたんです。香川さんも『鬼が来た!』(2000年/チアン・ウェン監督)っていう中国の映画で袋の中にずっと入っていたっていう話をしてくださったんです。袋を被っていると埃が鼻とか喉に入って鼻の穴がまっ黒になったりするんですけど、そういうやらないとわからないつらさを共感してくれる人がいたのがすごい嬉しくて(笑)。『鬼が来た!』のときのお話を聞くと、香川さんは私よりすごく大変な思いをしているんですよ。その話を聞いて、頑張ろうってすごい励みになりました。

―― さっき「エッチに見せなくちゃならない」という話が出ましたけど、「鋼−はがね−」にはエロティックな部分もかなりありますよね。

菜葉菜:エロスは出せたらいいなと思っていましたね(笑)。脚本を読んだときにそういうところがあるからこそ魅力的だなと思ったんです。単に怖いとか不気味だけではなくて、ちょっと生々しいじゃないですか。それを出せないと鋼じゃないと思ったんで、そこはエロく見せたいなと思ってちょっと気合を入れました(笑)。

―― エロティックに見せるために特に意識した部分ってありますか?

菜葉菜:特にっていうか、私は常にエロスの追及をしているんですよ(笑)。エロスって女性ならではのものだから、エロスを本当にエロいと思わせる女優さんになりたいんです。日頃からエロスがちょっと加わっているような映画が好きで、常に観ているんですね。田中裕子さんとかが大好きで。だから、この映画のこういうところを参考にしたというのはなかったんですけど、そういう映画を観て自分の中の価値観が培われていると思うので、それを自分の中で最大限で出せていたらいいなと思いました。私は見かけはエロくなく思われるんですよね。友達とか親からも「エロのカケラもないよね」って言われるんですけど、オッパイが大きくて「ルパン三世」の不二子ちゃんみたいなのだけがエロじゃないんだよって(笑)。表向きのエロさっていうのはありますけど、エロっていうのは内面から出るものなんですよ。私はそれが脚に出るんじゃないかなと思っているので、「鋼−はがね−」で脚だけが出ているっていうのは絶好のチャンスだなあと思ったんです。だから「鋼−はがね−」で必見なのは、ミニのタイトスカートのお尻と細過ぎない脚ですね。自分で褒めちゃったけど(笑)。

―― 実際にすごくエロティックな感じがしました。

菜葉菜:ホントですかあ!?(笑) そう言ってもらえると良かったです。過酷な現場をやっただけあります(笑)。



「“怖い女”の部分を役者として出せたらいい」

―― 「鋼−はがね−」以外にもホラー系の作品に何本か出演されていますが、菜葉菜さんご自身はホラーはお好きですか?

菜葉菜:それが嫌いなんですよ(笑)。心理的な怖さは好きなんですけど、首が飛んだりとか気持ち悪いのがダメなんですよね。「鋼−はがね−」は、そうじゃないところがすごく惹かれたところです。

―― 完成した『コワイ女』のほかの2本はご覧になりましたか?

菜葉菜:はい、観ました。ホラー嫌いだけどこの3本は観られましたね(笑)。「カタカタ」は直接的な怖さだったり、「鋼−はがね−」は良くわからないジワジワくる怖さだったり、「うけつぐもの」は昔ながらの怖さだったり、3本とも全然テイストが違ってて、それがすごい面白いなと思ったんです。だから「こっちが面白かった」とか「これが怖かった」とか、観る人それぞれの好みだと思います。こういう怖さは好きなんですよ。

―― この映画は『コワイ女』というタイトルですが、菜葉菜さんは“怖い女”というと、どういう女性を連想します?

菜葉菜:“怖い女”は私ですね(笑)。いろんな感情が入り組んでいるのが女の人だと思うんですよね。そこがすごく惹かれる部分で、女性ならではの陰険さもあるし、嫌な部分や怖ろしい部分、嫉妬する気持ちとか、きれいだけじゃない部分が女の人って男の人以上にあるような気がするんです。だから女の人ってみんな怖いって思うんですけど、特に私は怖いんです(笑)。私って一見そういう風に見えないじゃないですか。でも私の中にはそういう部分がいっぱいあるから、私って怖いなって思います(笑)。そういう部分を役者として出せたらいいなと思いますね。

―― 『コワイ女』の「鋼−はがね−」に続いて、スピンオフ企画の『鋼ちゃん』にも出演していらっしゃいますね。

菜葉菜:夏に撮ったので、やるって聞いたときは「今度は夏!?」ってビックリしましたね。なんで気候がちょうどいい時期にやらないんだろうって(笑)。冬だったら一度やっているので大変さはわかっているんですけど、夏にやるとどうなるんだろうって心配もあったんです。でも、脱ぎ着がすぐできるようにとか、前もって私からいくつか要望を伝えていたんですよ。それで準備をしてくださったし、いろいろな配慮をしていただいたのでやりやすかったです。撮影は3日間で期間も短かったし、今回は鋼ちゃんより周りの人たちが大変なことになるシーンが多かったので、私はあんまり大変ではなかったです(笑)。

―― 『鋼ちゃん』の井口昇監督とお仕事するのは初めてですよね。井口監督の作品はご覧になっていましたか?

菜葉菜:『卍 まんじ』(2006年)を観ていました。主演の秋桜子さんが事務所の先輩で仲良くさせていただいているので観ていて、『卍』ってエロスの追及じゃないですか。だから私は樋口可南子さんの『卍』(1983年/横山博人監督)がすごく好きなんですけど、井口監督の『卍』はそれを想像して観ちゃダメだなって(笑)。度肝を抜かれましたけど、ほんとに面白くって、『卍』をこう撮るのは井口監督にしかできないなあって思いました。(鈴木)卓爾監督も面白い感性だけど、井口監督も面白いなあって感じでしたね。

―― 『鋼ちゃん』は撮影のやり方も普通の映画とは違ってたと思うんですけど、実際やってみていかがでしたか?

菜葉菜:ほかの出演者の方はほとんど映画宣伝の会社の方だったりするんです。だから役者じゃないゆえの面白さがすごく出ていて、たぶんこれを役者が狙ってやってたら逆に面白くないだろうなって思いました。計算とかがなくて、素の演技なんですよ。その素っぽさがすごい勉強になりましたね。みなさんほんとに一生懸命やっていて、悩んでいたりするんです。その悩んでる顔が面白いので、申し訳ないんだけど吹き出しちゃうみたいな(笑)。そういうものを引き出す井口監督の演出もすごいですよね。

―― 普通の映画だったらやらないようなことを、かなりやっていますよね(笑)。

菜葉菜:なかなかできない経験だから面白かったですね(笑)。カフェっていう設定のシーンがあるんですけど、どう見てもただの屋上でしょってところで撮影してたり(笑)。ほんとに井口監督すごいっ!(笑)。すごく新鮮だったし、楽しい現場でしたね。

―― 今後このシリーズがどんどん発展して行ったらどうします?(笑)

菜葉菜:どうしましょうね(笑)。でも、そしたら私は一生、鋼をやり続けますよ(笑)。

―― 今回は鋼というユニークな役を演じられましたが、これからどんな役をやってみたいですか?

菜葉菜:普通の女優さんが敬遠するような役をやりたいんですよね。「打ち破りたい」って言うとカッコつけ過ぎですけど、自分にしかできないものをやりたいんです。普通の女の子の役じゃないほうが自分も惹かれるし、さっき話した私の“怖い女”の部分そのままみたいな役とか、何変化もするような女性の役をやりたいですね。鋼は脚だけだったんですけど、お尻だけとか手だけでもいいと思うんですよ(笑)。後ろ姿だけでも感情は充分に伝わりますし、顔が出る出ないは関係ないって、鋼をやったからなおさらそう思いますね。

―― でも、『コワイ女』や『鋼ちゃん』で菜葉菜さんを知った方には、ぜひ菜葉菜さんが顔を出している作品もご覧になっていただきたいですね。

菜葉菜:そうですね、観て欲しいです。私は袋を脱いでも怖いんで(笑)。

(2006年11月1日/キングレコード本社にて収録)


『コワイ女』
2006年11月25日(土)より、シネマート六本木、シネマート心斎橋 ほか全国順次ロードショー
監督:雨宮慶太(「カタカタ」)/鈴木卓爾(「鋼−はがね−」)/豊島圭介(「うけつぐもの」)
出演:中越典子、豊原功補/柄本佑、菜葉菜、香川照之/目黒真希、須賀健太 ほか

詳しい作品情報はこちら!


ショートムービー『鋼ちゃん』
東映の携帯向けサイトにて、10月5日より毎週1話ずつ無料配信中。
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11月24日には、東京国際シネシティフェスティバル2006「デジPOPコンペティション」の特別招待作品として新宿ミラノ1にて上映。
東京国際シネシティフェスティバル2006公式サイト
監督:井口昇/出演:菜葉菜 ほか


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